【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero- 作:あとろふ
それ以来、僕らの集まりは暴走族というよりは、自治体のようなものになっていきました。日を重ねる毎に龍治さんを慕う人は増えていき、住民たちが団結してアラガミ対策をするようにもなりました。
アラガミ対策といっても、真っ向から立ち向かって敵う相手ではありません。実際に、果てた軍人から調達した対アラガミ銃火器で応戦しようとしたこともありましたが、徐々にその効果は薄れ、遂にはマガジン1つ分を撃ち切っても怯みすらしなくなってしまいました。必死に応戦するも無残に喰われる仲間を横目に撤退命令を出した龍治さんの悔しそうな仕草は、忘れようったって忘れられるものじゃありませんでしたよ。決定打を失った僕らに出来る対策は、『いかにしてアラガミに見つからず、また見つかってしまっても逃げ切るか』ということのみでした。
そんな状況でも対抗勢力との領地争いは苛烈化の一途、特に近隣では兄貴ーーー正虎さん率いる元暴走族、僕らと並ぶ勢力を持っていて、一帯では二大勢力なんて呼ばれてたりもしたんですが、これも龍治さんに遅れを取らぬよう自治活動を開始したようで、シマの境目辺りでは毎日のように組織末端の人間や住人たちが小競合いを起こすようになりました。
道路とも建物の残骸とも見分けのつかなくなった瓦礫の上に立っていても、彼らの憎む相手は互い同士だったのでしょうか。それ以外のものはーーー覚束ない足元さえも、灰色の地平さえも目に入らなかったのでしょうか。
ーーー人間ってのはくだらないものです。アラガミという共通の怨敵を持つ同志の筈なのに、思想の一つや二つが食い違うだけで目の色を変えて排斥しようとする。頓珍漢な鉄砲玉がアジトに直接乗り込んできて対アラガミ小銃をぶちまける事だってありました。結局その鉄砲玉はマガジンの取り扱いを間違えて偏食因子に接触、その場でオラクル細胞に食い破られましたけど。
人という種は傲慢が過ぎた。気に食わない者は例え同じ種であっても排除しようとする、生態系のさらに上、絶対王者の椅子にアラガミが鎮座したとしても、その暴君ぶりが収まる事はない。
人類はもはや種としての黄昏を迎えているーーーシャッターに空いた銃痕から差し込む光が、舞い上がった砂塵に燻みきっているのを見てにわかにそう感じ、
「もうダメなのかもしれませんね」
と、龍治さんの前で弱音を吐いてしまいました。
「・・・やっぱりお前さんも、そう思うか。」
耳を疑いました。龍治さんなら、この男なら僕を檄するとばかりーーーそれに対しての言い訳を必死に考えていたのに。でも、あの人の目は、あの人の横顔はそうは言っていなかった。あの人の声は依然として力強かった。
「このままじゃダメだ。丸腰で喧嘩売ったって勝てる相手じゃねえ。ーーー近々、軍隊に入ろうと思ってる。」
それは予想とは遥かにかけ離れた返事だった。考えたことも無かった。この人の存在がなくなるなんて。今この状況で龍治さんが居なくなったらーーーー考えたくもない悲惨な未来を想像してしまい、僕は返す言葉を失いました。
「分かってるさ。今はそうするべきじゃない。何とかして正虎ンとこと折り合いつけねえと、アラガミに喰われる前に共倒れだ。野郎と折り合いがついたらの話だ。」
短い間とはいえ龍治さんに憧れてずっと見てきた僕には、龍治さんがそれを急いでいる事が簡単に分かりました。
「美月の姐さんは、どうするんですか・・・子供だってーーー」
龍治さんはその頃、古屋美月という個人診療所の女医と結ばれ、子宝を授かって間もない頃でした。
「言うんじゃねえ。 ・・・俺だって考えたさ、嫌んなるくらい考えた。せめてガキの顔くらい、母親になったアイツの顔くらい・・・って言いてえよ。それでも、やんなきゃなんねえ。」
身籠った美月さんを置き去りにしてでもーーー。銃痕から荒廃した街を眺める龍治さんの横顔に、強い意志を感じました。
それからしばらくして、龍治さんは一人で、正虎さんと”折り合いをつけに”正虎さんの拠点へ向かいました。
ほぼ四半日過ぎたころに帰ってきた龍治さんは案の定、怪我だらけで文字通り命からがら帰ってきたという様子でした。顔を真っ青にして飛び上がり龍治の体を心配する美月さんに薬箱を取りに行かせ、龍治さんは「大成功だ」と僕らに対して笑いかけた。
龍治さんは単騎で正虎さんの所に行き、あろうことか「一緒に軍隊に入ろう」って言ったそうです。どこまで凄い人なんだか。
数日と経たずに龍治さんは僕らを残してここを去りました。龍治さんを失った僕たちは自然と離れ離れになりーーー僕も、形がまだあるかも定かじゃなかった自宅へ帰りました。 ちゃんと残ってましたよ?家族も全員ね。