※この作品はR-18です。

【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero-   作:あとろふ

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第二回

女は自身を有瀬永音(ありせ えいね)、フェンリル極東支部青龍分支部長であると紹介した。遜(へりくだ)っていたが同時に誇らしげに感じたのは、やはり先程見せた凄みに通ずる支部長としての器がそうさせるのだろう。

零は有瀬という苗字にどこか聞いた事があるような、そのような感覚がした。この女は知り合いの親戚なのかも知れない、とその事を別段気に留めることは無かったが。

 

永音は早速に、現状の配給物資などフェンリル側の対応の問題点は何であるかを尋ねたが、どうやらかれの話によると青龍分支部の管轄地区と極東支部の管轄地区はそれぞれ独立して統治が為(な)されているらしく、南部居住区の住民である零らの置かれる状況には青龍分支部が直接対応することは出来ないらしい。零らの主張に対し永音は別段反論などはせず、 貴重な意見をありがとう、極東支部の榊支部長にその事について打診をしておきますと丁寧な謝辞(しゃじ)を返した。

 

見当違いの所へ殴りこみをかけた恥ずかしさと気まずさを感じた零は、それを紛らわせるように支部長室に零らが支給されている物と同じ配給物資しかない理由を尋ねた。フェンリルから多大な報酬を受けているはずの彼らにはおおよそ似つかわしくない。永音はその質問に対し、青龍分支部の人間は少人数で困難な任務に当たることが多く、実際に本部から個人単位では消費しきれない額の報酬を受けているが、必要最低限額を残し全て管轄地区の配給物資の製造、発注に寄付している、と答えた。

 

その答えを聞いて更に自らを恥ずかしく感じた零らは赤面し完全に黙りこくってしまった。永音はそれを見て、あなた達の判断は間違ってはいない、と彼らを引き立て、それに続いて話題を切り返すように彼らに「神機使いになる気はないか」と訊(き)いた。

 

彼らは予想もしなかった問いに驚き、顔を上げぽかんと間抜けっ面を晒(さら)した。永音はくすりと笑い、あなた達は今の状況を変えるために、こうして此処に来たのでしょう、ならば神機使いになって自分達の手でこの状況を変えてみたくはないですか。と神機使いになることを誘いかけた。しばしの沈黙の後かれが云うのが先ほど大男に対して咄嗟(とっさ)に見繕(みつくろ)った口実のことだと気付いた零は、自身の度重なる軽率さを強く恥じ、あれは違う、咄嗟に出てしまった言葉だ、と自身の体裁を構わずに永音に詫びた。他の仲間たちも先程までの威勢の良さを失い、みな縮こまってしまっている。永音は少し残念がり、そうですか、貴方がたならばいい神機使いになると思うのですが、と言ってみせた。

 

これ以上その場にいることが堪(た)えなくなった彼らは、自身らの行動を重ねて詫び、ひと通りの挨拶を済ませ足早に部屋を出た。外には相変わらず大男が構えていたが、そそくさと横を通り過ぎながら申し訳無さそうに会釈(えしゃく)して支部を後にした。

 

 

永音と大男は彼らを支部の入り口まで見送った。彼らの姿が見えなくなると、永音は独り事のように「勧誘失敗かあ」と冗談ぽく笑ってみせた。大男は「隊員にでもしようとしたか?あんな奴らをか?」と眉間に皺(しわ)を寄せ永音の発言を疑った。「あなただって昔は"あんな奴"だったくせに。私も言えないんだけどね。」永音は変わらず冗談っぽく返したあと、その洒落っ気を短い溜息に包んで吐き捨て、真面目な顔で「でも、私はあの子達ならいい神機使いになれると思うよ。特にあのリーダーの男の子。私はあの子の状況を変えたいって言葉を信じたいかな。」と言った。大男もそれには異論はないらしく、ふん、と鼻を鳴らした。

 

 

自身らを恥じ、口数少なくして帰ってきた零らに、彼らの帰還を心待ちにしていた拠点の仲間たちは成果はどうだった、明日から少しは楽になるか、と雑然として訊いた。零らは威勢を失ったまま、いいや、俺達は軽率すぎたんだと返した。どういうことだと糾(ただ)す彼らに渋々青龍で聞いた話を細かく話し、参加しなかった仲間たちもそれを聞き自身らの軽率さを解しその日は解散の空気となった。

 

解散後も、零は永音に言われた「神機使いにならないか」という台詞をずっと胸に引っ掛けていた。そしてその漠然とした思いは次第に輪郭を明瞭(めいりょう)とさせ、零は神機使いに確固たる憧れを抱くようになった。

 

あの日同行した零の仲間もどうやら同じ思いだったようだ。フェンリルに偏食因子の適合試験の参加要請を済ませた零らは熱気を失った廃屋の彼らにそれを説明し別れを告げた。仲間たちは各々多かれ少なかれフェンリル側の人間に敵対心を抱いていたものが多かったので、良い反応は返ってこないだろうと零らは思っていたが、彼らは意外にも快くそれを認めてくれた。仲間たちの心遣いに感謝し零らは一応の別れとなる廃屋を後にした。

 

 

 

後日彼らはアナグラの支部長室に招集された。志願した者全員が招集されたわけではなく、ここに呼ばれなかった仲間達の元には非適合通知が発送されるらしい。所謂(いわゆる)「狐顔」というべき風体(ふうてい)の極東支部長、「ペイラー榊」の友好的な歓迎と、それに続く試験にあたっての形式張った諸注意を彼の嗄(しゃが)れ声が耳に張り付くほど受けた後、零らは試験台のある部屋に個別に招かれた。

 

初めて見る思っていたよりも大きく物々しい神機とそれに繋がるように設置された赤い腕輪の物言わぬ存在感に威圧され、腕の置かれるであろう位置の拘束具とその真上の天井から吊り下がる人体に使うとは到底思えないドリルのような機材に物怖じしてしまう。部屋の隅に取り付けられたスピーカーから劣化して聞こえる、上の観察室から見守る榊博士の「なあに、怖がることはない」という言葉はただ胡散臭く感じ、より彼の恐怖を駆り立てるのみだ。とはいえここまで来てやっぱり怖いので帰ります、等というのはまかり通らないと感じ、恐怖に竦(すく)む足を乱暴に蹴り出して試験台に横たわるに至った。もはや博士の「『すこし』痛いけど我慢してね」等という言葉は少しも信用出来ない。

 

しばらくして横から蒸気機関のような音が聞こえ出し、機械が駆動し始めるのが分かった。駆動音は次第にぐわんぐわんと大きくなり、それにつられて心拍は早くなり、頭もまた緊張でぐわんぐわんと真っ白になっていく。榊博士に「じゃあ、神機に手を掛けてくれ」と言われた時には、もうそれを戸惑う余裕もなかった。極度の緊張に目が廻るなか言われるがままに神機のグリップ部分に右手をかけると、手首の近くで機械の動く気配がした後、突如突き刺されるような、または内側から炙られるような激痛が右腕全体に襲いかかり、彼は反射的に怒鳴り声のような叫び声を挙げてしまった。あまりの痛さに自らの叫び声は全く聞こえず、喉元が叫び声で弾ける感覚と右腕の猛烈な痛みのみが頭のなかで暴れ廻る。

 

 

気が付くと彼の身体はベッドから落ち、ひんやりと油ぎった床に横たわっていた。先ほどの猛烈な痛みを思い出しふと右手が本当に残っているのかが気になり目線を落とすと、いつもどおりの右腕に神機は相変わらず握られていて、さっきまでは無かったごつごつとした腕輪は見たことのある赤色ではなく、黒と金の豪華な金具をあてがわれていた。右腕からはもう痛みは感じず、黒色の煙が腕輪から立ち昇っている。

 

床の油にへばり付き放心状態のまま右腕からの煙を眺めていると、少しずつ冷静さを取り戻し始めた。煙が薄くなるのにしたがい体の感覚が戻り始め、それにつれて最初に感じ始めたのは全身に漲(みなぎ)って溢れ返りそうな「力」だった。左の膝と神機を握ったままの右の拳を突いて立ち上がる。そのまま突いた右手を神機とともに持ち上げたが、機械的な見た目の神機は嘘のように軽かった。適合した神機はハンマー型と言われ、長い刀身の先端に著大(ちょだい)な鉄塊を抱いた、「特に重い」物であったが、その重さはついこの間襲撃の際に振るった鉄骨片の方が重いと感じる程だった。片手で振るえてしまうその「軽さ」が観察室で見ていた博士にも伝わったのであろう。頭上から「素晴らしい」と感嘆(かんたん)する博士の声が聞こえてきた。見上げる零に榊博士はおめでとう、君も今日から名誉ある神機使いだ、と呼びかけた。

 

 

神機を整備士に預けた後、右腕の異物感に慣れないまま、歩く度にぎこちなく腰骨に腕輪をぶつけてしまう零が向かわされた先は博士の研究室だった。部屋に入ると博士は机上に設置された多数のディスプレイ上で忙(せわ)しなく視線を動かしながら何かを読んでいる。先に試験を受けた仲間は既に集合し、デスクの前に立っていた。どうやら零が最後だったようだ。不思議なことに、黒い腕輪をしているのは零のみだった。仲間たちも零の黒い腕輪に驚いたようで奇っ怪な目でそれを見ていた。

 

「やあ!お疲れさま」と眼鏡を降ろした博士が唐突に口を開き、黒い腕輪に向けられた仲間たちの視線が再び博士に戻る。「ひとまずはおめでとう、君たちは全員問題なく適合したようだね。たった今君たちの配属される部隊が決まったところだ。」と、改まってデスクに肘をつき顎の前で白手袋の指を組んだ博士が言うと、零らの顔持ちがより神妙(しんみょう)になった。

 

「君たちの希望配属部隊は全員青龍分支部だったね。…うん、結論から言うと、青龍分支部に配属となるのは刹城君、君だけみたいだ。」

 

自分だけ?と零は不思議に感じたが、博士は彼らの返事を待たずに理由を述べ始めた。

 

「既(すで)に知ってのことかも知れないが、現時点で青龍は極東の中でも少数精鋭、非常に困難な任務を少人数で遂行する部隊だ。君たちの中で最初からその環境に適応できる能力を持った人間は刹城君だけだったようだね。もちろん、そうでなかった君たちもアナグラで訓練を積んでから青龍に異動するという手段がある。気を落とさないで欲しい。」とのことだ。

 

別段青龍分支部でなければいけない、といったことも無かった彼らは特にショックを受けることもなく、その日は神機使いとしての簡単な諸説明を受けた後に零以外のメンバーはアナグラの自室の利用の説明に連れられ、零は客人用の寝室を充てられ翌日の青龍分支部への移動を待つように言われて解散となった。

 

 

第二回(終)




あとがき
どうも、著者のあとろふです。第一回に続き第二回を読んで頂きありがとうございます。今回は少々雑音のある環境下で執筆したため、文体が希薄になっているかもしれません。ご了承ください。
次回以降の修正時に不適な点を修正していくつもりです。
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