※この作品はR-18です。

Magic Life   作:弩素人

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存在理由

「しっかし、この身体は便利だな。誰か感覚を借りれば食べた気になる。減量にはもってこいだ。」

 

朝食の場で直毅はユキを膝の上に乗せ、彼女の肩に左手を置いて冗談を言う。五感の全てをユキに頼り、文字通り一心同体となっている彼に、彼女はパンをちぎって差し出す。

 

「お、悪いな。ユキ。ついでにアリスの焼いた目玉焼きもくれないか。」

 

フォークに刺さった焦げつき殻の混じった目玉焼きが差し出され、直毅はユキの視点で大きく口を開けた。

 

「舌と頬を噛まないようにしなきゃな…」

 

入れられた目玉焼きをゆっくりと咀嚼し、飲み込む。

 

「味は想像で補うとするかな。」

 

「それだけ喋れると、五感を失ってるとは思えないわね。第六感にでも目覚めたのかしら?」

 

いつもと変わらぬ口調で話す直毅を見て麗華が冗談混じり尋ねる。目を閉じたままの彼は苦笑し、黙々と朝食を食べるユキの頭を撫でた。

 

「"平衡感覚"は失っちゃいないぜ?誰かに触れてなきゃ寝てるも同然だからな。虚勢を張って減らず口を叩かなきゃやってられないさ。」

 

「直毅様。私、直毅様の目となり耳となり尽くさせていただきます。」

 

「私もだ。力が必要なら、いつでも言ってくれ。」

 

メティスとアリスが直毅の肩に手を置いて告げる。その感触も、声も姿も彼の身体は感じられないが、彼は笑みを浮かべて2人に礼を言う。

 

「ありがとな、2人共。」

 

家族の居る喜び。それを噛み締めていると、携帯の着信音が鳴る。一度ユキから左手を離して携帯を取り出し、彼女が左手に触れ視覚を借り携帯を操作する。メールの差出人は春音。内容はただ、「会って話がしたいです。」とだけ書かれていた。

 

ーーーーー

ーーー

ー

 

「いいのか麗華。一緒に付いてきて貰って。」

 

「貴方1人じゃ彼女さんを混乱させるだけよ。それに、今の貴方は誰か付いてないと身も守れないでしょう?」

 

「まぁ、ユキを抱えて戦うのは嫌だしな。」

 

日差しが照りつける青空の下、直毅はユキを抱え麗華と共に春音の家に向かっていた。

 

「私の時もそうだけど、貴方人を安心させるのが下手ね。」

 

「心配ばっかかけてる自覚はあるさ。ただ、俺がそういう目に遭うのに慣れてる…いや、何とも思わないのが悪いんだが。」

 

「はぁ…まぁいいわ。貴方の事は大分理解したつもりだから。」

 

大きな溜息を吐く麗華に直毅は小さく笑みを浮かべる。やがて春音の家の前まで来て、直毅はインターホンを鳴らし、数秒のうちに春音が姿を現した。

 

「先輩…すみません。急に会いたいなんて。」

 

「いや、大丈夫だよ。外で話せるか?連れて行きたい場所があるんだ。色々話したい事があるみたいだし。」

 

「はい。わかりました。」

 

春音と共に、直毅は来た道を戻り始める。彼から少し距離を置いた春音に、麗華は小さく会釈をする。

 

「初めまして。病院で会った時は自己紹介も出来なかったわね。私は紗波 麗華。貴女のことは直毅から聞いてるわ。宮守 春音さん。」

 

「こちらこそ、初めまして。麗華さん。」

優しく微笑んで見せる麗華に少し落ち着いたのか、春音も表情を和らげた。

 

「先輩。何処に行くんですか?」

 

「夢の丘…俺にとって大切な場所だ。俺を理解して貰うには1番いい場所だからな。」

 

先を歩く彼は静かに答える。彼の過去と現在を繋ぎ、幾度か死闘を繰り広げた場所。そこに着くまでの間、春音は彼に訊くことを幾つも考えた。

 

「着いた。此処が夢の丘だ。頂上の木の下で話そう。」

 

丘を登り、頂上の木の下にできた木陰に隠れ、彼らは芝生の上に座る。直毅は足の間にユキを座らせ、麗華と春音は彼を挟む様にして座った。

 

「まずは謝らなくちゃな。心配かけて悪かった。」

 

「いえ…五感は、まだ戻らないんですね。」

 

「あぁ。親戚に調べてもらってる。時間はかかるだろうけど、その内治せるみたいだけど、多分その前にまた、俺をこうした奴と戦うことになるな。」

 

「戦うって…先輩は五感を失ってるんですよ?どうやって…」

 

「五感を失ってるからって、戦わない理由にはならないさ。なんとなく分かるんだ。あいつは、俺が倒さなきゃいけない奴だって。」

 

「そんな、他の人に任せればいいじゃないですか。先輩が危ない目に遭う必要なんてないですよ。」

 

「むしろ、俺の為に誰かが危険な目に遭う方が駄目なんだ。誰かに守られる程の価値は俺には無い。誰かを守っている時初めて俺に価値が生まれるんだ。春音や、俺の家族を傷付けるかもしれない奴を倒して、ようやく俺に存在価値が生まれるんだ。」

 

「そんなの普通じゃないです…先輩は、普通の学生なんですよ⁈」

 

感情を露わにする春音に、直毅は変わらぬ口調で続ける。

 

「俺が普通じゃないのは知ってるだろう?初めて出来た友人達を殺して、その体で左腕を作ったのは話したよな。その友人達と初めて会ったのも、殺した場所も此処なんだ。得体の知れない男とも、自分の分身とだって殺し合った。それでも、俺を普通の学生と思ってくれるのか?」

 

「それは…でも、だからって…」

 

「直毅、それ以上春音さんを不安にさせないで。貴方が良くても、貴方を想う人からすれば、生きた心地がしないんだから。」

 

麗華が静かに直毅を制す。大きく息を吐き落ち着いた彼は、優しい声で続ける。

 

「悪い。いつもこんな調子になっちまう。今すぐ俺の全部を理解しなくてもいいんだ。出来ないだろうしな。けどこれだけは知ってて欲しい。俺は、春音や家族を守る為に生きてる。それ位、俺は春音や家族が大切なんだ。」

 

「……分かりました……今は、それだけで充分です。先輩には、危ない目に遭って欲しくないですけど。」

「ごめんな、春音。こんな駄目な奴で。春音に触れたいけど、君に触れたら姿が見えないんだ。だから、今は歌ってやる位しか出来ないけど。」

 

「はい。お願いします。」

 

風が木の葉を揺らし、小々波の様な音を奏でる中、直毅は平穏を祈るように歌い始めた。

 

ーーーーー

ーーー

ー

 

「おろ、ユキ。眠ってるのか。麗華、悪いけどユキを家に連れて帰ってくれないか?こうなると当分起きないからさ。」

 

歌い始めてからしばらくして、寝息を立てるユキに気が付いた直毅は、小声で麗華に頼む。

 

「分かったわ。帰りは春音さんに送って貰うの?」

 

「あぁ。まだ暫く此処に居るさ。」

 

麗華はユキを抱き抱え、ゆっくりと丘を後にする。ユキの代わりに春音が直毅の足の間に座り、彼は彼女を左腕で抱き締める。

 

「全身で春音を感じたいよ。こう抱き締めても、左腕しか春音を感じられないんだ。これ以上無い程1つに重なってるのに。」

 

「先輩…もっと強く抱き締めて下さい。先輩が私を感じられるように。」

 

「あぁ。本音を言うと、恐ろしくて仕方ないんだ。」

 

直毅の腕に力が入り、春音はその腕を抱き締める。

 

「先輩、一緒に歌いましょう。そうすれば、もっと私と1つになれますから。」

「ありがとな。春音。」

 

2人は共に"I love you"と呟いた。人が心と身体を重ねる理由。その答を求めるように。

 

 

 

 

 

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