「あら、お客様かしら。はーい。」
来客を告げる鐘が鳴り、優子は声を上げ玄関に向い、直毅はゆっくりと起き上がるとユキと共に彼女の後に続く。
「どちら様ですか?」
優子が言葉と共に扉を開けると、そのには麗華と翔の姿があった。
「直毅のお友達ですか?」
「友達…と言うべきなのかしら…。」
「なんだ、随分早かったな、麗華。」
直毅は優子の前に出ると、彼女の到着の早さに驚きながら答え、ユキは麗華と翔の姿を見て萎縮し、直毅の後ろに隠れながら2人の姿を見つめる。
「世界に数えるしかいない魔法使いに、それも最良と言われるMa.Windに会えるとなれば、気分も高揚するわよ。」
「そうか…?」
彼女の言葉とは裏腹に、その表情に僅かながらの翳りを感じた直毅であったが、それを追求することはなかった。
「それじゃ、Ms.Windに会わせて下さる?」
「あぁ、分かったよ。」
直毅が中へ案内しようとすると、彼の背後に隠れていたユキが服を掴み、僅かに震えていた。
「大丈夫だよユキ。麗華は君を連れ返しに来た訳じゃあない。なぁ?麗華。」
「えぇ、そんなつもりは無いわよ。貴方を敵には回したくないもの。」
直毅はユキを安心させようと頭を撫で、麗華が彼の問いに手を振って答えると、彼は彼女の背後にいた翔を見て冗談混じりに笑みを浮かべる。
「そうか?麗華とそっちの付き人さんが一緒に来れば流石に勝ち目はねぇぜ?特に付き人さんの方は、油断しなきゃ俺より強いからな。」
「光栄だなぁ、直毅君にそう言って貰えるなんて。」
「事実を言っただけさ。」
直毅が初めてユキと出会った時と同じく、優しい笑みで頭を掻いて照れる翔のには、あの時の強さは全く感じられなかった。
「そうだ、自己紹介がまだでした。僕は橘 翔。よろしくね、直毅君。」
「あぁ、よろしくな。俺の方は紹介しなくてもいいだろう。」
お互いに握手を交わし挨拶を済ませ、5人は屋敷の中に入り直毅は凛の工房の前まで来ると、扉を2度ノックして声をかける。
「凛さん。昨日言った通り、麗華が来たんで会ってくれますか?」
「いいわよ。直毅と2人だけで入ってきて。」
「分かりました。」
凛の声を聞き、直毅は振り返って麗華達の方を向いて彼女の要望を伝える。
「凛さんは俺と麗華の2人だけ入って来いって言ってるから、翔にはリビングで待っていて貰えないか?リビングはそっちにある。」
「分かったわ。翔。」
「分かりました、お嬢様。」
麗華が声をかけると、翔は一礼して直毅が示したリビングへ向かい、直毅は未だピッタリとくっついて離れないユキを見て頭を撫でる。
「ユキもリビングで母さんと待っててくれないか?大丈夫、すぐ戻るから。」
ユキは顔を上げて彼の顔を見つめてから、静かに頷いてリビングに向かった。
「さて、と。入りますよ。凛さん。」
ユキを見送った直毅は緊張した面持ちの麗華を1度見てから凛に声をかけ、ゆっくりと扉を開けた。
「いらっしゃい。直毅、鳳凰院 麗華さん。」
凛は机の上で脚を組み、煙草を吹かし気だるそうに2人を迎える。
乱雑に積み重なった魔導書や魔具等は皆、高位の魔術師なら喉から手が出るほどの希少なものばかりであり、麗華もそれらに見入ってしまう。
「今日は何の用で来たのかしら?麗華さん。」
脚を組み直し紫煙と共に尋ねる凛の声で、麗華は我に帰った。
「まずは、お会い出来て光栄です、Ms.Wind。このような機会を与えて下さり感謝します。」
「感謝なら直毅にして頂戴。彼が機会を作ったようなものだし、貴女に興味もあったからね。」
凛が手を軽く振って答えると、麗華は直毅の方を向いて礼をしようとするが、彼は片手を上げて彼女を制止する。
「礼はいらないぜ。会う会わないを決めたのは凛さんだからな。」
「それでも、ありがとう。直毅。」
「だからいいって言っただろうに…凛さん。後は麗華と2人で話しますか?」
「いいえ。直毅に少し頼みたいことがあるから、まだここにいて。」
彼女の言葉に直毅は照れ臭そうに頭を掻き、凛の方を向いて尋ねると、凛は煙草を灰皿に押し付けて答えた。
「麗華さん。貴女が何の用で私に会いに来たのかは分かってるわよ。2つの用があるんでしょう?」
その見透かした言葉に麗華は驚くも、深く息を吸い、吐いて覚悟を決め切り出した。
「Ms.Wind。私を、貴女の弟子にして下さいませんか⁉︎」
「弟子、ねぇ。私の柄じゃないんだけどなぁ。」
頭を掻きながら答える凛は、新しい煙草を取り出し咥え、指を鳴らして火を点ける。
「まぁ、特別にしてあげてもいいわ。でも…」
了承の声に麗華は歓喜し感謝を告げようしたが、凛は真っ直ぐに麗華の眼を見て続けた。
「今の貴女じゃあ駄目ね。直毅に用のある貴女は。」
「どうして、その事を…」
凛の言葉に、麗華はもう1度驚愕し言葉を失い、紫煙を吐く彼女を見つめた。
「これでも魔法使いよ。知らない事の方が少ないわ。」
「俺に用って、一体何なんだ?麗華。」
「それは…」
不思議そうに尋ねる直毅に麗華は言葉を詰まらせ、見兼ねた凛が声を上げる。
「私から直毅に説明する?麗華さん。」
「いいえ。これは私の問題ですから。」
麗華は大きく息を吐き、決意を固め静かに話始めた。
「直毅。私は父から、貴方にハニートラップを仕掛けるように指示されて来たの。」
「ハニートラップ…成る程な。権力者の考えそうな事だ。」
彼女の告白に直毅はさほど驚くことも無く、ただ冷静に、分かりきったことを尋ねる。
「で、麗華はどうするんだ?指示通り俺を骨抜きにするのか?」
「出来る筈ない!私は父の、権力の為の道具じゃないわ!だから…!」
麗華の声には怒りと悲しみが混ざり、震えながら直毅にしがみつき、涙で彼の胸を濡らす。
「私を…助けて…鳳凰院という檻から…お願い…!」
彼女の必死の願いに、彼は左手で彼女の頭を優しく撫で右手をきつく握りしめる。
「解った、パートナーの頼みだからな。」
「本当に…?こんな無茶で、身勝手な願いなのに…」
「俺に決闘のパートナーを頼んだ時の方が、無茶で身勝手だったさ。」
麗華が涙を拭いながら直毅の顔を見上げると、彼は冗談混じりに笑ってみせた。
「だが先に言っとくぜ。俺が檻から連れ出すじゃない、麗華が自分で檻から出るんだ。俺は檻を壊すだけだ、悲劇のヒロインを気取る奴を助ける気は無い。自分の意識で決めな。」
「でも、それじゃ直毅が…」
「大丈夫さ。悪役を演じるのは慣れてる。」
ポンと、麗華の頭を優しく叩き、直毅は凛の方を向いて尋ねる。
「でも流石に俺1人じゃあ役が足りない。凛さんにもお願い出来ますか?」
「えぇ、いいわよ。弟子の為に一肌脱ぎましょうか。」
凛は椅子から起き上がり、白衣の様に長いコートを羽織り、煙草を灰皿に押し付ける。
「どうせなら雄治も連れていきましょうよ。直毅。」
「確かに、俺と同じで悪役にはうってつけですね親父は。何しでかすか分からないですけど。」
凛の提案に直毅は溜息を吐き、頭に手を当てて答えた。
「俺は準備してきますから。親父に話を通しておいて下さいよ?」
「もちろん。喜んでついてくると思うわよ。」
「はぁ…それじゃまた後で、凛さん。麗華。」
もう1度大きく溜息を吐き、直毅は部屋を後にし部屋には2人が残される。
凛も部屋を後にしようとすると、麗華の行動を予知して手を上げて彼女を制し呟く。
「礼は全てが終わった後、直毅にしなさい。」
「分かりました。Ms.Wind。」
「私のことは凛と呼んで。分かった?麗華。」
「はい!分かりました。凛さん。」
最良と謳われる魔法使いの弟子となった麗華は、師匠の凛の後を追い部屋を後にした。
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「随分面白そうな事になったんだな、直毅。」
「俺は大して面白くねぇよ、親父。」
ベランダに2人、机の上に置かれた箱から銃弾を取り出し弾を込めながら、雄治は紫煙と共に笑い声を、直毅は溜息を吐く。
雄治の持つ拳銃は、白いデザートイーグルのロングバレルと黒いS&W M500 ニトロエクスプレスカスタム。どちらも人に向けるには過剰な破壊力、人が使うには余りある拳銃を雄治は2丁拳銃で軽々と扱うのだ。
「しかし、随分変わったな直毅。前のお前なら突っぱねてたろうに。」
「昔話は老化の証拠だぜ親父。さっさと準備して悪役を演じに行こう。」
「あぁ、それもそうだな。」
雄治の問いに直毅は答える事なく、銃を腰のホルスターにしまうと、雄治もそれに続いて携帯用の灰皿に煙草を落とし、両脇のホルスターに拳銃と予備弾倉を押し込んだ。
「さてと、誘拐をするなら目の前で大胆に攫って行くのが1番だが、どうやるよ?直毅。」
「そうだな…麗華の親父は鳳凰グループの本社ビルの最上階、社長室にいるらしい。正々堂々、正面から頂いて行こう。親父は好き勝手暴れればいいさ。」
「単純だが好きだぜそういうの。でも好き勝手やったらビルが無くなっちまうけど、いいのか?」
「死人を出すのは無しだ。俺達は愉快犯であり誘拐犯だが、殺人犯じゃあない。」
どちらがら父親でどちらが息子なのか分からない2人の会話。むしろ親子の会話とは言えない物騒な会話ではあったが、確かに2人の間には父と子の関係以上の信頼がうかがえる。
2人はベランダを後にすると、玄関の前に麗華と翔、凛、優子、そしてユキが集まっていた。
「待たせたな、それじゃあ行くとするか!」
「早く帰ってきて下さいね。直毅、雄治さん。」
雄治は1度手を叩き皆に声をかけると、優子が雄治の頬に口付けをして見送る。
その姿を見ていたユキは、直毅のもとに駆け寄り彼の服を掴んで顔を見上げる。
「ん?どうした?ユキ。」
「その…しゃがんで、直毅。」
「…これでいいか?」
ユキの言葉に首を傾げながら、直毅は膝をついて彼女と同じ目線になる。
するとユキは躊躇うことなく直毅の頬に口付けをし言葉を紡いだ。
「早く帰ってきて。直毅。」
「…あぁ、行ってくるよ。ユキ。」
口付けの瞬間、直毅は酷く懐かしい感情を覚えたが、蜘蛛の糸が掌から抜けていくかの様にその感情は消えていってしまう。
彼女の髪を撫で立ち上がると、彼らは屋敷を後にした。
「俺は麗華達と一緒に行く。親父と凛さんはどうするんです?」
「俺達は後から行くさ。一緒に行きゃ盛大に歓迎してくれるだろうけどよ、俺はサプライズが好きでな。」
「そうね。私も此処から観てるわ。出番になったら雄治と一緒に出て行くわよ。」
直毅の言葉に雄治と凛は煙草を取り出しながら答え、麗華と翔、直毅の3人の後ろ姿を見つめる。
「俺達に似てきたな、直毅は。」
「雄治にだけ似たんじゃないの?中身は優子さん似で、少なくとも"私"には似てないと思うけど。」
懐かしさを紫煙と共に吐き出しながら2人は呟き、雄治は地面に座り込む。
「それと、麗華は"私達や直毅の事"を知ってるみたいよ。」
「そりゃ知ってるだろうよ。わざわざ直毅を狙う位だからな。幸運にもまだあの嬢ちゃんは話してないみたいだし、釘は刺しとくさ。」
「いい加減話してもいい頃じゃないの?私達や、直毅自身の事。」
「話してなんになるんだ?信じようがないぜこんな話。あいつには普通の人生を送っていて欲しいもんだ。」
「それは望み過ぎよ…悲しいけどね。」
「分かってるさ。だから望むんだよ。"螺旋階段"を登るのは俺達だけでいい。」
煙草の灰が地面に落ち、紫煙は空にかき消えていった。
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「親父さんに言っておく事は考えたか?もしかしたら今生の別れになるかもしれないからな。」
「最後に聴いてみるわ…私を娘と思ったことがあるかどうか。」
大手企業が集まる都市、鳳凰グループの本社ビルの前。
直毅が麗華に尋ねると、彼女は静かに答え先に進んで行く。
ビルの中に入ると、受付嬢が彼女の姿を見て立ち上がり一礼をすると、丁寧に用件を尋ねる。
「如何なさいましましたか?お嬢様。」
「お父様は今居るかしら。」
「正人様は今社長室にいらっしゃいます。」
「そう。ありがとう。」
麗華の言葉に受付嬢はもう1度礼をするも、彼女はその姿を見ることなく、直毅と翔と共に最上階へと続くエレベーターに向かった。
「何ともまぁ、絵に描いたよう様な御令嬢だな。麗華。」
「それも今日で終わり。鳳凰院の名を捨てる気で此処に来たのだから。」
「へぇ。なら全てが終わったら、新しい名前を教えてくれ。」
麗華の言葉に直毅は驚き、1度笑みを浮かべると、腰にしまった銃を取り出しシリンダーに込められた銃弾を確認してまたもとに戻す。
静けさだけが彼らを包み込み、やがて最上階に辿り着くと、麗華は社長室の扉を叩く。
「お父様。東條 直毅をお連れしました。」
「麗華か。入れ。」
重厚な扉を開けを翔が開け、麗華、直毅、翔の順に部屋へと入ると、中では正司が椅子に座り彼らを出迎える。
「よく来てくれた、東條 直毅君。昨日の決闘では麗華が随分助けらたようだ。礼を言うよ。」
「いえいえ、彼女が1人で勝ったようなものですよ。自分は場を引っ掻き回しただけです。」
「謙遜はよせ東條君。君でなければ麗華は勝てなかっただろう。急な訪問でなんの用意もできていないが、座ってくれ。」
お互いに上っ面だけの賛辞の言葉を贈り、また返す直毅と正司。
正司は椅子から立ち上がり、応接用のソファーに座るように促し、直毅と麗華は隣同士に、翔は扉の前に立ち、正人は2人の正面に座る。
「麗華から話を聞いたかもしれないが、今日来てもらったのは共闘の礼をしたいのだよ。東條君。」
「そんな、いいですよそんな。礼だなんて。」
「そう言わず受けてくれ。協力者に礼を尽くさないとなれば此方の面子が立たん。君のご両親も招待したいのだが。」
「そういうことなら、分かりました。」
正人の問いに直毅が快く答えると、正人はひと安心といった様子で彼を見る。
だが直毅の次の言葉は、彼の思惑を嘲笑うよに、実際彼は正司を嘲笑っていた。
「けど礼の品に"青い果実"を贈るのはいただけないなぁ。親父と一緒に貪ってみたが、俺達の口には合わなかったぜ?」
殆ど直接的と言っていいほどの比喩を、何の躊躇いも無く吐いた直毅に、正人は驚愕し冷や汗を流す。
「…そうか、それは失礼した。なら好みを聞かせて貰えないかな?」
「俺はもっと"青く"なきゃなぁ。親父は"青い"ないんてもんじゃない、"種が実になる直前"が好みだからなぁ。中々用意出来るもんじゃない。」
酷く邪悪な笑みを浮かべ、演じると言うには余りにも様になっている直毅に、隣にいた麗華は恐怖を覚える。
「けど好みを聞いたって何にもならないぜ?俺はともかく、親父は口直しに血を呑む人だからな。On the blood rocksってな感じでよ。」
直毅が語るのはもちろん全て真っ赤な虚言。しかし正人は鵜呑みにしていた…むしろ呑まされていたと言うべきだろう。
それだけ魔術師にとって東條 雄治という男は狂人であり、直毅はその息子なのだから。
「…どうやら、聴く必要は無くなったな麗華。最後の質問の答えは、Noだったな。」
直毅はもとの表情に戻ると、静かに隣の麗華へ告げる。
「…そうみたいね。これで思い残す事は無くなったわ。」
麗華は冷たく父を見つめると、ゆっくりと立ち上がり決別の言葉を紡ぐ。
「…お別れです、お父様。私は今日、鳳凰院の名を捨てに来ました。貴方はお母様が亡くなってから1度も、私を"麗華"として見てくれませんでしたね…」
「麗華…貴様!」
怒りに身を任せ、娘に向け手を挙げた正人。
だがその手は彼女に届くことなく、神速で距離を詰めた翔に阻まれた。
「橘…お前まで私に楯突く気か!当主であるこの私に!」
「僕の主は麗華お嬢様だけです。例え当主の貴方であっても、お嬢様に危害は加えさせません。」
怒りに満ちた正人の視線を翔は顔色1つ変えることなく受け流してみせる。
翔の言葉に呼応する様に直毅は立ち上がると、腰のホルスターから銃を引き抜き正人の頭に照準を合わせた。
「そうだな。パートナーに挙げられた手は、俺に挙げられた手でもあるわけだ。それに…」
撃鉄をゆっくりと下ろしながら、不敵な笑みを浮かべて呟く彼は、1度言葉を切って誰も居ない社長席を見て続ける。
「貴女に挙げられた手でもありますよね?凛さん。」
「そうねぇ。まだまだ未熟な弟子を持ったんだから、ちゃんと守ってあげないと。」
彼の言葉に、凛は社長席の机の上に腰掛けた状態で現れて答えた。
「まさか…Ms.Wind⁉︎如何して貴女が⁉︎」
突如として現れた凛に、正人は翔の手を振りほどき驚きを隠せないままただ彼女を見つめる。
「如何してって、弟子の為に来たって言ったでしょう?」
「弟子…?まさか…まさか麗華が⁉︎麗華が弟子だと言うのですか⁉︎」
「その通りだよ親父さん。今や麗華は魔法使いの弟子なわけだ。よかったなぁ、"自慢の娘"だぜまったくよ。まぁ、今のあんたに麗華を娘と呼ぶ資格はねぇけどな!」
わざとらしく声を荒げる直毅に正人だけが震え、静寂が部屋を包みかけた時、社長席の机に置かれた電話が鳴り、凛が応答のボタンを押した。
「そっちはどう?雄治。」
「お、凛か。こっちは張り合いがないぜ。警備の奴らが皆んな俺を見るなり戦意喪失しちまってよ。」
「懸命な判断だぜそいつら。親父の相手なんかしてたら幾ら命があっても足りないさ。」
つまらなさそうに聞こえてくる雄治の声はまるで子供の様であり、直毅が呆れながら答えると、正人の表情が恐怖と絶望の色に染まった。
「東條 雄治が…Magic Killerが来ているだと…」
「その声は社長さんか?運が良かったなぁあんたら。直毅がいなかったら、気紛れに皆殺しにしてたところだ。」
この男に限りその言葉は冗談では無く、彼の気分1つでビルは血の海になっていた。そのことに正人は震えあがり、そうならなかったことに安堵する。
「…あんたが俺に向けて拳を振るっていれば結果は違っていただろうが、もう終わりだ。さぁ、"帰ろう"、麗華。」
「そうね…さよなら、お父様。」
直毅の言葉に麗華が静かに応え、凛が社長席から麗華と正人の映る写真たてを取り上げて直毅のもとまで来て彼に手渡す。
直毅はその写真をまじまじと見つめ、正人の前に投げ捨てると、銃爪を引き写真を撃ち抜いた。
写真の正司の顔は撃ち抜かれ、正司はその写真を見つめただ立ちつくすことしか出来ずにいる。
銃声は皆決別の証。その銃声が鳴り止むと、4人は社長室を後にした。
「話は終わったのか?お嬢さん。」
「えぇ。私事に付き合って貰いありがとうございます。皆さん。」
エレベーターに乗り1階まで4人が戻ってくると、受付の机に寄りかかり雄治が煙草を吸っており、麗華は雄治と凛に礼をして応え、直毅の方を向く。
「ありがとう直毅。私の我が儘に付き合ってくれて。」
「別にいいさ礼なんて。それよりも、これからどうするんだ?2人とも。」
直毅が手を振って応えながら尋ねると、麗華は1度翔の方を向いて答える。
「まだ何も考えていないわ。ただ自由になりたくてこうしたのだから、ゆっくり考えてみるのも手なのかもしれないわね。」
「そうか。なら考えが決まるまで、俺たちの所に居るってのはどうだ?」
その提案に彼女は目を丸くし、何も言えなくなってしまった。
「今の麗華は凛さんの弟子なんだろ?なら一緒にいなきゃいけないんじゃないのか?」
「それは、そうなのだけど…これ以上貴方に、貴方達に迷惑をかけるのは…」
「今更何言ってんだよ。別に構わないよな?親父。」
「あぁ、空き部屋はまだあるしな。同居人が増えるのは悪い気はしないもんだ。」
直毅が雄治の方を向いて尋ねると、彼は当然といった様子で紫煙を吐きながら答える。
「それじゃ決まりだ。それにまだ君の新しい名前を聞いてないからな。」
無邪気な笑顔を見せる直毅に、麗華は目尻に溜まる涙を拭いながら笑顔を返した。
「そうと決まればさっさと帰ろう。優子が昼飯を作って待ってるだろうからな。」
煙草の吸殻を携帯用の灰皿に押し込み雄治が声を上げ、5人はビルを後にする。
鎖に繋がれた籠の中の鳥は、翼を捨て大地を踏みしめ始めた。
如何でしょうか?
新しい家族が増えたよ!やったな直毅。
彼にとっては守る対象も増えたので弱点が増えた事にもなりますけど。
それではまた次回。