「直毅、それ本当でしょうね⁉」
「あぁ勿論。それで、用意出来そうか?文音。」
翌日。直毅は新聞部の部室で吉永 文音と密談を交わしていた。
「まぁ情報自体はあるけど…交渉の材料になるの?相手は学園よ?」
「あっちは俺の条件を飲むしかない。くだらないプライドを捨ててな。」
「直毅がそう言うならそうなんだろうけど……はい、これが要望の情報。」
文音はロッカーの中から1つのファイルを取り出し直毅に手渡す。
「……これなら大丈夫だな。サンキュー、文音。」
中身を確認した彼は不敵な笑みをこぼし、部室を後にした。
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「さぁて。後は賽を投げるだけでいいわけだ…ん?」
意気揚々と教師の集まる教務室に向かう直毅は、その手前で見覚えのある長い金髪をなびかせる優雅な女学生と、その側に寄り添う黒髪でポニーテールの凛とした女学生と鉢合わせる。
「確かアンタは…生徒会長さんだったか。」
「あら、東條 直毅君?私のことを知っているなんて光栄だわ。」
金髪の女学生…高等科第3学年生徒会長、矢澤 薫は直毅の姿を見て優しく挨拶をし、左手を差し出す。
「貴方には1度会ってみたいと思っていたの。私は矢澤 薫よ。どうぞよろしく、東條 直毅君。」
「生徒会長なら人前に出る機会も多いでしょう。それにこっちとしては俺みたいな一劣等生知ってる方が光栄ですよ。」
差し出された手に握手を交わそうとした直毅は、左手のグローブに気が付き1度手を止め、そのまま握手を交わす。その行動に薫の側にいた女学生が目をひそめて声を上げる。
「貴様、グローブを外さないのか?」
「いや、1度外そうとは思ったんだが、外したら外したで面倒なんでな。」
直毅はグローブを外し、腕捲りをして白い義腕を見せる。2人は驚いた様子でその左腕を見つめた。
「左腕は義腕なんだよ。だから警戒させないようにグローブを着けてたのさ。あんまり見せびらかすものでもないからな。」
「そうか…それは悪かった。私は二ノ宮 瑞貴。会長の手伝いをしている。」
「理解があって助かる。俺は東條 直毅だ。」
直毅はグローブを着け腕捲りを戻すと、瑞貴に右手で握手を交わす。薫は直毅が気に入ったのか、微笑んで言葉をかける。
「今では貴方を知らない高等科の学生は居ないわ。学年でも優等生筆頭だった柊兄妹を倒した学年一の劣等生…話題にならないわけが無いもの。」
「劣等生であることに変わりはないですよ。ところで、御二人は教務室に用でも?」
「あぁ。学園対抗戦の代表者の件でな。東條は何の用なんだ?」
瑞貴の言葉を聞いた直毅は内心ほくそ笑み、表情を変えることなく答えた。
「偶然、俺も代表者の件で先生方に話があったんですよ。」
「あらそう。なら先に話を済まして構わなくてよ?」
「そいつはどうも。でも、俺も手短に済みますから、どうぞご一緒に。」
直毅はわざとらしく薫と瑞貴に一礼し、教務室の扉を叩き声をかけ、3人は教務室に入る。
「何の用だ、東條…?」
教師陣の座る席とは別に分けられた、高等科主任の座る机の前に立つ直毅。主任の教師は勿論、他の教師も直毅を怪訝な顔で見ていたが、彼の後ろにいた薫の姿に驚いていた。
「先日送られてきた通達についてお話しがありまして。」
「あの通達の内容に関しては譲歩はしない。決められた点を取り、取れなければ相応の処分が下るだけだ。」
「そこをなんとかして貰いたくて、それとは別の条件を提案しに来たんですよ。」
薄っすらと笑みを浮かべる直毅にその教師は腹を立てるが、薫の手前その苛立ちを押し殺して尋ねる。
「提案だと?一体どんな条件だ、言ってみろ。」
「試験の代わりに、自分を今度行われる学園対抗戦の2学年の代表にして頂けないかと。」
その言葉を聞いた教師陣は皆腹を抱え笑い声を上げる。無論、軽蔑を含んだ笑い声で。その様子を見ていた薫は表情を変えることなく直毅の後ろ姿を見つめ、瑞貴は笑い声を上げる教師陣に目をひそめる。
「最高の冗談だな、東條。それはいい条件だ、全く。」
学年主任の教師に直毅は笑い声を返し、振り返ってファイルを薫に渡す。
「すまないが会長さん。このファイルを持っててくれないか?」
静かな声で頼まれた薫は黙ってそのファイルを受け取り、直毅は礼を言って学年主任の方を向く。
「勿論タダでとは言いません。そちら側にも十分なメリットを用意しました。今会長に渡したファイルには、この学園の魔術協議会への違法献金、成績操作、裏口入学、果ては買春の情報まで収まってます。これ以上言わなくても"賢明な先生方"ならお受けしてくれると思いますが?」
その言葉を聞いた直毅以外の全ての者が驚愕し、一瞬にして教務室は静まり返った。
「東條…貴様学園を脅すつもりか?」
「いえいえ。これはただの取引ですよ。そちら側が圧倒的に"有益な"。」
「そんな脅しに屈すると思うか?万が一その情報が本物であっても、貴様に何のメリットがある?」
「メリット?メリットなら十分ありますよ。」
直毅は底冷えするような笑みを学年主任に向け、酷く低い声を部屋に響かせた。
「あんたらを叩き落とせるなら、それで十分なんだよ、俺は。」
その表情と声に学年主任は冷や汗を流し、直毅は言葉を続ける。
「別に2学年の代表を立てても構わない。だが良く考えな。俺がその代表さんと"平和的に話し合ったら"、喜んで辞退してくれると思わないか?」
直毅の言葉に学年主任は歯を軋ませ、苦しそうに彼を睨みつける。
今の直毅には、柊 誠を倒したという実績がある。だがその実績も、保身と名誉に固執する者にとっては、彼と対立するには十分な理由とならない。彼の評価は大半の者にとって、優等生に勝利した"劣等生"なのだ。勝利して当たり前、敗北すれば名誉も地位も失うというハイリスクノーリターンの勝負に挑む者など、この学園に居る真っ当な魔術師には居なかった。
「…だがそれも、その情報が本物でなければ…」
「まだ信じられないか?いや、信じたくないと言うべきか。なら信じさせてやるよ。」
直毅は勢い良く左腕を引き抜き、瞬きする間にソードオフのウィンチェスターM1887に変質させ学年主任の額にぴたりと銃口を合わせた。
「"こいつ"が本物に見えるか?それとも偽物に見えるか?さぁ答えな。答えはその身をもって教えてやる。」
他の教師陣がざわつき直毅を制止しようと声を上げようとするが、振り返った直毅の表情に皆恐怖し黙り込む。
「"さぁ、答えな"。そうだ、1つだけ忠告しておこう。今の俺の銃爪は、"暗黒の木曜日"にばら撒かれた紙屑並みの値打ちしかないぜ?」
直毅はゆっくりと指に力を込め、学年主任はカタカタと震え始める。そして銃爪が引かれる寸前、薫が静かに声を上げた。
「立候補の推薦者が居ないのが御不満なら、私が彼を推薦しますわ。」
その言葉に今度は薫以外が驚き、直毅は指の力を抜き声を戻す。
「会長さんからの推薦も頂けましたよ先生。どうです?条件を呑んで頂けますか?」
学年主任は半ば放心状態でゆっくりと頷き、直毅は満足げな笑みを浮かべてウィンチェスターを袖から入れ左腕に戻す。深々とわざとらしく一礼し教務室を後にし、続いて薫と瑞貴も彼の後を追った。
「正気か貴様⁉学年主任相手に脅しをかけるなど!」
直毅に追いついた瑞貴が彼にまくし立てるが、何でもないような様子で直毅は応じる。
「俺はいたって正気だぜ?正気じゃなきゃ躊躇いなく銃爪を引いていたさ。」
「それに会長もです!こんな奴を冗談にも2学年の代表に推薦するなどと!」
「落ち着きなさい瑞貴。それに、私は冗談を言ったつもりは無くてよ?」
薫は瑞貴をなだめ、直毅の顔を見て不敵に微笑む。
「立ち話もなんだわ。生徒会室で話をしましょう。東條 直毅君。」
「はぁ…また面倒ごとに首を突っ込んじまったか。」
直毅は大きく溜息を吐きながらも、薫と同じく不敵な笑みを浮かべた。
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「まずは聞かせて頂戴。どうやってこれだけの情報を手に入れられたの?」
会長と書かれた黒い名札の置かれた木製の重厚な机で、薫は直毅から渡されたファイルの中を読みながら尋ねた。
「劣等生には劣等生なりの情報源があるんです。その情報は協力して頂いた感謝の印としてお譲りしますよ。」
「分からん奴だ…貴様に何のメリットがある?」
腕を枕にして大きな皮のソファにだらしなく寝そべる直毅を、瑞貴は訝しむ。
「さっきも言った通り、俺はあいつらの真っ青な顔を拝みたかっただけさ。それに、体の良い退学届けを突き付けられたんだ。むしゃくしゃもするだろう?」
「感情的に見えて、裏では思考を張り巡らせている冷静さ…気に入ったわ。」
ファイルを閉じ、満足げな笑みを浮かべた薫は感嘆の視線で直毅を見つめ、彼はその視線を受け流しながら身体を起こす。
「それで?一体何をさせる気なんだ、会長さん?」
「話が早くて助かるわ。薄々気付いているでしょうけど、3学年の代表は私で、2学年の代表は貴方。問題は1学年の代表を決める必要があるの。」
「つまり、1年の代表を選抜する手伝いをしろって事か?」
「その通りよ。貴方の意見が欲しいの」
「そんなもん、成績優秀者を適当に選べばいい。上流階級の生まれなら喜んで引き受けるだろ?」
面倒臭さそうに答える直毅に瑞貴は声を上げようとするが、薫が視線で彼女を制し言葉を続ける。
「そうはいかないわ。貴方を代表に推薦した時点で、私達に敗北は許されない。例えそれが1学年の代表であっても。」
「……意地と面子のぶつかり合いだな。まぁそういうことなら別にいいが、あまり参考にならないと思うぜ?こんな劣等生の意見なんてな。」
「成立ね。それでは早速意見を聞きたいわ。瑞貴。」
声をかけられた瑞貴は一礼し、ロッカーから鞄に入っていたタブレット端末を取りだし、パスコードを入力して直毅の前に置く。
「この端末には1学年全生徒のデータが入っている。ここから1人、代表に見合う者を選んで貰いたい。」
「こっから1人って、一体何人居ると思ってるんだ?500人はくだらないぜ?」
「1人1人見る必要はないわ。貴方が必要だと思う条件で絞り込めば自ずと数は減るでしょう?」
「そうか…ならまずは無難に成績優秀者から絞るか。」
予想通りと言った様子で、瑞貴は条件に合った生徒を絞り込む。
「次の条件はなんだ?」
「そうだな。"名のある家"の出身の奴は除外していい。普通の家の出身の奴だけにしてくれ。」
その言葉に驚いた瑞貴は、端末から目を外し直毅を見つめる。
「それはどんな意図を含んだ条件だ?」
「別に。変に上流意識があると足元をすくわれるからな。それにこっちとしてもやり難い。まぁ居なけりゃ名のある家の奴を選ぶまでだが。」
「……居たぞ、数えるほどだが。」
端末を瑞貴から受け取り、何人かの詳細を見ていた直毅は、ある1人の男子学生の所で目を止め、薫の居る机の上に置いて指差した。
「こいつだな。俺が選ぶとしたら。」
薫と瑞貴は端末を覗き込み、薫は深く思考し始め、瑞貴は直毅の顔を見て疑り深く尋ねる。
「どうしてこの生徒なんだ?何か私達を納得させる理由があるんだろうな。」
「とりあえず会って話をしてみなきゃな。会長さん。今からこいつを呼べますか?」
「えぇ。瑞貴、お願い。」
「はい。会長。」
瑞貴は一礼して生徒会室を後にし、直毅はまたソファーに寝転んだ。
「会長さん。アンタ変わった人だな。俺みたいな奴から意見が欲しいだなんて。」
「単に貴方の能力を評価しているだけよ。現金な話でしょうけど、あの決闘から貴方に興味が湧いたわ。私は能力がある人ならどんな人でも評価する。家の名や血統に縋る人よりもね。」
「完全な実力主義、あくまでビジネスとしての関係ってわけだな。気に入ったよ、会長さん。」
2人はお互いに微笑み、廊下から放送の音が流れ始める。再び学園一の劣等生による、奇跡の舞台の始まりを告げる様に。
如何でしょうか?
新しいキャラを出すとなるとやはり時間がかかります…
それではまた次回。