【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero- 作:あとろふ
第一回
Life can only be understood backwards; but it must be lived forwards.
人生は、後ろ向きにしか理解できないが、前を向いてしか生きられない。
Soren Kierkegaard
2075年、旧神奈川県近辺、現フェンリル極東支部管轄居住区。荘厳と聳えていた蒼白色の異形の大木ーーー旧ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティがその高貴な命と高尚な意志思想を贄に人類の終末を発現段階、萌芽のままに留保し続けていた奇蹟の産物、彼自身がその細く美しい一身を杯に、古今東西全人類の咎をなみなみと注がれ背負うイエス・キリストに例えられたのならば、螺旋の樹と呼ばれたそれは彼と彼の背負う罪、全人類の遺した文明記憶全てを束ね釘打つ十字架に例えられようーーーは、緑豊かな人類最後の安住の地、聖域と姿を変えた。それが"上"、そう、フェンリル本部の公式声明だが、此処では未だ人の住む廃墟が乾ききった砂嵐の大河に膝まで浸かりながら誰も彼も軒並み世界の黄昏に打ちひしがれている。時折吹く軽くも強い風に力なく弄ばれる、開けられることも閉じられることもはるか昔の記憶にのみ置き去ってしまった扉か窓かと、得体の知れない廃棄物、足元を音もなく流れる砂塵以外に動くものはほぼ何もなくーーーむしろ唯一動きを見せるそれら全てが、この世界の時間が止まってしまっていることを告げる掲示、一つの喩えとして、電波を失ったブラウン管に映し出されているノイズのようなもの、なのだとしたら、妙に腑に落ちるほどだーーー、かれら全てが"聖域"なんていった夢物語は何の気休めにもなりゃしませんよ、とでも言いたげな様相だ。喘息を起こしそうなほどに空気は悪く、人々もまたその瘴気に毒され生きた屍と言わんばかりに成り果てている。あたりを見渡してみれば、言葉を交わす人々や通りを歩く人々など忙しく目には映るのだが、そこに生を感じることはない。彼らもまた、廃墟の屋根の赤茶けたトタン材が風に煽られて剥がれ切り離されたものと、むしろ同種のものとも言える。
その一角、錆び付いたトタンを継ぎ接ぎにしたようなひときわ刺々しいなりの廃屋で、若く活発な男たちが盛んに議論を交わしている。この景色には似つかわず、世界の終焉から其処だけ無事に縁取られ浮き上がっているようにも見える。
彼らの中心となる人物、名を刹城 零(せつき れい)と言う。男にしては長めの銀髪を額にバンドを巻いて逆立たせている、18やそこいらの活発な青年ーーー青年という表現の定義でなく、その言葉の持つ印象をまさに目の前に描き出したのならば、きっと彼の顔が浮かんでいるだろう、それほどに”青年”という言葉の似合う男ーーーだ。彼もこの廃屋に集う同志と同じく、彼ら居住区民に対する上の対応、殊更に、聖域によって人類の未来は約束されたと豪語なさる割には相も変わらず、むしろより一層貧相を極める支援のさまに辟易し、今まさに「武力行使」をして「対談」といこうじゃないか、と、その鋭い眉を使命感正義感に更に尖らせて意気込んでいたところだ。
彼らは神機使いのいる駐屯地もしくは支部を少人数で襲撃し、武力を以ってフェンリルに配給物資の水準を引き上げることを約束させる計画を立てていた。彼らにとってそれが成功するかどうかは問題ではなく、行動による意思表示自体が、フェンリルに対しての抑止力となる、そう考えていた。そんな中、まさに襲撃するに適した突破口があると、そう槍玉に挙げられていたのが、常に2,3人の少人数体制で多様な任務をこなしている『青龍分支部』という名の小規模で無名な支部だった。
青龍分支部は、かつての普遍的なオフィスビルに支部として運用可能なように必要な機材だけを運び込んだ、一見ベースキャンプか即興の避難施設のたぐいのような様体らしい。当然極東支部そのもの、通称『アナグラ』のようなセキュリティシステムも存在しないわけである。しかし、どういう訳かアナグラや本部の上層部に対してそれなりの発言力を持っているらしい。防御の手薄さ、発言力。青龍分支部以上に彼らの計画の標的となるに相応しいものはないだろう。
彼らは零を中心としてその支部に謂わば殴りこみをすることをほぼ満場一致で決定した。
襲撃は数日と経たないうちに実行に移された。彼らの手に入れた情報通り、やはりセキュリティシステムと呼べるようなものは存在せず、言ってしまえば零らの拠点とする小屋と同じく開けっぴろげのままであった。釘バットに角材に鉄骨片。精々それが彼らに準備できる最大限の武装だったが、これではその折角の武装も意味を成さないな、と零は少し拍子抜けに思った。
しかし、そんな彼らの勢いはその支部の支部長室を前にしていとも簡単に圧し折られてしまった。2mは優にあろうか、長い金髪のドレッドヘアの厳つい白人の大男が彼らを赤子の手を捻るように容易く跳ね除けたのだ。窮屈そうな白い軍服から覗く巨木のような右腕に赤い腕輪を携えている。齢は40か50ほどに見えるこの大男はやはり神機使いのようだ。大男はうろたえ尻込みする彼らを、丸く突き出した眉肉の奥の細い目から睨みつけ、大地を震わせるような低い声で何をしに来た、そいつで何をするつもりだった、と零らを問い糾した。零は、これはもうどうにもならない、もうお終いだ、と感じた。彼らを見下ろす大男は例えるなら神木のような不動の存在感を放っている。ならばせめて一矢報いんと、半ば虚勢を張って、俺達は「直談判」をやりに来た、俺達はどうしても我々があんな貧相極める配給物資で明日ともしれない日々を過ごさねばならない事に納得がいかない、この劣悪極める状況を変えに来たのだ、と声をあげた。もはや鉄壁の番人と化したその大男はそれを意に介さず、口角を下げたまま寝言は寝てから言うんだな、と一蹴した。
やはりこれまでか、と零らが感じたであろうとき、奥の支部長室からどうしたの、と尋ねる女性の声が聞こえてきた。しばらくして、情けなくも突破を諦めていた扉があちら側から開けられた。かつかつと靴を鳴らして中から出てきたのはやはり女性だ。身長は150cmくらいだろうか、アジア人と見える。身体の輪郭は丸みを帯びているものの華奢な身なりで、ふわりと肩ほどまで伸びた黒い髪に同じく黒か紺の瞳、暗い紫色のセーター姿はいかにも大人しそうであった。大きく開いたセーターの衿口から出た白い肩などは、両手で掴んでえいとやってしまえばその場で折れてしまいそうであるーーーそんな思考が自然と浮かぶほどに、その細い姿かたちは非暴力の賜物のように見えた。大男が隣にいるせいでほとんど子供にすら見えるほどだ。腕輪は付けていない。最も、その小柄さで神機使いであるとも思えない。となると職員だろう。アンタは?秘書か?と相変わらず攻撃的な態度で零が尋ねると、隣の大男が「アンタ」だと?と突っかかりに来た。やはり萎縮してしまいそうになったが、華奢な女がそれを穏やかになだめた。男をおさえた左手には薬指に銀の指環を嵌めている。どうやらそれなりの地位ではあるらしい。零らがどんな罵声を浴びせようとその神経には波一つ立たぬようにも伺える。女は大男をおさえたまま、私が此処の支部長ですが、私に何か御用ですか、と物静かに尋ねた。
…今、何と言った?支部長?このひ弱そうな女がか?
零は、いやその場に居た仲間たちも皆耳を疑った。同時に一度潰えた可能性に一縷の希望が見えたような気がした。すかさず零が「アンタが支部長なんだな?俺らァ、アンタに話あって来てんだよ」と強く押した。相変わらず大男は無礼を咎めようとするが、支部長と名乗る女は見た目通り寛容で、では中にお入りください。と大男を部屋の外に待たせておいて、しかも零らには武装を許したまま部屋に招いた。
この女は平和ボケでもしているのか、武装をした男にその小さな背を向けて歩いても非力な女子供には暴力などは正義と道徳の名のもとに振るわれることはないと高を括っているのか、いずれにせよこれは好機だと感じた零らは何事もなかったかのように当初の計画の路線に戻り、背後の扉が完全に閉まるのを待ってからその女を脅迫しようとした。一人の華奢な女に武装した若い男が5人ほど、端から見れば非道極まりない行為だが、其処に立っても零らは自分たちを正義だと確信していた。
しかし女は一切怯まず、今お茶を淹れていますから、座って話しましょう、とつとめて冷静に振る舞った。零は調子づいたように「強がってんじゃねェよ、この状況でよォ」と喧嘩口調で相手を脅した。しかし、少し振り返ったその女の目、長い睫毛に被せられて半分ほどは隠れた暗い瞳を見た瞬間、
零ら5人の呼吸は止まった。
いや、止められた。
背筋に毒蛇が這うような寒気を感じ、冷や汗が噴き出る。視界は色褪せ、何も考えられなくなった。
金縛りか?超能力者か?と疑うほどに、零らの身体は硬直しきり、持っていた武装は手から抜け落ち、みな同時に床に転がった。その音すら聞こえず、声を出す事もままならず、彼らは先程の大男による物とは全く異種の恐怖を感じた。
座って、話しましょうか。
その女が目線を茶を淹れ終わった手元に戻し、再び口を開くと、彼らの身体は再び自由が効くようになった。しかし零らは皆、その女に反抗する気力を全く失ってしまい、武器を拾わずに言われた通りにソファに5人、大人しくところ狭しと腰を掛けた。
女は盆にしっかり5人分、茶を淹れて持ってきた。それは零ら居住区民が普段飲んでいるものと同じものだ。零は自分たちを見下しているのかと腹立たしく感じたが、よく部屋を見渡すと彼らが普段見かける配給の物資と支部長の職務に関するであろう書類の山しか目には映らなかった。
どうぞ、お寛ぎになってください、あなた達が期待したものはここにはないかも知れないけれどね、と、さっきのこの世のものとは思えない無言の圧力とはかけ離れた、落ち着きのある優しい微笑みでその女は言いながら、彼らの前に慣れた匂いの茶を配った。先程もだが、どうも長い睫毛が目を引く。どうやら本当にここの支部長らしい。ならばさっきのあの凄みも多少は納得が行く。
支部長室に腰を掛けるこの男、刹城零が、いずれこの支部とこの一人の女の行く末を大きく変える事になる。その事は、この男も、女も、この時には微塵も予想していなかった。
あとがき
お読みいただきありがとうございます。
ついに1から書き始める事になりました、GOD EATER®シリーズ非公式二次創作、「龍治 -A Ghost Of Hero-」ですが、このシリーズにはゲーム内主人公含む、公式のキャラクター群は多くは登場しません。主にオリジナルの団体、オリジナルのキャラクターにより今後も物語が構築されていきます。ですので、公式のキャラクター群のやり取りをご期待されている方には、この作品は推奨出来ません。
また、TwitterなどのSNSツールを介し私個人と二次創作について会話をした事のある方は、物語の展開が遅いように感じられるかも知れません、ご理解の程よろしくお願いいたします。
更新はnoteで行い、ハーメルンへの投稿はある程度話数がまとまってからになります。
note→ https://note.mu/a_tol_of
Twitter→ https://twitter.com/A_TOL_OF