【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero- 作:あとろふ
僕が龍治さんの舎弟になって半年くらいが経った頃でした。奴らーーーそう、『アラガミ』がこの世に姿を表したのは。
北欧で最初の個体が観測されてからほんの僅かな間に、奴らは驚異的な速さで進化を繰り返し、海を超え、ついには8,000km離れたここ、極東にまでその活動地を広げていった。
アラガミが現れるまでは、ここ一帯は世界でも有数の大都市だったんです。あなた達が見たこともないような、地上100mを超える建物が乱立していて、街に出ればどこを見ても人、人、人。って具合でね。けどアラガミが大量発生して、街に無闇に出るとアラガミに喰われ、地面から無数に隆起した巨大な棘に建物たちは貫かれ・・・ええ、そうです。今じゃ『贖罪の街』なんて名前で呼ばれてますけど、あそこですよ。昔は人がたくさんいたんですよ。あれでも。
ここ極東、当時は日本国って名前でしたが、それもアラガミの脅威によって国政機関は麻痺して、僕らのいた街はまさに無法地帯になっていました。既存兵器が通用しないアラガミの大群を相手取って、対人戦にマニュアライズされきった軍隊が敵うわけないーーー酷いものでした。街にアラガミが一匹現れれば、人々は姿を隠し、正義感に駆られた軍隊の流血だけが増えていく。人々はその死体から金品を漁って、明日を生き延びる。
龍治さん率いる暴走族も、ここ一帯のハイウェイが使い物にならなくなって、身の振り方に悩まされていましたーーー
「各地で大量発生した新種の生物を、日本政府は昨晩『アラガミ』と命名しました。昨夜行われた記者会見で総理はーーー」
『そんなものは聞き飽きた』といった顔で、カウンターに置いたラジオの電源を落とす龍治さん。これじゃあ酒も旨くない、といった顔で空いた酒瓶をぶらぶらと遊びながら、
「街の様子、見たか。どこもかしこもお祭り騒ぎだ。バイク乗ったって走る道もありゃしねえ。この状況、お前さんならどうするソウヘー。」
と、底の方に揺れる僅かな残りを眺めながら言いました。
今日明日に喰われるとも知れない状況でも、街に比べたらここの人間はまだ冷静でした。ここのドアを蹴破るのが得物引っさげた輩や制服の犬っころからアラガミになっただけの話、でしたし。
「騒ぎに乗っかってそこいらで金目のモン奪って、んで高飛びーーーとかすかねー・・・」
いかにもチンピラが考えそうな事で、龍治さんは酒瓶をカウンターの裏に放り投げて、馬鹿野郎、と笑いました。
「どこ行ったって喰われちまうのは同じだろうが。もっとこうよ、でけえ事考えらんねえのか、ーーーそうだ洲、洲はどう思う。」
宛のなくなった右手でカウンターに肘を突き、僕の方を見て僕に少し真面目な顔で尋ねます。
名門校に通っていたという事で、こういった思索を巡らせる時には僕は決まって頼られていました。でけえ事、と言われて僕は特に深く考えず、冗談半分でなんとなく考えていた事を口にしました。
「僕ですか・・・?そうですね、例えば・・・多分、この調子だと数ヶ月、早くて数週間で行政機構は完全に崩壊するでしょうね。」
「ほー?行政機関か。それがどう俺らに繋がるんだ?」
興味ありげな顔で、僕の方に身を乗り出し、手の甲で頬を支えながら僕を見る龍治さんの顔には、幼い少年が友人から新しい遊びを提案されたような、そんな無邪気さを感じます。
「当然治安維持を司る警察の奴らも、でしょう。抑止力がなくなればーーーふふっ、この街の天辺にでも立てるんじゃないですか?」
言ってる当の僕にも馬鹿馬鹿しいような提案でした。街を元締めするなんてヤクザなんかじゃあるまいし。そんなことを、気分屋のあの人に言ってしまったんです。
「ははん?なかなか面白い事言うじゃねえか。なるほど、行政機関が逝っちまえばそれも見えてくる、か・・・。悪くねえ線だ、気に入った。 この際やっちまうか!!」
まさか本気にすると思っていなかった僕は心底驚きました。
「えっ・・・本気にしちゃったんですか龍治さん・・・?」
「なんだ?冗談で言ってたのか?」
その気になってしまった龍治さんを前に、今更「冗談だ」と言えるわけもありません。
「いや、なれるってのは冗談じゃないですけど、ホントにやるかどうかは・・・」
煮え切らない回答を返してしまいます。龍治さんが席を立ち、伸びをしながら、皆に聞こえるように心持ち大きな声を上げました。
「街がこんだけ大騒ぎになったの、お前さん見たことあるか?俺はねぇよ。祭起こすんなら今しかねえ。この街をてめぇの手で守ってみてえ・・・なんてな。それに、お前さんのそれは数週間、数ヶ月後の俺らにとっちゃ当然の考えかもしれねえ。遅かれ早かれーーー多分正虎んトコも同じ考えで来るだろう。俺らのシマ喰われちまう前に動いといたほうがいい。」
「それは犯罪に手を染めるって事も・・・ですか?」
親父に言われた忠告を思い出しました。
「それが犯罪かどうか決めんのは、俺らの役目になってたりしてな?・・・・聞いたなお前らァ!一発でっけえこと、やってやろうじゃねえか!!!」
半ば強引な理論に、街の狂気に染まりかけていた僕は少し納得してしまいそうになったーーー
とんでもない事になってしまった、でも、面白そうだ・・・そう思う僕は、きっともう龍治さんの魅力に惹きこまれきって、あの人の作り出す雰囲気に居心地の良さを感じてしまっていたんでしょうね。