第二話「頑張れる場所」
穂乃果たちの通う学校で開催されたライブは大盛況の内に幕を閉じた。
周囲の観客らは興奮が冷めまない、といった具合で九人が舞台から去った後も湧き上がり続けている。
確かに僕の心も高揚感を伴っている。伴ってはいるのだが、それ以上に舞台の上で輝いていた幼馴染へ募らせてしまった複雑な感情が先立って頭に浮かんでしまう。
「はぁ……ダメだな」
アンコールのアンコールを求める声が起こる客席の脇を抜けて講堂を後にする。
扉を閉めてからも、その歓声は廊下にまで響いてくる。
「ほんと、すごいな」
自分のことでもないのに、何故か僕は笑っていた。
心のどこかで嫉妬している自分を嘲笑してしまう。
「あら、来てたの?」
扉に背を預けた時、どこかで聞いたことのある声が聞こえてくる。
「あ、お久しぶりです」
「ふふ、すっかり大きくなったのね。男子三日会わずはなんとやら、って感じかしらね」
口元を手で隠しながら上品な笑みを浮かべる。
声だけでは朧げだったけれど、その上品な立ち振る舞いをする女性の姿を見ると、途端に誰なのかを悟らされる。
「南、すごく楽しそうでしたよ」
「見なくても分かるわ。この声を聞いてればね」
「本当にすごいですよね。少しだけ羨ましく思っちゃいますよ」
「あら、あの子たちのメンバーに加わりたいの?」
詳しい歳は知らないが、それでも茶目っ気たっぷりに笑って見せてくるその顔はとても若々しく見える。
「やめて下さいよ。僕にはスカートの丈が短すぎますって」
「いい切り返しね」
「南のお母さんこそ、娘さんに負けてないですよ。今度のライブは南の代わりに出てみたらどうです?」
「うーん、それもいいわね」
穂乃果を経由して南や園田とも昔馴染みであり、そのお陰で母親たちとも、こうしたやり取りもできたりする。
すると、講堂内から一層大きな歓声が響いてくる。
「また始まるみたいね。入らなくていいの?」
「いえ、なんか今日は素直に楽しめないんですよね……」
相手が大人だからなのか、自然と胸のつかえを吐露してしまう。
「理由はハッキリとしてるの?」
「ちょっと複雑なんですよね……嫉妬みたいなんですけど、どっか焦ってるようでもある、みたいな。うまく言えないですけど」
「うーん……そうね、少しだけ分かる気がする。急にあの子たちが遠くに行ってしまったように思えるのよね」
穏やかに見えてどこか寂しげな笑み向けられてくる。
恐らくは僕の心境を理解してくれたのだろう。
「でも、そのうち歩(あゆむ)くんにもきっと頑張れる場所が見つかると思うわよ。そこで輝けばいいんじゃないのかしら」
一転して明るく微笑みかけてくれる南のお母さんは僕の思考よりも先に、このもどかしさを払拭する方法を示してくれた。
「頑張れる場所、ですか」
「うん。多分だけど、その嫉妬ってあの子たちが頑張れてることに起因してるんだと思うの」
目から鱗とはこのことだ、と僕の心は幾分か軽くなった。
「そういうことだったのか……」
「少しはお役に立てたかな?」
「はい。少しなんて程じゃないくらいに」
「良かったわ」と柔らかい表情を見せてくれる南のお母さんと共に、幼馴染が見つけ出せた頑張れる場所で輝きを放つ姿を見るため、僕は講堂内へと戻った。