【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero- 作:あとろふ
「これからどこに・・・?」
「内密の話に似合うところ、だ。」
僕をジープの助手席に乗せた寡黙な正虎さんが居住区の砂嵐にその芥子色のドレッドヘアを忙しくはためかせて向かったのは10年前、僕らのアジトだった所でした。そこは極東支部の東部防壁のギリギリ内側だったおかげで、殆どあの頃の姿のまま残っていました。
「へぇ、残っていたんですね、あの頃のままだ」
あの日と同じ銃痕から差し込む街の景色を見ながらあの日の龍治さんを懐かしんでいたのも束の間、瓦礫を漁りながらの正虎さんが話を切り出しました。
「アイツが拘置所にぶち込まれた理由は聞いたか」
「理由・・・ですか。いえ、聞いていません」
銃痕から目を逸らさずに答えましたーーーおおよそ想定はついていましたが。
「あー、まあその様子だとお前が思ってる所で間違いは無さそうだが・・・。要は、美月の件で支部長に食いかかった結果、だ。」
それに続く話はおそらく・・・
「支部長は龍治さんをどうする気なんでしょうか」
そう言いながら僕が正虎さんの方を見ると
「ほう、流石はアイツが見込んだ人間だ。話が早い。」
正虎さんは弄っていた机を大きな手のひらで軽く叩き、こちらに向き直しました。
「龍治の思う通り支部長は俺らが邪魔になった、と見て間違いは無いだろう、恐らく俺か龍治のどちらかを他支部に・・・ここしばらくの支部長の動きからしてカナダだと思うがーーー異動させるつもりだろう。そして都合の付けやすさからして、それは恐らく龍治だ。」
「異動・・・ですか、すると貴方の話というのは?」
「ああ、それなんだが・・・」
正虎さんは何か言いにくそうに答えを躊躇いました。
「その様子だと・・・ふふっ、僕のこの身体が絡みますか」
自嘲的にそう言ってみせると、正虎さんも苦笑いしながら
「ふん、敵わないな、アイツんとこの頭脳様だった奴には。」
と冗談で返しながら、本題へと入りました。
「お前のその身体だと神機使いを続けるのは無理があるだろう、弱みに付け入る訳ではないんだが、お前に神機使いを引退して欲しいと思う。」
「引退・・・?」
僕自身認めたくなかった事を、あろうことか10年前敵だった人物に切り出されて、僕は少し声を荒げてしまいました。
「すまない、無礼は承知しているつもりだ。だが本題はここからだ、聞いてくれないか」
双璧ともあろう人が僕に対して下手に出ている事から、それなりの事情がある事を察し、
「分かりました、貴方ほどの人間がそういうのならそれなりの話なんでしょう。聞きますよ」
と言葉に刺を添えて返しました。
「すまん・・・感謝する、お前にはオペレーターをやってほしいと思っているんだ。お前のその切れる頭にはそっちの方が見合ってる筈だ。」
「オペレーター、ですか・・・それがどう異動の話に繋がるんですか?」
僕はいまいち見えてこない本題に困惑した。
「その異動なんだが、ただでさえ嫁を失って窶れてるアイツをその上故郷から引き離すのは酷な話だ・・・。俺は支部長の狙いは双璧の別離だと見ているーーーここからは推測に過ぎないが、支部長の推し進めるエイジス計画には何か裏が在る、それは手元に俺らの戦力を置いておく事がリスクとなる事だろう。飼い犬に手を噛まれては困るということだ。それならば俺が異動の命を受けても同じ筈だ。」
「貴方が身代わりになる、という事ですか。」
僕はかつての敵対勢力という事で正虎さんを若干敵対視していたせいで、彼が龍治さんを案じている事に意外さを感じました。
「端的に言ってしまえばそうなる。そしてここからがお前の話だ。ーーーおそらく支部長はそれだけではまだリスクを過大とするだろう。龍治は飼い犬にするには少し気が荒い上に今回のことで自身を憎んでいる、とな。俺でなく龍治を極東に残すことに対して支部長が利点を感じなければいけない。それは恐らく単に戦力だろう。双璧と呼ばれているが俺の戦力は龍治に一歩引けをとっている。それは紛れも無い事実だ。そこで防壁内の居住区の外縁部に位置するここを龍治専用の拠点とする案を提出する気でいるんだが、必須となる専属のオペレーターと神機整備士が見つかっていない。ーーーその役をお前に買って欲しい、という訳だ。」
「なるほど・・・そういう事、ですか。」
正虎さんの案は驚くほどに理に適っていました。
「引き受けてくれるか?」
「ええ、分かりました。引き受けましょう。」
僕はそれを快諾しました。
「ありがとう。助かる。」
正虎さんは僕に頭を下げました。本題が片付いた所で、僕は不思議に感じていたことを訊きました。
「どうして正虎さんは敵だったはずの龍治さんと手を組んで軍隊に・・・?その上神機使いになって双璧と呼ばれるほどにまで?今のことだって、龍治さんの為にそこまでするのは何故?」
正虎さんは「ふん」と鼻を鳴らして少し照れた様子で
「ならば逆に問うが、何故、お前は龍治をそこまで慕う?さっき、龍治を見ていた時のお前の顔は・・・。おんなじ事だ。ーーーあんなになっちまっても、な。」
と言いました。
「・・・そうですね。」
なんとなく、その瞬間に僕は正虎さんと何かを屈託したような、いえ、屈託したというよりはむしろ、傷を舐めあうようなーーーそんな気がしました。
「よし、俺は支部長に話をつけてくる。通るかどうかは分かったもんじゃないがな。そっちはここで準備があるだろう。・・・龍治を頼んだ。」
正虎さんはそう言って僕を置いてアナグラに帰って行きました。
『龍治を頼んだ』・・・。その口ぶりには僕に何かを期待するような、或いは何かを押し付けていくような向きがありました。 きっと先の説明がどこか説明過多だったり、やけに僕に対して下手に出ていたのは・・・龍治さんの為だけでなく、言外に『正虎さん自身が窶れた龍治さんを見ていたくなかった』、という理由があったからでしょうね。正虎さんらしいです。要は逃げ出したかったんでしょう。相棒としての使命の重さに耐えかねてそれを僕に担がせたかったーーーその気持ちは痛いほど分かります。
それと同時に、僕は『龍治さんみたいになりたい』という夢物語を捨て、現実的に、自分にしか出来ないことをやろうと思うようになりました。
ーーー僕はあの人じゃない。 だからこそ。