傷つけ合った僕らの世界で救われることはあるのだろうか。
第一話「嘘は嫌いだった」
あの日はいつものように兄と笑って夕日を見るのだと思っていた。でもそれはもうできないのだと鏡の中の私は囁く。エメラルドの瞳を揺らす私自身はまた泣いてしまうのだろうか。もうあなたの前では泣くことができないのに。
私は罪を犯しました。兄を深く傷つけました。兄は、幼い頃教えてくれた。
「わたし達は死ぬことはない」
それは嘘じゃなかった。生きることも死ぬことも苦しくてどうか消えてしまいたいと嘆くほど、ここは息苦しい世界なのだと。笑顔で隠す嘘は嫌いだった。でも
泣く彼の背中を見るのは一番嫌だった。それならばと、嘘を息をするようにつくのは簡単なんだと思ってた。
「大丈夫よ」なんて、何回言ったのだろう。周りの人間が死ぬ度彼は泣いてしまうのではないだろうか、また押し殺してしまうんじゃないか。不安が押し寄せるのを笑って隠した。そんな彼と私には弟がいました。髪色が似ている彼は純粋でこの世界で生きていけるか心配でした。
失敗したとどこかで聞こえた気がした。
義弟はわたし達の傍から去っていた。純粋な彼が見た世界はこの世界がどれだけ息苦しいのか見てしまったのだろう。兄はそれが許せなかったのだろう、喧嘩をし始めた。
私は止めたかった。二人が傷つけ合うのが怖かった。
遅かったなどと後悔の念が積もる。嘘だと私が言う。同じエメラルドの瞳は薄汚れた。
「アーサー、大丈夫」
私がそばにいる、と言えないのに大丈夫だと安心させる私は醜くくなっていく。あの夕日を見ることが出来なくなってもあなたが泣いて傷ついてしまうことだけが怖い。
私自身がその怖さを知っていたはずなのにそれを繰り返してしまったことが…どうしても私を縛り付けるのだ。
兄side
「お前だけは俺のそばにいるよな」
なんて聞けやしない。同じエメラルドの瞳が俺を映す。情けない歪んだ顔でお前を見る俺はお前には情けない兄貴なのだろうと思うと笑ってしまう。アメリカが俺から独立した事は今もどんよりとした雲が心を埋め尽くす。梅雨の季節が嫌いなのはこのことだけじゃない。お前が俺の前で死んだことが一番の原因なのだ。どうせ、この思い出も全て俺の夢だ。綺麗な思い出も笑ったあの日の思い出も辛い思い出で書き消される。
「ほら、また笑ってくれよ。…なあ」
淡い赤いお前の血液は俺の服を汚していく。それでも構わない、夢の中でさえお前は目を覚まさないのかよ。少しくらいもっといい夢が見たい。あの頃の夢を。
...…
朝から降り注ぐ雨に鬱陶しいと思いながら私はこの世界にいるはずのない存在を思い出す。赤い紅い私の血で汚れてる指先で私を抱き起こすアーサーの姿を思い出すからだ。私は死んだことになっている。多分。気付けば私は人の子として生きている。この世界には私の知っているアーサーは存在しない。テレビに出ていた祖国とイギリスは笑っている。私のことなど覚えているはずもないだろう。
あの夕日を見るのは私一人となってしまった。