【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero- 作:あとろふ
僕はお酒に弱い体質でしてね。結局その1杯で完全に潰れきって、カウンターで朝まで眠ってしまいました。その日から僕は、龍治さんの舎弟としての道を歩き始めた。
と言っても、当然彼らの商売道具なんて持っていなければ、それに乗るための資格もない僕には特にやることはありませんでしたけどね。精々下っ端らしく雑用ってとこですよ。物を揃えてこいとか、酒場を片付けろとかね。
そんなまだ勝手に慣れない中、表口のほうで誰かが争う声がしました。どうやら中に用があるので入れろと喚いているようで、最初は対抗勢力との小競り合いかと怖がっていたのですが・・・その声の片割れが聞き覚えのある、いえむしろ聞き飽きた声だったので、ぞっとしてすぐに飛び出して行きました。
案の定でした。喧嘩をしたきり何日も家に帰ってこない、学校にも顔を出していない一人息子がいれば、並大抵の親ってのは街中駆けずって探すものです。僕がここの裏口でへたり込んでるところ、あるいは龍治さんに連れられて入っていく所を見た知人が居たのでしょう。
「洲がここにいるんだろう、息子に何もしていないだろうな!」
と、暴力団の根城に向かって真正面から堂々とがなる親父は、流石の勇敢さというか、傲慢さというか。
先に表に出て親父の相手をしていたのは龍治さんでした。
「あぁ、あんたが洲の親父さんか?」
と、僕に語りかけた時と何ら変わらない余裕ぶりで応える。それでいて相手がカタギと分かっているので相手を威圧しないように配慮する、流石の格、といったところでしたよ。
「うちの息子の名を気安く呼ぶんじゃない! あんた誰だ、ここの責任者を出せ!」
と相も変わらず怖いもの知らずでがなる親父。龍治さんのところじゃなきゃ袋叩きにあっていたかもしれませんね。僕は仲間たちをかき分けて急ぐ足を更に速めました。正直なところ、別にそれでも構わないくらいの気持ちだったんですけど。
「悪いな、紹介が遅れた、俺がここの責任者だ。有瀬龍治って言う。要件は分かってるがここじゃあ何だ、とりあえず中に入ったらどうだ。」
と落ち着き払った声で促します。僕を介抱した時のような優しい声で。
しかし頑固な親父です、息子を返せばそれでいい、貴様らなどに用はない、とそれを受け入れようとしません。
「ああそれでも構わねえ、生憎ここで話したって俺達が困ることは一つもねえからな。 構わねえがよ、アンタと、特に洲は困るんじゃねえのか?」
その言葉に、僕はまさに表に出ようとしていた足を宙で停め、二人に見つからないように隠れました。
「どういう意味だ、どうせハッタリなんだろう、社会の溝鼠が!」と相変わらず毒づく親父。そこまで言われれば察せそうなものなのに。
「見て分かんねえかこの状況をよ。お前さん、その溝鼠の巣に真っ正面から馬鹿でかい声で喧嘩ふっかけてるんだぜ。これじゃまるでお前さんまで溝鼠の仲間みてえじゃねえか。違うか? 俺らはいいさ、喜んで溝鼠やらせてもらってんだからよ、勘違いされて困るのはアンタらだぜ。」
「黙れ!貴様らと一緒にするな!」
やれやれ、これではどっちが悪者か分からない。最も僕にとっての悪者は親父だったけど。龍治さんも流石に困り果てた様子だった。
「頑固な親父さんだ・・・分かってくれ、別に返さねえって言ってるわけじゃねえんだ、そりゃ洲が決めることだ。 だがその洲がよ、仮にアンタらのもとに帰るとして、こんな大観衆の中『待ってました』なんて登場のしかたをしちゃあこれから先、まっとうな人の見る目ってもんが変わってくるだろ。 逆に俺らのトコに居座るんだとしたら、そんな歳になって『ヤダお家かえりたくない』なんて親父にゴネてるトコ見られちゃ格ってもんがねえ。どっちにしたって一番困るのは洲なんだ。アンタがアイツの親父なら、とっとと上がれ。」
龍治さんの丁寧な説得で、憤慨が収まりきらない様子ながらも親父はやっと、アスファルトに釘打ちでもされたかのように動かさなかった足を上げました。
親父が龍治の横を通り去ると、龍治さんの表情が一気に阿修羅のような、見たものの喉を恐怖で締め上げるような顔になり、向けられてわけでもないのに、隠れてみていた僕も思わず震え上がって龍治さんが見えなくなるところまで隠れてしまいました。 直後、
「おい、何見てんだァ!!!」
と、強くドスの効いた大声が聞こえてきました。その瞬間集まっていた観衆が叫び声に包まれ、散っていくのが分かったんです。おんなじがなり声なのに、親父とはまるで違った。
会った時とはまるで違ってすごく怖かったけど、全て聞いていた僕はそれが僕の為だと解っていて、少し嬉しくなりました。
物陰でうずくまってニヤけていると、
「お前の話だ、お前も来い」
「えっ・・!? あっ、はいっ!」
表から戻ってきた龍治さんに、通りざまに声をかけられました。 隠れてた事がバレていたと知り、恥ずかしさのような、尊敬のようなよく解らない気持ちになったのを覚えています。