【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero- 作:あとろふ
モニタリングルームでは既に洲が待っていた。二時間で書類が片付くというのは少々無理のある発言だったようで、それでもエレベーターで会った時よりは随分と薄くなった書類の束を、書き物には適さないモニタ台で捌いていた。その背中から彼の頑張り屋な性格が見て取れる。
「あぁ、零さん、来ましたか。すいませんね忙しなくて」
零に気付くと、彼は書き物をやめて体ごと零の方へ振り向いた。穏やかな言葉使いだが声には元気がある。年甲斐もなく元気の無いのは零のほうだ。
「おう」 と気持ち彼の元気に押されまいと声を出す。
「ーーーやっぱり忙しそうだな。いいのか、時間使わせちまって」
と、つい訊いてしまう。
「大丈夫ですよ。大切なお話ですからね。零さんにとっても。ーーーさてと、困ったな、座るところがない」
そう言って洲は書類を大雑把にどけながら椅子を立ち、部屋を見渡し始めた。
「なんでここを選んだんだよ」と零が少し笑いながら、椅子の心配の必要はない、と示すように片足立ちで壁に凭れ掛かる。
「ーーーあまり、他の人には聞かれたくないんですよ。」
張り上げがちの洲の声が低くなり、座れるものを探していた横顔のいろも少し神妙になった。先程までの茶目っ気のある姿はたちまち消え去る。それに正されたように、零も片足の裏で壁を遊んでいたのをやめ、凭れたままに姿勢を正した。
「喜鴉姉もそうだったが、そんな話をどうして俺に?」
直近、零はこの青龍で自分がなにをすればいいかに悩んでいた。
「あなたしか居ないんですよ。僕も、きっとお嬢も。もしかすると兄貴もかもしれません。藁にもすがる思いなんです。」
「俺がその藁だ、って事か?随分と押し付けがましいんだな」
溺れる者は藁をも掴む。誰でも良かった、それが自分だったなんて理由で一方的に頼られる事に、零は理不尽さを感じていた。
「そうです。もっとも、貴方が藁なんかではなく助け舟であることを願ってますがね。」
洲は真剣ながらも不敵な笑みを垂らした。
「溺れる者は藁をも掴む・・・あんただけじゃない、此処のやつはーーー。此処は、何に溺れてるっていうんだ?」
低く、くぐもった声で、自分に言い聞かせるように流れ出た。
薄々零も勘付いている。輪郭は無いが、実態があることを確かに感じていた。
「ーーー有瀬龍治」
やはりだ。
「有瀬龍治。カシラですよ。あの人の存在は大きすぎた。僕にとってもーーーーきっと、貴方にとっても。そうでしょう?」
痛いところを突かれた。散々自分にも言い聞かされた事ーーー零は苦笑いを浮かべた。
「全くだ。」
疲れが溜まっていた零は、段々と話の焦点を合わせることを躊躇する洲に辟易しはじめ、単刀直入に、痛いところを突き返すように、尋ねる。
「あんたは、有瀬龍治の何を知ってて、何を伝えようと、俺をここに呼んだんだ?」
自らに押し付けられる使命に理不尽さを感じつつも、零の中では少しずつ、それを遂行せんという気が起こりつつあったのだ。
洲は再び、零が来るまで座っていた椅子に腰を据えた。覚悟は決まったようだ。
「そうでしたね。いいでしょう、長い話になりますが。」