※この作品はR-18です。

Magic Life   作:弩素人

32 / 69
対抗戦終わらない…。後付けというか補足ですが、対抗戦が行われている結界内では死人は出ません。でないと大変な事になるんで…。


Heart Break Kid

「さっきビルから見えた竜は何だったのかしら?」

 

「恐らくジャバウォックだな。"言葉を乱す者"ってところか。」

 

「ジャバウォック…童話に出てくる?」

 

「あぁ…よし。これで十分だろう。そっちの準備は大丈夫か?薫。」

 

「えぇ。必要なものは揃ったわ。」

 

ワイヤーを張り巡らせ、C4とクレイモア地雷を一緒に設置しながら直毅は罠を張り終え、薫が腰のホルダーに収められたカードを見せて答えると、インカムに手を当てた。

 

「白也、後どれ位かかりそうだ?」

 

「やっと半分ってところです。相手の術式解析に手間取ってて…」

 

「焦らなくていい。そろそろ場所を変えた方が良さそうだな…北西側の隠れ場所に移動するか。」

 

「分かりました。」

 

冷静な直毅の声に白也は心底安心し、部屋中に浮かび上がった術式を手帳に転写させる。

 

「さてと、俺たちも動くか。薫、白也の居る中心部に転送してくれ。」

 

「分かったわ。」

 

足下に魔法陣を展開させ、2人はショッピングモールから姿を消し、最初直毅と翠樹が戦った通りの中心部にあるアパートに現れる。

 

それとほぼ同時にアパートから白也が出て来ると、直毅は2人を見て指示を出す。

 

「薫、俺を北東の丘のふもとに転送してくれ。」

 

その指示に彼女は驚いて当然反対した。いくら直毅が戦い慣れているとはいえ、魔術師3人を相手にするなど負けにいくようなものである。

 

「無茶よ、1人で3人を相手にするなんて。」

 

「何も俺1人で3人を相手にするつもりはないさ。当然薫にも手伝って貰う。白也を移動させたら俺と合流だ。」

 

「…分かったわ。けど無理はしないで。」

 

「ちとキツイ要求だな、だが善処しよう。」

 

直毅は小さく溜息を吐いて笑みを見せ、薫が展開した魔法陣で、1人丘のふもとに向かった。

 

ーーーーー

ーーー

ー

 

直毅が丘に向かう前、丘の頂上に集まっていた優季と翠樹は、ローラが召喚する使い魔の数に驚いていた。

 

「凄い量の使い魔だな…」

 

翠樹は勿論、優季ですらその光景には舌を巻く。先ほどのジャバウォック然り、本を読むローラのもとから次々とトランプの兵隊が住宅街に向け進軍していき、彼女の周りには妖精が飛び交い、シェチャ猫が顔を見せ、ディアブロが空を飛んでいる。

御伽噺に迷い込んだと錯覚しても無理はないその光景を見ながら、優季は住宅街を見る。

 

「何にせよ、この量なら索敵も容易。それまで動かなくても良さそうだ。」

 

だが次の瞬間、丘のふもとに下りてきたトランプの兵隊が吹き飛ばされ魔法陣が現れると、優季と翠樹は戦闘態勢に入る。

 

「何だ?御伽噺の世界に迷い込んだか?」

 

辺りを見回し頭を掻いた直毅は、丘の頂上に居る3人を見上げ、不敵な笑みを浮かべる。

その姿に翠樹は小さく笑みを浮かべ、優季は驚きながら真っ直ぐ直毅を睨みつける。だが、1番衝撃を受けていたのは、本を読んでいたローラであった。

 

「…鏡よ、鏡。もう1度、私の運命の人を見せて。」

 

その言葉と共に現れた真実の鏡が、その者の姿を写し出すと、彼女はただ直毅を見つめ続ける。

 

そんな彼女の様子など知る由もなく、直毅は右足の踵を横一文字にゆっくりと滑らせ呟く。

 

「この線のこちらはただの人間、そっちは魔術師だ。さぁ?どうする。」

 

挑発とも罠とも取れるその言葉に乗ることなく、優季と翠樹は踏みとどまるが、ローラは立ち上がって直毅に引き寄せられるように丘を下っていく。

 

「よせローラ!罠かもしれない!」

 

優季の言葉は彼女に届いていない。運命の人を見つけた少女には、彼の姿しか見えず、彼の声しか聞こえていないのだろう。

 

「随分度胸のあるお嬢さんだ。」

 

左腕に魔法石を隠し持ち、歩いて来るローラとその後方に居る優季達を警戒する直毅。優季達から見てみれば、直毅が何らかの術を使ってローラを引き寄せているようにしか見えず、人質を取られ迂闊に手を出せない状況となっていた。

 

やがてローラが直毅の正面までやって来ると、優しい笑みを浮かべて彼に抱きついた。

 

「やっと会えた。私の運命の人。」

 

「………はい?」

 

緊迫した場に似合わないその言葉に、直毅は気の抜けた声を上げた。

 

「くそっ、やっぱり精神魔術にかかったか!」

 

「いや、俺は何も…」

 

ローラが術中に嵌ったと確信した優季が声を上げると、直毅は素で答えようとし思いとどまり、ローラを片手で抱き抱えて丘に背を向け、振り返って笑ってみせた。

 

「Hey!come on ! Jackass !」

 

そう高らかに叫んだ直毅は、住宅街を走り始めた。

 

「稀崎、追うぞ!君は地上からだ!」

 

「……あ、はい!」

 

優季に声をかけられた翠樹は、混乱する頭を振って返事をして走りだした。

 

(精神魔術…?そんなことをする相手じゃない)

 

翠樹は直感的にそのことを察知していた。と言うよりも、信じたくなかった。自分の相手はそんなことをするような相手ではないと。

路地を駆ける直毅の背中を見つめながら、彼は直毅を追いかける。空から直毅を追う優季は足止めに魔弾を放った。

「人質を取った相手に威嚇とは、いい度胸じゃねぇか!」

 

直毅は魔法石を引き抜き盾に変えてわざと魔弾を受ける。その姿に翠樹は確信した。

 

やはり彼は、自分の思い描いた相手だと。

 

その行為の捉え方は、優季と翠樹で違っていた。

 

翠樹はその行為が、ローラを盾にする気がないという意思表示だと考え、優季はその行為を、警告だと考えた。

 

「線を越えたなら、ただの人間だ!」

 

魔法石を4本指の間に挟み、優季と翠樹に2本ずつ投げつけ、閃光が炸裂し、煙幕が2人を包み込む。2人の視界が元に戻る頃には、直毅の姿はなかった。

 

「くっ、そう遠くまでは行けない筈だ…何処に居る?」

 

「手分けして探しましょう。会長は引き続き、空からお願いします!」

 

「あぁ、分かった。」

 

2人は丘から離れ直毅を探し始めた。その姿を、直毅は"丘のふもとの"家の2階から眺めていた。

 

「We're not in Kansas anymore (常識は通用しないぜ?)」

 

直毅は撹乱用の4本の魔法石を投げた後、もう1本魔法石を投げ2人の"後方に"転移したのだ。

 

「あの、お名前を聴いてもいいかしら?」

 

「え?あぁ、そうだな。俺は…ジョン。ジョン・ドゥだ。君のことは知ってるよ、ローラ。」

 

抱き抱えたローラが頬を染めたまま尋ねると、直毅は彼女を下ろして少し思案して答えた。

「まぁ、私を知ってるのね!やっぱり貴方は私の運命の人なのね、ジョン。」

 

「あ、あぁ。白雪姫やシンデレラよりはロマンチックじゃないが、敵同士というのも運命的だろう。」

 

直毅はローラに圧倒されながら受け答え、外の様子を伺う。優季は此方に気付いておらず、上空から彼を探している。

 

(このまま隠れ続けるのは"得策じゃないな"。問題は、この頭ん中がお花畑のお姫様をどうするか…)

 

「どうしたの?ジョン。」

 

「…早く戦いを終わらせる方法を考えてるんだよ、ローラ。」

 

「私に出来る事があるかしら?」

 

「……2人を運ぶ烏は出せるかい?」

 

「えぇ。ディアボロで良ければ。」

 

「素晴らしい。それじゃあ空の旅といこう。」

 

直毅はローラの前に跪くと、右手を取り手の甲に口付ける。その行為にローラはますます頬を染めた。

 

「誓いの口付けは戦いが終わってからだ、ローラ。」

 

心ここに在らずといった様子の彼女を見て、直毅は内心溜息を吐いて気付かれないようにマントで隠しながら左腕を引き抜き、レミントンM700に、魔法石を1本銃弾に変え口に咥える。

 

「耳を塞いでいてくれ、ローラ。」

 

「…え、えぇ。分かったわ、ジョン。」

 

直毅の言葉に気が付いたローラは指示通り耳を塞ぎ、その姿を見た直毅は満足そうに呟く。

 

「よし、いい子だ…」

 

インカムに1度手を当て、ベランダの柵に銃を構えながら、直毅は薫に通信する。

 

「薫。白也の移動は終わったか?」

 

「えぇ。今から向かうわ。そっちは大丈夫?」

 

「"ハプニング"があったが順調だ。時間がないから手短に説明する。上空に黒くて巨大な烏が現れたら、真っ先に攻撃して、その烏に乗ってる奴を、出来るだけ時間をかけて南西側に引っ張っていってくれ。倒してくれれば最高だ。」

 

「分かったわ。貴方は?」

 

「俺は出来るだけ時間を稼ぐさ。じゃあな。」

 

インカムを切った直毅は、優季に"当たらない"ように銃口を向ける。

 

「変に動くなよ…直撃でもされたら困るからな…」

 

そう呟いた直毅は、大きく息を吐いて銃爪を引いた。

 

銃弾は優季の横を通り過ぎ、銃声と風を切る銃弾に驚いた彼は辺りを見渡し、スコープレンズの反射光を見て直毅を見つける。

「そんな所に⁉︎」

 

「気が付いたな。それじゃ逃げるとしますか!」

 

直毅は片手で器用にレミントンをコッキングして口に咥えた銃弾を込めると、上空に向け銃爪を引き素早く左腕に戻すと、ローラを見て顔を振って合図をした。

 

「行くぞ、ローラ。」

 

「えぇ。何時でもいいわ、ジョン。」

 

ローラを片手ど抱き抱えた直毅は、使い魔と共に此方に接近してくる優季を見て再び不敵な笑みを浮かべて自分の胸に手を当てた。

 

次の瞬間、ベランダには1発の銃弾がカタリと音を立てて落ちた。

 

「ローラ!ディアブロを!」

 

上空に転移した直毅がそう言うと、ローラは小さく何かを呟き、巨大な烏が2人の真下に飛んで来た。

 

烏の背に着地した直毅はローラを降ろすと、辺りを見回して薫の姿を探し、此方に向かいながら魔弾を放つ彼女の姿を見つけ、魔法石を引き抜いた。

「危ない!」

 

わざとらしくローラの盾となって魔弾を受けた直毅は、ゆっくりと烏の背から落ちた。

 

「ジョン!あぁそんな!」

 

「直毅⁉︎どうして!」

 

ローラと薫は各々驚きの声を上げる。直毅は薫に向けグットラックをし、彼女はそれで彼の意図を汲み取ると、腰のホルダーにからカードを引き抜いて呟く。

 

「先に作戦は教えておいて欲しいものね。心臓に悪いわ。」

 

一方、目の前でジョン…直毅が落ちていく様を見たローラは悲しみに暮れ、薫を睨みつけて怒りを露わにする。

 

「絶対許さないわ…私の…運命の人を…」

 

本を片手に広げ、ローラの背後に大量の魔法陣が浮かび上がると、薫も真剣な表情でローラを見つめ返し身構えた。

 

「私も、彼の期待に応えないと。示しがつかないわ。」

 

ーーーーー

ーーー

ー

 

時間を少し遡り、直毅と薫がショッピングモールで準備をしていた時。

 

「そういや薫。この前見せて貰ったそのカード…なんて名前だったか…」

 

「Possession Cardの事?これのことでしょう?」

 

C4やクレイモア地雷を仕掛けながら直毅が頭を叩いて薫に尋ねると、薫は腰のホルダーから真っ白なカードを引き抜いて見せる。

 

「あぁそれだ。そいつは俺にも使えるもんなのか?」

 

「術式自体は簡単なものよ。規模は術者によるけれど。」

 

「1枚忍ばせとくのも悪くないな。まぁ俺が使っても役には立たないか。」

 

彼女の手にあるカード…possession Cardは、元素、熱、電子などを収容出来るモノで、保存容器として使われることもある。

その性質は特殊で、収容したモノを放出する際、その術者によってその量が変化する点である。

 

「それにしても、魔術にしては随分科学的だよな。元素を使うなんて。」

 

「どこまでが科学で、どこまでが魔術なのかの境目はもう曖昧よ。それこそ人は、手品で不可能を可能にしているのだから。」

 

「人が想像出来ることは、必ず人が実現出来るって言葉も、あながち間違いじゃなかったってことか。」

 

ワイヤーに手榴弾を括り付けながら、直毅はそう呟いた。

 

ーーーーー

ーーー

ー

 

「落ちたはいいが、空は飛べねぇんだよな人間は!」

 

烏から落下した直毅は魔法石を握り締め叫ぶ。

 

「Code."Split Price"!(強化)」

 

その言葉で光を放った魔法石を落下先に投げつけ、展開された魔法陣を通過し住宅の屋根に着地した。

 

「……痛ぇな……やっぱり……」

 

脚への衝撃に悶絶しながら震える直毅。休む間もなく彼を優季の魔弾が襲う。

 

「勘弁してくれよ、全く!」

 

屋根を転げ回り道路に着地した直毅は住宅地を駆け抜ける。

 

「稀崎、今何処に居る?」

 

「中央部の大通り、交差点の辺りです。見つかりましたか?」

 

「あぁ、今からそっちに追い込んで行く。挟み撃ちだ。」

 

「分かりました。」

 

翠樹と連絡を取った優季は、直毅を追いながら舌を巻く。

 

(たった1人相手にこれ程振り回されるとは…)

 

少数対少数の戦闘では、個々の能力に戦況が大きく左右される。直毅や翠樹といった存在は、1人で複数を相手に出来る大きな戦力。問題は、その戦力を最大限活かせるかどうかである。

 

ある一点、この場合なら直毅に戦力を集中させた場合、短時間で落とす事が出来れば優季側は有利だが、反面時間が経過するだけ不利になっていく。そもそも少人数の戦闘というもの自体が脆弱なのだ。個々の能力が戦況を左右している時点で。

 

どちらにしろ、直毅を最重視するのは仕方の無いことだろう。晒されているジョーカーを引きにいく者は居ない。

 

だが直毅も1つ気が付いて居なかった。直毅の策の不自然さに相手が薄々感付いていた事に。

 

「敵の居場所を教えてるようなもんだぜ、そんな攻撃!」

 

優季が使い魔のモモンガやクラゲと魔弾を使って翠樹のもとへ直毅を追い込んで行く。その事を直ぐさま察知した直毅は追い込まれるまでもなく自ら翠樹の居る交差点に走った。

 

「稀崎、奴がそっちに向かった。"1人でやれるか?"」

 

「…えぇ、勿論。」

 

「頼む。1度も姿を見せない1年代表が気掛かりだ。」

優季は直毅がアーケードに入るのを確かめると、姿を隠す白也を探しにその場を離れた。

 

(流石に気が付いたか…上手く隠れてろよ、白也。)

 

離れて行く優季の姿を少し見て祈った直毅。そしてアーケードの反対側に立つ翠樹の姿を真っ直ぐに捉えると、小さく溜息を吐き手招きしマントで身体を隠す。

 

「来いよ、イタリアの種馬。勝負を決めるのは、1発のパンチだろう?」

 

「あぁ、そのつもりだ!」

 

翠樹は両腕を振り上げ土柱をアーケードの端から端まで出し、前後に手を突き出して自分と直毅の背後も土柱を出した。

 

「リングってわけか。いいだろう。」

 

「行くぞ…"勝負"だ…!」

 

地面を1度叩きアーケードの床を氷張りにし、右手を金属に変え炎を纏わせ拳を赤く染め、両足に風を纏わせると右手を引いて正拳突きの構えをとる。

 

「Sage Flare!(賢者の烙印)」

 

そう力強く叫んだ翠樹は、正に放たれた矢の如く直毅に向かって行く。

 

直毅はただ歯をくいしばって身構え、左胸に翠樹の拳を正面から受けた。

 

その衝撃に直毅は声にもならない苦痛を息と共に吐き出して崩れる。

 

「"タオルを投げるんだ"。心の中で思うだけでいい。」

 

その声が直毅を聞いたかどうかは定かではない。だが1つ確かなのは、彼の心臓が鼓動を止めた事である。

 

 




これは死んだな。(確信)

そろそろ対抗戦終わらせたい…。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。