※この作品はR-18です。

煌帝国第一皇女は自由な不自由人   作:遥鈴

12 / 14
炎の記憶 1(過去篇Part2 紅炎視点ver)

第一皇子、練白雄殿。第二皇子、練白蓮殿。

彼らは俺や紅明や、多くの者にとって太陽の如き存在だった。

そして。

 

「わたしが白雄の双子の姉、白旺だ。よろしく、紅炎と紅明」

 

白雄殿によく似た顔立ち。落ち着いた声音。女性にしては高めの身長と、あまり着飾らない、という皇女としては一風変わった姿。

第一皇女、練白旺。彼女を表す言葉は、月、だと俺は思う。

 

 

白旺は、皇女とは言っても初代皇帝の第一子。皇位継承権も白雄殿の次に高く、お父君の意向により男児と同様に軍略や政に深く関わる勉学、武術までも学んでいた。しかも彼女は「皇女」、つまり女性。女性の嗜みも学ばなくてはならない。そのせいで俺は、白雄殿と白蓮殿にお会いしてしばらく経っても、白旺とは会えなかった。

白雄殿も白蓮殿も、揃って彼女を賞賛していた。自分たちより学ぶ物事が多いのに、何でも完璧に身につけ、さらには勉強家らしく自ら知識を欲するのだと。知識欲が旺盛なところはお前に似てるんじゃないか?と白蓮殿が笑って言ったのに対し、未だ見ぬ第一皇女は如何なる御方なのかと思考を巡らせつつ、光栄ですとだけ答えたのをよく覚えている。

 

実のところ、俺と紅明は、彼女に会うのが楽しみ以上に、少し怖かった。本人に会わなくとも、噂は常に耳に入る。

聡明。何を学ばせても優秀。非の打ち所が無い。そんな噂を耳にする程、練白旺なる人物のイメージが「完璧超人」で固まってしまい。誰しも完璧過ぎる人間には恐怖を抱く。俺たちも無論例外ではなく。たまに聞く「甘えん坊」の印象も、白雄殿にのみ甘えると言うのなら、結局は「隙が無い」としか捉えられなかった。

 

機会は、二皇子との出会いから、数ヶ月後に訪れた。

いつも通り白蓮殿が暇だ暇だと俺たちに構い、苦笑した白雄殿も一緒にいて、連れ出されて4人で遊んで。

 

「白雄」

 

そのとき、凛とした声が聞こえた。

 

「部屋にいないと思えばここにいたのか」

「姉上!勉強はもう良いのですか?」

「今日の分は済ませた。白雄に借りていた書物を返すために探していたんだ」

 

白雄殿によく似た面差しが、白蓮殿の呼ぶ「姉上」の単語が。彼女が何者なのか、分かりやすく教えてくれた。慌てて姿勢を正す俺たちを、書物を直接白雄殿に手渡した後、やっと視界に入れて首を傾げる。

 

「彼らは?」

「紅炎と紅明。叔父上の長男と次男、要するに我らの従兄弟に当たる」

 

白雄殿にご紹介頂き、黙ってぺこりと頭を下げる。

 

「紅炎と紅明?確か、白蓮がよく遊んでもらっている相手、と白雄に聞いた気がする」

「兄上ぇぇぇ!?」

「どこも間違ってはいないだろう?」

 

どうやら白雄殿によって、我々の名前は(若干偏った形で)伝わっていた様子。

(主に白蓮殿が)愉快に騒ぐのを尻目にこちらに歩み寄って、当時はまだ負けていた俺の身長に合わせて屈む。

 

「わたしが白雄の双子の姉、白旺だ。よろしく、紅炎と紅明。いつも2人と仲良くしてくれていると聞く。ありがとう」

 

形の良い唇が緩く弧を描く。近い顔に、ふと、彼女の口元にはほくろが無いと気付いた。お母君の遺伝はどちらかと言えば薄いのかもしれない、と俺は頭の片隅で考えていた。

意外に怖くない年上の少女。それが白旺の第一印象だった。

 

以降は彼女もいたりいなかったりして、何度か触れ合う内に、俺も紅明も無事に仲良くなれた。

 

 

白旺は、なるほど噂通りに、聡明で何をしても完璧で。かと言って当初我々がイメージしていた「完璧人間」には程遠く、身内には結構甘いし白雄殿に対してはベタベタと甘えるし、屈託なく明るい性格で俺たちに接した。

彼女は俺の他の弟妹にも優しく慕われた。かと言って決して淑女然としている訳でもなく、良い意味で周囲に遠慮をしない、明朗な性格。

 

俺たちは、まだ知らなかった。身内に甘い彼女が、身内以外にはどうなのか。知らなかった。初めて同じ戦場に出るまでは。

 

 

 

彼女よりも遅く初陣を迎えた俺たちは、何度かの経験を詰んだ後、彼女と同じ戦場に立った。そこで見たのは、聞いたのは、優しくなくて正しい現実。

 

白雄殿の、常とは全く違う苛烈さに、驚いた。

白蓮殿の、兄と姉の剣となり盾となり生きて死ぬ覚悟に、胸が震えた。

 

何よりも、白旺の容赦をしない戦いぶりに、戦慄した。

 

敵兵となれば、逃げ惑う者をも追い、一兵卒たりとも残さない。命乞いされても耳を傾けず、卑怯な手を使われても怯まず、敵を殲滅する。

 

仲良くなって何度も見た、完璧なのに甘えたがりな白旺、はどこにもいない。馬に乗り剣を手に戦場を駆けるのは、紛れも無く、練白旺という名の「将」であった。

 

「わたしは、家族と国を護りたい。故に戦う。例え鬼と呼ばれようとも、皆を護るためなら、わたしは何だってするさ」

 

戦いを終えた後、死屍累々、の言葉が近い戦場の真ん中に血塗れで立つ彼女の姿は、恐ろしくも勇ましく、美しかった。

 

 

 

俺が16歳の年。俄かに「迷宮」の話が持ち上がった。もしかすると、以前より検討はされていたのかもしれない。

戦力アップには良いとの意見が多数、されど果たして、危険な場所に一体誰を向かわせれば?との意見も多数。

 

「紅炎」

「はっ」

「私はまず、お前を推す……………お前は、どうしたい?」

 

伯父上、陛下が、俺にそうお尋ねになる。知識欲の深い俺にとっては、願ってもない。まして攻略できれば、国の役に立てる。

 

「ご指名頂けるとあらば、喜んで」

 

陛下は満足げに頷き、俺は、迷宮『アガレス』への攻略を許された。

 

「陛下」

 

そこで口を挟んだのは、陛下の傍らに控えていた皇后様である。

 

「紅炎のみを攻略に行かせては、実子は安全な地に置き、実子以外は危険に赴かせる………などと良からぬ噂を流されかねませんわ。我が子からも、攻略に行かせては如何でしょう?」

 

ざわり。場が動揺する。しかし、正論だ。煌には未だ敵も多く、小さな噂とて、国を瓦解させる可能性を秘めている。

陛下も納得し、白雄殿、白蓮殿と白旺を見る。

 

「お前たち、攻略に行く気は、あるか?」

 

すると、他が何かを言う前に、白旺が一歩進み出た。

 

「父上、わたしが参ります」

「では、どの迷宮に行きたいか、希望があれば申すが良い」

「…………………『幻の迷宮』の内のどちらかを希望致します」

 

今度こそ、皆が動揺し、場が大きくざわめく。

 

幻の迷宮。

出現場所以外のデータが圧倒的に少なく、尚且つ力が足りなければ視認さえ不可能、と様々に謎の多い迷宮の総称。現在、確実に存在が確認されているのは、たった2つである。

 

「お待ちください姉上!『幻の迷宮』は、通常の迷宮と比べても危険な場所と聞きます。仮にも第二皇位継承者の姉上が行くのは………」

 

白蓮殿が代表して反論する。白雄殿も、賛成したくない様子だ。

そんな彼らを、白旺は一蹴した。

 

「わたしが死ぬとでも思っているのか?通常の迷宮生物なんて、どうせ訓練にもならない」

「…議論は決した。我が娘練白旺を、『幻の迷宮』攻略へ派遣する!」

 

挙句陛下が決定を下してしまえば、最早反論は不可能。こうして俺と白旺の、初めての迷宮攻略が決められた。

 

なお、翌日の話し合いで、白旺が攻略するのは『フェンリル』と発表された。

 

 

 

1週間後、俺と同日に出発した白旺は、無傷で帰還した。

しかも、帰還時点で武器化魔装をマスターしており、皆を驚かせた。

 

 

 

 

多才過ぎる彼女に羨望を抱く俺の気持ちが恋に変わるのは、そう遠くない話。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。