「成る程、時を止めたか。だが…」
静止した時間の中を、"銀色の男が動く"。
「言った筈だ、諦めろと。」
男は光と銃弾を躱し、時が動き出しM500の弾を入れ替えていた雄治の目の前に現れ、左腕で首を押さえつけて壁に叩きつけ、衝撃で雄治は両手の銃を落とした。
「…この…クソッタレめ…」
凛がすぐさま波動を放ち、男の背中に直撃するも、搔き消える様にして波動は消える。
「無駄だ。この身体は魔を弾く銀の鎧。如何あっても貴様らに勝機は無い。」
「あり得ないわ…銀は魔を祓い、他を傷つける意思や感情を拒絶する!そんな鎧を身に纏って攻撃出来る筈が…」
「"貴様らを殺すのに、意思も感情も必要ない"。」
雄治の首を締め上げ、そのまま上昇する男は凛を見下ろして無機質に答え、左腕を掴む雄治を睨み付ける。
「…だが、貴様は別だ。Julius.貴様だけは苦しませて殺さなければ気が済まない。」
「…人間じゃねぇかと思ったが…安心だぜ…!」
右手で腰からナイフを引き抜き、左腕に突き刺そうした雄治の手を右手で払い、鋭く尖った指で貫く。
「あまり抵抗してくれるな。感情を殺すのも楽では無い。」
男の右腕はカタカタと震えており、指を引き抜いて雄治の両方の太腿を深々と貫く。
「…感情を殺してる割には…いい趣味じゃねぇか…」
「貴様の真似事だ。」
「…俺は…ここまで…悪趣味じゃ…ねぇよ…」
男は右腕を引き、雄治の心臓に狙いを定める。雄治は落としたM500を見つめて苦笑する。
「…はっ…フォースでも使えりゃなぁ…」
死を覚悟した彼に、凛が銃を拾い上げ渾身の力を込めて投げつける。
「雄治!」
男の背後から近付いてくる銃を霞む瞳で捉え、雄治はニヤリと笑みを浮かべる。右腕で心臓の位置を覆い、男の指が腕を貫いた所で横にずらし急所を外させ、左手で銃を受け取った。
「Hasta la vista,baby.(地獄で会おうぜ、ベイビー)」
男の右眼に銃口を合わせ、雄治は銃爪を引いた。銃弾は男の右眼に直撃し、男は人間らしい、苦痛の悲鳴を上げて雄治を地面に落す。
「貴様…貴様…!俺の…全てを奪ったな…最後に残った"俺自身"も!」
「……けっ…俺が奪われたモノに比べりゃ、安いもんだ…」
男は悲鳴を上げたまま天井を突き破りその場から去り、ボロボロになった雄治と凛が取り残された。
「雄治!大丈夫⁈」
「なぁに…これ位。悪いな、取り逃がしちまった…」
急いで雄治の元に駆け寄り、凛は転移魔術の準備を始める。
「退けられただけ奇跡的よ。あぁ、貴方用の術式を組むのって本当面倒ね。気を失わないで。」
「なら、煙草を吸わせてくれよ…そうしたら起きてられる…」
「馬鹿言わないで。吸うのは身体が治ってから…よし、出来た。」
雄治と凛を囲う様にして魔方陣が現れ、2人は地下から姿を消す。それから程なくして、地下は跡形も無く崩れ落ちた。
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雄治と凛の死闘など知る由も無く、直毅は春音の部屋で談笑を交わしギターを弾いていた。人混みを好まない彼の性格を快く受け入れ、春音は彼の弾くギターと歌声を聴いて笑みを浮かべていた。
「あっ、弦が切れちまったか。」
そんな幸せな時間を許すわけも無く、ギターの1弦が切れ、直毅は溜息を吐きギターをケースにしまう。
「買いに行くしかないな。春音も行くか?」
「はい。ついでにお昼も食べましょう。」
2人は仕度をし家を出て、複合ショッピングモールへ向かう。向かう間中、春音は直毅の右腕を抱き締め、「暑いだろう。」と気にかける彼などお構いなしに笑みを浮かべたままだった。
ショッピングモールは人で賑わい、待ち合わせ場所に丁度良い広場には、友人、恋人を待つ者等がたむろしている。そんな人混みの中で、直毅は対抗戦で共に戦った薫と白也、瑞貴と出くわした。
「奇遇だな。薫、それに白也と瑞貴も。」
「まぁ、直毅。襲撃の件は災難だったわね。」
「直毅先輩。お久しぶりです。」
「あぁ、対抗戦以来だな。つってもそんなに経った気はしないんだが。」
親しげに話す直毅と薫達を見つめる春音に、瑞貴が気が付いて尋ねる。
「直毅。そちらは?」
「ん?あぁ…まぁ、なんだ。俺の彼女だよ。」
頭を掻いて答えた直毅の言葉に、3人は目を丸くして春音を見つめる。視線を浴びる春音は顔を赤くして小さく自己紹介をする。
「み、宮守 春音です。」
「宮守さん、ね。私達は…説明する必要もないかしら。」
「へぇ〜。先輩に彼女…信じられないです。」
「確かにな。腑抜けたか?直毅。」
「酷い言われようだな…俺だって好きな人が出来ただけだ。それにしても、白也はどうして薫達と一緒に?」
「対抗戦の後、生徒会にスカウトされたんです。まだ見習いですけど。先輩は?」
「俺はギターの弦を買いにな。どうする春音、先に昼飯にするか?」
緊張でガチガチに固まる彼女か小さく返事をし、直毅は呆れ顔で彼女の頭を撫でる。
「大丈夫だよ。とって食われる訳じゃない。」
「どうかしら?弄りがいがありそうね。貴方の弱みになりそうだし。」
「お手柔らかにな。それじゃ飯にしよう。薫達もまだなら一緒にどうだ?」
「えぇ。ご一緒させて貰うわ。」
5人はファミリーレストランに向かい昼食を食べることにする。直毅と春音、薫と白也と瑞貴で分かれて座り、注文を済ませてから飲み物を取りに直毅と白也が席を離れた。
「そう固くならないで、宮守さん。」
「は、はい…」
酷く緊張する春音を気遣い、薫は優しい声色で声をかけるも、彼女は飲み物を取りに行った直毅を伺っては視線を下に落とす。
「はぁ。それじゃ、生徒会長の肩書きは抜きにして、幾つか訊きたいことがあるの。いいかしら?」
「先輩の事ですか?」
「そうね…貴女の事が気になるわ。彼のどこに惚れたのかとか。」
「えぇと…一目惚れなんです。どこがって言うのは難しいんですけど…」
「一目惚れ…それ位の方が丁度良いのかもな。奴のことだ、相当猫被ってるような気がするが。」
「そうなんですか?先輩は優しい人ですけど。」
「学年主任を脅す奴がか…余程君に気を許しているみたいだな。私や会長と居た時は、掴み所の無い不思議な奴だったが。」
「そうね、でも頼りになる人よ。特に荒事では…余り頼りになると困るでしょうけど。」
「あの、先輩ってそんなに強いんですか?」
「えぇ、強さに関しては文句無しよ。普通じゃ出来ないような事も平気でやってのけるの。彼は話さないのかしら。」
「はい。血生臭いからって。」
「そう。なら少しだけ話しましょうか?」
「何の話だ?」
飲み物を取ってきた直毅と白也が戻ってきて、飲み物を配り席に着く。
「貴方の異常な行動の数々よ。対抗戦の時のね。」
「対抗戦ですか。後から聞いて驚きましたよ、心臓が止まったとか。」
「先輩⁈何したんですか⁈」
「落ち着けって春音。説明してやるから…全く、自慢話じゃ無いんだ、面白くも無いだろうに。」
「思い出すだけでもスリリングよ。映画みたいで。」
緊張の解れた春音を見てほんの少し笑みを浮かべてから、直毅は大きな溜息を吐いて話を始めた。
すぐ近くに、赤黒い髪と瞳の狂気が居るのに気が付かずに。
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その狂気の美しさは人の眼を惹いていた。広場に1人、虚ろに佇む少女の姿があった。赤黒い髪と瞳、スタイルの良い身体と真っ白なワンピース。その姿に引き寄せられるかのように、少女を口説こうと1人の男が近寄り、あれこれ言葉を紡ぐ。
少女にその言葉は雑音でしかない。だがレストランから出てきた直毅の姿を見た彼女は、小さく笑みを浮かべ、目の前に居る"雑音を垂れ流すモノ"を煩わしく感じて男の口を手で塞ぐ。
何事かと男が怪訝そうな顔をした瞬間、赤黒い肉質の触手が男の延髄の辺りから突き破って現れ、蕾の様に開いて男の頭部を覆い尽くし、ミチミチと音を立て胴体から引き千切られる。サッカーボール大に膨れた赤黒い触手は不気味に動き、骨の砕ける音と共に縮み少女の手の中へ戻った。
鮮血。悲鳴。喧騒と賑わいで溢れていたその場は一瞬にして地獄と化す。男の近くに居た女性が絹を裂くような悲鳴を上げ、辺りの人々は恐怖に逃げ惑い、何事かと広場の方を見た直毅達は、逃げる人々と横たわる死体の側に立つ少女を見た。
少女はゆっくりと近付いて行く。彼の元へ、一歩ずつ。死体から流れ出る血と同じ色の髪を揺らし、同じ瞳で彼を見つめる。狂気に満ち溢れた視線。それが自分に向けられていることに気が付いた直毅は、状況が理解出来ず震える春音を見てから、薫達に声をかける。
「逃げた方が良さそうだな。薫、春音を頼んでいいか?」
「いいけれど、どうする気?まぁ、訊くまでもないでしょうけど。」
「あぁ。奴さん、俺に用があるみたいだからな。それじゃ、頼んだぜ。」
「先輩⁈一緒に逃げましょう!危ないですよ!」
「大丈夫だよ春音。また後でな。」
心配する彼女に笑顔を見せ、彼はゆっくりと少女に近付いて行く。薫達に連れられ離れていく春音は、直毅の後ろ姿を心配そうに見つめていた。