「先輩。これ、お父さんの服ですけど。先輩の服が乾くまで着て下さい。」
「あぁ。ありがとう。」
風呂から上がり、春音から洋服を受け取った直毅は礼を言って服を着る。彼女は淡い桜色のパジャマを着て、彼の姿をチラチラと見てらは頬を赤らめる。
「さて…何処で話そうか。楽にして聴いてもらいたいな。あんまりいい話じゃないから。」
「……私の、部屋で聴きます……」
1人緊張する春音と共に、直毅は彼女の部屋に入る。何処と言うわけでもなく、2人はベッドに腰掛けた。
「何から話そうか…左腕についてからか。」
「はい。確か、先輩の友達だって言ってましたよね。それってどういう…」
「あぁ。比喩でもなんでもなく、俺の友人達なんだ。」
遥か昔を思い出すかの様に、直毅は虚空を見つめながら話し始めた。
「俺がまだ、幼馴染みの茜と裕也に会う前。双子の兄妹と友達になった。高嶺 「望」と高嶺 『望』、俺の初めての友人達。2人は美しいモノを見つけることを生き甲斐にしていた。死して尚美しいモノを。対する俺は、何かを守るのが生き甲斐なんだ。」
「守るのが生き甲斐、ですか…先輩は何を守ってるんですか?」
「大切な人達を。俺に価値を与えてくれる人達をな、俺は、俺自身に価値を見出せないから。」
「そんな…先輩、そんな悲しいこと…」
「春音も、俺の大切な人だ。でも、そんな生き方だったから、俺と"こいつら"は分かり合えて、そのせいで、俺は2人を失った。」
左腕を撫で俯向く彼の背中には、後悔と懺悔が暗い影を落とす。
「2人は、どうなったんですか…?」
恐る恐る尋ねる春音。自分の知らない彼を受け入れようと必死で。
「死んだ…いや、俺が殺したんだ。大切な人を、生き甲斐を守る為に…左腕はその時失った。そして2人の身体で、この左腕を作ったんだ…」
それは、無垢な少女には余りにも重く、暗い言葉。悲しみに覆われた彼に触れようと伸ばした手は、無意識のうちに震えていた。
「俺が…怖いんだろう?当然だ…どんな理由があれ、俺は2人を……殺した。」
触れようとした手を避ける様に、直毅は身体を縮ませる。
「俺を知りたいと言ってくれた君を、俺はこれ以上怖がらせたくない。慰めは愛じゃないから…だからその手が慰めなら止めてくれ…たとえ慰めでも、今の俺は身を沈めてしまいたくなる。」
「……慰めじゃないです。私は、先輩が好きです。だから…」
手を伸ばし彼の身体を抱き締め、春音は頬を両手で包み口付ける。思いが伝わる様に、熱く。純真でも、精一杯唇と舌を動かして。
「んっ……先輩…先輩は、私を愛せますか…?」
「………春音が、それを望むなら。」
「…違います……私じゃなくて、先輩が私を愛したいかどうかです……私は、先輩を愛したい……」
「…………俺は………愛してみたい。人並みに、君を。」
愛情。それは、誰もが求める、彼が初めて自ら抱いた欲望。2人は熱に犯され、互いに見つめ合って再び口付けた。
ーーーーー
ーーー
ー
「んぅ……んっ……先輩……」
雨は降り続け、未だ時折雷が鳴り響く中、彼女の唇を求め続ける。上唇、下唇を吸い、舌先が触れ合うと、彼女は小さく震える。口腔で互いの舌を絡め合わせ、隅々までなぞっていく。
「んんっ…んむぅ……ぷはっ………はぁっ…はぁっ…激しいんですね……キスって………でも、気持ち良くて、暖かい………」
息苦しさに唇を離し、熱い息をする彼女は、とても官能的で美しい。ゆっくりと彼女を押し倒し、赤く染まった頬を撫で、もう一度優しく口付ける。啄む様に、ただそれだけでも満たされていくような気も、渇いていくような気もしながら。
「春音…いいのか……?俺で……俺なんかで。」
「はい……先輩じゃなきゃダメなんです。その……"そういうこと"は詳しくなくて………リードしてもらえると……」
「俺だって初めてだよ。けど、」
首に手を回した春音は恥ずかしそうに呟き、俺は小さく笑ってから、彼女の耳元に口を近付け囁く。歯の浮く台詞を吐く恥ずかしさを隠しながら。
「精一杯、君を愛してみせるよ。」
くすぐったさなのか、別の理由かは分からないが、彼女は身体を震わせ俺の身体を抱き締める。
「……恥ずかしいですよ……先輩……」
「お互い様だ。そう何度も言う台詞じゃないからな。」
身を震わせる春音の全てが愛おしい。そうか、これが愛なのかもしれない。だが今は、彼女を愛することだけを考えよう。
「ひゃぅ……先輩……」
耳を舐められた春音は強く身を震わせ声を必死に殺す。粘着質な音を立て、溝をなぞり首筋へと舌を這わせ、鎖骨の辺りまで降ろし軽く吸う。
「はぅ…変な声が出ちゃいます……」
「春音の声だ、もっと聴きたいな。」
「何言って、ひゃあ!……うぅ……いじわるです…」
キスマークが付かない程度の軽い口付けですら声を上げ、春音は顔を背ける。気を悪くしたのだろうか、分からず彼女の顔を覗き込むと、今度は彼女が不意打ち気味に口付けてきた。
「ふっ…んっ…んんっ…はぁっ……」
俺の真似なのか、ぎこちないながらも舌を入れ口腔をなぞり、耳を舐め吸ってくる。確かにこれはくすぐったい。
「お返しです…先輩の真似ですけど…」
自分のした行為が恥ずかしいのか、彼女は小さな声で呟く。不可抗力的に視線が胸に落ちると、彼女は両手で胸を隠す。
「悪い…胸がコンプレックスだったか。」
「いえ…その…先輩が好きなら、いいんですけど…アンバランスじゃないですか?私の胸…」
「そうだな…春音だったら、この胸も魅力的だ。」
「私だったら…ですか?」
「あぁ。君だから、君じゃないとダメだな。」
春音の台詞を真似した俺に、彼女は抱き付いて胸に顔を埋めてくる。
「恥ずかしがり屋だな、春音は。」
「やっぱりいじわるです。先輩、とっても慣れてるみたいですし…」
「虚勢を張ってるんだ。そうでなきゃ、ガチガチに固まって動けなくなってる。ギターを弾いた時も、一緒に風呂に入った時も同じだよ。ほら、震えてるだろ?俺の手。」
「あ、本当ですね…緊張、してるんですか…?」
「当たり前だ。本当は、春音に触れるのすら怖い…傷付けてしまいそうで。」
「怖がらないで下さい、先輩。でも………その……優しく、お願いしますね…?」
「…………理性が壊れるっていうのは、こういうのを言うのか………」
「え?んん⁈んっ……」
これ以上聴いていたらどうにかなりそうで、俺は必死に彼女の唇を塞いだ。以前の俺なら、躊躇いなく自分の脳天を撃ち抜く様な感情に支配され、俺は欲望のまま、ただ彼女を感じようとした。
ーーーーー
ーーー
ー
「え?んん?んっ…」
一瞬、別人の様な視線になった先輩にキスをされて、それに応えるとほぼ同時に優しく胸に触れられる。
「ふぅ…んんっ……やぁ…」
意識とは関係無く出た声が息と共に漏れる。恥ずかしいと思う反面、愛されているという感情が快感となって伝わってくる。自分ではコンプレックスで、触ってもなんともない胸も、触れているのが先輩というだけで悪くないように思えた。
「痛くないか…?加減が分からないんだが…」
「はふ…大丈夫です……優しくて、気持ち良い、です……」
「そうか…良かった。」
心の底から安心する先輩。まるで自分のことのように喜び、優しく胸を撫でながら小さな声で尋ねた。
「その……服、脱がしてもいい…か…?」
「あ……はい……そしたら、先輩も一緒に……」
互いの服を脱がせあい、薄暗く、少し蒸し暑い部屋の中、互いの素肌を晒す。先輩が私の左胸に手を当て、私も先輩の左胸に手を当てる。
「ドキドキしてますね…先輩の心臓。」
「春音もだ…なんだか、生きてるって感じがする。」
肌と肌が触れ合い、互いの熱を、存在を実感し、もっと強く、もっと近くで感じたくなっていく。どちらともなく抱きしめ合い、口付けを交わし、互いの身体を撫でる。やがて先輩が私の胸を舐め始めると、私の身体は芯から熱くなり、秘所が少しずつ濡れていくのが感じられた。
「はぅ…あっ…せ、先輩…」
私の胸を舐める先輩は一心不乱で、それだけ私のことを考えて、求めてくれているようで、与えられる快感と、何をしたらいいか分からないもどかしさから、私はもじもじと身体を震わせる。快感で固くなった乳首を咥えられ、私の身体は大きく震えた。
「ひゃうう!はぁっ…あっ、あぁ!」
ちゅう、と音を立てて吸われ、片方を摘まれ、声を抑えられなくなっていく。
「やぁ…!ふぅ…んっ!あっ……はぁ…はぁ…」
先輩の手と舌が離れ、肩で息をする。自慰もまともにしたことのない私には、与えられる快感は大き過ぎた。
つう、と舌がお腹を伝って下へ下へと降りて行く。惚けていた私は反応が遅れて、足に先輩の手が触れた所でようやく手を伸ばした。
「そ…そんな所も…触るんですか……?」
「嫌だったか?俺が知る限りのことをしようと思って。春音が嫌なら…」
「いえ…先輩がしてくれるなら嬉しいですけど…おかしくなっちゃいそうで……」
「そうか…なら、我慢するなよ。その方がおかしくなると思うから…」
そう言うと、先輩は私のズボンを脱がして下着をずらし、1番大切な部位に舌を当てた。
「ひゃ!せ、センパイ…汚いですよそんな所…」
「いや、綺麗だよ……成る程、あいつらの気持ちが分かった気がする。」
丹念に、優しく。まるで何かの代償を払うかの様に。ベッドのシーツを掴み、絶え間なく押し寄せる快感に耐えようとするも、とても耐えられそうにもない。
「んぅ!あ、あぁっ!は…だ、だめぇ…」
頭の中が真っ白に塗り潰されていく。正直、何をされているか良く分からない。ただ、心が幸せな暖かさで満たされ、溢れ出て、その熱が身体を伝っていく。心と身体が繋がっているのが良くわかる。拒絶の言葉とは裏腹に、もっと近く、もっと深く先輩を感じたくなっていく。
「…だいぶほぐれたか…?春音?」
「はぁ…はぁ…はぃ?何ですかぁ…?センパイ…」
「すっかり蕩けちまったな…止めといた方がいいか…?」
「もっと…先輩を、感じたいです……私の初めて…全部、貰って下さい……」
「……この……そんなに俺の理性を壊したいかね……あぁ、受け取ろう。俺の初めても、貰ってもらう。」
互いに残った服も脱ぎ捨て足を開かれると、すっかり濡れそぼった私の秘所に先輩の性器が当たる。
「痛かったら言ってくれ…春音が痛がるのは、見てられないから。」
「はい…でも、止めないで下さい…」
「あぁ、分かった。止めれそうにないしな…」
そう言った先輩は私と両手を絡ませて握り、1度キスをして、ゆっくりと腰を進めてくる。
「あぁ…入ってきます…センパイが…」
肉壁を押し退けて先輩が入ってくる。途中で壁にぶつかったと思うと、何かが切れた音がして1番奥まで先輩が入ってきた。
「全部、入ったな…大丈夫か…?春音…」
「はい…少し痛くて……それも嬉しくて……とっても…幸せです……」
自然と涙が溢れてくる。とめどなく、降り続ける雨と同じ位。もう1度深くキスをして、本能のまま互いの身体を求め合う。満たされようと、満たそうと。
「あぁ…はぁ…熱い……熱いです……センパイ……」
熱に耐え切れなくなり、そこで私の意識は途絶える。ただ最後の瞬間まで先輩の全てを感じられたのは、何よりも幸せだった。
ーーーーー
ーーー
ー
「んっ……あ……先輩……」
「お、目が覚めたか。」
次に目が覚めた時も、最初に映ったのは先輩の顔。腕の中で眠っていた私の髪を優しく撫で、先輩は照れ臭そうに自分の髪を掻いた。
「その…なんだ…上手く出来なかっただろうけど…出来る限り、愛してみたんだが…」
「はい…先輩の想いが、いっぱい伝わってきました…嬉しかったです…」
「そいつは良かった。疲れただろう?もう少し眠っていいぞ。出来る限り、一緒に居るから。」
「それなら…明日の朝まで、一緒に居て下さい…両親共、今日は帰って来ませんから…次に目が覚める時も、先輩を最初に見たいんです…これが夢じゃないって信じたいから…」
「あぁ、分かった。それじゃあ少し眠ろう。」
「ありがとう…ございます…センパイ…」
先輩の声を聞きながら、私は再び眠りに落ちていく。まだ雨は降り続け、時々雷が遠くに聞こえた。その音をかき消すように、先輩の胸の鼓動が響いていた。