「御子がお生まれになった!双子の御子が!」
ここは、極東の小さな国。名は煌国。
煌王練白徳とその妃玉艶の間に、初の子が誕生した。知らせは瞬く間に国中を駆け巡り、後継者の誕生に、皆が沸いた。生まれたのは男女の双子。双子の姉は白旺、弟は白雄と名付けられ、健やかなる成長を期待された。
双子は非常に仲が良かった。容姿はそれなりによく似ていて、同時に思考回路も基本的にはよく似ていた。武においても文においても揃って優秀で、いつも一緒に行動した。2人とも、まず最初に探すのは片割れの姿。何もかもがかなり似ていて、しかし少しばかり、白旺は甘えん坊だった。
白雄が白旺にくっつく以上に、白旺は白雄にくっついてベタベタと甘えた。甘えん坊の癖に強がるらしい彼女は、怖くても苦しくても悲しくても、父や母ではなく白雄のみを頼り彼にのみ甘えた。弟の白蓮が生まれても、頼りがいのあるしっかり者の姉という面が増えただけで、それは何も変わらなかった。そんな彼女の心境を最も理解するのはやはり片割れたる白雄で、彼は文句も言わず、己に甘えくっつく姉を存分に甘やかし構った。
「白雄~」
「………」
「オーイ白雄さーん」
「……………」
「はーくーゆーうー」
「ちょ、おも、上に乗るな!!」
「暇だ構え」
「…鍛錬と勉強は?」
「とっくに終わった、さあ構え遊べ」
「分かった、分かったから全体重をかけるんじゃない!!!」
「あらまあ、本当に白旺と白雄は仲良しね」
「母上は見てたなら止めてください」
喧嘩はしなかった。白旺は白雄がとにかく大好きだし、白雄も白旺がいると落ち着いた。イライラしても、彼女が側にいれば安心できた。周りは彼らを微笑ましく見守った。2人は健やかに育った。
白雄にとって白旺は、優秀なのに手のかかる姉。でも他の誰より信頼してもいた。他の誰も知らない面を、彼は知っていた。寝るのも一緒、湯浴みさえも一緒。お互いがお互いを、別の存在ではなく、一心同体と信じ込んでいて。決してそうではないと彼が理解したのは、生まれて初めて、片割れの異常性を垣間見た日であった。
煌は小国と言えど今後の成長を見込まれる国。災禍の火種は消すべしと、各国に警戒される国。10歳になった白雄は、何処の国の命を受けたか、少し外へ出た隙に誘拐された。良からぬ男たちは、どうやら殺害の依頼なのか、刀を持っている。多勢に無勢、力では敵わない。
しかもよりによって男たちは、白雄の「顔」に目を付けた。幼くとも整った容貌。彼らは、殺す前に残酷な方法を選んだ。
そう、彼を、白雄を犯すことを。
城下より随分遠く離れてしまい、捜索隊も未だ彼を見つけられない。暴れても暴れても逃げられず、着物を肌蹴られ全身を無遠慮に触られる。
「(気持ち悪い、嫌だ、誰か助けて、誰か、白旺!)」
そのとき。白雄の前にいた男が声も無く倒れ伏す。次に、後ろの男が呻き声と共に倒れた。よく見れば彼らの喉に、針が刺さっている。
「わたしの白雄を殺すのは許さない。まして犯すなんて絶対に許さない。全員、生きて逃げられると思うなよ?」
ふわりと音も無く、彼女は彼の前に降り立ち残りの男たちを見据えた。
「はく、おう?」
どうしてここにいるのか、1人で来たのか、どうやって自分を見つけたのか。問おうにも、声は言葉にならない。白旺は振り返り微笑むと優しく彼の頭を撫でる。
「待たせて、怖い思いをさせてごめんな、白雄。どうか少しの間、目を閉じて、耳を塞いでいて。すぐに終わらせる」
何を、とは聞かなかった。彼が言葉に従い目を閉じ耳を塞ぐと、白旺は鋭く男たちを睨む。
この少女は、本当に子供だろうか?
リーダー格の男は、つい、そんな考えを頭に浮かばせた。突き刺さる視線が、怖い。まるで何もかも見透かされるようで。体内を抉られるみたいで。震える体を、足を、一喝して逃げようとする。
「逃がさないって、さっきわたし、言ったよね」
それを、彼女は許さない。およそ可愛らしい顔立ちに似つかわしくない剣捌きで、男の首は、胴を離れた。
「もう大丈夫だよ白雄。帰ろう」
「………うん」
白旺が血塗れでも、別に怖くない。自分を護るために戦ってくれた強い姿は、むしろ凛々しく美しかった。
ただ彼の脳裏には、薄目を開けて見てしまった、彼女の表情が焼きついていた。
愉悦の笑みを浮かべて人を殺す、あれは一体、誰?
答えは出ない。ソレが彼に伝えるのは、彼女が自分とはどこかがあまりにかけ離れている、そういう事実だけだった。