「あぁ、美味かった。やっぱり手料理ってのはいい。」
「藍原さん料理上手ですね。私も練習しようかな。」
「宮守さんも十分上手よ。それに、直毅はどんなに不味くても喜んで食べるから安心していいわ。ねぇ?裕也。」
「そうだなぁ。気にしなくていいよ、宮守さん。むしろ食わせて困らせてやるといい。」
「本人の居る前で言うか、普通…」
茜と裕也の意地悪な言葉に戸惑う春音と、大きな溜息を吐く直毅。そんな2人の姿を見て、直毅の親友2人は笑みを浮かべた。
「直毅じゃねぇか!テメェコノヤロォ!!!彼女なんか作りやがってぇ!!!テメェってやつワァ゛⁈」
運悪く彼らを見つけたクラスメート達、その先頭にいた剣人が走り出そうとして素っ転び、顔面を強打して後ろにいたクラスメート達に踏まれた。
「その子が直毅の彼女?直毅ってこういう子が好みなんだ。」
「可愛いじゃん!何年生?」
「え、あ、い、高等1年です…」
「年下かぁ。名前はなんて言うのー?」
「直毅の何処に惚れたの?」
「どっちが告白したの?」
「スリーサイズは?」
「直毅お前ノンケかよぉ!」
「あっ、えっと、その、あのっ…」
「オメェらいい加減にしろ!」
矢継ぎ早に飛んでくる質問に慌てふためく春音を見かねて直毅が声を上げる。ガヤガヤと騒がしくなり再び大きな溜息を吐く彼。その時、一筋の風が吹いて春音の身体が震えてくしゃみをする。
「クシュン!」
「大丈夫か?春音。寒いか。」
春音を心配してパーカーを脱ぎ彼女の肩にかける直毅の姿に、周りにいたクラスメート達も彼らの関係性と、彼の左腕を見て質問攻めを止める。
「あ、ありがとうございます。先輩。でも左腕…」
「気にしなくていい。それに"こいつら"も、風を感じたいだろうしな。」
左腕を見る直毅を茜と裕也はほんの少し悲しげに見つめ、春音はパーカーに移った彼の温もりを感じて頬を染める。
「何というか、直毅のその左腕、美術品みたいだよな。」
クラスメートの誰かがそう呟くと、直毅は左腕を撫でて見つめる。
「美術品か…確かに。武器ばっかりに変えちまってるが、大切に扱ってやらなきゃな。」
「武器…先輩って、喧嘩得意なんですか?」
「得意じゃない。ついでに好きでもない。かかる火の粉を払ってたら、いつの間にか慣れただけだ。」
少しうつむき加減で答えた直毅を見る茜と裕也の表情、その懐かしさを感じる2人を見た春音は、彼らの間にある関係の深さを感じ取る。
「雨でも降ってきそうだ。早めに帰った方が良さそうだな。行こうか、春音。」
「はい。分かりました、先輩。」
席を立ち、春音と共に歩き出そうとする直毅に茜と裕也が声をかける。
「もう帰るの?これから晴れるわよ、きっと。」
「いや、雨になる。それに、お前らに見つかったのはまだしも、ブン屋の奴に見つかったらゆっくり過ごすどころじゃ無くなるからな。」
これ以上騒がしいのは御免だと言わんばかりにそう答え、2人はその場を後にした。
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ーー
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「先輩。この後どうしましょうか?」
プールを後にした2人は、駅へと向かうバスの車内で次の予定を話し合う。
「そうだな…2人でゆっくり出来ればいい。騒がしい所はやっぱり疲れる。」
「そうしたら、また私の家に来ますか?」
「春音がいいなら、お邪魔しようか。」
車内は少し早めに出たおかげで空いており、他愛も無い話をしながら駅に到着する。彼らの家の最寄り駅に着き、家路を辿っていた時、急に雨が降り始めた。
「降ってきたな。急いだ方が良さそうだ。」
「そうですね。きゃっ!」
走り出そうとした刹那、空が光り雷鳴が轟く。近くに落ちた雷の音に驚いた春音は耳を塞いでその場に座り込んだ。
「今のは近かったな。大丈夫か?春音。」
「すいません…腰、抜けちゃいました…」
涙目になって答えた春音に、直毅は軽く溜息を吐き、背中を向けしゃがみ込む。
「ほら。背中に乗る位は出来るだろう?」
「あ…ありがとうございます。先輩。」
彼の背中にしがみつき、おんぶされる春音。雨の勢いも増し、雷も頻繁に鳴り続ける。
「雷、苦手なのか?」
春音をおぶって走る直毅が尋ねると、彼女は涙声になりながら答える。
「はぃ…びっくりするの苦手で…ひゃう!」
「そしたら、大声で歌を歌うといい。この雨と雷だ、気にせず歌えて気が紛れる。そうしたら、いつの間にか家に着いてるさ。」
「そうは言っても…先輩の歌を聴いて気を紛らわしたいです…」
「あいよ。嵐の中だ、ノリのいい歌がいいな。"TRAIN-TRAIN"といこう。」
直毅はリズムを口で刻み、走るペースを上げながら歌いだす。その表情は楽しそうで、雨も雷も気にせず歌を歌いながら走り続けた。
「ほら、一曲分で着いただろう。歩けるか?」
「はい。なんとか。」
その歌が終わる頃に春音の家に辿り着き、ゆっくりと彼女を降ろし家に入った2人。服からは水滴が滴り、びしょ濡れになっていた。
「タオル取ってきますね。それにお風呂入らないと、風邪引いちゃいます。」
「びしょ濡れついでにこのまま帰ってもいいんだかな。」
「駄目ですよ。風邪引いたら困りますし、雷に打たれたら大変です。それに…」
「それに?」
「まだ、先輩と一緒に…はぅ!」
雷鳴が彼女の言葉を遮り、直毅は濡れた髪を掻きながら呟く。
「そうだな。雷が怖い彼女を1人にするのは、心が痛むな。」
「はぅ…お願いします…」
観客達の予想に反し、2人の距離は近いていく。最早全て裏目に出ると踏んだ彼らは、新しいキャストを作り始めた。
ーーーーー
ーーー
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「で、なんだ。この状況は。」
白い湯気が立ち込める中、湯船に浸かる直毅は背中を完全に預けて温まる春音の後頭部を見ながら呟いた。
「なんだって、一緒にお風呂に入ってるだけですよ。」
何ともないといった様子の彼女に呆れ、彼は天井を見上げる。
「随分と積極的なんだな、春音は。一緒に入ろうだなんて。」
「お風呂にはゆっくり浸かりたいですし、先輩を急がせるのも悪い気がして。水着着てるからいいですけど、恥ずかしいんですよ?」
「はぁ…プールの続きだとでも考えるか。」
"無論"彼らは水着を着て湯船に浸かっている。その光景は恋人と言うよりも、父親と娘のようである。
「やっぱり、先輩は落ち着いてますね。私凄くドキドキしてるんですけど…」
「平静を装ってるだけだよ。ギターを教えた時と一緒だ。また確かめるか?」
「はい。それじゃあ失礼します…」
直毅の方を向き、抱きつくようにして胸に耳を当てる春音。無防備に身体を押し付けてくる彼女に、彼は恥ずかしげに頭を掻く。
「あ…早いです。先輩の心臓の音。」
「全く…積極的なのか無防備なのか分からないな、春音は。」
「え…?あ!す、す、すいません先輩!私胸押し付け…」
自分の行動に気がついた春音は顔を真っ赤にし、慌てふためいて離れようとする。そんな様子の彼女を、直毅は軽く抱き締め頭を撫でた。
「もう少しこうしていてくれ。暖かいし、落ち着くから。」
「……はぃ…私はのぼせそうですけど…先輩…また歌、聴かせて下さい。そしたら私も、落ち着きますから…」
「そうか…なら一曲歌って上がるか。のぼせる前に。」
目を閉じ、息を深く吸い込むと、彼は風呂場に小さく響く程度の優しい声で歌い始めた。
"I love you …"
愛を囁くように歌を歌う彼に彼女は胸を高鳴らせ、顔を上げて目を閉じる彼を見つめ、再び胸に顔を埋めた。
"愛が白けてしまわぬように"
歌が終わり、ゆっくりと息を吐いた直毅。胸に顔を埋めた春音は、恥ずかしさと喜びに彼の顔を見ることが出来ないまま、小さな声で呟く。
「初めてですね…先輩が好きって言ってくれたの。」
「歌を借りてだけどな。直接言うのは恥ずかしいもんだ。」
「それでも…それより嬉しいです。のぼせちゃいます…」
顔を上げ、真っ直ぐに彼を見つめる彼女の瞳はキラキラと輝き、頬は赤く染まり熱っぽい息を吐く。ゆっくりと顔を近付け、互いの息がかかるところまで来ると、どちらともなく2人は口付けを交わす。
優しく、ただ優しく。触れ合うような口付け。初々しくも美しいその口付けは、2人にはほんの一瞬で、永遠にも感じられた。
「先輩…私…先輩の事、もっと知りたいです…」
唇を離し、息を吐いた春音が尋ねると、直毅は少し困った笑みで彼女の髪を撫でる。
「それじゃあ、のぼせる前に上がって話そうか。時間がかかるから。」
「はい…じゃあ先に上がりますね。」
浴槽から上がり、春音を見送った直毅は身体を伸ばし、左腕を上げぼんやりと眺めた。