翌日の昼休み、直毅達の居るJ組の教室。
クラスメートに囲まれる中、直毅は剣人とポーカーをしていた。2人は参加料の缶ジュースを机の上に置く。
裕也が交互にカードを配り、2人はカードを見る。表情ひとつ変えない直毅に対し、剣人は分かりやすく口角を上げ直毅の表情を伺う。
「いい手だ。今度は勝つぜ直毅。」
「いい加減終わりにしてくんねぇか?そろそろ飽きたぜ。」
面倒臭そうに直毅はカードを2枚出し、剣人は1枚だけカードを出し、裕也からカードを受け取り、更に缶ジュースを置く。
「そのポーカーフェイスもここまでだぜ!レイズ!」
自信満々に剣人は焼きそばパンを机の上に置き、直毅は"剣人から"勝ち取ったコッペパンとお茶を置き溜息を吐いた。
「コール。オープンだ。」
剣人がカードを机に叩きつけ、直毅の表情を伺い笑い声をあげる。
「キングとエースのツーペア!こいつは貰っただろ!」
「残念だったな剣人。ジャックとクイーンのフルハウスだ。」
カードを投げ出した直毅に、剣人は「何でだー!」と叫びながら崩れ落ちる。直毅は机に置かれた缶ジュースを取り片手で開けた。
「何でそんなに勝てるんだ?直毅は。」
「さてね。運がいいだけだろうよ。」
余ったお茶を裕也に渡し、直毅は缶ジュースを飲み干し時計を見ると、教室の後ろに置かれたゴミ箱に空き缶を投げ入れ席を立つ。
「何処か行くのか?直毅。」
「あぁ。ちょっと用事があってな。」
そう裕也に言い残し、直毅は教室を後にする。その後ろ姿を見ていた拓見は裕也に尋ねた。
「茜さん、まだ体調悪いの?」
「え?あ、あぁ。中々風邪が治らないみたいでな。」
「茜さんが居ないからか知らないけど、いつもより元気が無いよね、直毅。」
「……そうだな……」
暗い感情を押し殺し、裕也は静かに答える。その感情を払うような文音の声が響いた。
「直毅いるー?」
「吉永か?どうしたんだ?直毅なら今さっき出て行ったけど。」
「そう。なら直毅にこれ渡しといてくれない?」
裕也は文音からファイルを受け取り、彼女は大きな欠伸をして教室を後にする。
そのファイルには、「国立第5総合学園 生徒資料」の文字がテープで印字されていた。
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自信を持たない者にとって、期待されること、活躍の場を与えられることは最大のチャンスであり、また耐え難い重圧である。
この普通の少年…黒瀬 白也にとっても、直毅からの依頼は、大きな波となって彼の心を揺らしていた。
「やぁ、黒瀬 白也君。」
「え、あ。どうも…」
教室で1人考えていた白也を、数人の生徒が訪れ、その中の1人が優しく声をかけてた。
「今度の学園対抗戦の1年代表に選ばれたんだろう?」
「どうしてそのことを…」
「噂は嫌でも耳に入るものさ。ところで、勿論"辞退する"つもりなんだろう?黒瀬君。」
さも当然といった感で言うその生徒に、白也は萎縮し、迷いながら言葉を紡ぐ。
「確かに、僕なんかには重過ぎる大役ですし…」
「そうだろうね。そこでどうだろう、君の代わりに僕を生徒会長に推薦してくれないだろうか?悪くない話だと思うんだが。」
暗に実力の差を突き付けたその生徒を見て、白也は内心悔しさで拳を震わせる。だが同時に、受け入れてしまえば楽になるという安心感も感じていた。
その安っぽい安心感に手を伸ばそうとした時、脳裏に直毅の姿が映った。
「…いい提案ですけど、止めておきます。僕なんかを選んでくれた人が居ますから。」
白也はありったけの自信を振るわせ立ち上がると、その生徒を押しのけて教室を後にし生徒会室に向け走り出した。
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「…それで、他の候補者も上げておきたいのだけれど。」
「それもそうか…ん?」
生徒会室のソファーに座り、天井を見上げていた直毅は、外から微かに聞こえてきた足音に笑みを浮かべ薫の方を向いた。
「どうやら、その必要はなさそうですよ。会長さん。」
その言葉と共に、白也や勢いよく扉を開け、息を切らしながら声を上げる。
「ぼ、僕に、対抗戦の代表、やらせて下さい!」
「待ってたぜ、その言葉。さて、役者はこれで揃いましたね、会長さん?」
「そうみたいね。それでは、作戦会議といきましょう。」
直毅につられて薫も笑みを浮かべると、席を立ち白也のもとへ向かい手を差し出した。
「よろしくお願いするわ、黒瀬 白也君。」
「は、はい!よろしくお願いします!」
慌てて薫の手を取り握手を交わす白也を、薫はクスクスと微笑みながら見つめる。
「自己紹介は不要ね。さて、直毅君。何故彼を代表に指名したか聞かせて貰おうかしら?」
「そうだな…簡単に言えば切り札だ。今度の対抗戦に勝つ為の。」
「切り札?僕がですか?」
直毅の言葉にキョトンとする白也。全く心当たりがないという表情をする。
「あぁそうだ。それはな…」
不敵な笑みを浮かべた直毅は1通りの説明をし、瑞貴と白也は勿論、薫すら目を見開き驚きを隠せなかった。
「直毅の言う通りなら、確かに勝てるだろうが…そんなことが可能なのか?」
「不可能を可能にするのが魔術だろう?」
「僕に、そんなこと本当に出来ますかね…」
信じられないといった感じで直毅を皆見つめ、瑞貴の質問に彼は足を組みながら答える。白也は不安そうに自分の手に視線を落として呟いた。
「そいつは自分次第さ。まぁお前さんや会長さんに心配はしてない。何せ1番足を引っ張るのは俺だからな。」
直毅は白也と薫を交互に見ると、ソファーに横になってゆっくりと目を閉じた。
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その頃、対抗戦の相手となる国立第5総合学園、高等科の生徒会室。
生徒会長の座る席には、眼鏡をかけた白い学生服を着こなす細身で長身の男子生徒が、彼の正面には学生服の袖を捲る、髪を刈り上げた体格の良い男子生徒と、縦にロールしたツインテールの銀髪に触れる、人形の様な淡い赤色のドレスを着た少女と言った方がいい女子生徒が立つ。
「一応、自己紹介をしておこう。僕は諏訪 優季。今度の対抗戦の3学年代表になった。」
生徒会長、諏訪 優季は席を立ち静かに2人に挨拶をし、2人を見つめて
「2学年代表の稀崎 翠樹(きざき りき)君と、1学年代表のローラ・マレフィアス・アーデルハイト君だったね。よろしく頼むよ。」
優季は2人と社交辞令的な握手を交わし席に着くと、指を組み静かに告げた。
「各々が最善を尽くせば勝利を掴める。対抗戦までの間、鍛錬を重ねてくれ。」
その言葉に2人は頷き部屋を後にする。酷く冷たい、直毅達とは対照的な関係。だが魔術師の関係とは本来こういうものなのだ。
「随分ドライな感じだなぁ生徒会長は…そう思わないか?えーと、ローラだったか?」
「えぇ、稀崎先輩。でもそれが魔術師というものでしょう?」
「確かにそうなんだがな…まぁ俺もチームプレーには程遠いか。」
翠樹は拳を何度か握り締め、それもそうかと納得すると、2人は言葉もなく別れた。
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放課後。練習場を訪れた直毅達4人は、偶然にも麗華と鉢合わせた。
「お、麗華。例の課題の練習か?」
「あら、直毅?ようやく術式が完成したの。後は実践してみるのみよ。貴方こそ、対抗戦の打ち合わせ?」
「ん?なんで俺が対抗戦に出るって知ってるんだ?」
麗華の言葉に首を傾げた直毅に、彼女は彼の後ろにいる面々を少し見て答える。
「噂は嫌でも聞こえるものよ。それに生徒会長の矢澤さんと一緒にいるのだから。」
「成る程な。ってことはまたバレるのも時間の問題か…まぁた面倒なことになりそうだな…」
溜息を吐く直毅の姿を見て、麗華は頬を緩ませクスクスと笑う。その直毅と麗華の様子見ていた薫達は、その親しげな雰囲気に驚いていた。
「さて…それじゃ会長さんは白也と術式の練習をお願いします。瑞貴、組手の相手を頼むぜ。」
「分かった。遠慮なくいかせてもらうからな。」
「よ、よろしくお願いします!薫先輩。」
「あまり緊張し過ぎないようにね、白也君。」
4人はペアを組み別々の部屋に入る。その時、直毅の姿を見ていた麗華の中には、表現するにはあまりにも小さい感情があった。どんな意味を含んでいるかは知らないが、少なくともその感情は、"不安"であったのは確かだが。
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打ち合わせを終え、直毅は麗華と共に家路を辿る。特に話すことも無くただ歩いていた彼らだったが、麗華は一抹の不安を拭うため口を開いた。
「ねぇ、直毅。直毅は…好きな人とか居ないのかしら…?」
「なんだよいきなり、突拍子もなく。」
「貴方が今までずっと、告白を断り続けてるのを耳にしたから、何か理由があると思って…」
溜息を吐き頭を掻き、夕陽に照らされた麗華の顔を見て答える。その顔色を伺うことなく。
「俺には恋愛感情ってやつが分からないだよ。誰かを好きになるって気持ちが。人の愛し方が。」
「分からないって…それじゃ直毅は…」
「俺は俺なりに皆んなを愛してるさ…それしか愛を、愛し方を知らないからな…」
その、今にも消えてしまいそうな直毅の姿に、麗華は堪らず彼を抱き締めた。彼が消えてしまわないように。
「一体どうしたんだよ、麗…」
表情を伺おうとした直毅の頬を包み、麗華は彼に口付けた。
触れ合う程度に優しく、そして想いを込めた口付け。そして唇が離れると、麗華は直毅の目を真っ直ぐに見つめる。
「私は…直毅のことが好き。けど、貴方が人を別の意味で好きになって、愛せるようになった時、それが私なら…向かえに来て。」
「………あぁ。俺に愛の意味が分かった時、愛する人が麗華だったら、必ず行こう。約束しよう。」
「なら…その約束の……証が欲しいわ…絶対に忘れないような…」
夕陽に照らされ、朱に染めた頬を隠しながら麗華が呟くと、直毅は彼女の顎に手を添え、彼女がした口付けと同じく、触れ合う程度の、そして、"約束の意味しか含まない"冷たい口付けを交わした。
如何でしょうか?
次回から学園対抗戦です。派手な戦闘にしたいなぁ。
それではまた次回。