※この作品はR-18です。

煌帝国第一皇女は自由な不自由人   作:遥鈴

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孤高の覇王は灰色を求める(自慰描写あり)

煌の使者が来る。

それは、シンドリア王国にとって、一大事件だった。

 

「何の用件で来るのでしょう?」

「分からん…一先ず警戒するしかないだろう」

 

当時まだ23歳の若き国王シンドバッドは、優秀な側近ジャーファルと共に、険しい顔で船を待つ。

そして、降りて来たのは。

 

「煌帝国第一皇女、練白旺です。シンドリア国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」

 

第一皇女という、想像以上に高い位置に存在する人であった。

 

 

 

「シンドリア王国国王、シンドバッドです。こちらは我が部下のジャーファルと申す者。遠いところをようこそ」

 

シンドバッドもジャーファルも上手に作り笑いを浮かべて出迎え、まずは城へと案内しながら、チラリと彼女を観察する。

女性としては高めの身長に、中性的で整った顔立ち。華やかに着飾らず、腰には剣を帯びたシンプルな姿は、堂々としてむしろ美しい。

 

「(練白旺……………迷宮攻略者の皇女か)」

 

武に生きる皇女が珍しい時代、積極的に戦場に出ては武功を上げ、挙句迷宮攻略まで果たした彼女の名は多くの者が知っている。当然、シンドバッドも例外ではない。

そんな人間を遣わして、煌は一体何のつもりなのか。2人は短い時間思考を巡らせたが、分かろうはずもなかった。

 

 

 

一方白旺も、今回の使者役を任されるにおいて、現皇帝練紅徳と行った会話を思い返していた。

 

「白旺、シンドリアに行ってくれるか?」

「シンドリアと言えば、まだ新しい小さな島国………何を狙っているのですか?」

「なるほど小さな島国だ、しかしかの小国を打ち立てた若き男は、迷宮攻略者らしい」

「つまり、傘下に加えて国力の増強を図りたい、と」

「うむ。部下も優秀な人材が多いと聞く」

 

お前に文を託す、と渡された文書には、戦争か従属か、という物騒な選択肢を迫る言葉が書かれている。この頃すでに、煌帝国は、手段を選ばない国だった。

 

「畏まりました。ただし、必ずしも従属させるばかりが手ではない、とわたしは思います。ですので実際にわたしの目で見て耳で聞いて彼らと話した末に結果は決まりますので、どうぞご承知頂きたく」

 

白旺は忠告を残した上で任を承知し、一先ずはシンドリアをよくよく観察して身の振り方を考えよう、と決める。

こうして今彼女は、シンドリア王国の土を踏んでいるのだ。

 

 

 

城内で改めて白旺と対面し文書を受け取ったシンドバッドは、自国をあからさまに見下した内容に顔が引き攣りそうなのを必死で耐えながら、笑顔で彼女に向き直る。

 

「皇帝陛下のご意向、確かに承りました。されど国の大事故、家臣とも夜を徹して話し合い決めなくてはなりません。答えは検討中として、一旦お持ち帰り願えませんか?」

 

回答を保留して時を稼ごうと、シンドバッドは彼なりに知恵を働かせた末の言葉である。

もしも使者が違えば、これは成功したかもしれない。咄嗟の彼の策に、間違いは無い。

 

間違いは、無いのだけど。

 

「いいえ、国王陛下」

 

相手が悪い。今回の使者は、練白旺だ。

 

「私、如何なる答えであろうとも、とにかく何かしらのお返事を頂戴して戻れ、と我が国皇帝より厳命されております」

 

彼女が使者に任じられた理由は、例えどんなに悪知恵の働く相手と対させても、決して負けたりしないからである。

 

「無論、時間がかかるのは十分に分かっております。どうぞ存分にお話し合いくださいませ。私は一月でも半年でも、答えが出るのを、じっくりとお待ち申し上げます」

 

今度こそ、シンドバッドの顔が引き攣る。そして彼らは理解するのだった。

 

 

練白旺なる人間が選ばれた理由と、彼女の侮れなさを。

 

 

 

 

 

白旺は、言葉に違わず、そのままシンドリアに逗留した。

しかもシンドバッドたちにとって厄介なのは、彼女は国民によく好かれたのだ。

ただでさえ、一分の隙も見せられない客人である。ここに国民の目まで加わっては、さすがに堪ったものではない。

かと言って、白旺を言葉巧みに懐柔するのは、正直無理に等しい。

 

彼らは、悩みに悩んだ末、一先ず審議を引き延ばした。

 

 

実はこのやり方が、思いもよらず、功を奏することとなる。

 

 

 

 

「南海生物が出たぞー!」

 

白旺の耳にそんな声が届いたのは、偶然にも、王宮内の庭をシンドバッド自ら案内してもらっているときだった。

 

「南海生物?」

「我が国は海に囲まれておりますので、独特な海の生き物が時折襲来するのです。よろしければ、共にいらっしゃいますか?」

 

珍しい生物を目にできる良い機会である。白旺は、喜んで彼の誘いに乗った。

 

 

向かった先には、アバレオトシゴとアバレウツボが1体ずつ出現していた。

 

「2体も出たのか?」

「ええ、さすがに国民も驚いています」

「うわーうわー何あれ気持ち悪いーすごいー」

 

2体同時出現は珍しいのか話し合うシンドバッドとジャーファルを尻目に、白旺は楽しそうに南海生物たちを眺めている。

 

「とりあえず、ドラコーン、1体頼めるか?」

「ああ」

 

シンドバッドの呼びかけに応じ一歩前に進み出たのは、竜のような姿の男性、ドラコーン。

 

「姫君、彼はドラコーン。元はパルテビアの軍人です」

 

シンドバッドが白旺に紹介している間に、ドラコーンは眷属器を発動させ、アバレウツボの元へ。

 

「『剛神鱗甲(バララーク・バラシーフ)』!」

 

電流による肉体強化が行われているらしい両腕が、アバレウツボを薙ぎ倒し、見事に胴を真っ二つ。

 

「………へえ、これはなかなか…」

 

白旺は感心の声を上げた。彼女たちのいるより少し低い場所では、素晴らしき将軍ドラコーンを賞賛する声が聞こえる。

 

「姫君」

 

次にシンドバッドが話しかけたのは、白旺だった。

 

「後学のために、姫君の力もお見せ頂けますか?」

「わたしのですか?」

「あなたも迷宮攻略者だと聞きます。我が国の未熟な部下の参考とでもお思いになって、お願いできませんか?」

「……………分かりました。では」

 

白旺は、腰の剣を抜き、顔の前で縦に構えた。

 

「叡智と黎明の精霊よ、汝と汝の眷属に命ず。我が魔力を糧として、我が意志に大いなる力を与えよ」

 

ポゥ、と柄の八芒星が光り、剣が風を纏い始める。

 

「出でよ、『ヴェルダンディ』!」

 

続けて彼女の体全体に鋭い風の刃が現れ、同時に彼女はタンッと地面を蹴り、アバレオトシゴに向かって飛んだ。

そしてそこに辿り着く頃には、握られた剣は、真っ白な細身の美しい剣に変化していた。

 

「『ヴェルダンディの鎌鼬(ヴェルデン・ウィルベルヴィント)』」

 

白旺が剣を一閃すると、大小様々な鎌鼬が、アバレオトシゴの巨大な体を切り裂く。

最終的にその中の1つが、喉笛を鋭く襲い、息の根を止めた。

 

「シン、『ヴェルダンディ』と言えば、幻の迷宮の………」

「…ああ、やはり、敵に回すのは得策ではないだろう」

 

華麗に地に降り立ち国民の喝采を受ける白旺を見て、シンドバッドはジャーファルと言葉を交わす。彼らは思考した。彼女を穏便に仲間に引き入れる方法を。

 

 

だが、訪問より約2ヶ月。帰国を申し出た白旺は、言ったのだ。

 

「貴国に滞在する間、国を隅々まで拝見させて頂きました。国民の笑顔と活気が満ち溢れる、真に良い国です。つきましては貴国との対等な形での同盟を、検討致したく存じます」

「………………同盟、ですか?」

「はい」

 

驚きを隠せず、シンドバッドの口があんぐりと開く。予想外の展開だった。

 

「何かご異存でも?」

「いえ、貴国と対等に同盟を組めるとなれば願ったり叶ったりではあるのですけど………皇帝陛下が、お許しになるのですか?」

 

そう、シンドバッドの懸念は、皇帝練紅徳が、1度属国にしようと決めた国と同盟を組む行為を許すのかどうかである。何せ煌はプライドが高い。

心配する彼の視線を受けて、白旺はフッと不敵な笑みを浮かべた。

 

「私を誰だとお思いですか?初代皇帝が第一子、第一皇女練白旺です。私の立場は、幸いにして現在も高い位置にあります。何者も、我が言葉を決して蔑ろにはできません」

 

安心してお任せください、と言って微笑む彼女に、シンドバッドは苦笑し、全身の力が抜けるのを感じた。

 

「(ああ、敵わないかもしれない、彼女には)」

 

 

 

穏やかな気持ちで白旺を見送って数ヶ月。シンドリアと煌帝国は、同盟を結んだ。

 

 

 

 

 

同盟の締結後、白旺はたびたびシンドリアへ遊びに来た。何度も来る内に国民とはますます打ち解け、後に八人将と呼ばれる今はまだ幼い面々とも知り合い、シンドバッドとも仲良くなった。

1年も経てば、2人の仲は互いに呼び捨てを許す間柄にまで進展した。

 

しかしシンドバッドの胸中には、どうにも消せないモヤモヤ感が燻っていた。いつからかは自分でも分からないけど、何なのかは分かる。

 

「(これは、恋愛感情)」

 

常に凛として真っ直ぐで強い白旺に、いつの間にか彼は、恋焦がれてしまったらしい。

彼は困った。仮にも相手は妙齢の皇女、婚約者がいないとも限らない。万が一にも手を出したら最後、同盟関係が終わる可能性は否定できない。

 

シンドバッドは耐えた。耐えて耐えて耐えて耐えた。

 

 

が、限界だった。

出会いより1年半、シンドバッド24歳。彼は、嫌われる覚悟で卑劣な手に出た。

宴で白旺が飲む酒に、強い眠り薬を仕込んだのである。

 

 

「…眠いな」

 

何も知らずに酒を飲んだ白旺は、部屋に戻ってすぐに強烈な眠気に襲われた。彼女はそれを自分の疲労と信じて疑わず、普通に眠りに就いた。

 

 

 

深夜。かた、と小さな音が響き、白旺の居室の扉が開く。シンドバッドだ。時間を見計らってこっそりと入室した彼が白旺の様子を窺えば、気配に一切反応せず、ぐっすりと眠っている。そっと寝台に乗って彼女に跨っても、起きない。

 

「………白旺、すまない」

 

一言謝って、シンドバッドは服を寛げると、自身を取り出し扱き始める。彼は、自慰を行っていた。想い人に跨って想い人の顔を見ながら。物言わぬ寝顔でさえも、衝動を抑えられない彼には、十分な興奮材料だった。

 

「ん、ん、ぁっ」

 

努めて大きな声を出さずに手を動かす。ぐちゅぐちゅと水音がだんだん大きくなる。気付けば彼のモノは、ぬらぬらと濡れて、硬く勃ち上がっていた。

 

「ぁん、もうダメ、ふ、ぁ…あぁっ!?」

 

射精感が込み上げラストスパートをかけた矢先、彼はとてつもない衝撃を感じ、吐精してしまった。荒い息で視線を下に向ければ、自身が強く握られている。その握る手の先には。

 

「はく、おう……………?」

「人の寝室に忍び込んで1人で腰振るなんて、良いご趣味だね、シンドバッド」

 

想定以上に早く眠り薬の効果が切れてしまい、目を覚ました白旺の呆れた表情があった。

シンドバッドは、ザァッと血の気の引いた顔で、慌てて弁解を始めた。

 

「あ、えっと、嫌がらせのつもりとかでは絶対になくて、あの」

 

常日頃よく回る口は、肝心なタイミングでは全く仕事をしてくれない。彼は必死で言い訳を試みるも、ついには真っ赤になって、涙目で黙り込み俯いた。

 

そんな彼をじっと見つめると、白旺は怒るでもなく、尋ねた。

 

「お前は、わたしが好きなのか?」

 

急に問われたシンドバッドは目を見開くも、脳が質問を反芻し理解すると、再び俯いて答えた。

 

「好き、大好き、好き過ぎておかしくなりそうな程、愛してる。ずっと我慢してた、でももう無理だ。お前を想う気持ちが、抑え切れない」

 

話し出せば堰を切ったかの如く言葉が溢れ、涙も溢れて、止まらない。

 

「俺が1番でなくて良い、だから、俺を好きになってくれ………!」

 

矛盾した、変な言葉である。自分でも分かっている。ただ、彼の正直な心が最も反映された言葉でもあった。

白旺は、ゆっくりと体を起こし、シンドバッドの頭を優しく撫でた。

 

「わたしが1番に愛するのは、死んだわたしの片割れ。今後誰が現れようとも、1番は彼以外にあり得ない」

 

白旺は、愛している。自分を置いて死んだ双子の弟を、心底愛している。彼の他には誰も、彼女の最も愛する人にはなれない。

 

「2番目以降で良いとお前が言うなら、わたしはお前を好きになってやる。せめても2番になりたいと願うなら、お前のがんばりをわたしは受け止め見守ろう。…………………永遠にトップにはなれなくても、お前はわたしを好きでいたいか?」

「好きで、いさせてくれ」

 

シンドバッドは、戸惑わなかった。迷わなかった。

 

「お前の片割れには、白雄皇子殿下には、敵わなくて良い。だから、好きでいさせてくれ。好きになってくれ。頼む」

 

ようやく伝えられた想いに、彼は胸がスッキリする気がした。長い間燻っていたモヤモヤは、綺麗に吹き飛んだ。

シンドバッドは笑う。涙に濡れた顔で。僅かな悲しさを滲ませて、綺麗に笑う。

 

一方、目の前の何かを吹っ切ったかにも見える男に、白旺は言い知れぬ愛おしさを感じた。

そっと頬に手を伸ばして相手の頭を引き寄せ、彼女は衝動的に、シンドバッドにキスをした。

 

「!?!?!?」

 

唇を重ねるのみの、浅いキス。とは言え前触れも無く口付けられて、シンドバッドはパニックを起こす。

全身を真っ赤に染めて慌てる彼に、白旺は唇を離し、くすりと微笑んだ。

 

「お前の覚悟、確かに受け取った。わたしもお前を、少しずつ愛していくとしよう、愛しいシンドバッドよ」

「い、いと…!?」

 

恥ずかしさのあまり固まるシンドバッドを抱きしめて、ベッドに押し倒す。耳を軽く舐めてやれば、体が震え小さく声が出た。

 

 

「わたしの愛に、溺れろ」

 

 

 

 

そうしてシンドバッドは白旺に抱かれ、深くてドロドロした愛に嵌まり、溺れていった。

 

 

 

醜くて偽善的で性質の悪い愛は、シンドバッドがズル賢い王に成長しても、白旺に恋人ができて2番目の枠が埋まっても続いた。大人にも子供にも成り切らない、見かけばかりが綺麗な、グチャグチャの愛情。

 

 

永久ではないと知りながら、彼らは今日もまだ、現実から目を背け続ける。

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