※この作品はR-18です。

Magic Life   作:弩素人

18 / 69
投稿が遅れました。申し訳無い。
短いながら戦闘回です。




悲しみは雨のように

直毅と裕也が、屋上でお互いの意思を確かめ合っていた頃、茜は沈んだ心で夢の丘に訪れていた。

 

彼女の心の様に曇り空の下、丘には誰も居ない。いつも通り風が草と大木を揺らす音だけが響き渡っている。彼女は大木の下に座りうずくまった。

 

そうしていれば直毅が来てくれるだろうという淡い期待を抱き、彼女は只々眼を閉じ彼の声を待つ。

 

彼女の期待は幸か不幸か当たることになる。恐らく観客の"運命"とかいう奴が、お節介にも手引きしたのだろう。実際、直毅は午後の授業が実習なのをいい事に茜の家に向かっていた。彼女が居ないことが分かれば、間違いなくこの丘に向うように、"意識と無意識"も手を回していたのかも知れない。何にせよ、彼は彼女のもとへ向かっていたのだ。自分の意思に関わらず。

 

だが直毅よりも早く茜の前に現れたのは、奇しくもその彼を待っていた高嶺 「望」であった。

 

「あら、茜さん。此処で何をしてるのかしら?」

 

その声に顔を上げた茜は、望の姿を見て拳を震わせて呟く。

 

「…あなたは、一体直毅の何なの…」

 

「貴女こそ、一体直毅の何なのかしら?私達より直毅を理解してるとは思えないけれど。ねぇ?兄さん。」

 

『そうだね望。やっぱり直毅や僕達は理解されないみたいだ。』

 

「望」から発せられた『望』の声に茜は戸惑い、その反応を見透かした2人は呆れ顔で言葉を続けた。

 

「直毅は貴女を愛しているわ、間違いなく。貴女がそれに気付いてないだけよ。あんなに美しい愛なのに。」

 

『その点で言えば、貴女は僕達より幸福だよ。人とは貪欲だね、望。此れ程愛されているのに、まだ愛を欲しがっているよ。』

 

「そうね兄さん。でも、彼を想う心は美しいと思わない?私達より劣っているとは思うけれど。」

 

『想いに優劣をつけてはいけないよ、望。でも見てみたいな、彼を想う心。』

 

「なら見てみましょうよ兄さん。私達の全ては、美しいモノを探すことだもの。」

 

呆然とする茜を他所に言葉を紡いだ望は、瞳を妖しく金色に輝く魅惑の魔眼で彼女の両眼を見つめる。その眼に魅了された茜は、瞳の光と意思を失った。

 

「でも兄さん。心をどうやってモノにするの?」

 

『そうだね…きっと、身体の内側の何処かにあると思うよ。』

 

そう言って、2人が茜に手をかけようとした寸前、丘に辿り着いた直毅が茜と望の姿を見て名を叫んだ。

 

「茜‼︎」

 

その声に瞳の光と意思を取り戻した茜は、自分に伸ばされた望の手を払い直毅のもとへ駆けつけ、彼の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。

 

「大丈夫か?茜。」

 

胸の中で首を縦に振った茜に直毅は安堵し、頂上に立つ望を見据え、拳を握り締める。

 

「望…」

 

「あら、直毅。また会いに来てくれたの?もしそうじゃなくても、会えて嬉しいわ。」

 

『やぁ、直毅。また話の続きをしようよ。』

 

直毅を快く出迎える2人とは対照的に、彼は悲しそうに呟いた。

 

「…茜を、殺そうとしたんだろ…?」

 

「いいえ、私と兄さんはその人の心を見ようとしただけよ。そんなこと思ってないわ。」

 

『そうだよ直毅。例えそれでその人が死んでしまっても、心が見れればそれでいいんだ。』

 

「そうだな…2人に茜を殺す気なんてあるはず無いんだ。望達は、美しいモノを探す為に生きてる。だからそうするのは当たり前のなんだろう?けど…」

 

胸の中で泣く茜を見下ろし、直毅は大きく息を吐く。

 

「俺も、俺を支えてくれる人を守る為に生きてるんだ。だから、茜を死なせるわけにはいかない!」

 

彼が力強く答えると、望は彼を妖しく見つめて呟いた。

 

「それが直毅の愛の形なのね。羨ましいわ、本当に。」

 

『そうだね望。でも僕達は僕達の目的を果たさなきゃ。』

 

「だから、茜に手をかけるなら、俺の意思を折ってからにしてくれ。お互いの生き甲斐を賭けて。俺が勝てば茜を救え、負ければ俺の身体も心も2人のモノにしていい。それでどうだ?」

 

直毅の言葉に驚いた茜は彼の顔を見上げ、望達は心底嬉しそうな表情になる。

 

「それじゃ直毅が…」

 

「いいんだよ茜。俺は守ることくらいしか出来ないからさ。」

 

抗議の声を上げる茜を直毅は頭を撫で彼女に優しくなだめ、彼女を身体から離し背を向かせる。

 

「いいか、茜。此処から俺の家に向かって走って行って、家の前で待っててくれ。何が聞こえても、絶対に振り返らないで。」

 

「……約束して……絶対に、迎えに来るって。」

 

涙声の茜の言葉に直毅は静かに、だが力強く答えた。

 

「あぁ、絶対に迎えに行く。それと、迎えに来た俺を叱ってやってくれ。どうしようもないロクデナシだからさ。」

 

彼の言葉を聞いた彼女はゆっくりと頷き、涙を拭って丘から走り去る。

 

丘には直毅と望の2人(正確には3人と言うべきなのだろうか)が残され、お互いに見つめ合う。

そして「望」の姿が『望』に変わると、2人は同時に声を上げた。

 

『嬉しいよ、直毅。直毅と愛し合えるなんて。』

「嬉しいわ、直毅。直毅と愛し合えるなんて。」

 

「…あぁ…俺も"悲しい"よ。2人と殺し合うなんて。」

 

狂気的な笑みを浮かべる2人『「望」』に、直毅はもう1度拳を握り締める。悲しみを込めて。

 

そして2人が一礼すると、直毅は丘の頂上に向け走り出した。

 

 

今の時点で、直毅には勝算が無かった。丘には頂上にある大木を除けば、ある程度質量のあるモノがない。彼が使う変質魔術の素となる、武器に変えるモノがないのだ。

 

それに加えて、彼にはまだ躊躇いがあった。狂人とはいえ、彼にとって2人は最初の友人なのだ。いくら死を見つめてきた彼でも、人を殺す覚悟を持ち合わせてはいない。怒りに取り憑かれた彼ならいざ知らず、コンバット・ハイ状態の兵士ではないのだから。

 

躊躇いは彼に迷いを抱かせる。どうにかして、2人を殺さずに止めることは出来ないかと。だがその迷いは当の本人達によって断たれた。

 

『「鏡は全てを写し出す。身体だけでなく、心までも。」』

 

『「望」』の正面に鏡が現れ、直毅の姿を写し出すと、写し出された彼が鏡の中から現実に放たれた。鏡から現れた直毅は『「望」』と同じく狂気的な笑みを浮かべ、本物の直毅に向かって行く。

 

「くそっ!」

 

迷いを断ち切るように頭を振った直毅は悪態を吐き、襲ってきた自分の虚像に右手で殴りかかると、その虚像は避けること無く顔面に彼の拳を受け、"粉々に砕けた"。

 

その虚像は鏡で出来ていたのだ。直毅の腕は虚像の顔面を貫通し、尖った破片がその腕を切り裂き拳も傷だらけにする。瞬く間に制服はボロボロになり血が滲み出す。

彼の腕を掴む鏡の人形の腹の中心に蹴りを入れ引き離すと、人形は胴体から真二つになり彼を捉え続け、今度は彼の顔面に手刀を突き入れる。

 

「くっ!」

 

間一髪その突きを躱し、掠めた頬が切られ血が流れ出す。冷や汗が血と共に滴ると、直毅は腕に破片が刺さるのも構わず腕を振り上げ、その場で回りながら人形の脳天を地面に叩きつけ粉々に砕き腕を引き抜いた。

 

『危ないよ、直毅。』

「危ないわ、直毅。」

 

その声に直毅が振り向いた先には、蹴りで真二つになった下半身が彼に向け猛然と右の袈裟斬りの様なハイキックを放っていた。彼が無意識に左腕で蹴りを防ぐと、人形の右足が脛の辺りで砕け、彼の左腕と右脚の太腿を切り裂いた。

人形は止まる事無く彼の左の太腿に尖った右足を突き入れ、そこを支点にして左足の爪先を伸ばし彼の左胸目掛け槍の様な突きを放つ。

 

「クソッタレ!」

 

またもや間一髪身体を逸らした直毅だったが、人形の左脚は彼の左肩に深く突き刺さり、上半身と左腕を繋ぐ健を切断する。

痛みに震えた彼は右手で突き刺さった人形の左脚を我武者羅に掴んで引き抜くと、未だジタバタと動く人形の上半身に向け叩きつけ人形を木っ端微塵に砕いた。

 

『「血化粧をした傷だらけの騎士が、こんなに美しいなんて。」』

 

『「望」』は感嘆の声を上げ、傷だらけの直毅を感動の目で見つめる。直毅は痛みに震え肩で息をしながら2人を、霞み始めた眼で見つめ返す。

 

(…死ぬ…死ぬのか…俺は…)

 

黒い微睡みの様な感情が彼を覆っていく。そのまま身も心も委ねてしまいたくなる。

 

「でもこれ以上、愛する人を傷付けたくないわ、兄さん。」

 

『僕もだよ望。さぁ、直毅。僕と望のモノに、僕達と永遠に愛し合おう。僕と望には、直毅しか要らないから。』

 

「…永遠に、か…それも、悪くないな…」

 

力無く膝を曲げた直毅に、2人は笑みを浮かべ近寄ろうとする。だが、

 

「けど、約束しちまったからな。迎えに行くって。」

 

直毅は真っ直ぐに2人を見据え、ボロボロになった左腕の手首を右手で強く握り締め呟いた。

そして、1度大きく息を吐き、"左腕を肩から引きちぎった"。

 

「グッ!…ア"ァ"!!…ガァ"!!!…」

 

獣の様な声で痛みを堪え、悶えながら意識を"左腕を武器に変える"ことだけに集中させる。

 

「…………………ごめん……………」

 

飛びかける意識の中、直毅は涙を流しながら呟き、無我夢中で右手に握られた左腕を『「望」』に振りかざす。

 

左腕から流れ出た血が2人にかかる。いや、その血の跡は刃の一閃となる。

 

直毅の右手には、黒い血の色をした、剣とは呼べない、言うなれば刃が握られていた。

左腕を振りかざした時に迸った血を繋ぎ合わせ刃に変え、直毅は『「望」』を斬り裂いたのだ。

 

目的を果たした刃は形を崩し、血となって地面に流れ出す。斬られた『「望」』は仰向けに倒れ、白い肌を赤く染める。

 

直毅は右手で左肩を押さえ脚を引きずりながら2人のもとに向かい、跪いてその体を抱き締める。

 

「…ごめん…2人共…」

 

「どうして謝るの…?直毅…私と兄さんは直毅と愛し合えたのに…」

 

『そうだよ…直毅…僕達は愛し合ったんだ…謝ることなんてないよ…』

 

「…そうだな…そうだよな…」

 

涙を堪え呟く直毅に、「望」は彼の頬を包み込み口付け、『望』は彼を抱き締めると、2人は目を閉じて力尽きた。

 

空から雨が落ち始め、血を洗い流し直毅と望を濡らしていく。彼は痛みを忘れ、声を殺し泣き続けた。




如何でしょうか?
次回から投稿ペースが遅れます。文を書くペースが遅くてすみません。酷評でもよろしいので感想があるとモチベーションが有頂天になります。

次回は主人公君には休んで貰いましょう。ボロボロですからね。

それではまた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。