※この作品はR-18です。

Magic Life   作:弩素人

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望兄妹といい今回といい、狂人の方が書きやすい不思議。


死者と狂者

昼下がりのロンドン郊外。森林に囲まれ一面草原の中にそびえ立つ、屋敷というよりも城と言った方が良い白い壁をした2階建ての屋敷を、ジョンは丘のようになった木陰から紫煙を吐いて眺めていた。

 

「狂人にしては良い趣味だ、外側だけ見たらな。中には人間の標本でも飾ってありそうだが。」

 

屋敷へ向かう自転車に乗った手紙と新聞の配達員が見えると、ジョンは首に掛けられた銀の懐中時計を左手で掴んで覗き、木に寄りかかって目を閉じた。

 

ーーーーー

ーーー

ー

 

「屋敷には彼と使用人が1人だけ。屋敷の見取図と、目的の彼の写真よ。」

 

「成る程、確かにこいつは狂人って顔をしてる。」

 

橙色の光が灯る薄暗い工房で、ジョンはジェーンから標的のジャック・H・マクマーフィーの写真を受け取り、深いシワの入った短髪の白い老人を見て呟いた。

 

「そのおじさんが今度のターゲット?」

 

「あぁ。それと、今回はベルは留守番だ。」

 

「え〜。ベルも連れてってよご主人〜。」

 

ジョンの背中に覆い被さり写真を覗き込んだベルは、頬を膨らませ彼の身体を揺さぶる。

 

「駄目だ、今度の仕事は身軽な方がいい。別にベルが役立たずなわけじゃない。ただ何が起こるか分からないからな。」

 

「う〜ん、分かった。今回はお留守番してる。」

 

渋々納得したベルはジョンの右肩の上に頭を乗せ、彼はその彼女の頭を優しく撫でた。

 

「さて、問題はどうやって"狂った杖"をへし折るか。」

 

ジョンは胸ポケットから煙草を取り出し口に咥え、指を鳴らし火を点け紫煙を吐きながら呟いた。

 

「正面から訪ねても開きゃしないだろうからな。かと言って入らなきゃ折れる杖も折れない。その屋敷に訪れる奴は誰か居ないのか?」

 

「毎日手紙と新聞を届ける配達員が居るわ。でも使用人が手紙を受け取るから中には入れないわよ。」

 

「手紙を書いて招待してもらえばいいんじゃない?」

 

「彼は屋敷に人を招かないわ。それこそ協議会の議長ですらね。」

 

ベルの提案にジェーンが溜息を吐くと、ジョンは腕を組んで思案し指を鳴らした。

 

「いや。案外良い案だ、それは。」

 

「本当⁉︎ご主人。」

 

「あぁ、狂人には手紙を出してやろう。招かれざる客からな。」

 

ベルを褒めるようにジョンは彼女の頭をもう1度撫で、小さく笑みを浮かべた。

 

 

ーーーーー

ーーー

ー

 

ジョンが昨晩の事と、屋敷の見取図を思い出している間に配達員が屋敷に辿り着き、配達員が扉の呼び鈴を鳴らし使用人が手紙を受け取る姿を見ると、彼は煙草を揉み消し懐中時計を見ながら秒数を脳内で数え始めた。

 

(1…2…3…4…5…)

 

屋敷の形は正方形で、中心部はくり抜かれ外と繋がり小さな庭となっている。玄関のから丁度真反対にジャックの自室があり、ジョンはそこまで使用人が辿り着く時間を予測していた。

 

酷く不確定要素だらけの予測ではあったが、その予測は幸運にも当たり、使用人がジャックの自室に手紙と新聞を届け部屋を後にしたのとほぼ同時に、ジョンは右の脇のホルスターからベレッタM92Fを引き抜き、右手で自分の身体を叩き木陰から掻き消える。そしてその代わりか、木陰に手紙が現れた。

 

ジョンが使用したのは、彼自身が編み出した移動魔術の亜種。それは意識して触れたモノと次に触れたモノを入れ替えるというものであった。彼はジャック宛に送った手紙と自分の"位置座標"を入れ替え、悠々と屋敷の中に忍び込んだ。

ジャックの自室に現れたジョンはすぐさま辺りを警戒するもそこに標的の姿は無く、彼は銃を下ろす。

 

部屋の中は薄暗く重い空気が漂っていた。重厚感のある木製の机と大きな椅子。本棚にはびっしりと魔術書や小説が並べられ、入り口には不気味なマネキンが置かれていた。

そのマネキンに手を伸ばすと、突然部屋に男の声が響き渡る。

 

「いい人形だろう御客人。人間の皮膚を全身に縫い付け、臓器も一通り入っている。人間となんら変わりないだろう?」

 

声が聞こえるなり、ジョンは腰に収めたM29を右手で引き抜き振り返るも、そこに声の主は居らず、男は笑い声を上げる。

 

「悪いが御客人、私は今取り込み中でね。私の作品達でもてなそう。」

 

男の声がまた響き渡り、ジョンの背後に置かれたマネキンがガタガタと音を立て始め、腹部が横に開き巨大な口となって彼に飛びかかった。

 

名状し難いものに変わった"それ"を間一髪で避け、彼は机に激突した"それ"に向け2丁の拳銃を乱射し、"それ"は天井に張り付きまた飛びかかる。

銃弾がその頭部を撃ち抜き肉片が飛び散り、床に叩きつけられ血で絨毯を汚す。バラバラになった頭部からは触手が何本も飛び出し、"それ"が立ち上がると、ジョンはベレッタを脇のホルスターに収め左手をそれに向けた。

 

「火炎放射器でも持ってくるべきだったか。」

 

掌から炎が放たれ、"それ"は炎に包まれた。

"それ"はこの世のものとは思えない声を上げ苦しみもがき崩れ落ち、炎が部屋に広がっていく。

 

ジョンが扉を蹴り飛ばして部屋から出ると、廊下の両端から犬の唸り声が聞こえ、角から現れたその姿を見た彼はポケットからを取り出した煙草を咥え指を鳴らす。そして紫煙の混じる溜息を吐き呟いた。

 

「全く。まさに"The Things"だな、こいつらは。」

 

彼から見て右側から現れた白い犬には、犬の頭が2つ縫い合わさており、左側から現れた黒い犬には1つ縫い合わされていた。それこそケルベロスとオルトロスの様に。

 

2匹の犬は荒い息と唸り声を吐き涎を垂れ流している。やがてジョンとの距離が詰まると、2匹の頭が縦に割れ、そこには無数の牙と太い触手が覗く。

 

「甘い菓子をやるか、音楽でも聞かせりゃいいのか?それほど躾けられてはなさそうだが。」

 

彼が冗談混じにまた呟いた瞬間、2匹の犬だった"それら"は同時に走り出し彼に飛びかかった。

ジョンは窓を割って外に飛び出し、1階の庭の中央に着地し、正面の扉を開け屋敷の中に入る。

 

「さてと、狂人は一体何処に居るんだ?まぁ隠れるなら、地下か。」

 

彼が今居るのはエントランスホールの2階へ続く階段裏。その階段裏には不自然な扉があり、ジョンは躊躇い無くその扉を開け、薄暗い螺旋階段を降って行く。

やがて階段が終わり開けた空間に出ると、そこには薄明かりの中地面に膝を突き、時折、手帳を見ながら複雑な術式や魔法陣を書き続けるジャック・H・マクマーフィーの姿があった。

 

「私の作品達はどうだったかね?御客人。」

 

「悪くないんじゃないか?Stars and Stripesか南極にでも送ってやりな。」

 

彼はジョンの方を見向きもせずに尋ね、ジョンは紫煙を吐きながら答える。

 

「術式の途中で出た"廃棄物"で作ったにしては中々の評価だ、感謝するよ。ところで、君は何者だ?」

 

ジャックは立ち上がってジョンの方を向き、薄明かりが彼の白く狂気的な表情を浮かび上がらせ、ジョンはその目を真っ直ぐに捉えた。

 

「俺はジョン・ドゥ。あんたを殺しに来た。」

 

「名前の無い死人か、結構結構。だが君は死んでいないな。どうだろう?"良ければ死なせて差し上げるが"?なに、遠慮することはない。」

 

「生憎だが間に合ってる。俺はもう2度死んでるからな。」

 

「なんと!既に2度死んだときたか!ますます結構。君に興味が湧いてきた。いやはや、私は"死"にしか興味が無くてね。口煩い生者よりも、物静かな死者の方が好みなのだよ。中々理解者が居ないのが難点だが。」

 

まるで気の合う友人でも見つけたように明るく話すジャックの目には、赤黒い狂気しかない。彼からの視線を受け流しながら、ジョンは咥え煙草で紫煙を燻らせる。

 

「あんたの理解者は、カッコーの巣か有刺鉄線の塀の中に居るさ。それに、理解者ならそこら中に散らばってるだろう。」

「あぁ、だが彼らは物静か過ぎる。君のように話しはしないのだよ。」

 

ジョンが煙草を投げ捨て、その煙草が地面に落ちる。その吸殻が燃え広がり辺りを照らすと、そこには数え切れないほどの、人間の屍体や内臓、手足や皮膚、骨。ありとあらゆるものが散乱していた。

「食人嗜好でも持ってるのか?」

 

「そう。いちいち食事を取るのに戻るのが"面倒でね"。それに"欲情を晴らすのにも"役に立つ。効率的だと思わないか?」

 

「屍体愛好家でソイレント・グリーン好きとは、よほど世界は"まとも"なようだ。」

 

ジョンは燃える屍体を踏み分け数歩前に出た。背後からは追いついてきた犬だった"それら"が、今にも彼に飛びかかる体勢で待ち構え、彼はベレッタの弾倉とM29の空薬莢を入れ替えホルスターに収める。

 

そして、彼は背を向けたままわざとらしく口笛を吹き、それを合図に"それら"は飛び掛った。

ジョンは右手で腰のM29を、左手で右脇のベレッタを抜き右回転で振り返って"それら"に照準を合わせ、両腕に真紅の魔術刻印が浮かび上がる。銃身に刻印が刻み込まれ銃爪を引き、炎を纏った銃弾が放たれると、それぞれの分かれた頭部に命中し、"それら"は体勢を崩し炎の中へ落ちた。

 

「お見事。流石は私を殺しにくる死人なだけはある。なら、私がもてなさなければ失礼というものだな。」

 

ジャックは振り返ったジョンに拍手を送り、指を鳴らして魔法陣を展開させ、辺りに散らばった屍体が浮遊させる。そして屍体達は互いの足りない部位を補い合い辛うじて人型となった。

 

「あり合わせだが、部品は幾らでもあるのでね。御相手しようではないか。」

 

「なるほど。精神を操るだけでも、飛躍させれば屍体も操れるのか。狂っても魔法使いというわけだ。」

 

継ぎ接ぎだらけの人形達はジョンに向け、操り人形のように襲い掛かる。

ジョンは再び両腕に真紅の魔術刻印を浮かび上がらせ、炎弾で人形達の頭を撃ち抜き蹴り飛ばしていく。

 

「キリがないな、こいつら。」

 

しかし身体がバラバラになろうが、人形達はすぐに足りなくなった部位を補充していく。際限無く再生する人形達も、再生を重ねるたびに人型から離れていき、先程のマネキンや犬のようになっていった。ある"それ"は首が異常に伸び、またある"それ"は背中や腹部から手足が生えている。

 

この世のものとは思えない異常なモノたちうごめく中、ジョンは一体のそれを踏み台にし、悠々と彼に背を向け術式を書き続けるジャックに向け銃を構え銃爪を引き向かっていく。

 

その銃弾はことごとくジャックの周囲に展開された障壁魔術に阻まれていく。魔術師が兵器に対して絶対的に優位である象徴。魔法使いであれば尚更、兵器に勝機はない。だが、

 

「穿孔弾装填、これで抜けるか?」

ジョンは足に飛翔魔術をかけ空間を蹴り1度距離を取りながら、ベレッタを収めM29に弾を込める。そして後方に魔法陣を展開させそれに張り付き、ドーム状に広がる障壁に向け6発を縦一列に撃ち込んだ。

通常なら弾かれる銃弾は、回転して障壁に穿孔しようとしていた。障壁魔術の基本思想は、"銃弾などをを逸らして衝撃を受け流す"というもので、装甲車や戦車にも使われる思想である。そしてそこが弱点でもあった。

 

「あんたにはコイツがお似合いだ。」

 

ジョンは"左腕を引き抜き、その白い腕を銀色に輝く斧に変質させ"、魔法陣を蹴ってジャックに向かって行く。斧を縦一列に並んだ銃弾に向け振りかざし、その圧力に耐え兼ねた障壁は粉々に砕け、ジョンは狂気的な笑みを浮かべた。

 

「Here's Johnny!(お客様だよ!)」

 

彼は振り返ったジャックに向け斧を真一文字に振りかざし、彼の首が中に舞う。だが残された首から下の身体は、中に舞った首を器用に受け止め切断面に持ってくると、触手が伸びジャックの身体は元通りになった。

 

「一瞬ヒヤリとしたよ。"こんな身体でなければ死んでいたところだ"。」

 

「死人の俺が言うのもなんだが、まさに不死身だな、まったく。」

 

ジョンは斧を腰に立て掛け、ポケットから煙草を取り出し、火を点して紫煙を吐いた。

ジャックの身体はボコボコと音を立て、今にもジョンに襲いかからんとばかりに目を狂気に染めている。そしてジョンが腰から斧をずらし、地面に倒れると同時に2人は動いた。

 

ジャックの全身からは触手と牙が浮き出てジョンに向け飛びかかり、ジョンは1歩後ろに飛び退いて地面に手を突き小さな笑みを浮かべ、ただ一言呟いた。

 

「Code."Execution"(術式、実行)」

 

ジャックが完成させた術式を展開させ、魔法陣がジャックを捉えて瞬く間に彼の"存在"を消滅させていく。ジャックは人間とは思えない絶叫を笑いながらあげ、彼を知る全ての人の記憶から消滅した。

 

術者である彼が消え、周りにいた"それら"も唯の肉片と化す。生者の居なくなった地下室で、ジョンは1人紫煙を吐き吸殻を地面に落とし足で揉み消すと、斧を拾い屋敷から掻き消えた。

 

 

ーーーーー

ーーー

ー

 

その夜、月明りが照らすジョンの部屋。

 

ジョンはベッドに腰掛け、ベルは彼の背中から引っ付き肩に顔を乗せ頬を擦り合わせ、2人をジェーンは椅子に座って見ていた。

「お疲れ様。報酬はこの言葉だけになりそうだけど。」

 

「仕方ないさ。"この世界"の誰も、奴のことを覚えちゃいないんだからな。奴の術式を理解出来ただけ儲け物さ。」

 

咥え煙草でジョンは答え、ジェーンは呆れ顔で彼を見つめた。

 

「貴方、本当に抜け目ないのね。」

 

「そうでもしなきゃ元が取れない。それに、この術式だって、使い方によれば神だって殺せる。十分な報酬さ。」

ジョンの言葉にジェーンは溜息を吐き、席から立って彼のもとに近付くと、彼女は彼に口付けて押し倒す。

 

「あー!ずるい!ベルが先にしようと思ってたのに!」

 

「お生憎様。死人も人肌が恋しくなるの、特に同類のね。」

 

ベルは頬を膨らませ、ジェーンは小さく舌を出して意地悪な笑みを浮かべる。

 

「まったく。お互い、随分汚れたもんだな。」

 

ジョンは溜息を吐き、ジェーンとベルに口付けて呟く。

 

死者達の夜は長い。いや、常に夜であるとも言えるだろうが。

 




如何でしょうか。

ジャックのイメージはレクター博士を想像して頂ければ幸いです。狂人といったらこの人といった感が。

次回からしばらく直毅の日常回。流石に息切れしちゃいますからね。

それではまた。
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