※この作品はR-18です。

一色いろはは比企谷八幡を虜にしたい   作:暁英琉

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恋するいろはと諦めたせんぱい

一色いろはは俺にとってあざとい後輩である。いや、あざとい後輩であった。

 当初の印象としてはかわいくない小町かつ劣化版陽乃さんであり、且つ偽めぐり先輩且つ超強化型相模且つタイプ別折本であり、そんな奴を小町のためとは言え、生徒会長なんて言う役職につけてしまった時は余計な事をしてしまったと思ったこともあった。

 しかし、生徒会長就任という変化は彼女を変えた。いや、正確には彼女の新しい一面を俺に見せた。周り(主に俺)をうまく利用するあざとさなどは健在だが、意外と責任感が強く、生徒会の仕事では積極的に新しい企画を打ち出すし、最近では生徒会長に見合うようにと勉強にも力を入れている。プライドが高いように見えて大事なところでは頭を下げることができる。リアリストのようで、実は意外に感情的衝動的に動く面もあり、最近では時々素の表情を見せるようにもなってきた。素の表情と相まってかあざとい仕草も、その……かわいいと思わなくもない。

 

 一色いろはは非常に魅力的な女の子になっていた。

 

 最初は妹愛と同じようなものだと思っていた。少しずつスキンシップが増えてきても妹のようなものだからと思っていた。気がついたら奉仕部の彼女らとは別の特別な場所に、俺の中で彼女は存在していた。

 

 俺は一色いろはが好き。

 

 ふと、そう思うようになっていた。思って、いつも考えを打ち消す。それは今までもやってきた勘違いだと想いを塗りつぶす。しかし、塗りつぶしても塗りつぶしても想いは沸き続けた。

 しかし、一色いろはは葉山隼人が好きである。それは本人の口から明言されていることであり、俺自身何度もその実験台にされている。つまり、俺のこの想いがたとえ勘違いでなくても、この想いは彼女には届かない。届くはずがない。

 届かない想いならばいっそ封じ込めてしまおう。塗り固めてしまおう。溢れる想いを塗りつぶし続けよう。

 

 一色いろははかわいい後輩である。

 

 

*   *   *

 

 

 せんぱい、比企谷八幡はよくわからない人です。

 最初の印象は最悪でした。目つきは悪いし、無愛想だし、挙句の果てに生徒会長になりたくなくて訪ねた私を屁理屈こねて会長にしてしまいました。まあ、最終的に決断したのは私ですけれど。

 けれど、いろいろと仕事を手伝ってもらっているうちに彼の意外な一面を見ることができました。なんだかんだ言いながらも私が困った時は助けてくれる面倒見の良さ、普段は女心に疎いくせに妙なところで心をくすぐってくるあざとさ。実は勉強も仕事もスポーツもそこそこできるセンス、どんな私にも変わらず接してくれる器の広さ。

 私が知ったせんぱいは文化祭の時に聞いた噂の人物像とは違っていて。知れば知るほど私はせんぱいが分からなくなっていきました。

 そして、あの時部室で見せたせんぱいのあの表情、あの時聞いた言葉、声。

 それは私が満足していたと思っていた今までの私を否定されたようで、不思議と心に沁み込んでいったのです。

 

 私も欲しいと思いました。“本物”というものを。

 

 勝手に聞いた言葉に勝手に盛り上がってしまって、前からの想い人だった葉山先輩に告白して……あえなく撃沈。

 せんぱいは「お前が悪いわけじゃない」って言ってくれたけど、私が悪いんです。せんぱいの言葉にこんなにも感化されてしまった私が。振られても思ったほどショックを感じていない私が。

 自分の気持ちがわからなくなっていく。私は確かに葉山先輩が好きだったはず。頭脳明晰、運動神経抜群、容姿端麗、誰にでも優しい彼が。けれど、振られてしまったあの日、確かに流れた涙の意味に困惑してしまう私がいて。

 結局、私は“本物”を求めていたようで“本物”に手を伸ばそうとしていなかったんだ。

 気がつけば、私の目は自然とせんぱいを見てしまう。せんぱいに何かしらの口実をつくって会いにいってしまう。せんぱいが他の女の子と話していると心がもやもやしてしまう。

 こんなこと、いままでありませんでした。ひょっとしたら、今まで私は一度だって恋をしていなかったのかもしれません。だから、この感情が何なのかわかりません。けど――

 

 私は比企谷八幡が、好き。

 

 現実性のないはずの言葉がこんなにも素直に心に沁み込んでくるなんて思いもしませんでした。一度実感してしまうとどんどん想いが溢れて来て、心が破裂しそうなほど切ない。この想いをすぐにでもせんぱいに伝えたい。

 

 けれど、せんぱいがわたしのことを好きだとは思えない。

 

 私の周りに今まであんな人はいませんでした。確かに迫ってみれば照れたりしますが、いつも「あざとい」で一蹴されてしみます。黒歴史の中ではぐくまれた彼の理性が一線を越えないようにセーブしているのか、単純に私に脈なしなのか、それがわからないです。恥ずかしくて、デートの名目も「葉山先輩との予行演習」なんて言ってしまう私にも非はあるのでしょう。デートに誘うのがこんなに恥ずかしいものだなんて考えたこともありませんでした。

 こんなに苦戦、苦悩する恋愛は初めてで、いやむしろこれが本当の恋愛なのかと思うと妙に納得してしまいました。

 

 私はせんぱいが好き。

 

 私はせんぱいが好きです。

 

 せんぱいを、分かりたい、です。

 

 

*   *   *

 

 

「せ~んぱい!」

 放課後、部室で読書に励んでいるといつも通り一色がやってくる。別に来ること自体は構わないと思うが、こいつサッカー部にはちゃんと行っているのだろうか。生徒会関係で葉山を頼った様子もないし。

「どうした、一色?」

「ちょ~っと手伝ってほしいことがありまして~」

 ちらっと雪ノ下を見る。俺が一色に呼び出されるのは毎度のことだ。幸い最近は特に奉仕部の仕事もないし、意外に押しの強い一色に雪ノ下も半ばあきらめてしまっているようで、目で行ってもいいと返してくる。もちろん、俺に拒否権はない。

「はぁ、じゃあ生徒会室行ってくるわ」

 雪ノ下と由比ヶ浜に見送られて、俺は一色と共に生徒会室に向かった。

 

 

*   *   *

 生徒会室には誰もいなかった。

 一色が言うには、他の役員が帰ったところで生徒会顧問から緊急の仕事を回されたらしい。見てみると、明らかに一人ではこなしきれない量だ。これを一人でやらせるのは、生徒会長に推した人間として許されない。

 会長に就いた当初は仕事中に雑談ばかりして手を動かさないことが多かった一色だが、最近は雑談も少なめにしっかりと仕事をこなすようになっていた。不慣れだった書類仕事のペースもこの数カ月でだいぶ上がってきたように思える。それが嬉しく、微笑ましい半面、頼られる時間が少なくなるのではと思ってしまう自分がいて、それを理性の海に沈める。

「お疲れさん」

「ふう、お疲れさまでした」

 ぱっと見はかなりの量だった仕事も、やってみるとあっという間に終わった。時計を見るとまだ奉仕部は活動している時間だ。戻ろうと思い席を立つと、袖を弱弱しく掴まれる。

「ぁ……」

 振り返ると申し訳なさそうに俺の袖を掴む一色がいて、一瞬ドキリとする。

「どうした?」

 なるべく平静を装う俺に、一色は一瞬悲しそうな笑みを浮かべた……気がした。

「あの、ですね。その、葉山先輩のための、練習を……」

 いつもの常套句だ。間接的にとはいえ、一色が葉山に振られてしまったのは俺のせいもあるのだから、断ることはできない。多少塗り固めた心にひびが入りそうになるが、すぐに塗り固め直す。

 実際、対葉山の予行練習の相手になることは多かった。デートだったり、弁当を作ってもらったり、雰囲気作りだったり、軽いボディタッチだったり。事前に練習だと分かっていれば、理性の海の水かさを増やすことで、対応できる。間違いは起こさない。

「わかった。それで、今回はどういう練習なんだ?」

 

 

*   *   *

 

 

 今回の“練習”は「炬燵で隣に座って意識させる作戦」らしい。

 一色の私物として生徒会室に置いてある炬燵。四方面あるうちの一辺に隣同士で座る。

「…………」

 炬燵に入ってから、一色はもじもじとするだけでなかなかアクションを起こしてこない。あれか、いつもとは違うしおらかな態度で相手を誘惑する練習なのだろうか。もしくは練習とは言え、炬燵で異性の隣に座るのは、いかな一色でも緊張してしまうのだろうか。後者なら、まあ、悪い気はしない。

「…………」

「……一色?っ!」

 袖をくいと引かれて振り向くと一色の顔が近い。頬は浅く上気し、その表情は今まで一度も見たことのない艶やかなもので、思わず息をのむ。

「せんぱい、私、今、ドキドキしてます……。すごく、ドキドキ、してます……」

「あ、あぁ……」

 艶のある声。じっと俺を見つめる瞳。それが愛おしくて愛おしくて仕方がない。もう少し近づけばその柔らかそうな唇に触れてしまいそうで、壊してしまいそうで、すごく、怖い。

「せんぱい、キス、したいです……」

「っ! 一色!」

 唇が近づいてくる寸止めをする気配が感じられず、再び崩れかけていた想いは瞬時に塗り固め塗りつぶされ、理性の海は一気に満潮になる。一色の肩を掴み、少し強引に突き放した。

「ぁ……」

「そういうのは、葉山にとっておけ」

 悲しそうに悔しそうに唇をかむ一色を直視できなかった。そんな顔するなよ。お前は葉山が好きなんだろ? 俺相手に、そんな顔をしちゃいけないんだよ……。心が、感情が悲鳴を上げているが、無理やり抑え込む。

「葉山も自分への練習のために別の男とキスをしていたなんて知ったら、良い思いはしないだろう」

 時計を見るともういい時間だ。奉仕部の方もすでに終わっているだろう。

 一色とのこの関係をやめたくないという自分がいる。こいつといると楽しい、こいつが笑うとうれしい。けれど、俺が近くにいたら、こいつのためにならないと思う自分もいる。恋愛の練習台でキスをするように人間関係はあってはならない。進んでしまえば、戻れなくなる。

 だから、そうなってしまう前に――

「そんなことをする奴は……俺も、嫌いだ」

 ここで終わらせてしまおう。

「っ……ぁ……」

 一色の顔を見ることなく、手早く鞄を掴むと部屋から出ていく。

 俺のこの隠し続けた想いは想いを抱いた時点で届かないものだと分かっていた。分かっていながら離れられなかったのは、俺の心の弱さなのかなんなのか。ともあれ、これで俺達の関係は解消。遺恨は残るだろうが、一色ももうむやみに俺に近づくことはないだろう。

 悲鳴を上げ続ける心が俺の中で暴れ続けて、表に出さないように堪えるので精いっぱいだった。どうしてこんなに悲しいのか、どうしてこんなにも苦しいのか、あるいはこの想いは今までの艦違いとは別物の“本物”だったのかもしれない。けれど、もはやそれも過ぎたことだ。この“本物”は掴めない。掴んではいけない。やがて、この“想い”も“記憶”になり、未来の自分が無感情に眺めるアルバムの一ページになるのだろう。その程度のものなのだ。その程度のものだから、早く暴れるのをやめてくれ……。

 下校時刻もぎりぎりの時間、廊下には俺の足音だけが響く。一色を置いてきたままだが、一人で返して平気だろうか。冬至を過ぎてもまだまだ日が沈むのは早い。誰かに送ってもらった方がいいのではないか。一色との関係は終わったはずなのに、気がつくと変わらず彼女のことを考えてしまっている自分に苦笑どころか嘲笑が沸いてしまう。

 暴れる心を抑え込むのに必死で、自分を嘲ることで自己を保つことに必死で、近づいてくる軽い足音に気付かなかった。

「っ!?」

 背中に抱きつかれる。結構な勢いがあったかのように感じたが、ぶつかってきた衝撃は想像以上に軽く。こんな軽い身体に俺の身勝手で役職を押し付けたのかと思うと、心がまた強く暴れた。

「一色……」

「いや……です。嫌いに、ならないでくだ、さい」

 弱弱しい声にじんわりと背中に広がる湿った熱、かすかに聞こえる嗚咽。なんで俺に嫌いになられただけで泣いてるんだよ。俺なんてお前の周りいる有象無象の男の一人にすぎないだろ? 泣くなよ。いつも通りあざとい一色いろはに戻れよ。

「嫌われたく、ない、です……。せんぱ、いには……せんぱいだけ、には。他の人たちに、嫌いに、なられても。せんぱいに、だけは、嫌いになって、ほしく、ない。葉山先輩に、嫌いに、なられても。せんぱいには……私は、私は……」

 やめろよ。葉山に嫌われてもなんて思ってもないこと言うんじゃない。お前は葉山が好きって言ってたじゃないか。俺から見てもお似合いだよ。だから、そんなこと言うんじゃない。

「私は、せんぱいが好き、です。私は、せんぱいだけが、好き、なんです……」

「……軽々しく好きなんて言うんじゃない。俺は、お前のことが嫌いだ」

 その「好き」は俺に向けられるべきじゃないだ。俺には相容れないものなのだ。わかってるだろ、心の中の俺。だから、だから、そんなに歓喜に震えるなよ。俺の中で暴れるなよ。俺の口にした「嫌いだ」事実として偽れよ。自分を騙せよ。嘘で、虚偽で、欺瞞で、自身を覆い尽くして奥底に沈めよ。

 何度も何度も塗り固めても塗り固めても想いが溢れる。理性の海は急激な速度で水底を見せようとしている。やめろ、やめろ、やめろやめろやめろやめろ。この想いは外に出しちゃいけないんだ。伝えちゃいけないんだ。理性の化物だろう? 自意識の化物だろう? こんなこと簡単にできるはずだ。だから、やめろ、やめてくれ……。

「嫌いなんて、嘘です。本当なら、なんでそんなに悲しそうな顔するんですか」

「一色……俺、は……」

 もう、感情を抑えるには理性が足りなさすぎた。心の暴走は止まらないし、海は急速に干上がる。海水が戻ってくる様子もない。塗り固めて沈めたはずの想いは、醜くも優しく溶けきってしまった。

「私は、せんぱいが好きです。葉山先輩じゃなくて、せんぱいが好きです。せんぱいと見つけたいんです。私の求めている“本物”を」

 一色の声が、吐息が、想いが、俺を優しく包み込む。干上がった海に溢れる溶けきった想いを彼女の手ですくい上げられる。もはや理性なんてなかった。あったのは抑えの利かなくなった想い。

「ほら、泣かないでくださいよせんぱい。せっかくの良い顔が台無しですよ」

 言われて頬に手を当てると、生温い湿りの流れに触れた。いつから涙を流していたのだろうか。涙を流してしまうほど、俺はこの女の子、一色いろはが好きになっていたのだと気付かされた。

「私は、せんぱいをもっと知りたいです。もっと分かりたいです。もっと、近くにいたい、です」

 ここまで来てしまったら、恥も外聞も建前も言い訳もあったものじゃない。ただ素直に、この想いを伝えたかった。

「俺も、いろはが好きだ。もっと知りたい。もっと分かりたい。誰よりも近くにいたい。誰にも渡したくない」

「ふふっ。せんぱい、独占欲強すぎますよ」

「けど、本当の気持ちだ」

 どちらからともなく目を閉じる。冷たい空気も気にならないくらい、お互いの呼気を感じる。やがて、お互いの吐息がどちらのものか判別できないほど近くで混ざり合ったとき。

「ん……」

 俺達の距離はゼロになった。一瞬のような、永遠のような時間だ。唇から一色の熱が伝わる。それがすごくうれしかった。唇を触れあわせるだけの行為がどうしてこんなに心に沁み込み、満たすのだろう。ひょっとしたらキスは人に許された唯一の麻薬なのではないだろうか。こんなものを知ってしまったら、きっともう戻れなくなったしまう。

「ぁ……」

 時間にして数瞬。しかし、俺達にとっては数時間にも数日にも、数年にも感じた時間だった。それなのに、名残惜しく感じてしまい、そこに気恥かしさを感じてしまう。

「せんぱい、顔真っ赤ですよ?」

「お前は人のこと言えねえよ」

 どっちもどっちだ。お互い、つい笑いが漏れてしまう。泣いたり、笑ったり、艶が出たり、あざとかったり、かわいかったり、一色の表情全てが愛おしかった。

「これからよろしくな、いろは」

「はい、せんぱい」

 自然、再び唇は交わった。

 




一色欲が溢れすぎて日常生活に支障をきたしそうだったので想いのままに書いた結果

たぶん文章とかごっちゃごちゃしてるかもしません


全部一色がかわいいのがいけない いろはす! やばい! 周辺店舗のいろはす買い占めてしまいそう

次の予定は未定ですが、一色には積極的に八幡にアプローチをかけてもらう予定です
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