【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero- 作:あとろふ
「あの子の事」
任務から帰ってきた龍治さんが神機整備室で一人の時を見計らって声をかけました。
「あの子?」
平静を装っていましたが、確かに困惑したような横顔を僕に見せた。話は解っていた。
「ーーーモニタリングルームなら」 彼女に話を聞かれることもない。
そういって僕はここに入った。龍治さんは今貴方がそこに凭れかかっているような具合で後から入ってきました。扉が閉まる音を聞いて、僕は振り向かずに言った。
「カシラが彼女に言っている言葉・・・そういう事ですよね。」
いつもの打ち解けた雰囲気じゃなかった、どんよりとした・・・互いに触れたくない所に触れた気まずさですか。
「やっぱり・・・か、お前にゃ隠せねえな」
ふっ、と鼻で笑った龍治さんは、敢えて悪びれず、太い声で
「だったらどうなんだ」
と言ってみせました。あの人なりに罪の意識はあったようです。永音さんの資料ーーー適合率、経歴、戦闘履歴ーーーそれらを見ていた僕はそれを机にぱたと置いて振り向いた。
「どうもしませんよ。 ・・・でも」
あの子にも分かってしまうんじゃないですかーーー龍治さんの目を見た僕は、その言葉を省略した。そんな事は分かってるに決まってる。
「カシラに心の底から惚れちまってるあの子も。」
龍治さんは参った様子でした。あの人に珍しく深く考え込んでいるようで、ゆっくりと俯きながら僕に弱音ともとれる言葉を吐いた。
「俺はどうしてやりゃあいい、ただ、その時が来ないよう祈って、このまま穏便に過ごすだけか。」
「それが、僕に分かると思いますか。」
どうしようもなかった。どうしろと言えるわけも。龍治さんを敢えて突き放すように言いましたが、それが現実でもあった。
「ははっ、洲にも分からねえか。 お手上げだな、こりゃ。」
無愛想に突き返された龍治さんは、こっくりと俯いたまま力なく肩を跳ねさせて笑いました。
がっくりと滅入って居るのに、不思議とそんな龍治さんを見ていると昔のような日々を思い出すーーー活力に溢れていたあの頃の龍治さんを。懐かしさに、つい破顔して声を漏らしてしまった。
「なんだ、なにがおかしい」
龍治さんが凭れ掛かって丸まったまま顔だけこちらに向けてきました。
「すいません、いえ、あの子の話をしている時の貴方が、なぜか昔の頃を思い出させるんですよ。短かったけど楽しかったなって。」
「ふっ、なんだ、昔話か?ガラにもねえな」
龍治さんも釣られて少し元気になった。
「ーーーあの子が、そうさせるんでしょうね」
龍治さん自身も少しずつ永音さんに惹かれている、僕はそう感じていた。
「勘弁してくれ」
自分の娘より年下の相手ですから、おかしなことです。龍治さんも笑いました。
でも、再び僕らの間に沈黙が訪れた後、龍治さんは再び口を開いた。
「ーーーわかってるんだよ」
それは重苦しい口調だった。
「俺自身、永音に惹かれちまってる事は分かってんだよ、けどよ、守ってやれなかったアイツにどう顔向けしてやりゃあいいんだ、どうしたら赦してもらえる。」
龍治さんは美月の姐さんの事をこの上なく大切にしていました。龍治さんをここまで十年以上にわたって窶れさせて、更にはまさにその時永音さんについてそれほどまでに悩ませていたのも、他でもない美月の姐さんだったんですから。あの人の死は龍治さんの心のなかでその時の形のままずっと残り続けていた。あの人を想う強さが龍治さん自身を縛り付けて一歩も動けなくなっていたんです。
壁に身体を預けてぐったりと俯いた・・・拘置所で見た時のままの龍治さんの姿に、美月の姐さんの存在を強く感じました。
「もう、赦されたいんですよね。」
ずっと自分を赦せないまま生きてきた、龍治さん自身が抜け出したいと願っても、最早一人でそれは敵わない。それを可能にするのが永音さんの存在だった。
「ーーーなら、せめてあの子のことは守ってあげたら・・・いいんじゃないですか、あの人みたいにならないように」
エゴだった。決して永音さんのためではない、龍治さんの為にそう言った。永音さんを、龍治さんの呪縛を解く鍵のようにしか考えていなかった。
「嘘をついたまま、か」
龍治さんにそう言われて、僕はそんな自分を初めて自覚した。永音さんが嘘を知る悲しみをーーー嘘を知って、悲しんで、涙を流せば。彼女の悲しみで龍治さんは変われる・・・そんな風にしか考えていなかった自分の姿は醜かった。
美月の姐さんを手に掛けた龍治さん自身が赦されるためには、永音さんと向き合わなければならない、永音さんと向き合う為には、龍治さん自身が呪縛から解放されなければならない。
永音さんが嘘を知れば、永音さんが悲しめば、こんな堂々巡りはーーー
醜い自分の姿を知ってなお、そんな考えを捨てる事は出来なかった。