昨日、恋人である一色いろはと初キスをした。途中から理性が飛んでめちゃくちゃディープキスした。理性の化物仕事して! いや、仕事してた反動なのか。
愛情表現の仕方がいまいちわからない。どこまで相手が求めていて、どこから相手が嫌がるか、その基準が掴めないのだ。だから、付き合ってからしばらく、我慢をしていた。その結果、一色には奉仕部に頼るまでの不安を与えてしまったし、俺自身我慢の反動で歯止めが効かず、思いがけず深い行為に発展してしまった。まあ、それでもキス止まりなんですけどね。
一色は、どこまででも受け止めると言ってくれたし、嫌ならちゃんと拒絶するとも言ってくれた。あまりの嬉しさに昨夜はベッドの中で一人悶絶していた。喉が枯れるほど叫びたかったが、隣に受験生がいるから我慢した。八幡マジ我慢の達人。
で、キスなのだが……あれはやばい。
初めての時の唇を触れ合わせるだけのものですら想像を絶する快感に見舞われたのに、口内粘膜同士での触れ合いは、もう思考が完全に停止してしまった。ただひたすら快楽を求める獣だった。行為の後一色に引かれるのではと恐怖してしまうほどだった。
まだ俺の口器官のいたるところに一色の感覚が鮮明に残っている。身体が覚えてしまった、覚醒めてしまった。本当にキスは麻薬だ。こんなの依存しないわけがない。
夜はほとんど眠れなかった。身体が、心が、もっと一色が欲しいと、もっと深く深くつながりたいと求めていた。
一度溺れてしまった依存から抜け出すのは至難の業だ。しかも、依存対象が受け止めるなんてうれしいことを言ってくるおまけつきである。抜け出す気すら起きない。
早く会いたいなどという恋する小学生みたいな感情を心に抱き、いつもより早く学校に向かおうと扉を開ける。
「お……」
「あっ……」
ちょうどチャイムを鳴らそうとしている一色がそこにいた。目が合うこと数秒、お互いどちらからともなく耳まで真っ赤になる。
「……どうした、こんな朝早くに」
努めて平静を装うとしたが、そもそもすでに顔面クリムガンなのであまり意味がない。顔あっつ。
「い、いえ、その……せんぱいに早く会いたいな~って、できれば一緒に登校したいな~って……思い、まして」
両者再び真っ赤。原色の赤より紅い。今なら蛇睨みで雪ノ下もマヒにできそうだ。いや、無理。ちなみに夢クリムガンはオノノクスの完全劣化。なにあれ、夢なのに弱い。
「それにしてもせんぱい、寝てないんですか? 目の下に隈できてますよ?」
「あ、あぁ。ちょっと寝付けなくても」
お前とのキスが忘れられなくて寝れなかったなんて言えないでしょ。つい口滑らせたりしたら、恥ずかしさのあまり千葉ポートタワーからの飛び降りも辞さない。ちなみに実際やったらもはやギャグなので地面に俺型の穴が開いて、さらに嘲笑にさらされる。逃げ道ないから絶対口滑らせないようにしないと。
「ひょっとして、私のこと考えてくれてました?」
「っ!?」
一色の声色は、表情は子供っぽい悪戯っぽさを内包しながら、艶があり、まるで何かを求めているかのように瞳は潤んでいた。正直、我慢の限界だった。数年で築き上げた理性の化物は一色に対して何の効果も発揮しなくなっていた。
「せんぱい、私のこと、私とのキスのこと考えて眠れなくなっちゃったんですね? ふふっ、顔に出てますふぇっ……んんっ!?」
次の瞬間には獣になっていた。家の前で、朝の屋外で、夢中になって一色の唇を貪った。一晩おあずけを喰らっただけでこれだ。こんなことでは四六時中一色と一緒にいなくてはいけなくなってしまう。それもいいかなと思ってしまう自分もいるわけだが。
「いろは……」
「せんぱい……」
一度離れた唇。互いの潤んだ瞳。どちらからともなく再び目を閉じて――
「はわ、はわわわっ……」
硬直。世界が固まった。そういえば、ここ玄関でしたね。両手で真っ赤になった顔を覆って、しかし指の隙間からがっつり見ている小町と目が合う。
「お、お、おおおおおにいいいちゃんが……た、たたたたただれた関係をををを……」
「おい、小町……?」
Pepper君だってもっとスムーズな動きをするのに、今の小町はギシ、ギシと音が聞こえてくるくらい不自然な動きで回れ右。そのまま両手を地面に付き、クラウチングスタートの体勢。
「結衣さああああああん! 雪乃さあああああああん! お兄ちゃんがあああああああああああああああああああああああああああ!」
「ま、待て! 待って小町!!!」
ボルトもびっくりの速度で走っていく我が妹をチーターもびっくりの速度で追いかけて、その後めちゃくちゃ説得した。こんなのあいつらにばれたら登校した瞬間に死ぬ。物理的に死にかねない。
なんとか小町を説得して玄関に戻ってくると、一色は塀の隅で超高速首振り機になっていた。なんだあのかわいい生き物。
* * *
「朝から疲れた……」
「ははは……」
一色の顔はまだほんのり赤い。俺もたぶんまだ赤いのだろう、二月だというのにマフラーいらないんじゃないかってくらい首から上が熱い。
「けど、今回は見られたのが小町ちゃんだったからまだよかったですけど、いきなり外でキスはやめてくださいね? 私も、その、恥ずかしい、ですから……」
自分で言ってて自分で赤面していれば世話ない。というか、最近あざとさどこ行ったの? 一挙手一投足全部かわいいんですけど。
いろいろあって予定より遅くなったが、まだいつもよりはだいぶ早い。学校につくと、朝練の運動部以外はちらほら生徒がいるくらいだった。自転車を置くと、昇降口に向かう。学年の違う一色とはここで別れるわけだが、一色は一年の下駄箱に向かう様子がない。きょろきょろとあたりこ確認する一色に首をひねっていると、一色が背伸びをして、俺の耳元に口を近づける。
「せんぱい。また後で、キスしましょうね?」
「っ!?」
……まったく、この後輩は……。
「? せんぱい? きゃっ!」
一色の腕を優しく掴むと、ついてくるように促す。向かったのは中庭の片隅、低木の陰になっているそこは、ほとんどの角度から死角になっていた。
「まったく、そんなこと言ったら、今したくなっちゃうだろ?」
「ふふふ、せんぱいかわいいです。いいですよ、しちゃいましょ? あ、けど軽くですからね?」
一色が受け止めてくれることが嬉しい。思わず口角が緩んでしまう。ゆっくり近づいた距離はやがて零になる。
「ん、んちゅ、ちゅっ、んぇ、むぁ、れろ、ぁぅ、れぅ、ん、んんっ……」
昨日の一方的に俺が求めてしまったあれとは違い、一色も俺の口内を犯す。獣のような、それでいて人間味あふれる愛にあふれた行為。お互いの口内を舌が往復し、唾液の交換を行う。
「ぴちゅ、ゃ……ん、あっ、ちゅむっ、ちゅ……ぷはっ」
互いの唇が離れる。もう少し触れていたら危なかったかもしれない。ただでさえ薄くなっている理性が溶けてしまって一色を押し倒し、その唇を願望のままに貪っていたかもしれなかった。
「……ふぅ、続きは、また後でですね。せんぱい」
「あ、ああ……」
呼吸を整えて、中庭から出る。そんなに時間をかけていたわけではないはずだが、生徒がぞろぞろと登校して来ていた。一色と別れて自分の教室に向かい、席に着くと同時に顔を机に埋める。いつもの外界からの情報を遮断する意味合いもあったが、それよりなにより、自然とにやけてしまう顔を止められなかった。
* * *
付き合い始めてから、一色はそれまで時々だった弁当を毎日作って来てくれるようになっていた。持ってきてくれるたびに、俺の好きなものや好みの味を探り、俺好みの弁当にしてくれる。その努力が素直にうれしかった。……あーんはさすがに恥ずかしくてやらせないが。
「ごちそうさま。うまかったぞ」
「お粗末さまです!」
お菓子作りが趣味なだけに、一色は料理もうまかった。見た目も考えて作ってくれるので、自然と食欲も沸く。
弁当を片づけると戸塚を見ながら他愛のないことを話す。一人で食べていた時は戸塚を見ながらパンを食べていたわけだが、最近ではついつい一色を優先してしまう。一色の弁当うまいしな。人の心だけでなく胃袋までしっかり掌握してくるとは、一色、恐ろしい子!
「せんぱい、ほんとに戸塚さん好きですよね~。彼女としてはちょっと妬けちゃいます」
「戸塚は天使だし、天使が嫌いな人類なんていないからな。ちなみに小町も天使。人類が100人の戸塚と小町だったら戦争なんて起こらない」
まあ、100人全員戸塚と小町だったら俺はもだえ死んでしまうに違いない。あ、戸塚と小町しかいないんだから俺いないじゃん。ダメだわこの過程。
「戸塚さんや小町ちゃんが天使だったら、わ、私は、その、先輩にとって、なんなんですか?」
「…………」
なにこの子かわいすぎでしょ。あれか、ひょっとして戸塚と小町に嫉妬してるのか? 何それかわいい。今のシーン高画質ハイビジョンカメラで記録して一日一回見たい。
一色は何かを期待するような、それでいて何かに脅えているような表情で見上げてくる。あれだけ愛していても、まだ不安なのだろうか。それだけ俺のことを想ってくれていると思うと悪気はしないし、愛おしくて愛おしくて、つい虐めたくなってしまう。
そっと一色を押し倒す。頭には手を添えてクッションがわりにしてやり、かわいらしい小さな耳に顔を近づける。
「ぁ、ぁの……せんぱぃ……」
「いろはは、世界一好きな女だよ。気がついたらいろはのことを考えてる。俺をこんなに骨抜きにするなんて、とんだ小悪魔だよ、お前は」
「ぁ……ぇっと……あの……ぁぅ……」
あうあう言いながらポカポカ胸を叩いてくる。ほんとなにこのかわいい生き物。もっと虐めたくなっちゃうじゃん。一色を正面に見据え、ゆっくり、殊更ゆっくりと顔を近づける。
「せ、せんぱいっ。テニス部に、見られ、ちゃいます、から……」
「へえ。じゃあ見られなければいいんだな?」
目線は泳ぎ、口は何か言いたそうにパクパクと動くが、言葉を発することはない。計算づくの生活を送ってきた一色が、こういう不意打ちに弱いことは知っていたが、これほど露骨な反応をするとは。八幡おかしな気分になっちゃうじゃないか。いや、すでにおかしな気分なんだけどね。
「じゃ、場所変えようか」
「んちゅ、ちゅぷ、れぅ、れろっ、せんぱい、せんぱいっ、にゅる、んん、あぅ……」
あの後、一色と一緒に生徒会室にいた。生徒会室の鍵は常に一色が持っているようで、一般生徒もそうそう近づかない。生徒会室を私物化するのはどうかと思うが、緊急事態につき不問ってことで。うん、俺達にとっては緊急事態だし。
「んんんっ、あん、はむ、れるっ、じゅるっ、ん、ぁっ、んんっ、んちゅ……」
生徒会室のど真ん中、本来なら仕事をする厳粛な空間で俺達は抱きしめ合いながら唇を重ねていた。厳粛な空気は霧散し、薄い靄のかかったような甘い空気に思考は曖昧になる。唇だけでなく身体中を密着させた俺達は、ひたすら相手の唇を、舌を、口内を貪った。五感はやがて意味を失い。口腔粘膜が混じり合う感覚のみが残る。
「れぅ、んむっ、はむっ、あっ、ぁむっ、んっ……んんっ! んんんん!!!」
舌に思いっきり吸いついてやると、一瞬一色の顔に苦悶の表情が浮かぶが、すぐに恍惚としたものに変わる。いけない征服感が俺を支配し、もっともっとこいつをいじめてやりたいという想いが頭を満たす。
「んぶっ、ひぅっ、んぐ、じゅるるっ、ぁぅっ、ぁひっ、ひぅっ、ひっ、えぐっ、ぇぁぁぁぁ……」
まだ、まだこんなもんじゃ足りない。もっとこの子を悦ばせたい。もっと俺で感じてほしい。俺は無意識に両の手を、彼女の背筋を耳にあてがう。
「ひぁっ、しぇんぱぃっ、しぇなかぁ、みみぃ、りゃめですぅ、んぁ、んちゅ、じゅるるるっ、ぴちゃっ、れろっ、ぁんっ、だからぁ、りゃめだってぇ……」
うわぁ、なにこの子エロい。なんてふやけた表情するんだよ。そんな表情されたら、ダメって言われてもやっちゃうだろ。俺は意識の赴くままに指を躍らせた。
「ひゃぁっ、ぁっ、ぁっ、ぁっ、せんぱいっ、しぇんぱぃっ、しぇんぱぃっ、んにゅっ、ちゅるっ、ぁぅっ、ひぃんっ……」
「いろはっ、いろはっ……」
断続的に上がる嬌声を押し殺そうと唇がさらに深くつながる。それでさらに快感は跳ねあがり、俺の舌も、指も歓喜に震え踊り、嬌声は音を増す。
「れぅっ、ぁんっ、ひゃっ、ぁっ、ぁっ、ぁっ、ふぁっ、んんんっ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁぁぁ~~~~~~っ!!」
限界まで密着する身体、空気の逃げ道すらないキス、口内に広がる彼女の嬌声。全てがかわいくて、愛おしくて、我慢ができなくて、最後に指を走らせる。
「~~~~~~~っっ!!!」
一層身を固くし反り返るほど背筋を伸ばした一色は、それでも唇の繋がりは解こうとせず、俺の頭に直接嬌声を響かせる。くらくらするほどの嬌声を俺に響かせると彼女は――落ちた。
「おい、いろは?」
「はぁっ、はぁっ……しぇんぱぃ?」
脱力してしまった彼女はその手足を気だるげに投げ出し、その目は虚ろでトロンとして、意識があるのかも怪しい状態だった。
――や、やりすぎた……。
昼休みの終わりを告げるチャイムの音はやけに遠い気がした。
やばいと思ったがキス欲を抑えきれなかった第二弾
というか、そろそろR-15タグ付けた方がいいかしら?
R-15タグは別にいいんだけど、R-18がついたら1話目も含めてR-18に移動するんですよね(よくわかってない
むむむ、なんか書いててどんどんエスカレートしそうな気がするの 書いてて楽しいし
けど、特に「恋するいろはと諦めたせんぱい」は皆に読んでほしいなーと思うのですよ
難しい 難しいよ