【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero- 作:あとろふ
もうどれほど前の話になるんでしょうか。
あの人は、初めて合った時から、とても魅力的な人でした。不思議とあの人の周りには人が集まっていく。僕も含めて、あの人の周りに集った人たちは皆、あの人に惹かれていた。あの人のどこかは分かりませんが、そういった魅力に。
僕が初めてあの人に合ったのは、まだアラガミがこの世に居ない頃、雨の降った夜の寂しい路地裏でした。 学業のことで家族と世紀の大喧嘩、雨具も持たずに飛び出して、どこに行けば善いかもわからずにびしょ濡れでへたり込んでた僕に、あの人は声をかけてくれたんです。 いえ、声をかけられたというよりは、絡まれたといった具合でしたね。
「何だお前さん、俺らに何か用でもあんのか?」
あの人はその街では最も大きな勢力の暴走族、その総長でした。そして、僕が雨よけに選んだその路地裏は、その暴走族の拠点・・・いわゆるアジトの勝手口、ちょうどそばだったんです。 丁度ここ、青龍支部の裏口ですよ。
もうダメだと思いました。親に歯向かって家を飛び出して、何を出来るわけでもなく、何がしたいか分かるわけでもなく、ここで僕は終わってしまうんだって。
濡れたアスファルトやコンクリートに反射した繁華街の光を背に、取り巻きに傘を差されて雨の匂いの中に立っていたあの人は、とても大きく見えた。その黄色やピンクの光が羽織った真っ白の長いジャケットによく似合っていました。
今に僕の濡れ雑巾のような胸ぐらを掴み上げて、僕をーーー
そんなことを考えてました。でもそんな人じゃなかった。
「こんな雨でここにいちゃ身体に毒だろうが・・・おいソウヘー、中戻って適当なジャケット見繕ってきてくれ。それと酒だ。」
ソウヘーと呼ばれた取り巻きの中でも小柄で色黒な男が、腰を抜かした僕の横をすり抜けてそのアジトに入って行くのを僕が不思議そうに見ていると、あの人に傘を差していた男が
「いいんですか龍治さん、こいつ虎の野郎ンとこの回しモンかもしれないんすよ、こうやってわざと雨の日を選んで同情買わせるつもりじゃないんですか!」
と声を荒げました。 それもそうです、当時シマめぐりで争いの激しかった暴走族です。勝手口に用がある人間なんて、十中八九面倒事の種でしょうから。
「ちっちぇ事言ってんなよ、だったら手土産ぶら下げて奴らに突き返してやればいい話だ。 ・・・ほら立てっ」
そういって龍治さんは僕の腕を掴んで僕を立たせ、アジトへと運び込みました。アジトは地下にあったんですが、疲れきった僕が階段を降りることすら覚束ないのを見て、肩まで貸してくれました。それがあの人との初めての出会いです。
たくさんの人で賑わう酒屋のような場所、僕を歓迎してくれたのは龍治さんだけでした。それ以外は僕に見向きもしない。龍治さんに酒瓶を手渡したソウヘーも、僕を少し睨みつけただけで、すぐに他の人たちの集まりに溶け込んでいった。少しだけ学校にいる時の事を思い出して嫌になりました。
あの人は僕をカウンターの席に座らせて、そのまま僕の隣につきました。片手にはコップをかぶった酒の瓶。それを注いで飲めと言ったんです。おかしいでしょう、初めて合った、どこの馬の骨とも分からない、下手すりゃ敵かもしれない人間と酒を飲むなんて。 でも、そういう人なんですよ、あの人は。
当時の僕はまだ18、その頃の極東では20歳になってない人はお酒を飲んではいけないという規律がありました。 僕は真面目な人間だったので、まだ18だから、って断ろうとしたんです。でも龍治さんは
「お前さんはそういう"世界"から逃げてきた、そういう"世界"がやんなった。 ・・・そうなんじゃねえのか?」って。
知ってたんです。僕が勉強だ受験だ競争だ、って凝り固まった世界から逃げてきたことを。
「なんで、わかるんですか」 僕は初めて口をきいた。顔はまだ見れなかったけど。
「ははっ、アタリって反応だな。俺もそうだったからさ。くだらねえだろ、あんなのはよ。」
僕はついあの人の顔を見て、言い返しました。その頃の僕は皆に言われたことを上手にやることだけが取り柄だった。
「くだらなくない、今までずっとそうやって来たんだ、くだらないわけない。」
そしたら、
「今までずっと、ねぇ。 じゃあどうしてお前さんここに居るんだ? そうして生きてたいならこんなモンは投げ返してとっととお前さんの居たい所に帰りゃいい話だろ、ほら。」
と、より強く僕に酒の入ったコップを煽りました。 いかつい顔付きだったけど、優しそうで真っ直ぐな目・・・その通りだった。何がしたいのか分からなくなって、何も考えずに出てきてしまったんだ。帰った所で僕はまた同じことになるだろう。けど、もしここに居ることにすれば、何かが見つかるかもしれない。
悔しかったけど、僕は龍治さんの手からコップを受け取りました。こんなものすぐに飲み干してやる、って口をつけると
「おーいおい、まだだろ気が早い。こういうのは乾杯してからだってのは教えちゃくれないのか。」って言ってもう一つコップを取り出してきて、そのコップに僕に注いだぶんと同じだけ、酒を注いだ。注ぎ終わるや否や、
「へーい、お前さんの門出に、乾パァイ!」 と、僕の手のコップに打ち付けて、そのまま豪快に飲み始めました。 僕も負けじと一気に飲もうとしたけど、初めての酒は苦くて、辛くて、逆流して鼻に流れこむくらい思い切り咳き込んでしまった。
それを見て龍治さんはまた豪快に、笑いました。
「はっはっはっは!また濡れちまったな!しっかし濡れてもいい顔してやがる、酒も滴るいい男ってか!ははははは!!」
なんでしょう。あの人のそういう所を見てると、なんだか少し気が楽になった気がしたんです。