※この作品はR-18です。

Magic Life   作:弩素人

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もう1人のキーパーソン ジョン・ドゥと、魔法使い 風瀬 凛の登場です。雄治と凛はヘビースモーカーでいつも紫煙を吐いてます。因みに吸っているのはキャスターのスーパーマイルド。


黒猫ともう1人の死者 両親と魔法使い

「え⁉︎明日帰ってくるのか?2人とも。」

 

買い物を終えアパートに戻ってきた直毅は、久々にかかってきた父親の知らせに驚いた。

 

「にしても、いきなり引っ越しの用意しとけだなんて、無茶言ってくれるな親父は。」

 

「どうせお前の部屋には私物は数えられる位しかないだろ?なら無茶な事じゃあない。」

 

笑い声を含ませながらの雄治の言葉に、直毅は大きな溜息を吐き頭を抱えた。

直毅と親しい間柄では、彼の溜息は了承を意味し、それを聞いた雄治は時間や引っ越し場所を告げ、早々と電話を切った。積もる話は明日ということなのだろう。

 

「…さて、じゃあ用意しますかね。」

 

時間と場所を簡単にメモし、直毅は頭を掻きながら引っ越しの用意を始めた。

 

アパートの大家に事情を説明し手続きを済ませると、自室の洋服や数冊の本、そして最後にベッド下にあるM29の入った箱をトランクに入れ大方の用意が整う。

 

その様子をベッドの上でちょこんと座りながら見ていたユキは、用意を終えた直毅に不安そうな声で尋ねた。

 

「何処かに行くの…?直毅。」

 

「ん?親が久しぶりに帰ってくるんだ。当分の間こっちにいるみたいだから、親が住む所に引っ越しするだけだよ。」

 

「そう。良かった…」

 

直毅の言葉に安堵するものの、表情の晴れないユキを見た直毅は、彼女の隣に座って頭を撫でてやる。

「ユキの過去に何があったかは俺には分からないし、恐らくユキ自身に分からないんじゃないか?」

 

直毅の言葉に、ユキは俯きながら頷く。

 

「そんな暗い顔をするもんじゃない。心配しなくても、俺の両親はユキを快く受け入れてくれる。約束するよ、ユキの居場所はちゃんとあるって。それにな…」

 

直毅は俯くユキの前に跪くと、その頬を片手で包みながら答える。

 

「ユキはもう、俺の大切な家族の1人だよ。」

 

その言葉に驚いたユキの目に、満面の笑みを浮かべる直毅の顔が映った。

 

 

 

どうして…?

 

どうしてこの人はこんなに優しいのだろう?

 

昨日出逢ったばかりの私に。

 

名前も分からない私に。

 

記憶の有無も分からない私に。

 

そんな私に、"存在"と"居場所"を与えてくれる。

 

そんな私に、人の温もりを与えてくれる。

 

手のひらに落ちた雪の結晶を、ただ溶かすことも出来るのに。

 

溶かすことなく、優しく包み込んでくれる。

 

「…どうして…?」

 

頬を包む直毅の手に触れながらユキは呟いた。

 

「理由かい?そうだな、上手く言えないけど… 俺がそう思ったから、それに従っただけだと思う。身勝手だったかな。」

 

「そんなことない。でも直毅に温もりを貰う私は、冷たさを与えることしか出来ないのに。」

 

彼の言葉に小さく首を振りユキは問い続ける。

「そんなことないさ。ユキが与えてくれるその冷たさは、俺がユキに温もりを与えられてるっていう何よりの証拠だし、それが、俺が俺である唯一の証明なんだよ。」

 

彼にとっての自分の存在理由とは、彼にとって最も大切なもの…家族を守ることなのだ。

 

 

…なんて、脆い人なんだろう…

 

…なんて、儚い人なんだろう…

 

他人を守ることでしか、自分の存在を固定出来ない人。

 

「おっと、どうした?ユキ。」

「…なんでも…ない。」

 

「…そうか。」

 

急に抱きついてきたユキを、直毅はほんの少し体勢を崩しながらも受け止めた。

彼女が顔を胸に埋めた為に、直毅はその表情を見ることは出来ないが、ユキの声に涙を感じ取った彼は、只々彼女の頭を撫で続けた。

 

ーーーーー

ーーー

ー

 

その夜、ユキは不思議な夢を見た。

 

満月の下、小高い草原の丘。その頂上には1本の大木が生えている。

風が草を優しく揺らし、その音だけが響く中。

 

1つ、鈴の音が少女を呼ぶように鳴る。

 

少女の足元に、首に鈴を付けた1匹の黒猫が佇んでいた。

 

少女が手を伸ばすと、その黒猫は鈴を鳴らしながら丘の頂上へ向かって行く。

 

後を追いかけると、頂上の大木に寄りかかる、1人の男が目に映った。

 

赤黒いフード付きのコートを着る男の肩に黒猫が飛び乗ると、男は猫の喉を撫でてユキの方を向く。

 

「貴方は、誰?」

 

「俺は…ジョン。ジョン・ドゥ。誰1人守れなかった死人さ。」

 

その男の声は、酷く枯れて悲しみを含んだ声だった。

例えるなら、泣き疲れた子供の様に。

 

その声を聞いたユキは何か、言葉にならない感情を覚え、もう1度男に尋ねた。

 

「…あなたは、だれ…?」

 

その問いに男は1つ溜息を吐き、ゆっくりとユキの方へ歩きながら答える。

 

「やっぱり君には敵わないな。…いいさ、これは夢だからな。」

 

ユキの側まで来ると、男は彼女の頭を優しく撫でる。

 

その瞬間、ユキは何かを確信するも、そんなことはあり得ないと受け入れられなかった。

 

やがて男は手を離し、ユキに背を向けてまた歩き始める。

 

「東條 直毅に伝えておいてくれないか、夢の丘に来い。と」

 

男の言葉を聞いたユキの意識は、そこで途絶えた。

 

 

時を同じくして、ジョン・ドゥと黒猫は、ユキが見ていた夢と全く同じ…いや、頂上に名前の刻まれていない墓標が1つある以外は同じ夢の丘にいた。

 

「これで良かったのかな?ご主人。」

 

「あぁ、これで良いんだベル。彼女にも会えたからな。」

 

ベルと呼ばれた黒猫は、一瞬にして褐色の肌に長い黒髪のグラマラスな美女に姿を変え、彼にもたれかかり、見た目とは裏腹に幼い声で呟く。

その頭には猫耳が、尾てい骨からは尻尾が生えていた。

「それじゃご主人、ご褒美ちょうだい。」

 

両腕で彼を抱きしめ、子猫のように甘えるベルは、マーキングするかの様に彼の頬を舐め頬をこすり合わせる。

 

「仕方ないな…」

 

彼は1つ溜息を吐くと、ベルの頬に手を添えてキスをするとベルは嬉しそうな声で鳴き、彼の唇を求め始めた。

始めは軽く触れ合う程度であったが、やがてベルが舌を使い始め、2人の舌が絡み合う。

淫らで粘着質な音を立てながら、お互いの唾液を交換するような口付け。

これ以上は、と彼がベルを引き離そうとするも、彼女は彼の身体をきつく抱きしめ離そうとしない。仕方なく彼は彼女の尻尾を握りながら舌を吸うと、驚きと快感に身を震わせたベルは、ゆっくりと唇を離した。

月明りで輝く一筋の糸が重力に従って切れると、頬を朱に染め恍惚の表情を浮かべたベルは、その豊満な胸を彼の胸に押し付けて寄りかかる。

 

「もう、何時になったらシテくれるの?ご主人。」

 

ベルはキスの余韻に浸りながらも、少し不満そうに頬を膨らませる彼女は、上目遣いで彼を見つめる。

「そうだな…俺がアイツを殺して、世界が終わらなければ、好きにするといいさ。まぁ終わるとは思えないが…」

 

彼女の髪と耳を撫でながら呟く彼の声には、諦めがにじみ出ていた。

 

ーーーーー

ーーー

ー

 

 

翌朝。

酷く現実的で、それでいて幻想的でもあった夢から覚めたユキは、引越し先の坂の上にある小さな洋館に辿り着くまでの間、その事だけを考えていた。

「久しぶりだな、直毅。」

 

「あぁ、今度は急だったね。親父、母さん。」

 

洋館前で出迎えた雄治と優子に、笑顔で直毅は返し、2人も笑顔で迎える。しかし、直毅の後ろに隠れていたユキの姿を見ると、2人はほんの少し驚き、その様子を察した直毅は頭を掻いた。

 

「紹介するよ、この子はユキ。事情は…まぁ後でゆっくり話すよ。ほら、ユキ。」

 

直毅に促されたユキは、少し不安げながらも前に進み小さく一礼する。

その姿に2人は顔を見合わせると、笑みを浮かべてユキに近づいて行く。

 

「かわいい子ね、お人形さんみたい。私は東條 優子よ。よろしくね、ユキちゃん。」

「俺は東條 雄治だ。よろしくな、ユキ。」

 

2人が挨拶すると、ユキはもう1度礼をする。

 

「さて、もうそろそろアイツも来る筈なんだがな…」

雄治はGジャンの胸ポケットからキャスターを取り出し口に咥えながら呟く。

 

「アイツって、誰か来るのか?親父。」

 

「あぁ、もう1人同居人がな…」

 

ライターで煙草に火をつけようとした瞬間、風が火をかき消し、その風と共に深緑のポニーテールをなびかせる長身の女性が現れた。

 

「久しぶりだな、凛。調和会議以来か?」

 

「お久しぶり、凛さん。お変わりないようで。」

 

「そうね。と言ってもあの時は、話をした訳じゃなかったけどね。久しぶり、雄治。優子さん。直毅。」

 

「風瀬さん!お久しぶりです。」

 

突然現れた女性…風瀬 凛に直毅は驚きながらも、雄治と優子と同じく懐かしさを感じた。

 

風瀬 凛 別名 Ms.Wind

世界に数える程しかいない魔法使いの中でも、最良と謳われる魔法使い。

雄治同様、魔術と科学のパワーバランスの一端である。

 

雄治は、彼と同じジーンズの長いコートを着る凛に吸いかけた煙草を差し出すと、彼女は差し出された煙草を喜んで咥え、そのまま雄治に火をつけてもらい紫煙を吐く。

 

「まったく、議会がしつこくて中々出てこれなかったわよ。どこ行っても監視してくるし。でも、此処なら落ち着けそうね。」

 

洋館を眺めながら紫煙と共に呟く凛は、直毅の後ろに戻っていたユキに気がついた。

 

「あら?直毅、その子は?」

 

「あぁ、この子は…」

 

「積もる話は家の中でしないか?凛も直毅も、優子の料理を久しぶりに食いたいだろう?」

 

雄治のその言葉に2人は頷き、4人は洋館へ入って行くのであった。

 

ーーーーー

ーーー

ー

 

優子の料理に舌鼓をうちながら、彼らは昔話や近況、ユキとの出会いなどを話し合う。

直毅の膝に座って黙々と食事を取るユキの姿に、雄治と優子と凛、そして直毅も、子猫の様だと思う。

それと同時に、片時も直毅の側を離れないその姿は、彼への思いの強さを感じさせた。

 

「さて、同じ釜の飯も食べた訳だ。事情がどうあれ、これでユキも家族の一員だ。改めてよろしくな、ユキ。」

 

食事を済ませると、雄治は1度優子と直毅の顔を見て、それからユキに笑顔を見せた。

 

「どうして、見ず知らずの私を家族にしてくれるんですか…?」

 

ユキは直毅の時と同じく疑問を投げかける。

 

「どうして、って言われてもだな。直毅は君のことをもう家族だと思ってる。だから、俺も優子も、君が望む限りの間、家族だと受け入れるのさ。」

「そう、雄治さんの言う通りよ。ユキちゃんは私と雄治さんにとってはもう、かわいい娘みたいなものなんだから。」

 

優子は微笑みを浮かべながら、ユキの側に寄って頭を撫でる。

 

「言ったろ?"ユキの居場所はちゃんとある。"ってさ。」

 

直毅がユキに笑顔を見せて伝えたその言葉で、彼女もまた笑みを浮かべた。

 

…彼女が初めて感じた幸せは、いとも容易く崩れ去る、儚いものであることを知らずに…

 




如何でしょうか?
幸せな話は長く書けません。さっさと戦闘します。

それでは、また次回。
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