※この作品はR-18です。

【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero-   作:あとろふ

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第十回

僕の家は都心から少し離れた山中の村にあったので、アラガミの被害は比較的軽微なものでした。そこでは村内で協力しながらなんとか食料を賄っていて、街に出る必要はなくて済んでいるって。母親は被害の大きい都心から帰ってきた僕を「良かった、ちゃんと生きていたのね」と歓迎して迎え入れてくれましたが、親父の態度はそうでもなく、僕の無事を確認すると二言目には「あの男とはどうしたんだ」と訊いてきました。

「ーーー軍隊に入るってさ」

自室へと向かいながらそう言い残しました。

あの男、と言うのは無論龍治さんのことでしたが、僕には親父が龍治さんの事を気にかけていることが不思議でなりませんでした。

自室で大方の用事を済ませ、落ち着いた所に親父がやってきました、龍治さんの事で話があると。

「彼にはついていかなかったのか?」

ゆっくりと僕の部屋で腰を下ろした親父の口調には、少し、今までとは違う尖り方の棘がありました。

「死ににいくようなものじゃんか、ーーー僕にはそんな勇気はないよ、僕はあの人みたいにはなれない」

もう必要のない高校の教材をまとめて紐でくくりながら、弱々しい声を出した。自分で聞くのが情けないくらい。

「そうか・・・。お前がそれでいいんなら、それも答えの一つなんだろう。」

親父は僕が家をでる前よりも少し、いやかなり丸くなっていたように感じます。

「なんだか丸くなったね、親父」

「だとしたらきっと、あの男のおかげだ。」

あの男のおかげ?親父と龍治さんがあったのは僕を連れ戻しに来たあの時だけのはずーーー

「あの男・・・?龍治さんのおかげってこと?」

興味に机上を片付けている手が止まりました。

「他に誰か居るか? ーーーあの男は大した奴だ。洲、彼から親御さんの話は聞いたことあるか」

龍治さんの親ーーー考えたことはありませんでした。僕らにとっては龍治さんが親のようなものだったから。

「やっぱりお前には言ってなかったか。ーーーお前を連れ戻しに行ったあの日、帰り際に言われたんだ。『たまに顔を出してやってくれないか、洲はお前さんの言うとおりまだまだガキだ、きっと今はまだお前さんの言うことが理解できないだけで、いつかは分かってくれるようになるだろう』ってな」

「あの人がですか?他にはなんてーーー」

意外さについ食い入ってしまいます。

「まあ待てや、話はこれだけじゃない。あの人、洲とおんなじように親御さんから逃げてきてああなったらしい、なんでも親父さんが地方の議員だったそうでな。あの人にそれを継がせる気でいたらしいんだが、大学で法を学んでる時にふと嫌になって大学を中退して逃げてきたんだと。洲を特に気にかけてたのはそういうことがあったからなんだろう。」

あの人が僕と同じ境遇で・・・。あの人からはそんな事は一度も聞いたことはありませんでした。

「あの人、『洲には自分みたいになってほしくない』ってよ。今となっちゃ遅いかもしれないがな、あの人から受けた恩は忘れるなよ洲。いつか返せる時が来たら、必ず返すんだ。ーーーよっこいせっ、と。話はそれだけだ、俺は村の手伝いをしてくる、洲も落ち着いたら出てこい」

そう言って親父は部屋を出て行きました。

一人残された僕は、少しだけ龍治さんについて行かなかったことに疑問を感じ始めた。そしてその疑問はだんだん後悔に変わっていきました。

 

その郊外の村で穏やかで完結した・・・けれど退屈な、そんな生活を送り始めて、あっという間に数ヶ月ーーー数年ーーー気がつけば10年ほど経っていました。その生活がとうに当たり前になり、乾いて褪せた日の中で龍治さんの存在は若き日の思い出になっていたーーーいくらあの人とはいえ、軍隊に入って10年近くも生き長らえられるとは考えられなかったから。

だけど、僕は10年来のその名前を確かに聞いた。それは丁度ここにフェンリルが統治する極東支部が新設された頃でした。人類の新戦力として期待されているゴッドイーター、その筆頭として。有瀬龍治、と。

『丸腰で喧嘩売ったって勝てる相手じゃねえ』・・・

龍治さんの決心を知ったあの日の言葉を思い出しました。

ーーー死ににいくようなもの・・・だなんて考えてたのは僕のほうだったのかもしれませんね。龍治さんは本気でアラガミと戦って、勝とうとしていた、実際に10年間勝ち続けたーーーそして今、新たな武器を誰よりも早く手にしたーーーあらためて、あの人はやっぱりあの人なんだー、ってね。誰にもできそうもないことを本気で出来るって考えてて、それを本当にやってのけてしまう。

僕の心は10年間、止まったままだった。あの日龍治さんについて行かなかったことを後悔したままだった。親父に言った『僕はあの人みたいにはなれない』って言葉は、龍治さんみたいになりたい心の裏返しだった。鮮やかな記憶が蘇り、それを渇望しているのを確実なものとして感じました。

あの人みたいになってやるーーー僕は神機使いになることを決心しました。そのことを家族に伝えた時、家族は意外なことに驚きはしなかった。この日々の中で乾ききってしまっていたのか、それとも僕が龍治さんに憧れて神機使いになることを知っていたのかーーーそれは今でも分かりませんが、ただ『行って来い』とだけ。

 

今でこそ適合試験は事前の遺伝子検査である程度適合情報は分かりますが、僕が神機使いになった頃、適合か不適合かは実際に神機を握って腕輪を付けて、喰われるか喰われないかでしか分からなかった。まぁ、結果として喰われなかったから今ここに居るんですけどね。とても怖かったですよ、でも、あの人もこれを乗り越えたんだと思うことでなんとか正気を保てました。

僕の神機は第一世代、近接長刀型でした。偶然にもあの人と一緒の。まるで子供のように喜んだ。その頃のアナグラでは有瀬龍治と飯田正虎といえば『双璧』として知らないものは居ませんでしたし。あの人の舎弟だったことはその頃の僕の一番の自慢でした。もちろん今もですが。

そうですね、少し『双璧』の話でもしましょうか。『エイジス計画』・・・ってご存じですか。ええそうです、極東の前支部長、ヨハネス・フォン・シックザールさんが提案した計画です。概略だけ言うと、空母が座礁したままの海岸、あのあたりの沖合50kmあたりの海上にエイジス島というアラガミ装甲で覆われた人工島を建設して、そこに全人類を収容する計画でした、もともとここ極東支部はエイジス島の建設の為に設けられた支部なんですよ。

エイジス島の建設が極東の最優先事項だったその頃、龍治さんと正虎さん、『双璧』は主にエイジス島の工事に着手するための空母周辺のアラガミの殲滅ーーーそれを殆ど二人で行っている神機使いだったんです。当時のアラガミが今よりも細胞同士の結合が弱かったとはいえ、あれほどの地域をたった二人で、言ってしまえば焼け野原にしたんです、そんなこと出来るっていうのは並大抵の事ではありません。

僕も一度、支部長に頼み込んで双璧の戦闘を実際に現地で上空から見たことがありますが、特に龍治さんの動きは僕の知っている”神機使いの動き”じゃなかった。そうですね・・・言うなればそれこそ”走り屋の動き”でしょうか。洒落で言ってるわけじゃありませんよ、とにかく速いんです。

あれは人の走る速さじゃない。龍治さんに向けて遠距離ミサイルを発射したクアドリガが、そのミサイルの着弾よりもずっと早くに真っ二つになっていた・・・なんて言えば分かりますか。

正虎さんは龍治さんとは逆にその場から殆ど動かなかった。あの体格でその場から動かずにアラガミを蹴散らすのは見ているだけでも恐ろしいものでした。

10年ぶりに龍治さんの姿を、それも間近で双璧の戦う姿として見た僕は、より一層あの人に憧れるようになりました。

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