【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero- 作:あとろふ
永音さんが此処へ来て龍治さんの指導のもと活動していた頃、ヨハネス支部長が秘密裏に推し進めていたアーク計画ーーー全世界から1000人ほど、支部長が「価値がある」として選定した人間を「ノアの方舟」と呼ばれる宇宙船に乗せて一度避難させ、人為的に終末捕喰を完遂させて新世界に降り立つーーーという計画がアナグラ内で表沙汰になっていました。小を殺して大を生かすーーー”乗船券”を与えられた神機使い達の中でも、容認派と否認派が分かれてアナグラは険悪な雰囲気に包まれていたそうです。
もっとも、私や永音さんを含む青龍の人間に”乗船券”が与えられる筈も無かったのですが。アナグラの情報統制は、私達青龍の人間がアーク計画の存在を、それがヨハネス支部長の訃報と抱き合わせになって流れ込んでくるまで知り得なかった程のもので、私達は唯一、青龍への連絡の規制を受けた喜鴉さんが殆ど連絡を寄越さないのを、アナグラは何やら忙しいのだろう、と片付けたのみでした。
もう一つ、その報せと同時に舞い込んで私達を驚かせたのが、作戦中に新型のアラガミに襲撃されてMIA(作戦行動中行方不明)となっていた雨宮リンドウの足跡が発見された、という旨のものでした。固よりリンドウさんがMIAとなったのはヨハネス支部長の統制下にあった時期の事であり、その情報ですら此処には知らされておらず、それを知った時、際立てて酷く驚いていた様子だったことを覚えています。MIAといえばーーー龍治さんの頭のなかでは美月の姐さんの事が思い出されていた事でしょう。支部長の訃報も同様に。彼女ーーー姐さんの事を知られてはまずい人間ーーー永音さんがその場に居たので平静を装っていましたが、姐さんと同じくMIA、その上アラガミ化して放浪している形跡が見つかったとなれば、冷静で居られないのは仕方のない事でしょう。
その後もアナグラはリンドウさんの捜索や第二のノヴァの出現と、引っ掻き回されたような忙しさに右往左往していたようですが、此処にその余波が来ることはからっきし、喜鴉さんの連絡とサカキさんからの報告が忙しなく届くようになった事以外に青龍には何もなく、それまでと同じような穏やかーーーというよりは空疎な活動が続いていました。
私たちの生活・・・それだけでなく、龍治さんと永音さんの間柄、それのみか今の青龍に至るまでに私たちに大きな影響を与える事になったのが「青龍分隊を解体し、青龍の人間を再びアナグラに配属する」というサカキさんの声明だった。そもそもの青龍の成り立ちからすれば、ヨハネス支部長が殉職しサカキ現支部長がそのポストに就いた結果として至極妥当なものですが。龍治さんも異論は無かったようです。
アナグラへの再配属についてサカキ支部長から説明と相談がある、と私たちはアナグラへ招集されました。実に10年ぶりのアナグラへ。すでに数日前に正虎の兄貴には連絡が行っていたようで、それも現在極東へ向かう途上、じき到着するので到着次第説明に移る、とのことでした。
双璧の復権。英雄の凱旋。ーーーしかし我々がアナグラの人間に歓迎されることは無かった。アナグラの神機使いは双璧の栄光を知らない人間が殆どーーー彼らの中には、「妻殺し、同じ神機使いを無慈悲に殲滅した悪魔」という悪い噂、誇張気味に言えば神話、その中の姿でしか双璧は存在していなかったようで。
ーーー当然、降り立った矢先から厭味たらしく囁かれたそれが永音さんの耳に入らないわけもなかった。
「家族殺しの女には妻殺しの上官が似合っているさ」と。
それは、前触れもなく唐突に訪れた。僕と龍治さんが最も恐れていたことが。
ーーー私が俄に期待していたことが。