決闘を終え、祝杯もそこそこに直毅は学園を後にし、時折ふらつきながら自宅の前まで来る。ふとバルコニーを見ると、彼が帰ってくるまで待っていたユキと目が合いてを振ると、彼女は駆け足でバルコニーを後にし、彼が玄関に辿り着くよりも早く出てきて彼に抱きついた。
「おかえりなさい、直毅。」
「あぁ、ただいま。ユキ。」
少し仰け反りながらもユキをしっかりと受け止めた直毅は、痛みで顔色1つ変える事なく笑みを浮かべた。
「大丈夫?怪我してない?」
「いや、ちょっと怪我しちまったんだ。けど心配するほどでもないさ。」
心配そうに彼を見つめるユキを安心させようと、直毅は彼女を下ろして左手の包帯を見せる。
彼女がその左手を両手で優しく包み込み、祈る様に目を閉じると、淡い光が彼女の両手から流れ出し、彼の傷を癒していく。
左手の痛みが完全に引き、血のにじんだ包帯を取り左手を見ると、傷が跡形も無く消えていた。
「こいつは…凄いな、ユキ。傷が無くなっちまった。」
左手を何度か繰り返し握り開きながら直毅が驚いていると、ユキは満足そうに笑みを浮かべる。
「言ったでしょ?私が直毅を支えるって。」
「あぁ、そうだったな。ありがとな、ユキ。」
ユキの言葉に直毅も笑みを返し、彼は治った左手で彼女の髪を撫で家の扉を開けた。
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「先に部屋に戻っててくれ、汗を流してくるからさ。」
自宅に入った直毅がユキにそう言うと、彼女は頷いて階段を上っていく。
その姿を見た彼は、今まで繋ぎとめていた意識の糸を切らしかけながら洗面所に向かい、胃の中のものを血と共に吐き出した。
汚れを水で洗い流し、息を整えた彼はまた気を張り凛の工房に向かい扉の前までも来ると、ねらったかのように凛が扉を開けた。
「おかえり、直毅。話は中で聴くわ。」
「風瀬さん…ありがとうごさいます…」
凛に支えられながら直毅は工房に入って、倒れ込んで椅子に座ると、雄治が煙草を吸いながら労う様に彼の肩を叩いた。
「相変わらず無茶するなぁ、お前は。まぁそういう所が俺に似てるんだが。」
「まさか、観てたのか?親父。」
「凛に面白いもんが観れるって言われてな。面白かったぜ。なぁ?凛。」
「えぇ。直毅が怒った時の様子なんて、鬼みたいだったんだから。」
雄治の言葉に驚く直毅に、凛は溜息を吐きながら答え煙草を取り出す。
「とりあえず診てみるか。蹴りで肋骨が逝ったんじゃないか?それに左手も」
「左手は…さっきユキが治してくれたから大丈夫。」
雄治の言葉に静かに頷き、直毅は上着を脱ぎながら答える。その言葉に少し驚いた2人だったが、その驚きは上半身裸になった彼を見て上書きされた。
「直毅、お前…」
「…こんなに酷いとは…俺も思わなかった…けど、ユキに見せるのも酷じゃないか…?」
彼の腹部は内出血で紫色に変色し、所々肋骨が変形しているのも見える。
「確かに、あのお嬢ちゃんには見せられないな。」
見るに堪えないその有様に、雄治は煙草をもみ消し触診しながら冷静さを取り戻して答え、凛も取り出した煙草を戻し直毅に近づく。
「この様子だと、損傷を治してもダメージは残りそうね。優子さんに頼んだ方が良さそう。」
彼女の言葉に雄治は頷くと、足早に部屋を出て優子を呼びに行った。
それから30秒と経たないうちに雄治が優子を連れてくると、優子は1度真剣な表情で直毅を見て、すぐさま元の優しい表情に戻り指を組み、先程のユキと同じく祈る様に目を閉じた。
直毅の足元に魔法陣が現れ全身を淡い光が彼を包み込み、ゆっくりと痣が消えていく。
完全に痣が消えたところで優子が目を開き、光と魔法陣が消えると、優子は直毅の髪を優しく撫でる。
「余り無茶しちゃ駄目よ?今だって凄く心配したんだから。」
「ごめん、母さん。ありがとう。」
彼女に笑みを見せて立ち上がろうとした直毅だったが、身体に力が入らず椅子に戻された。
「まだ肉体の疲労が抜けてないのね。強化魔術を重ねがけしたらそうもなるわよ。」
凛が1度しまった煙草を取り出し口に咥えながら言うと、直毅は椅子の手すりに両手を突き震えながら立ち上がる。
「2、3日は安静にしてなさい。重度の筋肉痛みたいなものだから寝てれば治るわよ。」
「そうさせて貰います…酷く疲れましたから。」
上着だけを羽織り、直毅はゆっくりとした足取りで部屋を後にしようとする。
彼の後に雄治と優子も続き、雄治が扉を開けると、直毅は思い出した様に振り返って凛の方を向いた。
「凛さん。今日の決闘で俺のパートナーだった麗華が凛さんに会いたがってるんですけど、会ってくれますか?」
「んー別にいいわよ?私も興味あるしね、その子に。じゃあ会うのは明日ね。」
その言葉に彼は安堵し、少し頭を下げて部屋を後にした。
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時を同じくして、鳳凰院邸。
直毅達の居る屋敷よりもより大きく豪勢な、豪邸というに相応しい屋敷の一室…麗華の父 鳳凰院 正人の自室。
決闘の結果を事細かに報告する彼女の表情には、嬉しさが滲み出ていた。
「良くやった、麗華。」
「ありがとうございます。お父様。」
父の賛辞に彼女は優雅に一礼し、部屋を後にしようとする。多少なり優越感に浸っていた彼女を父は呼び止め、次の指示を出す。
その言葉に、麗華は一瞬父が何を言っているか分からず、その意味を理解すると怒りを露わにし机を叩いて父親に迫った。
「出来ませんそんなこと!彼は私の協力者です!それを!」
「異論は受け付けん。鳳凰院にとって、これは千載一遇の機会なのだ。」
酷く冷たく短いその一言に、彼女は父を睨みつけると、怒りを込めて扉を閉めて部屋を後にする。部屋の外で待機していた付き人の翔は、早足で廊下を進む麗華の後に続く。
やがて彼女の自室の前まで来ると、彼女は振り返ることなく、静かに尋ねる。
「翔…貴方は鳳凰院の付き人…?それとも私の付き人…?」
「もちろん、僕は麗華お嬢様の付き人ですよ。」
「そう…なら、此処を出る準備をしておいて。」
「わかりました。お嬢様。」
翔は顔色1つ変えることなく答え、一礼した後自らの部屋に向かう。
彼女は大きく息を吐き、決意を固め扉を開けた。
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「…あぁ、そうだ。頼んだぜ、裕也。」
翌日、学園を休む旨と麗華への伝言を電話で裕也に伝え、直毅はまだベッドの中にいた。
何時もの通り、ユキは彼の腕の中で、幸せそうに目を細めていたが、電話の内容が耳に入ったのだろう、心配そうに尋ねる。
「大丈夫?直毅。」
「あぁ、身体の調子がまだ良くなくてな。でも心配する程でもないさ。」
直毅はユキを安心させようと、彼女の髪を優しく撫で、その感触に彼女はまた目を細めて喜ぶ。
そのまま静か時間が過ぎていき、やがて朝食の時間になると、直毅はゆっくりとベッドから出て部屋を後にリビングに向かう。
リビングでは、タブレット端末を片手にコーヒーを飲む雄治と朝食を並べる優子、それとソファーに寝転ぶ凛の姿があった。
「おはようさん、直毅。ユキ。」
「おはよう、直毅。ユキちゃん。」
「おはよう、直毅、ユキ。」
「おはよう、親父、母さん、凛さん。」
「おはようございます。」
直毅とユキに各々挨拶をし、挨拶を返す2人。 5人で使うには少し広いテーブルには、4辺に4つの椅子が置かれ、優子がテーブルに朝食を並べて終わると、皆席に着く。
直毅と一緒に寝るのと同じく、ユキは彼の膝の上に座って朝食を食べるのが習慣となっていた。
「身体の調子はどうだ?直毅。」
「昨日よりはましになったよ。」
フレンチトーストを嚙りながら雄治の問に答える直毅。取り留めの無い話し声がリビングを覆う中、何気なくつけられていたテレビのニュースが新型アンドロイドの発表、美人モデルや女優、女学生の連続行方不明事件、天気予報などが伝え、誰1人として気に留めること無く聞き流し、朝は過ぎていった。
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昼下がり、家事がひと段落ついた優子は、ソファーに寝転び、ユキの膝枕で寝息を立てる直毅と、彼の髪を撫でるユキの姿を見て微笑む。
「本当に雄治さん似ね。あの人も時々私の膝枕で眠るのだけれど、寝顔がそっくり。」
「直毅は、一体どういう子だったんですか?」
椅子に座り編み物の用意をしながら呟く優子に、ユキは彼女の方を向いて尋ねた。
ユキは何度か直毅に、彼の過去を尋ねるものの、彼が毎回答えたがらず分からずじまいでいた。
「そうねぇ…子供の頃から、自分のことは話さない子だったわ。小さな頃から家を空けがちで、私達が帰って来た時には雄治さんと私の話を聴きたがって、私達が直毅のことを訊いてもあまり答えなかった…私達の前だと明るい子だったけど、私達が居ない時は暗くて冷たい子だったみたい。」
微笑みにほんの少しの悲しみの影を落とし、優子は言葉を続ける。
「裕也くんと茜さんが友達…直毅にとってはは家族同然の関係になってくれてからは、今の直毅に近付て、暗さや冷たさは無くなっていったわ。 本当にあの2人には感謝してもしきれない位。直毅の心を開くのには、とても苦労したみたいだから。」
裕也と茜の名を上げると、彼女は影を消し微笑むも、また影は落ち、より濃く表情に映った。
「でもその代わり、直毅は傷だらけになっていったわ…初めてできた大切な人を守るのに必死で、自分のことなんて御構い無しに、身代わりになるみたいに傷ついて…直毅が1番恐れているのは、自分が傷つくことじゃなくて、大切な人が傷つくことなの、今でも変わらずに。」
優子の言葉に、ユキは直毅の髪を撫で続け、決闘の前夜彼に告げた言葉を紡いだ。
「私が…私が直毅を支えます。だから、安心して下さい。」
その言葉に、優子は驚きユキを見つめ、やがて影1つない微笑みを浮かべた。
「そう…ならお願いね、ユキちゃん。直毅を支えてあげて。」
彼女の願いに静かに、だが力強くユキは頷いてみせる。
彼女達が笑みを浮かべると、来客の訪れを告げる鐘が鳴り、その音で直毅は目を覚ました。
後からすれば、その鐘の音は来客の訪れと言うよりも、この後起こる波乱の始まりを告げていたと言うべきだったのかもしれない。
如何でしょうか?
痩せ我慢にも限度があるよね(すっとぼけ)
それではまた次回。