【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero- 作:あとろふ
第一回
晴れてよし 曇りてもよし 富士の山
山岡鉄舟
喜鴉が去った後のラウンジ、ひんやりと湿った地下の空気の中で、零は壁や天井に有り余る酒に手をかけるわけでもなく、一人カウンターに座り思慮に耽っていた。
喜鴉から聞かされた話は、予想通り、あるいは予想以上に深い、この青龍の人間が抱える深淵に踏み込むものだった。そして、零は「永音を助ける」という事を、実感はおろか意味の理解すらままならず、受け取った形のまま、咀嚼の一つも出来ずに飲み込みあぐねていた。
隊長を助ける?隊長の心の壁?そもそも隊長は穏やかで、懐の深い人間じゃないのか。自分が今まで見てきた隊長は、実際のところと全く別物なのか、それこそまさに仮面を被ったような。だとすれば、あの穏やかな雰囲気の内にどんな隊長を抱えているのか、それを自分は目にする運命となるのか。何より、有瀬龍治について何も知らない自分にそれがかなうのか。隊長はーーーー
「ああ、まだここに居たんだ。探したよ。」
まるで零の思慮に呼ばれたかのように、隊長がラウンジに入ってきた。隊長への後ろめたさに零は跳びはねる様に身体を硬直させた。隊長は零の隣の席に腰掛ける。やはり穏やかな雰囲気の人間で、それを零は疑うような、もしくは怯えるような目つきで永音の顔を見ていた。
なんだか浮かない顔だけど・・・私の顔に何か付いてる? と、これも優しい微笑みを浮かべながら、零に声をかける。
「あ、いえ、すいません」と、目を何もないカウンターに逸らしながらぎこちない返事を返す。これでは喜鴉に永音の事を聞いた、と間抜け顔で喋っているようなものだ。わざとらしく、何の変哲もないカウンターにさも興味を強くそそられる何かがあるかのようにカウンターと隊長の間で目を泳がせる、そんな素振りが雄弁に零の心の内を明かしてしまう。
当然、隊長がそれを聞き逃すわけもない。隊長の柔らかい微笑みが僅かに曇るのを横目にちらと見た。まさに、仮面の一端が欠けて落ちたような、そんな気がした。欠け落ちた欠片は、二度と元へ戻すことは出来ないのではないか。零はそんな恐怖を感じ、視線をまた下に落とした。
「なるほどね・・・喜鴉ちゃんから色々聞いたわけ・・・」と、遠慮無く突かれる。隊長はポケットから煙草を取り出して咥え、火をつけた。
「・・・すいません」俯いたままにそう返す他無かった。
「そう・・・ああ、用事はそのことじゃないの」
隊長は火のついた煙草の煙を吐きながらわかりやすく話題を逸した。
「今日から青龍で訓練を受けることになってたよね、まあ、緊急任務で有耶無耶になっちゃったけど・・・。 明日から零クンには正虎さんの教導の元で実地訓練に出てもらうよ、正規配属はその後ね。今日の任務で、実力不足は感じたと思う、青龍の一員としてやっていくなら、今よりもっと実力をつけて貰わないと。」
「・・・了解です」どうしても零の中には隊長がちらりと見せた仮面の下が気になっていた。煮え切らない零の対応に隊長が
「何?私に何か用事があるなら聞くけど」と質す。零は恐る恐る隊長の顔を見て、
「・・・青龍に、いや・・・隊長に、何があったんですか、有瀬龍治って・・・」
「君には関係の無いことだよ」しかし、言い切るまでもなく、目を合わせない隊長がそう言い放った。
「零クンに教えることは何もないよ、喜鴉チャンに何を言われたのか知らないけど、話を聞いてやろう、あわよくばーーー、なんて青臭い考えで首を突っ込んで欲しくもないし、分かったつもりになっても欲しくないから。それに、半人前にもなれない君が誰かの為になれるとでも思ってるの?」追撃をするように、隊長は零を突き放す言葉を放った。
全てを見透かされていた零は、「すいません」という言葉を返したきり、黙りこくってしまった。
「話はそれだけみたいね、とにかく、明日からは正虎さんが君の教導にあたるから。挨拶の一つくらいはしておいて、あとオペレーターの洲クンにもね。」
そういって隊長は煙草を咥えたまま席を立ち、まっすぐにラウンジを出て行ってしまった。
荷物を増やしてまた一人になってしまった零は、ラウンジの空気に堪えず、しばらくして隊長に追うように、しかし会わぬように、ラウンジを後にした。