主人公に休息はないね。
Everybody needs Them
「第3学園対第5学園の対抗戦は、第5学園の代表3名の脱落により、第3学園の勝利となります。」
「終わったか。思い描いてたシナリオとは違うが、2人が頑張ってくれたみたいだな。」
結界内に響き渡る放送を聞いて、直毅は大きく息を吐いた。足下に転移用の魔方陣が展開され、瞬きする間に転移が完了すると、側には薫と白也の姿があった。
「お疲れさん、2人共。あんまり役に立てなかったな俺。」
「謙遜はよして下さい先輩。先輩が居なかったら勝てませんでしたよ。」
「そうね。誰が欠けても勝てなかったわね、この対抗戦。」
「あぁ、そうだな。しかしよく勝てたな。"奥の手"無しで。」
互いに笑みを浮かべながら、3人は待機所へと足を運ぶ。
「"奥の手"は使いましたよ。ちょっと形を変えて。術式を短くして魔弾に付与させたんです。」
「機転が利いてる。無理難題だと思ってたんだがな。」
「今でも信じられないわ。"術式を無力化する術式"なんて。」
「現に、白也はやってのけた。大したもんだよ。」
白也の頭に手を乗せ、軽く撫でながら直毅は感嘆の声を漏らした。
白也に課せられた仕事。それは、"一時的に魔術が使用出来なくなる術式"を組み上げることだった。
それは所謂、数学でいう背理法に近い。その証明を完成させる為、直毅と薫は時間稼ぎに徹していたのだ。
待機所に辿り着き、直毅は椅子に座って身体を大きく伸ばす。緊張の糸が切れたのか、冷静さを保っていた薫ですら脱力している。
「もう帰っていいのか?身体のダメージが消えても、疲労感は消えてないぜ。」
「そうですね…僕も帰って寝たいです…」
机に突っ伏し欠伸をする白也と、気の抜けた直毅を見て、薫は小さく笑みを浮かべ答える。
「私から運営側に伝えておくわ。2人共お疲れ様。」
「はい…それじゃお先に失礼します…」
白也はゆっくりと立ち上がり、おぼつかない足取りで待機所を後にする。その後に続いて直毅も立ち上がると、薫は彼を引き止める。
「直毅。」
「ん?どうした、薫。」
薄暗い部屋の中、声をかけられあ直毅が振り返るも、薫の表情はよく見えない。
「あの…ありがとう。」
彼には見えないが、恐らく彼女の頬は朱に染まっている。直毅は頭を掻いて右手を差し出す。
「あぁ、こっちこそありがとうな。」
薫は差し出された手を握り握手を交わす。心の中に小さな感情を抱き、その感情を押し留め。
握手を終え、待機所を後にしようとした直毅は、ふと思いついたように立ち止まると、振り返って薫に笑みを見せる。
「今度俺に依頼する時は、もっと簡単な要件にしてくれよ?」
少し意地悪な笑みで薫に見せ、彼女の心臓は1度強く鼓動する。暖かい息をゆっくりと吐いた彼女は、小さな声で次の依頼をする。
「それなら…時々でいいから、また生徒会室に来てもらって…いいかしら…?」
「あぁ、勿論。」
薫に頷いてみせ、直毅は待機所を後にした。
「さぁて、俺も帰るかな…」
外に出て身体を伸ばした直毅は、ある事を思い出し溜息を吐いた。
「どうすっかなぁ…頭ん中がお花畑だったお姫様。」
ローラの事を思い出し、直毅は頭を抱える。勝負とはいえ、他人の心を利用したのは、彼にとって後味の悪さを残していた。
「面倒くせえなぁ…」
頭を掻き、直毅は西側の待機所に向かう。
途中、新しくなった対抗戦の舞台に入って行く別の学園の生徒が見え、彼らも直毅を一瞥し話し合っていた。
(此処か…)
西側の待機所に辿り着き、直毅は大きく息を吐いて扉をノックし開けた。
部屋の中は薄暗い。それは直毅達がいた所と同じ。だがその部屋には、なんとも言えない重い空気が漂っている。
優季は直毅を一瞥しまた俯き、翠樹は身体を両手で押さえてガタガタと震えている。優季が何かを口にしようと息を吸う。その言葉を潰すように、直毅が先に口を開いた。
「敗者を笑いに来るほどいい趣味も、互いの健闘を称えあうクソったれな趣味も持ち合わせちゃいない。だから黙ってな。」
その声を聞き、机に伏していたローラは起き上がって直毅の下に駆け寄って抱きついた。
「ごめんなさい、ジョン。貴方の役に立てなくて。」
「いや、謝るのは俺の方なんだ、ローラ。」
彼女の頭を撫でながら、直毅は静かに告げる。
「まず、俺の名前はジョン・ドゥじゃない。俺の名前は東條 直毅だ。」
「いいえ、構わないわ。ジョンがジョンなのに変わりわないから。」
「そうか…だけどもう1つ謝らなきゃな。俺は君の運命の人かもしれないが、"君は俺の運命の人じゃない"。少なくとも今の所は。」
その言葉を聞いたローラは直毅からゆっくりと離れ、彼の顔を見てもう1度抱きついた。力を込めて。
「そんな筈ないわ…貴方は、貴方は私の…」
「そう。俺は君の運命の人だろう。だけど君は俺の運命の人じゃない。2人は幸せに暮らしましたなんていう、Happy Endは書かれてない。」
ローラは涙で直毅の胸を濡らしていく。その言葉を認めたくないとばかりに首を振り、彼を強く抱き締める。
「そうさ。物語は全て、Dead Endで幕を閉じる。運命なんてものは簡単に変わっちまう。だから、」
泣きじゃくるローラの頭を撫でながら、直毅は優しく声をかける。
「だから、運命の糸が繋がっているなら、その糸を辿って来るといい。君がやって来た時は、俺は喜んで君を迎えるさ。」
「………本当に…?」
「あぁ、運命が変わったならな。」
その言葉にローラは顔を上げ直毅の顔を見つめる。直毅はただ優しく彼女を見つめ、目尻の涙を指先で拭うと、待機所を後にした。
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対抗戦の決着がつく少し前、北側に敷設された観客席。学園の関係者や観戦に来た生徒が配布されたタブレット端末で対抗戦を見る中、一際目を惹く2人の姿があった。
1人はスーツに身を包んだ、ブロンドのショートヘアーの女性。薄型の眼鏡をかけ画面を見つめる姿は、秘書官と例えるのがいい。
もう1人は、全身を米陸軍採用の都市迷彩が施された迷彩服に包んだ大柄の男性。金髪のアーミーカットで、陸軍には似合わないパイロットサングラスをかけている。
恐ろしく対照的な2人。共通点と言えば、肌の色が白いことと、画面に映る人物位だろう。
「もう少し友好的でもいいだろ?依頼は同じなんだから。」
「同じ依頼といっても、"何方"の依頼を受けるかによっては意味が違います。」
「堅苦しいなまったく。交渉は既に始まってるってわけか。」
気さくに話しかける彼を彼女は冷たくあしらう。溜息を吐いた彼は立ち上がり胸ポケットから煙草を取り出しライターで火を付けると、紫煙を吐き端末を椅子の上に置く。
「最後まで観ないのですか?」
「"ジョーの息子"が勝つに決まってる。それに、俺は1人で来たからな。キーを預けてるボーイも居ない。」
彼が観客席から離れて間もなく、直毅が翠樹を倒し試合終了の放送が鳴り、彼女は携帯を取り出してコールする。
「車を出して。"彼"を迎えるわ。」
ほんの二言だけ告げて携帯をしまい、唖然とする他の観客達を他所に彼女は立ち上がる。椅子の上に置かれた2人の端末と、ざわつき始めた観客達の端末に映し出されていたのは、軽く溜息を吐いた直毅の姿だった。
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その場所は、妙に薄暗く冷え切った部屋だった。
所狭しと並べられた棚には無数のコードが繋がり、休まず緑や赤の光を点滅させている。そのコードは束ねられ、部屋の中心に背中合わせに吊るされた、2人の少女の背中や頭に繋がっていた。
「相変わらず寒いな、この部屋は。」
扉が開き、白衣を着たボサボサの髪の男が体を摩りながら入って来る。真っ直ぐ少女達の所まで歩いて行くと、2人の少女の間に置かれた棚のスイッチを何個か入れ、小さな青白い灯りが2人を照らし、男の方を向くように装置が動く。
「調子はどうだい?2人共。」
白髪交じりの髪を掻きながら、男は棚に寄りかかり座り込んで声をかける。
2人の少女はゆっくりと目を開くと、男を見つめ、"同じ声"を発する。
「異常ありません。博士。」
人の声でありながら、酷く無機質な声。男は彼女達を一瞥し、ほんの少し悲しそうな表情をしてノートパソコンを開く。
「そいつは結構。シミュレーションの結果をこっちにくれ。一応目を通しておきたい。」
「分かりました。」
ノートパソコンの画面にデータが送られ、男は目を通していく。それは意味の無い行為。バグの一切無いプログラムを眺め、最後に書かれた、"target Julius and Angel's son Destroy"の文字を見て画面を閉じ、ゆっくりと立ち上がった。
「完璧だ2人共。流石俺の"娘達"だな。」
「ありがとうございます。博士。」
悲しい笑みを浮かべ、男は少女達を元の位置に戻し部屋を後にする。扉の前に立ち1度振り返ると、少女達を見て呟いた。
「いや、俺の"罪"か。」
如何でしょうか?
次も早めに投稿出来たらいいなぁ…(遠い目)