神の領域。人が、生物の設計図である遺伝子を解析してからというもの、人の手で生物を自由に変化させ創り出すことを、人は良しとはしなかった。神への冒涜であると、自らが最良の創造物であると思いたいのか。少なくとも人は、何かしらの利益に繋がるモノを作り出そうとする。だが肝心の神達…人ならざる者共は、"人に不利益になるモノ"を好んで創り出すのだ。
丁度今も舞台から姿を消していた者達が、"視認出来ない"程暗い闇の中で各々の欠片を撒き、名状し難い何かを作り出した。
人の形をした何か、肉片を繋ぎ合せたそれは少女の形になっていく。ようやく見れるものとなったそれは、傑作を生み出したと歓喜に沸く彼の前に立つ。
彼らのうちの誰かが少女に、「彼の全てを欲し、彼の全てを愛せ。」と告げる。ただその一言で、少女は舞台へと歩き始めた。
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雷雨は姿を消し、青空が広がり朝日が窓から差し込む。
「あ…先輩。おはようございます。」
「おはよう。よく寝れたか?」
「はい。とっても幸せです。朝1番に先輩の顔が見れて。贅沢を言えば、先輩の寝顔が見たかったですけど。」
「俺は春音の寝顔を十分見れたがな。」
心地良い気だるさの中、2人は暫く幸せに身を委ねる。交代でシャワーを浴び乾いた服を着ると、直毅は大きく身体を伸ばした。
「さてと、それじゃ帰るかな。また何かあったら呼んでくれ。」
「はい。また連絡しますね。」
玄関前まで見送る彼女に手を振り、直毅は家を後にする。雲ひとつない空の下、彼は欠伸をして頭を掻く。
「朝帰りなんて、親父になんて言われっかな…」
想像出来る答えに大きな溜息を吐きながら自宅の前にまで来ると、ベランダに居たユキが彼の姿を見るなり飛翔魔術を足に付与させゆっくりと降りてきた。
「直毅、おかえりなさい。」
「おっと。あぁ、ただいま。それとおはよう。ユキ。」
降りてきた彼女を抱き抱え、直毅は家の中に入り声を上げた。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ。直毅様。朝食の準備が出来ています。」
「おかえり。直毅。」
アリスとメティスが直毅を出迎え、彼の後に続いてリビングに入る。既に食事を始めていた他の家族の面々と挨拶を交わし、席に着いた彼を雄治がニヤニヤと笑いながら見る。
「はぁ…話なら後でするから、そのニヤけ面は止めてくれ。親父。」
「そうこなくっちゃな。」
大きな溜息を吐き、直毅は相変わらず塩辛い殻の混じった目玉焼きを食べ、雄治は意地の悪い笑みを浮かべてコーヒーを飲む。
「楽しそうね、雄治さん。直毅に何かあったの?」
「あぁ。言ったらナイフでも飛んで来そうだけどな。お前から話すか?直毅。」
「…母さんに隠し事してもしょうがないしな。でも此処で言う必要もないだろう?」
「私も気になるわ。聞かせて頂戴な。」
「凛さん…どうせ知ってるんでしょう?全く…彼女が出来たんだ、母さん。」
期待する優子と凛の視線に押され直毅が白状すると、優子は優しい笑みを、凛は雄治と同じ笑みを浮かべる。
「直毅君に彼女かぁ…想像出来ないなぁ。お嬢様もそう思いません?」
「そうね。でも元は天然の女誑しだもの、作っても不思議じゃないわ。」
「勘弁してくれ…少し前の俺も、同じことを思ってたさ。」
麗華の棘のある言葉に落ち込みながら答え、コーヒーで目玉焼きを流し込む彼に、背後に居たメティスは驚き、アリスからは質問が飛ぶ。
「彼女…直毅様には恋人が居るのですか。」
「恋人ってなんだ?直毅。」
「うーん…俺を好きになってくれた、俺が好きな人…説明するのが難しいな。まぁ大切な人だ。」
「私も、直毅の恋人か?」
「恋人…大切な人ってのは間違いないが、広く捉えたらそうなるのか…?」
「それなら、私も姉さんも、ユキも麗華も恋人だな。」
「それは…どうなんだろうか…」
「止めなさいアリス。直毅様が困ってるでしょう。」
「でも姉さんも、直毅のことが好きだ。」
「それは…」
アリスの言葉に逆に戸惑うメティスは頬を少し朱に染め言い淀み、直毅と麗華は溜息を、雄治達は笑み浮かべ、ユキは黙々とパンを食べ続けていた。
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「で?どんな子なんだ。お前を射止めた彼女は。」
「普通の子だよ。俺には勿体無い位に。母さんが親父には勿体無い位に良い子だ。」
朝食を終え、雄治の部屋で直毅は彼の質問を受けていた。
「そいつは相当良い子だな。趣味や話は合うのか?確かギターを持って行ってたか。」
「音楽が好きなんだ。それも俺が聴くような古い曲も聴くんだ。」
「そうか。なら、ライブバーにでも行ったらどうだ。」
「百歩譲ってライブハウスだ。学生が行く所じゃないだろう?」
「でも、お前は行ったことあるだろうに。」
「あんたに連れられてな…」
雄治の提案に直毅は溜息を吐く。つくづく自分を取り巻く環境が異常なのだと感じていた。
「まぁ彼女を抜きにしても、久しぶりに行きたいな。歌うには絶好の場所だからな。」
「こっちに帰って来てから行ってないのか?親父。」
「あぁ。何かと忙しかったからな。久しぶりに行くか。お前も来るか?」
「気が向いたらな。」
「そうか。それじゃあ練習しとかなきゃな。」
紫煙を吐き出す雄治を他所に、直毅は部屋を後にし自室に向かう。自室ではユキがいつものようにベッドに座って本を読んでいた。
「一緒に座っていいか?」
「うん。一緒に読んで。」
彼女を包み込む様に背後から座り、彼は自分に身を完全に預ける少女の後ろ姿に微笑んで髪を撫でる。
「ユキは本当に本が好きだな。今度の本は…SFか?何でも読むんだな。」
「直毅はどんな本が好きなの?」
「俺は専ら洋画の原作とかかな。それじゃ、読むとしますか。」
背中越しに朗読を始め、彼女は低くて静かな彼の声と文章に没頭する。数時間が経過し昼食の時間になると、メティスが部屋を訪れた。
「直毅様、ユキ様。昼食のお時間ですが…」
「ん?もうそんな時間か。ユキ…って、没頭してるな。すまないけど、ここに持ってきてくれないか?」
「はい。分かりました。」
一礼してメティスは部屋を後にし昼食を持ってくる。1度ベッドからユキを抱えて出ると、椅子に座ってメティスに礼を言う。
「ありがとうメティス。食器は後で持って行くよ。」
「はい、それでは…」
再び一礼し、彼女は直毅とユキの様子を羨ましそうに見てから部屋を後にする。ゆっくりと部屋を離れる彼女がリビングに戻ると、アリスと麗華、優子が彼女の様子に気が付いた。
「どうしたのメティスちゃん。考え事?」
「いえ。何でもありません。」
「姉さん、直毅と一緒に居たいんだな。」
「そんなこと…」
「姉妹で隠し事しても無駄でしょうに。そうね…私も会いに行こうかしら。大方本でも朗読してるでしょうから。アリスの言葉通りなら、私もまだ恋人のようですから。紅茶を持って行きましょうか。」
「麗華も行くか?私も行く。」
「それなら…私も…」
「はーい。いってらっしゃい。」
2人に連れられて、メティスは再び直毅の部屋へ向かい扉を開けた。
「ん?何だ。アリスに麗華まで来て。」
「恋人だからな。一緒に居たくなった。」
「貴方の朗読を聴きに来たの。」
「あの…ご迷惑でなければ、私も…」
手早く昼食を済ませた直毅とユキはベッドで読書を続けており、3人の訪問に驚きながらも快く出迎える。
「いいぜ。話は途中からだがな。くつろいでってくれ。」
彼は小さく溜息を吐き、笑みを浮かべる。麗華は机に紅茶のポットとカップを置き椅子に座り、アリスは彼に寄り添うように隣に座ってユキと共に本を読み、メティスはどうしていいか分からず、麗華の側に佇む。
「楽にしたらどうだ?メティス。」
「いえ…私はこれで…」
「姉さん、どうしたらいいか分からないんだ。したい事をすればいい。」
「そうよメティス。直毅は何されても拒絶なんてしないから安心しなさい。」
「何されるんですかね俺…」
アリスが反対側に移動し、メティスは恐る恐るといった様子で直毅の側に近付くと、控え目に彼に寄り添った。
「ご迷惑で…ないでしょうか…」
「勿論。それじゃあ始めるか。」
彼は再び本の朗読を始め、その場にいた全員が、彼の声を聴きながらゆったりとした時間を過ごす。最悪が時間と同じく近付いているのを知らずに。