【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero- 作:あとろふ
「嘘、だよね・・・?」
先程までのくぐもった声から一転、縋るようにも聞こえる声だった。永音さんは俯いたまま横目に僕を見て、そんな声を落したんです。からん、と、それが床に落ちる音さえ聞こえたような気がした。純粋な彼女に縋られた時、僕の心はまるで首根っこを掴み上げ、締めつけられたような声を上げたようでした。
「ねえ、洲クン・・・?」
嘘だと言って。ーーー僕は逃げ出したくなった。彼女の姿を見ていたくないというわけじゃなく、ただ僕がこれ以上自分の罪を直視していたくなかった。永音さんの縋るような目は依然、僕を軽蔑しているように感じられました。
「僕の口からはーーー。龍治さんに聞いて下さい・・・。」
嘘じゃない。ーーーなんて。勇気はなかった。そうとしか答えられなかった。永音さんにとっては僕の口から出てほしくない答えだったでしょう。暗に彼女に真実を仄めかす答えでした。彼女の傷を拡げぬよう、彼女の痛みを和らげるようーーーそんな気を利かせる余裕など欠片もなかった。それどころか、あわよくば龍治さんにけしかけて、この日常に何かの変化を、なんて期待さえした答え。
「洲クンは、知ってたの?」
水牢に閉じ込められたような息苦しい沈黙の宙空に、僕への問が放された。
僕はもう彼女に何をいう権利も無い、下賤な期待の贄にしてしまった清純すぎる彼女に対して、僕は一つの声すらこの口から垂らすことは赦されない。僕は彼女から目を逸らした。
言葉を返さない僕に、永音さんがゆっくりと近づいて来るのを感じた。いっそ僕を殴って欲しい、胸ぐらを掴み上げ、その怒りをそのまま、そうして僕は赦された気になりたかった。
けれど、そんな虫のいい考えは大抵、そうはいかない物です。
「あぁ、居た居た、サカキがお前らにも説明があるってーーーどうかしたか?」
階層移動昇降機の扉が開く音と共に龍治さんが何事も起こっていないような素振りで入ってきた、その態度こそ、龍治さんが永音さんを騙し続けていた事の最もたる証拠でした。
僕と目があった龍治さんは事を察したらしく、その剽軽な笑顔に陰が差したーーーそれからの顛末を見届けられるほどの胆力など、僕は持ち併せては居ませんでした。
僕はその場から立ち去った。その後の話はーーー喜鴉さんから聞きましたか。エントランスから去る途中で彼女とすれ違ったのを覚えています。
あの時の僕はどんなだったって言っていましたか。きっと、情けない顔をしていたんでしょうね。
逃げるようにあの場を去って、どこに行くわけでもないーーー龍治さんと初めて逢った時のことを少しだけ思い出していたーーーそんな時、劈くようなブザー音が僕の側頭部に打ち付けました。
緊急警報、緊急警報、極東へ向けて移動する多数のアラガミ群を観測。全部隊、出撃準備を整えて下さい。繰り返します、多数のアラガミ群を観測、出撃準備を整えて下さい。 今回も総力戦が予想されます。
サカキ支部長や喜鴉さんから聞いてはいた事だったのですが、それでも「今回も」という言葉は重たかった。けれどもそれも青龍が再びアナグラに配属となれば少しは楽になるのではないか、アーク計画の余波である連続した襲撃も、リンドウさんの復帰した当時の第一部隊の戦力にこれから復権することになる旧双璧の戦力を含めば、十分凌げるようになるのではないかーーーそんな希望を抱えてアナグラのモニタリングルームに急ぐ僕の頭のなかにはもう一つ、龍治さんと永音さんの間に生じた亀裂の懸念があった。
杞憂で済めば良かったんですけどね。その懸念は思っていたよりもずっと早く、ずっと深刻な形で現実のものになってしまった。