独自解釈やオリジナルの登場人物が出たりしますので、予めご了承下さい。
第一話「大きな背中」
日曜の朝。
僕はいつも通りにアイツに起こされる。
「おっきろーっ!」
「日曜日くらいゆっくり寝かせてよ……」
布団がやけに重たく、寝返りすることができない。
多分――いや、絶対に上に乗っかってるな。
「もう、こんないい天気なのに、いつまでも寝てるなんて勿体無いよ?」
「うん。分かったから、もう起きるから。だから上から降りて下さい。重たくて死にそうです……」
「えー、海未ちゃんに痩せたって言われるよー?」
そういう問題じゃなくて。
「いいから、早くどいてって。起きるに起きれないからさ」
「あ、ごめん。気付かなかった」
あははは、と笑う。顔は見えないが恐らくは、苦笑を浮かべつつ頭を掻いてるに違いない。
スクールアイドルをしてるくらいだから確かに見た目は悪くない。が、残念なことに中身の方はどうにも見た目と伴っていないのが、この幼馴染の穂乃果という子だ。
「それより、今日はライブじゃないのか?」
ようやく上体を起こせた僕が尋ねると、穂乃果は満面の笑みを浮かべながら見つめてくる。
そして、嫌な沈黙が流れる。
「あ……」
「あ、じゃなくて、やばいじゃん。何時からだよ?」
「えーっと、お昼過ぎかな?」
今度は僕が固まった。
「え……まだ八時だよ?」
「よかったー、全然間に合うね!」
紛らわしいにも程がある。
短い緊張が解け、急激に襲った体の熱が汗と共に霧散して行く。
「それじゃあ目が覚めたみたいだし、朝ごはんを食べに行こっか」
穂乃果はそう言いながら立ち上がる。
もしかしたら、さっきのは演技だったのかもしれない。時々そう言った狡猾な部分も見せてくるからこそ、この幼馴染は侮れなかったりする。
「朝ごはんって――ああ、ウチの親は海外だったか」
僕の両親は度々この国を離れる。貿易関係の仕事に就ている父親に母親が着いて行くって形だ。
そんなことが許されるのは、隣の高坂家の人たちが原因だ。
「はぁ……穂乃果の両親には頭が下がりっぱなしだよ」
「困った時はお互い様、だよ」
「ウチの両親が甘えてるだけだけどな」
屈託のない笑みを向けてくる穂乃果と同様、彼女の両親も「気にしなくていい」と言ってくれる。
有難い。すごく有難いのだが……それでいいのだろうか、と考えてしまう自分もいる。
「先に行って待ってるから、歩(あゆむ)もはやく来なよー」
忙しない足音が遠ざかってから僕は着替えを始めた。
まだ大丈夫、とダラけている穂乃果を引っ張って家を出た僕たちは並んで歩いていた。
「もう、歩はせっかち過ぎるよー」
「何があるか分からないんだし、少し早めに出るのは当然だろう?」
中学時代まではこうやって登校することもあったな、と懐かしい気分を感じていると穂乃果もそう考えたのか、「懐かしいよね」と口を開く。
「昔はこうやって学校に行ってたよね」
「まあ、中学の頃はバラバラなことの方が多かったけどな」
小学校を卒業するまでは、ほぼ毎日と言ってもいい程に一緒に行っていたと思う。
「でもさ、あの頃に比べたら穂乃果は変わったよな」
「え、そうかな?」
「今じゃ全国的に有名なスクールアイドルの一人だからな、少しだけ遠くの存在に思えることがあるんだよ」
言えないけど、学校で自慢したこともあった。
「ははは、大袈裟だよ」
「そうでもないよ」
羨ましい程にパソコンの画面の中に映る幼馴染は輝いて見えたんだ。
「頑張れよ、今日のライブ」
道の少し先に園田たちの姿が見え、僕は足を止めてそう告げる。
「うん、ありがとう。行ってくるね!」
遠ざかる背中が何故か大きく見えた。離れれば離れる程に。