白雄には自慢があった。
それは、双子の片割れの気持ちを、自分が最も理解できること。
白雄には悩みがあった。
それは、その片割れの心が、どんなに考えても分からないときがあること。
遠くから母を見る彼女の目はいつも冷たくて。すぐ下の弟もその様子には気付いていたけど、そんな目をしている際の彼女は、少し怖くて直接尋ねられず。
分からなかった。彼女が一体何を抱えているのか。
分からないまま、あの誘拐事件から、早くも4年が過ぎていた。
「戦、ですか?」
「ああ。お前ももう14。初陣を迎えてもおかしくはない年頃だろう」
まあ少し早いかもしれないが、と闊達に父は笑う。
14歳になった白雄に、ついに、初陣の話が来た。偶然にも、そこに白旺はおらず。まだ内々の話故、内密に、と彼は告げられた。
戦。いずれは関わらざるを得ないとは言え、急に言われても実感が無い。
彼は、ほとんど空返事で、父の前を辞した。
後日。
父の話の通り、諸侯の前で、発表が為された。
「次の戦を、我が息子、白雄の初陣とする」
誰しも異論は無い。文武共に優秀な白雄を無駄に案ずる者などいなかった。
「……………そして」
しかし。
「我が娘、白旺も、此度より戦に同行させる」
これが「皇女」となれば、話は別。
「お待ちください陛下!如何に優秀な方とて、皇女殿下を戦にお連れになるのは…」
皆が反対の声を上げる。白徳の言う「同行」が、決して「戦場に華を添える」などと生易しい意味を示さないと、誰もが知っていた。
「確かに白旺は皇女………されど、その程度の些事が、戦わせない理由になるか?」
案の定白徳は、反論を些事と称し、一蹴した。
「白旺、お前自身は、どうしたい?お前が嫌と申せば、検討し直さないでもない」
場の空気に飲まれて発言できなかった白雄も、騒いでいた諸侯も、一斉に視線を白旺へ向ける。
「いいえ、父上」
白旺は、笑っていた。
「素晴らしい機会を頂き、感謝致します」
その言葉は、戦の同行に了承すると、言外に伝えており。
「では決まりだ」
反対の声は、もう上がらなかった。
「……………お前、ずっと機嫌悪くないか?」
いつまでもふてくされている白雄に、呆れ果てた様子で白旺が声をかける。出陣が翌日に迫り、準備を整え床に就いても、彼はご機嫌ナナメで。
「白旺に傷付いて欲しくない」
理知的で聞き分けの良い白雄にしては珍しく、彼は、片割れが共に出陣する事実を受け止められなかった。
「わたしは簡単に傷付く程弱くない」
「俺はお前が好きだ」
「わたしも白雄は好きだぞ?」
「そうじゃなくて!」
彼は思わず声を荒げる。
「そうじゃない…」
荒げたところでハッと気付いて、勢いは弱々しくなる。
練白雄には、一体いつからだったか、内に秘める想いがあった。双子の姉に対する、特別な想いが。
良識ある彼は無論、近親者に抱くそんな心が禁忌と理解しており。何事も起きなければ、一生伝えるつもりは無くて。
彼は迷った。伝えるべきか伝えないでおくべきか。すると、彼の手をそっと白旺は取り、言った。
「何か言いたければ言え。内容がどうあれ、わたしはお前の言葉を、無意味に跳ね除けたりはしない。最後まで全部聞く」
自分を後押しする相手の言葉に、彼は口を開く。それは白雄にとって、一世一代の決意とも言えるものだった。
「俺は、白旺を、愛している。一人の男として、白旺という女性を、恋い慕っている」
白旺は真剣に聞いた。何度も言い淀む彼が一生懸命言葉を紡ぐのを。
「これが、世の定めに反する良くない気持ちなのは、知っている。ただそれでも俺は………」
俺はお前を、練白旺を、特別に愛しく思う。
必死で言い切って、ついには俯いてしまう白雄を、白旺はいっそ泣きたいくらいの愛おしさを以て見つめる。
「今すぐに、答えは出せない。まずは明日の戦に集中し、勝たなくてはならない」
考えて考えて考えて、白旺は言葉を選び、選びつつも真実を口にする。
「でも、お前の言葉はとてもうれしい。ありがとう」
今回の戦より帰還した後、必ず何かしらの答えを出すと、彼女は約束した。十分だと、白雄は笑う。
翌日早朝、彼らは出立し、初陣に臨んだ。
結論として、戦闘は恙無く勝利に終わり。敵将の首を獲ったのは、最も心配されていた白旺であった。この戦により、彼女の高い戦闘力を皆が認め、彼女はその頃にはまだ珍しい、武の道に生きる皇女となるキッカケを得た。
そして帰還後、彼女は白雄に、「答え」を伝えた。
こうして、決して誰にも明かせない秘密の関係が、静かに密やかに始まった。