対抗戦が思うように書けず大幅に遅れました…読んで下さる方々。申し訳ない。
「いよいよだな…」
対抗戦当日。決戦の舞台は広大な市民公園。巨大な障壁展開用の4本の柱が正方形の頂点となるように立てられ、辺りには学生や学園の関係者、魔術協議会の者の姿もある。
「大勢人が居ますね…緊張するなぁ…」
「大丈夫よ白也君。対抗戦の最中は観客の目は気にならないわ、だから緊張しないで。」
「そうだぜ白也。それに、俺達の切り札はお前なんだからな。」
直毅達は西側の柱、簡易的に設置された控え室の近く居た。反対側には小さく対戦相手の第5学園の待合室が見える。やがて放送車からアナウンスが響き渡った。
「只今から対抗戦の会場を"展開"します。障壁魔術の範囲から離れて下さい。繰り返します…」
アナウンスが注意を呼び掛け、柱に囲われた範囲に巨大な魔法陣が浮かび上がり、一瞬のうちに"街"が造り出された。
「これより1時間、第3学園は地形の確認を行って下さい。第5学園は控え室で待機、第3学園の地形確認が終わり次第交代となります。」
「作戦会議の時間ってわけか。じゃあ早く行こう2人共。地の利がなきゃ勝てる勝負じゃないからな。」
直毅の声かけに2人は頷き、決戦の舞台に足を踏み入れた。
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舞台の市街地は西と東を貫くように引かれた広い道路と、その道路を中心で南側に引かれた道路で構成されたT字路で大きく3つに分けられている。北側は住宅密集地、北東部には小高い丘があり街を見下ろしている。
南西部は巨大なショッピングモールやデパートが立ち並ぶ繁華街。南東部は商業ビルに囲まれたビジネス街と言ったところである。
3人は西側からT字路の合流点まで来たとこで、直毅は北側に続くアーケードを見つけ立ち止まる。
「ここは使えそうだな…俺は北側を見てくる。2人は南側を見てくれ。大雑把に地形と特徴が把握出来れば十分だ。30分は地形の確認に、後の30分は使えそうな場所を詳しく調べてくれ。」
いつにも増して真剣な表情の直毅に、2人は頷き南側へ向かう。
直毅はアーケードをゆっくりと歩き、左右にある脇道を確認し、ふと日差しの差し込むガラス張りの天井を見上げて歩を進めていった。
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一方、控え室の第5学園の3人。
「稀崎は大通りから進行、ローラは丘で指示があるまで監視、敵に動きがあれば報告してくれ。僕は手頃な南東部のビルに拠点を設けるから、稀崎は敵をそこに誘い込んでくれ。」
テーブルの上の液晶画面に映し出された地図を見ながら、3人は作戦を確認し合う。
「そういえば諏訪会長。対戦相手の情報はもう出てるんですか?」
「あぁ。名前の発表はあった。1年生が黒崎 白也。2年生が東條 直毅。3年生が生徒会長の矢澤 薫だったか。1年生と2年生は無銘だな。」
その名を聞いた途端、翠樹は心底嬉しそうに笑みを浮かべた。
「どうした稀崎。知っている名前があったのか?」
「えぇ。闘ってみたいと思ってた相手が。」
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「直毅先輩、どうしてあんなに落ち着いてるんですかね?なんというか、戦い慣れてるみたいな。」
「そうね。恐怖すら感じる冷静さ…でも味方で心強いのも確かよ。」
薫と白也は南西部の大型複合ショッピングモールを進んでいた。
そのショッピングモールは巨大で、南北に長く伸びたL字形。3階建てで左右に店が立ち並び、所々中央部に渡り通路と店が置かれている。4つのブロックに分けられたその場所は、彼らが考える作戦にはうってつけである。
各々の思惑を孕みながら時間は過ぎ、直毅達の地形確認の時間が終わる。
控え室に集まり椅子に座った直毅は、机の上のディスプレイを見て指差した。
「とりあえず白也は大通りの交差点の北側のアパートに隠れて用意を進めてくれ。恐らくその近くで戦闘が起こる。術式の参考になる筈だ。会長さんは白也の護衛を頼む。」
「起こるって、なんで分かるんですか?」
「そうだな…会長さん。対戦相手の名前は公開されてるのか?」
「えぇ。予想通り3年生の代表は生徒会長の諏訪 優季。2年生は稀崎 翠樹。でも1年生の代表は、貴方の資料には無かったわ。ローラ・マレフィアス・アーデルハイトよ。」
薫の言葉に直毅は驚き頭を抱え思考を巡らせ、そんな彼を他所に白也は感嘆の声を漏らす。
「凄い…2人も予想が当たるなんて。」
「そうね。これだけ前もって情報があれば精神的も楽だわ。ねぇ、直毅…?」
その予想を当てた当の彼は、頭を抱え深い溜息を吐いていた。
「…そうだな。相手より情報戦では既に勝ってる。それ以上は求め過ぎだ。」
自分に言い聞かせるように呟いた直毅は、大きく息を吸い顔を上げる。
「話を戻そう。情報通りなら、稀崎って奴は接近戦が得意だ。そこで俺が餌になって"釣り上げる"。本格的に戦闘はしない。ある程度能力が把握出来たところで切り上げて撤退する。その後は罠を張っての撤退戦だ。時間が稼げそうな場所はあったか?」
「えぇ。このショッピングモールなら、十分時間が稼げると思うわ。内部は…」
直毅の問いに薫は地図を指差し内部の説明をし始める。彼は要所要所に質問をし、彼女はそれに完璧な回答をする。そんな2人の様子を見ていた白也には不安だけが積み重なっていく。
(本当に、僕なんかに出来るのかな…)
その表情を見た直毅は軽く溜息を吐くと、白也の頭に手を乗せる。
「不安になるのは分かる。実のところ俺だって自信なんてありゃしない。けど、俺が俺であるためには、負けるわけにはいかない。ただそれだけのために戦ってるんだ、俺は。」
「自分が自分であるために…」
「あぁ。どうしようもないロクデナシだよ。そんな奴に、力を貸してくれないか?2人共。」
「……はい!」
「私は始めから信頼してるわよ。直毅。」
顔を上げた白也に直毅は笑みを見せ2人に問いかけ、白也は覚悟を決め力強く頷き、薫は当然といった様子で微笑む。
「…サンキュー、2人共。」
「お礼はこの勝負に勝ってからよ。そういえば、貴方が頼んでおいた物はどうするのかしら?」
薫は机の上に黒塗りのスーツケースを乗せ、中身を確認した直毅は満足そうに頷く。
「1つはショッピングモールに置いておこう。もう1つは装備して行く。」
スーツケースの中身はサンドカラーのマントと大量の魔法石が入っており、直毅はマントの内側に魔法石をしまい始める。
「簡単な障壁魔術が付与されたマントだけれど、過信しない方がいいわ。」
「気休めにはなるさ…さて、これで少しは魔術師らしく見えるかな?」
マントを翻す直毅の姿に、薫はクスリと笑って答える。
「貴方の場合は旅人ね。そう思わない?白也君。」
「そうですね。でも、似合ってますよ。」
「旅人か…悪くないな。そうだ、2人にコイツを渡しとかないと…ほら、通信用のインカムだ。」
直毅は持ち込んでいたバッグからインカムを取り出し差し出しと、2人は不思議そうに彼を見つめた。
「どうしてわざわざインカムを使うんです?この場合なら伝達魔術でいいんじゃ…」
「おいおい、俺は簡単には魔術が使えないんだ、代用出来る物は代用させてくれ。」
「あ、そういえばそうですね。忘れてました。」
2人はインカムを受け取り耳に取り付け動作を確認すると、直毅と共に細かい作戦を話しはじめた。
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「対抗戦開始、5分前です。代表者は各自開始地点に移動して下さい。」
作戦会議が終わり、直毅達は各々の場所に移動する。
静けさに包まれた架空の街で、彼らはただ開始の合図を待つ。やがて開幕のブザー音が鳴り響くと、両端に居た直毅と翠樹は全速力で大通りを駆けた。
「予想通り、正面から来やがったな…」
「正面からか、嬉しい限りだ!」
お互いの姿を視認し、直毅は左手のグローブを後ろに投げ捨て右足を前に出し右のストレートを放つ。難なくそれを躱した翠樹に左のブロー、右のミドルキック、左のスピンキックと連撃を繰り出すも、ボクシング特有のダッキングで躱されていく。
(手を出させてみるか…)
直毅はわざと大振りな右のオーバーブローを放ち大きく体勢を崩す。絶好のカウンタータイミング。翠樹は条件反射のように右のブローを合わせる。完全に入ったかに見えたその拳を前に、直毅は不敵な笑みを浮かべていた。
「Code."Execution"!」
直毅は右手で左肩に触れ、先程投げ捨てたグローブに仕込んでおいた自分の位置を入れ替える。 完全にタイミングを外され逆に体勢を崩された翠樹を認めた直毅はマントを暗器代わりに左腕を引き抜き、S&W M29 に変え躊躇無く銃爪を引く。
そのままなら確実に命中する筈の銃弾。しかし翠樹は右肘を金属に"変化"させ薙ぎ払うように右腕を振って銃弾の側面に肘を叩きつけ銃弾を逸らした。
「なっ⁉︎化け物かよ…」
「珍しい魔術だけど、対処出来ない程じゃないな!」
唖然とする直毅を他所に、翠樹は右腕を軽く振り真っ直ぐに彼を見据える。
「それじゃ、今度はこっちの番だ!」
クラウチングスタートの体勢をとった翠樹が走りだしの一歩を踏み出すと、地面が隆起し目にも止まらぬ速さで距離を詰め始める。
その姿は走っているというよりも、超低空で滑空していると言った方がいい。直毅は左腕をもとに戻しマントから魔法石を3本抜き出し指に挟み込むと、後ろに飛び退きながら地面に向け投げつける。
3本の魔法石は翠樹の足元に刺さり、爆炎、煙幕、閃光となってその進行を押し留め、その隙に直毅はもう何本か魔法石を投げショッピングモールの方向へ向かった。
「白也。奴の使った魔術は分かったか?」
「はい。さっきは身体の一部を金属に変化させてました。情報通り、属性魔術ですね。」
「金属か、成る程…ん?」
インカムを押さえながら状況を確認し、直毅はふと南東部のビルを見上げ、1つのビルの屋上に人の姿を認め物陰に隠れる。
「白也、薫。南東部のビルに人影が見えるか?」
「えぇ、見えるわ。恐らく3年代表の諏訪ね…如何するの?」
「こっちからは仕掛けない方が無難だな…しかし…」
直毅が物陰から諏訪を警戒していると、諏訪は右腕を横に振り術式を発動し、黒と黄色にうごめく球体が現れ、直毅の後方に放たれた。
マントで衝撃から身を守り着弾点を見る…いや、見るよりも早く音がその状態を彼に教えた。
それは羽音であった。苛つきと言うよりも恐怖を感じさせる程の羽音。無数の蜂が巣の様に球状となって放たれたのだ。
「ちぃ!」
猛然と直毅に向かってくる壁の様な蜂に、彼は左腕を引き抜きウィンチェスターM1887に変え距離を取りながら蜂を撃ち落として行く。
「直毅!また何か仕掛けて来るわ!」
「だろうな!」
銃爪を引き続けながらインカム越しの薫に応え諏訪の居るビルを見上げる。諏訪は再び腕を振り術式を発動させ、モモンガを放った。
直毅が試しに1発そのモモンガに向け銃爪を引くと、そのモモンガは"爆発"したのだ。
「けっ、空飛ぶ生物爆弾かよ!いい趣味だな全く!」
モモンガは次々に地面に向け滑空していく。撃ち落そうにも自由に起動を変えられる為に、直毅はただ逃げる他なかった。
さらに言えば、直毅は"退路を限定されていた"。それも諏訪のいるビルに向かうようにモモンガと蜂が彼を追い込んで行く。勿論、そのことに直毅は気づいていた。
「薫!先にショッピングモールにで罠の準備を進めてくれ、俺は"2人"を引きつける。」
「2人?他の代表者が見えるの?」
「いや、だが俺がビルの所に行けば必ず稀崎も来るだろうよ!」
ウィンチェスターをベレッタM92Fに変え上空のモモンガに向け乱射し爆炎の中を直毅はビルに向け走っていく。
「1人で2人を相手にするのは無茶よ。私が援護に…」
「はじめっから無茶なのは分かってるさ!時間を稼ぐだけなら何とかなる。だから早く罠の準備に向かってくれ!」
「…分かったわ。貴方を信じましょう。」
爆発音が響く中、直毅は薫に向け叫びながら走り続け、薫は白也を残しアパートを出てショッピングモールに向かう。
「僕も、自分の仕事をしなくちゃ!」
白也も自分に気合いを入れ、ポケットから手帳と万年筆状の魔法石を取り出し、空中に術式を書き始めた。
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「えぇい、クソッタレ!」
直毅は爆発に身を投げ出し、自動ドアのガラスを割りながら諏訪のいるビルに浸入した。
「アイツは…上、か。」
ビルの中は不気味なほど静けさに包まれていた。正面にあるエレベータに向かい最上階のボタンを押すと、直毅は大きく息を吐きベレッタをサプレッサー付きイングラムM10に変え壁にもたれかかる。
やがてエレベータの扉が開き、正面に諏訪の姿が見えた。
「やぁ。僕は3年代表の諏訪 優季。君は…」
優季が人当たりの良い顔で自己紹介をし、直毅の名を尋ねようとした瞬間、直毅は何の躊躇いも無く銃爪を引いた。くぐもった銃声がコンクリート剥き出しの部屋に響き渡り、銃弾は諏訪の前で弾かれていく。
「言葉は不要というわけか。それもいいだろう。」
「敵に挨拶するほど"まともな"頭は持ち合わせちゃいないんでね!」
数秒の内に弾倉は空になり、直毅はイングラムをM29に変え銃爪を引きながら距離を詰めていく。
「随分と乱暴だな、東條君は。」
直前で銃を紅い剣に変え、直毅は諏訪に向かって飛びかかりながら剣を振りかざすも、諏訪は溜息混じりに呟いて姿を消す。
「臆病よりマシだと思うがな。」
剣を再びM29に変え、直毅はシリンダーを回し空薬莢を排出し銃を横にして投げると、魔法石を取り出しスピードローダーに変え、落ちてきた銃のシリンダーに弾を込め構えた。
「僕は自分から攻めるのは苦手でね。代わりに僕の自信作で相手をするよ。」
姿を消した諏訪の声と共に、直毅を囲むように置かれていた4本の柱が巨大なクラゲに姿を変えた。
「けっ、気色悪いな!」
不意打ちとばかりにそのクラゲ逹は触手を直毅に向け突き出す。
直毅は咄嗟にしゃがんで触手を躱し、下に向け突き出された触手を飛んで躱した直毅を、クラゲ逹は触手を上空の彼に向け突き出した。
M29を盾に変え触手を受け止めると、直毅は魔法石を4本引き抜きクラゲに向け投げつける。
クラゲに刺さった魔法石は爆弾となり炸裂し、室内は爆炎に包まれる。クラゲ逹は木っ端微塵となり無力化された。かに見えた。
「ぐぅ!」
爆発したクラゲから無数の触手が飛ばされ、直毅はその触手を身体に受け苦痛に顔を歪める。マントはボロボロになり、身体の至る所を触手が傷付け、何本かは身体の四肢に巻き付いて動きを鈍らせていた。
「どうだい?僕の自信作は。」
「最高だね…全く…」
傷付いた身体を押さえ、四肢に巻き付いた触手をナイフで切り裂き、力無く立ち上がる。
その時エレベータが最上階に辿り着き、直毅は必死に銃を構える。
「おいでなすったな…クソッタレ…」
エレベータに乗っていたのは彼の予想通り翠樹であり、その姿を認めるなり直毅は銃爪を引き、翠樹は身体を金属に変え突っ込んで行く。
「お前の相手は御免被るな…」
銃を盾に変え翠樹の重く鋭い拳を受け止め、後方に下がって行く直毅の表情は苦悶に満ちている。やがて窓際まで追い込まれ、大振りのストレートを受け窓ガラスを叩き割り向かい側のビルに投げ出された。
「ガァ"…ゴホッ…」
床に叩きつけられた直毅は涙が出るほど咳き込み、彼の後を追い翠樹が現れると、直毅は身体を引きずりながら後退って行く。
「…スポーツマンシップは持ち合わせてるのか?ボクサー。」
「競技としてならね。でも此処はリングじゃない。」
「随分と、安っぽいスポーツマンシップだな…」
減らず口を叩きながら直毅はゆっくりと立ち上がり、盾を左腕に戻してほくそ笑む。
「まぁいいさ、 人間みんなDirtyだからな。」
直毅はマントを翠樹に投げつけ、左腕をウィンチェスターに変えマントに覆われた翠樹に向け銃爪を引いた。
散弾が翠樹の身体を覆うマントに当たり"爆発"した。マントに残っていた魔法石は全て火薬に変えらており、翠樹の身体はビルから吹き飛ばされた。
「Can you fly sucker !?」
落ちていった翠樹に向け直毅は苦し紛れに呟き、インカムに手を伸ばす。
「薫。罠はどれ位設置出来てる?」
「半分くらいよ。そっちの状況は?」
「予想を上回るキツさだ。もう少し時間は稼いでみるが…」
次の瞬間、コンクリートの砕ける音が数回響き渡り、床を突き破って翠樹が現れた。
「無傷かよ…勘弁してくれ…」
翠樹は肩を軽く回し手首を振るって余裕の表情で直毅を見つめ続ける。
「いいだろう…1ラウンドだけ付き合ってやる。」
直毅は虫の息で溜息を吐き拳を構え、手招きして翠樹を挑発した。
如何でしょうか?
前後編位に分ける予定です。そろそろUAが1000に届きそう…何かしようかな。
それではまた。