※この作品はR-18です。

【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero-   作:あとろふ

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第十三回

僕が神機使いを引退し極東で神機整備の研修を受けている間に、いつの間にか双璧が解体されるという噂が神機使いの間で囁かれるようになりました。『どちらかが他支部に異動になり、どちらかがアナグラを追放される』といった内容の。おそらく、追放とは青龍の事だったのでしょう、要は正虎さんの要請が通った、ということでした。美月の姐さん達の扱いは表面的には『失踪』とされていて、真実である『部隊ごとアラガミ化して双璧に討伐された』という事は一定階級以上の人間が知っている以外は意地の悪いうわさ話程度に流れた程度でした。そんな事もあり、多くの神機使いの間では双璧の解体は一種のミステリーのようなものだったのでしょう。

双璧を失ったアナグラの主戦力は以後十余年第一部隊ということになりましたね。今でこそクレイドルやブラッドの方々が主戦力になりましたけど。

僕が神機整備の技術をある程度得た頃を見計らって、正虎さんのカナダ異動の令が出て、龍治さんが拘置所から出てきました。その時に初めて娘さん、喜鴉さんを見ましたが、その頃から美人でしたよ。美月の姐さんに似て。龍治さんが残した傷・・・頬の傷が勿体無いです。初めて会った時、まだ小さかった喜鴉さんは僕に『お父さんをよろしくお願いします』と頭を下げました。生まれた頃には軍隊に入って殆ど面識が無かった人ですよ、それでも喜鴉さんは献身的だった。きっと彼女の中では父親が人類の為に戦っているのに自身は何も出来ない事が我慢ならなかったのでしょう。僕が親父を誇ってないわけではないのですが、龍治さんのような名誉な人を父親に持ったことは素直に羨ましくも、可哀想にも思います。

結局は龍治さんは喜鴉さんには何も強いたくない、と何も青龍の仕事を与えなかったのですが。龍治さんは贖罪の気持ちで彼女にそうさせたのでしょう、しかしそれが彼女にとってこの上ない苦痛になってしまった。皮肉なもんです。

それだけに、永音さんが現れた事は彼女には気の毒なことだったのかもしれませんね。きっと今でも、永音さんには割り切れない思いがあるんだと思いますよ。龍治さんの事やーーーそうですね、これから先、もしも貴方が僕の望むような人になってくれたのなら、きっと貴方のことも・・・。いえ、それは我儘が過ぎますか。

僕が永音さんを知ったのは、ここでの生活ーーー結局僕が神機使いになる前の故郷での生活のような、味のしない惰性的で退廃的な黄昏の生活が10年ほど経った頃、喜鴉さんが神機使いになるほんの少し前の頃でした。貴方に分かるように言えば・・・現クレイドル隊長が極東初の第二世代神機使いなるほんの少し前の頃ですかね。この近辺の居住区に防壁を越えてアラガミの襲撃があったんです。

その頃の極東は人手不足のせいで居住区にアラガミが侵入するなんてことは日常茶飯事・・・。それでも僕らの管轄するこの一部の東部居住区は、ここが防壁のすぐ近くで尚且つ担当しているのがかつての双璧の一角だったこともあって、住民の死亡率は極端に低く、死亡者が出ることは滅多にありませんでした。大抵の襲撃は数十分から数分前には分かるので例えば自室で寝ていても警報音で起きて対処できますし、アラガミは人のいる所に来るまでに殲滅されるか、個体あたりの能力が向上したほんの数年前ーーー丁度その頃になっても、住民の避難が完了するまでは十分足止め出来ていたので。まあ、龍治さんの任務が常に居住区の防衛で防壁外は管轄外だったこともあって、襲撃自体は防げなかったんですけどね。

任務が殲滅から防衛に変わったせいで、或いは龍治さんそのものが変わってしまったせいで、双璧の頃に僕が見たような神機を逆手に持って飛び回る姿をすっかり見れなくなってしまったのは少し残念でした。貴方にも一度くらい見せたかったものです。

すいません、話が逸れてしまいましたね。ーーーその日もいつも通り、龍治さんは住民の避難が終わるまではアラガミを十分足止めできていた筈だったんです。しかし結果としては神機使いの負傷者1名、民間の死亡者3名の人身被害が発生しました・・・負傷者が永音さん、残りの死亡者は皆永音さんの家族ーーー負傷した永音さんを搬送してきた龍治さんは口を噤みましたが、何が起こったかくらいは簡単にわかりました。・・・ご想像にお任せしますよ、僕の口からも無闇には言いたくはありませんから。

その襲撃の後、永音さんにはここ青龍への異動の令が下りました。

さっきも言いましたが、ここは元々龍治さんを疎んでいた支部長が龍治さんを自身から隔離しつつも戦力を確保するためにおいたものでした。当時は今のような分支部の形でなくてあくまで駐屯地で、龍治さんは本部でなく極東支部の青龍分隊に所属する神機使い、という形を取っていて、そもそも青龍分隊に新たに神機使いが配属もしくは異動されるということはまずあり得ませんでした。喜鴉さんすら配属されなかったように。

娘である喜鴉さんが配属されなかった青龍分隊に赤の他人の永音さんが配属されたーーー龍治さんの力になるために神機使いになった喜鴉さんがここへの配属を希望しない、そんな馬鹿な話はありません。それでも永音さんだけがここに配属された理由として考えられるのは『龍治さんが喜鴉さんの配属を拒み、永音さんの配属を望んだ』という事のみです。

不自然ですよね。当然僕だって不自然だと思いました。娘である喜鴉さんを拒むのはここでの防衛任務が並の神機使いには過酷すぎるからだ、娘をそんな目にあわせられない、と龍治さんは僕らに言いました。でもそれだけだと永音さんがここに配属されるのはおかしいでしょう。いくら他人といえど、ここでの過酷な任務の一端を決して優秀な神機使いではなかった永音さんに担わせるような人間じゃありませんし、当時の永音さんの実力を鑑みれば、龍治さんにとっては永音さんの存在はむしろ足手まといだったと言ってもいい。たった一人でアラガミの大群を無に還すことの出来る人間と、その大群からはぐれた小蝿一匹も満足に払えない人間は、どうやったって釣り合わない。

それでも永音さんが配属された理由ーーー僕は気付いた。

『龍治さんは永音さんに自分を投影している』。

永音さんを自らの手で家族を殺した自分に見立て、家族を失った永音さんを励ますことで自分自身を励まそうとしていたんだと。

僕が思った通り、龍治さんは永音さんにとても優しく接していた。家族を失って塞ぎこんでいる見ず知らずの自分に優しくしてくれるーーーその人は自分の命を救った恩人で、神機使いとしての実力もとても高く、いろんな人を惹きつける魅力があるーーー永音さんの目にはそう映ったのでしょう。永音さんが龍治さんに惹かれ始めたのも当然でした。

その頃の永音さんは今と違って攻撃的な性格で、アナグラに居た頃は頻繁に問題を起こしていたらしく、彼女のことを快く思っている人は殆ど居なかったようです。彼女にとって、龍治さんは唯一の味方だったのかもしれません。

もしも永音さんが、龍治さんの優しさが自分に向けたものではなく、龍治さん自身が自分の傷を癒やすための物だったと気付いたらーーー命の恩人で、たった一人この人だけは味方でーーーそんな優しさが偽りの物だと気付いてしまったら。

本当なら、永音さんの受ける心の傷をより小さくするために僕の口からそれを告げるべきだったのでしょうか。彼女のことを思うのならーーーでも、僕は卑劣にも彼女に”期待”をしてしまった。龍治さんが彼女に向ける笑顔、あの頃のようなーーー僕が子供のように憧れていたあの頃のような笑顔を見て、『永音さんならば、この人がいれば龍治さんは昔の姿を取り戻せるのかもしれない』、そんな期待を抱いてしまった。

 

ーーー僕は咎を犯した。僕は穢れた人間だ。自分が憧れた姿をただもう一度この目で見たいが為に、何の罪もないーーー彼女の無垢でいたいけな、無邪気で初心な恋情に色づいて龍治さんを見上げている彼女のその瞳を、涙で濡らす道を選んでしまったのだから。

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