「…朝か…」
直毅が名前の無い少女に、"ユキ"と名付けた翌日。彼は翔との闘いで多少ダメージを受けた身体を摩りながら目を覚ます。
寝惚け眼を擦りながら、何気なく視線を隣に移す。
そこには、肌蹴たワイシャツを着て眠るユキの姿があった。
「なっ⁉︎(何⁉︎)、だっ⁉︎(誰⁉︎)、(痛てっ‼︎)でっ‼︎)」
一瞬で覚醒、混乱した直毅はベッドから飛び退き、その拍子に後頭部を椅子に痛打して悶絶した。
「…あ、おはよう。直毅。」
「あぁ…おはよう。ユキ。」
音で目を覚ましたユキの挨拶に、直毅は痛む後頭部を摩り苦笑いを浮かべ挨拶を交わし、昨日の夜を思い出し始めた。
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「風呂には1人で入って下さいお願いします。」
平然と直毅と一緒に風呂に入る気でワンピースを脱ごうとするユキを、彼は必死で制止させる。
どうして?とでも言いたげに小首を傾げた彼女の表情に彼は頭を抱える。その後、彼の必死の説得により、扉の外で待っていることを条件に彼女は1人で風呂に入っていった。 最も、渋々といった様子ではあったが…
風呂から上がったユキにとりあえず直毅はワイシャツを着させ、濡れた髪をドライヤーで乾かしながら櫛で梳かす。 髪を撫でられる感触に、ユキは子猫の様に目を細めて喜んだ。
やがて髪が乾ききり直毅の手が離れ、ユキは名残惜しそうに振り返るが、道具を片付けていた彼にその表情は映らなかった。
その時当の直毅は、自分がどうやって風呂に入るかを考え、ユキが寝た後入ることを考えついていた。
「さてと…じゃあ寝るかな。ユキは俺のベッドを使ってくれ。」
「直毅はどこで寝るの?」
「俺は壁に寄りかかって寝るよ。」
そう言って壁に寄りかかろうとする直毅を、ユキは彼の服の袖を引っ張って止める。彼女の必死な表情に、彼は頭を掻き小さく溜息を吐いた。
(それだけ不安ってことなのか)
ユキの心情を考えれば、その行動を一蹴するのは酷というものだ。自分自身のことすらまともに把握出来ない彼女にとって、拠り所は彼しかない。彼に縋ることが、今の彼女にとって唯一の安息なのだろう。
それに加え、東條 直毅という男は、少女の思いを一蹴出来るほど冷たい人間ではなかった。
「分かった。じゃあ一緒に寝るかな。」
頭を掻いて答えた直毅の言葉に、ユキは笑顔を見せベッドに入り、後に続いて彼も入った。所謂添い寝である。
直毅がベッドに入るなり、ユキは彼の左腕をその小さな身体で抱き締めた。
その行動に少し驚きながらも直毅は微笑し、左腕をユキの枕にするように軽く抱き締める。腕の中に包まれた彼女は彼にぴったりと身を寄せ彼の顔を見つめ、彼はその表情に何かを感じとり優しく髪を撫で、彼女はまた嬉しそうに目を細める。
やがてユキは幸せそうな寝息を立て始め、直毅もそれにつられて眠りに落ちた。
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痛打した後頭部の痛みが引き冷静さを取り戻した直毅は今日の予定を考え始める。
(取り敢えず、ユキの服を買いに行かないとな…)
そう考えた次の瞬間には洋服売り場で絶望する自分の姿が脳裏を過ぎり、彼は頭を抱える。
どうにかならないかと思案し、さほど時間もかからず解決案を思いついた彼は、鞄の中に押し込まれた携帯電話を取り出した。
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「お待たせ、直毅。待った?」
「いや、今来たとこだ。いきなり呼び出して悪いな、茜。」
数時間後、直毅はユキを連れ大型デパートに訪れていた。
彼が当てにしたのは幼馴染みの茜であった。当てが彼女しかいなかったという方が正しいが。
「その子が電話で言ってた子?」
「あぁ、この子はユキ。親父の"知り合い"の子で、仕事の都合で預かることになったんだ。」
直毅は自分の後ろに隠れるユキを引き寄せ、安心させようと頭を撫でながら茜に答える。
「そうなんだ。私は藍原 茜。よろしくね、ユキちゃん。」
茜は屈託の無い笑顔を見せながら挨拶すると、ユキはまだ少し不安そうであるものの、首を縦に振って答える。
「それじゃ、ユキちゃんの服を見に行くとしましょうか。」
茜の言葉と共に、3人は洋服売り場に向かった。
上着から選ぼうと、比較的低年齢向けの洋服売り場へ3人はたどり着く。
「どんな服が似合うかなー。ユキちゃんとっても可愛いし。」
茜は洋服を手に取り、時折ユキを見ながら試行する。
彼女の言う通りユキの容姿は、直毅がそう名付けたのも頷ける程、まるで雪の様に白く美しい。
一言で言い表すなら、著名な職人に創られた人形のようだ。
なので当然茜が選んでくる服も、そういう(各々が思う)服に偏る。しかし、ユキは断固として今着ている白のワンピースがいいとして譲らなかった。
結局ユキの考えを変えられなかった茜は、上着を白のワンピースにし、寝間着を買うことで妥協点を打つ。
尤も、ユキからしてみれば寝間着も直毅のワイシャツが気に入っていたのだが…
下着売り場までやって来る時には、流石に直毅には居心地が悪いので他の場所で待っている事にする。直毅から離れたがらないユキを説得するのに彼が苦労したのは言うまでもない。
如何でしょうか?
次回は物語のキーパーソンと、主人公の両親の登場回に。
それでは、また次回。