※この作品はR-18です。

Magic Life   作:弩素人

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お久しぶりです。やっと対抗戦にケリがつきます。



終わりを告げるべきは鐘か銃声か

"賢者の烙印"を胸に押され、直毅の心臓が鼓動を止めたのは、(正確に言えば、彼の心臓は細動を起こしていた)翠樹の拳の勢いよりも、拳に付与されていた電気の属性によるものだった。

 

「真正面からこの一撃を受けたのは、君が最初で最後だろうな。さぁ、早く降参するんだ。」

 

崩れた直毅を支えながら、翠樹は何も言わない彼に呟く。そもそも何か喋れる状態ではない事は彼自身が一番知っていた。

 

翠樹は術を解き、床の氷は消え、土柱も崩れ去る。

だが彼は、東條 直毅という者を理解していなかった。

 

「…テメェこそ、さっさと離れた方が…身のためだぜ…」

 

「なっ⁉︎」

 

直毅はゆっくりと顔を上げ、掠れた声で答えると、右胸と左下腹部に付けられた"電極"を握りしめた。

 

「AEDか!」

 

翠樹はすぐさま直毅を離し、次の瞬間、直毅の身体は大きく震えて地面に崩れ落ちた。

 

(なんて事を考えるんだ…心臓を狙われるのを見越して即席でAEDを仕込んでおくなんて…)

 

翠樹は崩れ落ちた直毅の姿を見て驚愕する。彼の思考は常軌を逸しているからだ。避ける事も出来たはずの一撃をわざと受けたのが、自爆覚悟の電撃だったからだ。

 

「……流石に、今のは、"また"死ぬかと、思ったぜ……」

 

電極を取り払い、直毅は震えながらも立ち上がると、翠樹を見て笑ってみせた。

 

「まだ、10カウントは取られてないぜ?ボクサー。」

 

魔法石を引き抜きナイフに変えると、逆手に持って構える。

 

「さて、と。ナイフは趣味じゃないんだが、鋼鉄を殴るのは御免だからな。」

 

そう呟くと、直毅は大きく息を吐き、素早い動ステップで翠樹に近付いてブローの要領で斬りかかった。

 

「くっ!」

 

気を取り戻した翠樹は腕を金属に変え後退りしながらナイフを受け、それに合わせて直毅は翠樹を押していく。

 

金属のぶつかり合う音がアーケードに響き渡り、ほぼ中央に来た所で直毅は刃こぼれしたナイフを鞭に変え翠樹に巻き付けると、もう1本魔法石を引き抜き、その鞭をその形状のまま鉄に変えて先端同士に魔法石を当て素早く繋ぎ合わせる。

 

左腕を引き抜き距離を取った直毅がグロック18cを構えるのを見た翠樹は、全身を金属に変え身を守る。

 

「引っかかったな!」

 

翠樹が身体を金属に変えると、直毅はそう叫んでグロックをM79グレネードランチャーに変え、ガラス張りのアーケードの天井を撃ち抜いた。

 

ガラスが割れ落ちる中、直毅は空薬莢を引き抜きM79を上に投げ、魔法石を引き抜き40mmグレネード弾に変えすぐさま上に投げてM79をキャッチし、落ちてくるグレネード弾を込め翠樹の近くにあった街灯を撃ち抜く。

 

ワイヤーと化した鞭から抜け出そうとした翠樹は、ガラスをはめていた天井の鉄格子や街灯が自分に張り付いたことで、ようやく直毅の策を理解した。

 

「俺を"磁石"にしたのか!」

 

直毅が鞭で翠樹を巻き付けたのは、身動きを封じるためだけでなく、翠樹の身体を電磁石にするためであったのだ。

 

辺りの鉄を含んだ物が翠樹に向け飛び交い、身動きが取れなくなっていく姿を見てほくそ笑んだ直毅は、魔法石を手榴弾に変えばら撒く。

 

「しばらくそうしてな。Ironman。」

 

直毅がそう呟くと、アーケードは爆発に包まれた。

 

ーーーーー

ーーー

ー

 

「よくも…よくも…よくもジョンを‼︎」

 

怒りを露わにし、ローラは矢継ぎ早に使い魔を呼び出し薫に猛攻を加える。

障壁魔術を展開しながら後退する薫は、ホルダーからカードを取り出す。

 

「さぁて、どうしましょう。」

 

投げつけたカードには"H2O"の文字が刻まれており、ローラの手前まで来た所で薫は指を銃に見立て魔弾でカードを撃ち抜いた。

破れたカードから大量の水が噴き出し、ローラを守る為に現れたトランプの兵隊は水浸しになる。

 

「Lightening!」

 

すかさず薫は雷撃の術式を唱え、トランプの兵隊は次々と感電して落ちていく。

 

「次は何を出しましょうか?」

 

ホルダーからカードを再び引き抜いて、薫はわざとらしく笑みを浮かべ見せる。その表情に更に激昂し、冷たく薫を睨みつけ口を開いた。

 

「"Bird bore blind eyes, Mirror pierce cold heart, Cinderella slippers mutilate guiltily legs, Jabberwocky tumbling down everything. All return to nothing, I wannabe the happy ending."(小鳥は瞳を抉り、鏡は胸を貫き通し、硝子の靴は足を落とし、竜は全てを無に還す。全てを白紙に、望まぬ結末は必要ない。)」

 

ローラは本の白紙のページを開いて呟く。白紙ページにその言葉が赤黒く印字されていく。

 

その途端、薫は自分の身体がどうなるのかを理解し恐怖した。自分は"彼女の言葉の通りになる"と。

 

脳裏に自分の姿が映る。両眼を抉られ、心臓に鏡の破片が刺さり、身体がバラバラになる自分の姿が。

 

イメージというよりも、彼女はその時点で1度それを体験したと言っていい。あまりにも現実味のあるそのイメージに震え、自分の身体を抱き締めた。

 

(嫌…そうなるのは嫌…)

 

敗北を認めてしまいたくなる。だが、

 

「まだ、負けるわけにはいかないわね…!」

 

自らを奮い立たせてローラを見つめた薫は、2枚のカードを擦り合わせて片方を投げ捨てる。

 

「…私を倒しても、貴方の運命の人は帰ってこないでしょう?」

 

ローラを挑発するように呟いた薫の言葉に、ローラは本のページを破き空に掲げる。

 

「いいえ違うわ。ジョンは私の運命の人。誰にも運命の糸を切ることは出来ない。」

 

「……そうね。でも貴方、1つ勘違いしてるわ。」

 

ローラの背後に巨大な魔法陣が現れ、醜い竜が顔を覗かせる。口を開けローラの手にあるページを飲み込もうとするのを見た薫は、直毅を代弁して彼女に告げた。

 

「運命の糸が、"相手に繋がっていると思い込んでるだけよ"、貴方。」

 

その言葉に大きく息を吐いて声を上げようとするローラ。それを確かめた薫は、覚悟を決めて彼女に向け突っ込んで行く。

 

竜がローラの手に握られたページを飲み込む。彼女との距離が近付いて行く一瞬の間に、光が失われ、胸を鋭い痛みが襲い、両足を無くし、身体が内側から崩れる感覚に襲われる。

 

カードを口に咥え、ローラの目の前まで来た薫は、術式を唱える為に大きく息を吸おうとする彼女にこう告げてカードを破いた。

 

「"覚悟が足りないわね。"」

 

次の瞬間、大きく息を吸ったローラの意識は混濁し、戦闘不能と判断された彼女は外部に転送される。

 

その場から離れて大きく息を吸った薫は、"CO"と刻まれたそのカードを眺め、インカムの呼び出し音で耳に手を当てた。

 

ーーーーー

ーーー

ー

 

(あと少しで完成だ…)

 

北西部の住宅地。その一軒に隠れながら、白也は一心不乱に術式を書き続けていた。

 

額に溜まった汗を拭い息を吐いてふと窓を見ると、上空に優季の姿が映る。

 

(焦るな…先輩が言ってた通り、ここまでは"想定内なんだから。")

 

緊張で激しく鼓動する心臓の音を聞きながら、白也は自分に言い聞かせて術式を手帳に収めると、窓から離れてインカムに手を当てる。

 

「先輩、直毅先輩。聞こえますか?」

 

「…白也か。追っ手が来たか?」

 

「はい。三年生みたいです。使い魔を召喚してます。」

 

直毅の声を聞いた白也は心底安心し、外の様子を伺いながら続ける。

 

「……見えた。俺が奴の注意を引く。その間にショッピングモールの方に来い。あんまり派手に動くなよ、奴が地上に降りたら援護のしようがない。そうなったら薫が合流するまでお前1人で奴を相手にすることになる。とにかく逃げろよ。」

 

「はい。分かりました。」

 

「よし…May the Force be with you. (フォースと共にあらんことを)」

 

そう告げて無線を切った直毅は、ショッピングモールの立体駐車場の屋上からバレットM82を匍匐体勢で構え、白也を探索しようとするクラゲの使い魔を狙う。

 

「さっきと同じだ、よく狙え、外すな…いや、"当たるなよ。"」

 

そう呟いて銃爪を引くと、爆音が響き渡り12.7×99mm弾が風を切り裂いて飛んで行き、使い魔に直撃した。

 

衝撃で粉々なった使い魔に驚いた優季は、これが直毅の仕業だとすかさず判断して辺りを見渡す。再び爆音が聞こえ使い魔が粉々になると、堪らず彼は地上に降りて身を隠した。

 

「クソ!警戒させ過ぎたか!」

 

その長距離狙撃が正解過ぎたのが災いし、白也の援護が出来なくなった直毅は悪態を吐き残りの弾を威嚇に優季が降りた辺りに撃ちインカムに手を当てる。

 

「薫!聞こえるか⁈」

 

「どうしたの、直毅。」

 

「白也の援護に向かってくれ!いつ敵に捕捉されておかしくない!」

 

「分かったわ!直毅は…」

 

次の瞬間、薫のインカムからは爆音と直毅の悪態が聞こえ直毅の声は聞こえなくなる。ショッピングモールの方を見ると、立体駐車場の屋上から煙が上がっていた。

 

「まさか…」

 

最悪の事態が一瞬彼女の脳裏を過ぎったが、その考えを頭を振り払り白也のもとへ急いだ。

 

ーーーーー

ーーー

ー

 

「くそったれ、もう来やがったか!」

 

突如地上から放たれた火球を飛び退いて避けた直毅は、近場にあった車に触れM63に変えると、ショッピングモールに続く階段へひた走る。

 

衝撃に体勢を崩しながらもショッピングモールに辿り着き、中央部1階にある受付に身を潜めて息を整える。

 

「さて、籠城戦といくか…」

 

正面から壁を破る音と共に、炎を纏った翠樹が現れると、直毅は受付の受話器を取って館内放送のボタンを押す。

 

「一体何ラウンド目だ?ボクサー。」

 

静かなショッピングモールに直毅の声が響く。

 

「さぁな。だがまだファイナルラウンドじゃない。」

 

至る所に張り巡らされた罠を眺めながら、翠樹はその声に答えてみせる。

 

「だろうな。さて…ゴングだ!」

 

魔法石を引き抜き起爆装置に変え、翠樹の居る入り口のC4を起爆させクレイモアを誘爆させる。

 

「罠なら全て突破するまでだ!」

 

身体を鋼鉄に変え正面から突っ込んで行く翠樹に直毅は銃弾を浴びせるものの、彼の勢いが止まることはない。

 

「下がるしかねぇか!」

 

銃を捨て魔法石を引き抜きワイヤーガンに変え天井に打ち付け翠樹との距離を離し、2階に着地し中央の通路をひた走る。

 

「しっかりついて来いよ、リングは此処じゃないからな!」

 

魔法石を2本抜きM92F2丁に変え、直毅は薫の仕掛けた罠のもとへ向かう。

(上手くかかれよ…)

 

爆音と地響きと共に近付いて来る翠樹に、設置した爆弾を撃ち抜いて爆破させるが、殆ど効果はない。

 

「此方も、飛び道具を出すか!」

 

翠樹は手を大きく振り木の葉を舞い散らせ、自分の周りに浮遊させると、炎や氷を纏わせ直毅に放つ。

 

「Shit!」

 

飛んで来た木の葉がマントに突き刺さり、気休めに付与された障壁魔術が働くものの、マントの一部は凍りつき焦げる。

 

「少しは足を休めたら(break)どうだ⁉︎」

 

マントで身を守りながら振り返り、翠樹の足下を見た直毅が叫ぶと、彼の足下に薫のカードと魔方陣が浮かび上がる。銀色に輝く液体が翠樹の足と両手に張り付き固まって動きを封じた。

 

「用意周到だな。」

 

「こうでもしなきゃ、戦えないからな。」

 

手足に張り付いた金属を一瞥し、翠樹は銃を構えて体勢を整える直毅を見て不敵な笑みを浮かべた。

 

「だが、金属にしたのは失敗だったな!」

 

翠樹の手足の金属が赤く熱せられ液状に戻り、彼は手足を振って直毅に放った。

 

「Oh My goodness !」

 

直毅は必死に転げ回りながら、弾丸の様に迫る熱せられた金属を避けると、銃を手榴弾に変え投げつけ、煙幕と閃光を放ち逃げる。

 

スーパーマーケットのブロックまで逃げて来た直毅は、棚の裏に座り込み大きく息を吐く。

 

「時間稼ぎもままならねぇな、これじゃ…」

 

程なく静まり返ったブロックに地響きのような音が響き渡り翠樹が姿を現わすと、直毅は溜息を吐いて呟いた。

 

「Marvelous…(泣けるぜ)」

 

ーーーーー

ーーー

ー

 

「あとちょっと、あとちょっとなのに!」

白也は住宅街を逃げ回り、家の塀にもたれかかり息を荒げる。

 

角から住宅街の路地を覗き込むと、優季の使い魔が何体も漂って彼を探していた。

 

(幾ら何でも逃げ切れるわけない…)

 

息を殺し唾を飲み込む。一筋の汗が頬を伝って落ちる。術式を写した手帳を開いた白也に、ある考えが浮かび上がり思案する。

 

(それなら時間を短縮出来る…けどそれじゃ目的の術式は使えなくなる…どうする?)

 

その決断を迫るかのように、文字通り優季の使い魔が迫る。手帳に釘付けになっていた白也はそのことに気が付かない。

 

「Freezing!」

 

間一髪使い魔を薫が撃ち抜き、クラゲの使い魔は凍りついて地面に落ち砕けた。

 

「間に合ったみたいね。」

 

「先輩!ありがとうございます。」

 

「今は逃げるのが先…と言いたいけれど、もう無理みたいね。」

 

路地を埋め尽くさんとばかりに使い魔が現れ、その中を優季がゆっくりと歩いて2人に近付いて来る。

 

「御機嫌よう。矢沢 薫さんに黒崎 白也君だったか。」

 

「そちらこそ御機嫌よう。諏訪 優季さん。敵に挨拶なんて、余程自信があるのね。」

 

十字路の真ん中で使い魔に囲まれた薫は、おどおどする白也とは対照的に顔色1つ変えずに応える。

 

内心彼女も焦っていた。だがそれを表に出した時点で、心理戦では既に負けてしまうことを知っている彼女は、そのことを頼りに冷静さを保っていた。

 

「戦いの中にも礼節はある。魔術師なら尚更そうだろう。互いの技量によってのみ勝敗が決まるのが、魔術師同士の戦いなのだから。」

 

その言葉を聞いた薫はクスクスと笑い声を上げ、真っ直ぐに優季を見据えた。

 

「直毅が此処に居ないのが残念。彼ならもっと上手い言葉が言えるでしょうけど、私では間違った意味で役不足ね。ねぇ、白也。目が覚めて?」

 

「そうですね…ありがとうございます、先輩。目が覚めました。作戦は変わっちゃいますけど、此処でカタをつけます。」

 

「どれくらいかかるかしら?」

 

「5分…いや3分でやります。」

 

「期待して待ってるわ。離れないで。」

 

白也は手帳を開き魔法石の万年筆を握り締め、薫はホルダーからカードを引き抜いて身構える。

 

「なら、此方も全力でいこう。それが礼儀というものだからね。」

足元に巨大な魔法陣を展開させ、優季は左手を指揮者のように振って使い魔を2人に向けた。

 

「Frying !」

 

薫と白也は同時に飛翔し、それを追いかけるようにクラゲ達も空を駆ける。

 

「Code."Restart" and change…」

 

「さて、ドッグファイトと行きましょうか。」

 

白也は手元に術式を展開、薫は"C"と書かれたカードを投げつけ魔弾で撃ち抜く。

向かって来る使い魔達の前に黒い埃の様なものが振り撒かれ、薫は右手を突き出して唱える。

 

「Burning!」

 

彼女の右手から放たれた火球はその黒い埃を伝って爆発し、使い魔達を巻き込んでいく。

 

「無尽蔵に出て来るわね…」

 

爆発を越え次々に現れる使い魔達に悪態を吐き、魔弾で使い魔を撃ち抜きながらカードを引き抜く。

その姿を悠々と見ていた優季は、右手を地面に突き魔法陣に触れ呟く。

 

「All live in the time."Nothing" exist Time's crack, "Everything" exist Time's hand. World is simple, and it should be doing. "Zero "and "One " World. I wish I make again Clock tower, I make again Tower of Babel.(全ては時の中に在る。0は時の狭間に、1は時の針の中に。世界は単純に出来ていて、またあるべき姿で此処に在る。0と1の世界。時と世界が束ねられんことを。)」

 

魔法陣が時計の形を映し、針が回り始めると、彼らの居る一帯が半透明のドームに囲まれた。

 

術式を唱えていた薫と白也は、優季が何をしたのか分からずただ警戒していたが、次の瞬間その変化に気が付き驚愕した。

 

(("喋れない"!!))

 

口を開いて術式を唱えようとするも、何1つとして喋れないのだ。2人はアイコンタクトを取るものの、何が起こったのか理解出来ない。

 

手帳と術式に目を向けた白也は、それで自分達に何が起こったのかを知り更に驚愕する。

 

(そんな…そんな事出来るのか⁈)

 

手帳と手元に展開した術式が、全て"0と1"の羅列になっていたのだ。

 

白也は手帳と術式を見せ薫に意図を伝え、それを理解した彼女にも焦りが伺える。

 

(私のカードも…)

 

ホルダーからカードを引き抜くと、カードに書かれていた文字も0と1の羅列に変わっていた。

 

迫って来る使い魔達に魔弾を撃ち込んで下がり続ける薫と白也を見てほくそ笑みながら、優季はポケットから魔法石を砕いた粉が入った試験管を8本取り出し、蓋を開けて振り撒く。

 

「悪いが、一気に決めさせてもらう。」

 

そう呟いて両手を2人に向けると、宙に舞っていた魔法石の粉が急速に拡散する。そして手を下ろした優季は、足元の時計の魔法陣を見つめて大きく息を吐いた。

 

「Code."Over clock",and "Over clog"(術式、開放・放解)」

 

その言葉を合図に、巨大な時計の針が回り始め、魔法石の粉が瞬く間に様々な使い魔に姿を変え、辺りを覆い尽くした。

 

四方八方を囲まれ窮地に陥った2人。通常なら潔く敗北を認める状況。だが、いや当然と言うべきか、2人の目に諦めは認められなかった。

2人はお互いに目を見合わせ、小さく、だが力強く頷く。白也は薫の背にピッタリと張り付き、薫は白紙のカードを取り出して辺りを見渡し機をうかがう。

 

優季が手をゆっくりと振りかざし、使い魔達が2人に突っ込んで行くのと同時に、2人は頭から地面に向け急降下し、地面スレスレを滑空するかの様に飛んで行く。

 

("魔術が使えなくなったわけじゃないわ"。0と1だけで術式を組めれば…)

 

散弾型の魔弾で使い魔を撃ち抜きながら、2人は同じ事を考える。即席で法則を作り上げ白紙のカードに息を吐き、"1 10 1000 1"とカードに刻まれる。

 

そのカードを向かって来る使い魔達に投げつけ魔弾で撃ち抜くと、大量の水が流れ出し、それを見た薫はすぐさま電線を魔弾で撃ち抜き使い魔達を感電させた。

 

(これなら、何とかやれそうね。けど…)

 

即席の術式が成功し多少安心した彼女だが、背中に張り付いて思考を続ける白也を心配する。

彼女が即席で作った術式が簡単な計算問題とするなら、彼がしなければならないのは超難問の証明問題だ。それに加えて使える道具は2つしかないのだから、難易度は想像を絶する高さである。

 

だが、当の本人は妙に冷静で、それでいて燃えていた。恐らくは絶対に勝ってやろうというヤケクソ気味の、無理難題を更に難しくした相手に一泡吹かせてやろうという怒りが、白也の頭を冴え渡らせる。

 

「11 1000 1 1110 111 101 10100 1 10010 111 101 10010 1100 1111 1011…」

 

首筋に万年筆を当て、1と0の羅列を狂った様に呟いていく。その言葉が白也の周りに浮かび上がり、術式を組み上げていった。

 

路地を縫うように飛び回り、時限式の魔弾を設置し、時間差で破裂させ使い魔を足止めするものの、あまりの数の多さに2人は追い込まれる。

 

目の前まで近付いて来た使い魔達に、薫は間一髪急上昇しホルダーの中にしまわれたカードをばら撒き次々に撃ち抜いていった。

 

(足止めになって!)

 

撃ち抜かれたカードからは巨大な鉄骨や可燃性の気体、液体などが次々と放たれ、使い魔を巻き込み大爆発を起こす。

 

だが、黒煙の中からすぐさま使い魔が飛び出してしてくると、薫は舌打ちをして覚悟を決める。

 

(ここまでかしら…)

 

諦めが脳裏を過ぎったその時、薫の肩を白也が叩き、振り返った彼女にサムズアップを見せ、その意味を理解した彼女は諦めを捨て去り、障壁を可能な限り厚く展開して使い魔達に突っ込んだ。

 

(チャンスは1回だけ。この術式を撃ち込めば、絶対倒せる!)

 

術式を右手に取り込ませ、白也はきつく握りしめる。使い魔が当たり傷付き始めた障壁。あと少しで破れると思われたが、使い魔の囲いを破り優季の姿を捉える。

 

右手を銃に見立て、白也は優季に狙いを定める。破れかぶれの突撃と高を括った優季は逃げようとしない。

 

白也の右手に薫は左手を添え、一瞬互いの顔を見た2人は、真っ直ぐに目標に"銃口"を合わせる。

("Code breaker,Q.E.D!"崩壊式、証明完了!)

 

そう念じて放たれた魔弾は真っ直ぐに優季に飛んで行き、障壁魔術や盾となった使い魔を全て貫き、彼の頭を撃ち抜いた。

 

ーーーーー

ーーー

ー

 

(小細工が通用しないんじゃ、いっそ正面からぶつかった方がマシに思えるな…)

ゆっくりと近付いて来る翠樹の足音を聞きながら、直毅は左腕を触わり、引き抜かずに手を離す。

 

(阿呆らしいが、それしか無さそうだな…)

 

溜息を吐いた彼の表情には、ある種の喜びが伺える。自分が笑っていることに気が付くと、彼はもう1度幸せな溜息を吐いて立ち上がる。

 

(案外、俺も戦闘狂らしい。)

 

姿を隠すことなく、直毅は翠樹の前に立つ。翠樹は足を止め笑みを浮かべた。

 

「ようやく、正々堂々と正面から闘える。楽しみだ。」

 

「お互いの能力差に目を瞑ればな。来な、ボクサー。生憎、ボクシングの心得はないんでね。ヤンキー流でやらして貰おう。」

 

拳を固めた翠樹に、直毅はマントを投げ捨て手招きする。互いの頭の中で同時にゴングが鳴り響き、2人は走って距離を詰めた。

 

(長引けばこっちが不利だ。"切り札"を出すしかねぇか…)

 

猛然と襲いかかる翠樹のストレートを避け、左のジャブで牽制しながら、直毅は腰にしまった魔法石を気にかける。

 

2人の闘いはショーアップされていたと言っていい。だがその一撃一撃には、相手を倒す力と気持ちが込もっている。右腕を掴み肘を首筋に入れようとした直毅を、翠樹は直前で受け止める。

 

「随分と格闘術に精通してるな、ボクサー。」

 

「そっくりそのまま返すよ、東條 直毅。」

 

互いの顔を近付けた2人の表情は笑っていた。直毅はそのまま腕を引いて翠樹を腰を使って投げ踏みつけようとするが、翠樹も素早く足を振りそれを咎めた。

 

再び距離を取って息を吐いた直毅は、傷口の脇腹を気にして顔をしかめる。赤黒いシミのできた服を見た翠樹は、1度拳を下ろして尋ねる。

 

「傷を治したらどうだ?」

 

「お断りだ。俺は魔術師じゃあない。俺はただの一劣等生、ただの人間だからな。」

 

「イレギュラーならではの感性だな。俺にも何となく分かる。俺も、魔術師の中じゃはみ出し者だからな。」

 

「同情は御免だ。気持ちの良過ぎる奴ってのも考えものだな。"他人を理解した"様に思わせやがる。」

 

冷たく翠樹を見据え、直毅は魔法石を引き抜き左手で握り締めると、小さく「Code."Regress"(術式、逆行)」と呟き魔方陣を作り、翠樹を見たまま右足の踵に魔方陣を貼り付ける。

 

「"来な、ボクサー"。さっき俺の心臓を止めた一撃で、もう1度俺を下してみろ。」

 

後ろに下がって距離をとった直毅は、もう1度翠樹にゆっくりと手招きして挑発する。それを受けた翠樹も後ろに下がって拳を固めた。

「いいだろう…"賢者の烙印"を破る自信があるなら、破ってみろ。東條 直毅!」

 

足で地面を叩き、衝撃波で商品棚を吹き飛ばす。両手を振り上げ土柱で周囲を囲み、右腕を金属に変え、今度は炎に加え、電撃、水、風等、様々な属性を付与させる。

 

「行くぞ…Sage Flare!」

 

勢い良く突っ込んで来る翠樹に対し、直毅も走り出してもう1本魔法石を引き抜いて呟く。

 

「Code."Replace",Point.(術式、転移。座標指定)」

 

翠樹との一直線上、その斜め上に魔法石を投げ、直毅は彼との距離がまだ離れた状態でジャンプして呟いた。

 

「Code."Execution"」

 

空中の魔法石と座標を入れ替え、翠樹の前方に現れた直毅は、タイミングをずらされ咄嗟にガードしようとする翠樹に飛び蹴りを見舞う。

 

「ぐぅ!」

 

自らの勢いがダメージとなり翠樹の胸を襲う。胸骨が軋み苦痛に顔を歪めるも倒れることなく耐えると、直毅は小さく「Set」と呟いて後方に飛んだ。

 

「空中で避けられるか!」

 

上空の直毅に拳を見舞おうとする翠樹は、自分の胸に魔方陣が付与された事に気が付かない。

 

「Code."Execution"!」

 

向かって来る翠樹を見て直毅が叫ぶ。直毅の踵と翠樹の胸に付いた魔方陣が輝くと、磁石の様に引き合い、もう1度直毅の蹴りが翠樹の胸に直撃し、そのまま直毅は地面に翠樹を押し潰した。

 

「がぁっ…!」

痛みに顔を再び歪め、息を吐き出した翠樹が目を開けると、目の前には黒い穴が見える。

 

「その目に映ってるのが、俺がイレギュラーである"理由"だ。」

 

次の瞬間、彼の意識は1つの音と共に闇に包まれ、闘いの終わりを告げる鐘が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




如何でしょうか?

次回は後日談。またノンビリと書いていきます。

それではまた。
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