【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero- 作:あとろふ
隊員に割り当てられた個室は青龍分支部の二階にある。そしてロビーやエントランス、客間と呼ばれるものが一階、ラウンジは地下二階、間の地下一階には神機ほかシステムの整備室、モニタリングルームがある。
地下二階から地上二階へ、零を乗せ、オイルの切れかけた機械が摺れるような、そんな鳴き声を上げて動き出したエレベーターは、早速に地下一階で停止した。鳴くのを止めて静かになったエレベーターが口を開けるーーーー
ーーー今の零に静寂は重すぎる、心臓をがっちりと握られたような、あるいは喉元に何かが詰まったような、そんな空気に正気が遠のく。
ーー先に居たのが山のように書類を抱えた洲であることを確認した零は、大袈裟にも命拾いをしたような、あるいは重篤な局面を命からがらに辛うじて乗り切ったような、そんな安堵を覚え、深く息をつく。同時に我に返ると、自分は何をやっているんだ、という気が起こり、漠然とした嫌悪感を自分に抱いてしまう。
「ーーーあぁ、零さんでしたか」
心地の良い愛想笑いだ。しかし洲の表情はなぜかいつも引きつっている。ちょうど今のように喋った時などは、左半分を引きずるようにして顔が動く。
任務中の怪我の後遺症か何かだろうーーーー抱えた書類の横から顔を出している、警戒色のテーピングを施された腕輪を、洲の顔から視線を落としながらに見て、そういった憶測をする。
「ーーーなんだ、洲か。」
頭を掻きながらの、低い声での返事には零の機嫌が優れない事が分かりやすく表れている。
「なんだって何ですか、僕だったのが不満ですか」
洲は零の後ろ側に乗り込みながら、機嫌をこれ以上刺激しない程度のわざとらしい冗談を言ってみせた。
「そういうわけじゃねえよーーーむしろお前じゃなきゃ俺はヤバかったかもな」
少し暗い雰囲気を払拭しようと、伸びをして扉の上の階数表示に大袈裟に目を移しながら、機嫌が優れないなりの軽い冗談で返す。ラウンジでのことを知らぬ洲には当然何のことかも分からないが。
「なんのことですか?」
「さぁ、俺にもさっぱりだ。ーーーーお前は分かるか?」
纏った冗談らしい雰囲気を振り払い、再び低いトーンで訊ねる。
自分の中で答えの出せないものを、自分に聞き直すように口に出した。
エレベーターが口を閉じ、また鳴き声をあげて上へ動き始める。洲は荷物を落としそうになり体勢を整えなおした。
「分かるってーーーおっと。 何がです?」
声が埋もれないように洲は心持ち声を大きくした。
その仕草に洲がこの上なく忙しいことを感じた零は、質問を喉の手前で取り下げた。
「忙しそうだな。 忘れてくれ、ちっと面倒なことだからな」
声は埋もれたかも知れない。返事はないが、言い直す気力もないーーー
エレベーターは地上一階で止まった。洲がこころもち真剣な声で
「ーーーなるほど。 そういう事ですか、分かりました。この仕事が終わったら・・・そうですね、2時間後だと、21時くらいですか。21時にモニタリングルームで話しましょう。 それではまた。」
と声をかけて、返事を待たずにエレベーターから降りていった。
聞こえていたのかーーーしかし洲もまた、隊長に対して腹の中に何か一物を抱えている、そういった雰囲気だ。だとすれば、喜鴉姉と同じように、自分に何かを背負わせようとしているのかもしれないーーーーこの”深淵”に、深く深くに、足を運んでいるような。
閉まるドアのなか、零はそんなことを考えていた。
ただ一人運ばれる、エレベーターの鳴き声が、まるで自分を深淵へ運ぶ棺のようなーーー