※この作品はR-18です。

【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero-   作:あとろふ

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第三回

自室に案内される友人たちを見送った後、零はアナグラ最上階にある来客用の個室に案内された。モノの分かる人間には「広がりのある空間」とでもいわれるのであろうか、ぴっちりした正方形のベッドや暗い色使いの油絵風の絵画を静寂(せいじゃく)という冷や水に沈めたかのようなもの寂しく駄々広い空間であった。

 

では翌日にお迎えに上がります、と口数の少なかった案内役が後ろ手に扉を閉めて、零はついにその静止した空間の中に一人で取り残されてしまった。

 

壁一面の大きな窓の側まで来てみると、彼が今まで暮らしてきた町並みを一望できた。世界の壁に端をひっかけたパイプライン、ちらほら点在するフェンリル関連企業のビルディング、それら全てが目まぐるしく彼がいる静寂の部屋とはまるで世界が違うようで、そのギャップが彼を”天守閣”にでもいるような気分にさせた。時折輸送ヘリの往来の音が聞こえる以外に音のないその部屋で彼は一晩を過ごした。眠さは感じなかったが、ベッドに倒れ込んだ瞬間に彼は眠りについてしまった。やはり適合試験はかなりの負担であったのだろう。

 

夢は見なかった。遠くから聞こえてくるヘリの音に目を覚ました彼には、そのかすかな鳴き声すら、耳元で蝿が飛び回る音に聞こえるほどに、一晩の間にその部屋の静寂が身体に流れ込んで染み渡ってしまった。そのまま迎えが来るまでベッドに座りその空間に溶け込む。”今日から神機使い”という事実は事実と認識するにはあまりに突拍子の無さ過ぎる事柄であった。

 

しかしその漠然と染み込んだ静寂の冷や水は再び青龍分支部の前に立った時には突風にあおられた粉雪の様に吹きっ晒して流れ去り、代わりに酷く泥臭い実感がどっと彼に流れ込んだ。青龍分支部の前線故の油臭さとそこでこれから神機使いとして闘う実感に思わず立ち止まりわずかに顔をしかめてしまう。

 

支部に入るとエントランスにはあの時の女支部長、大男と他に数人が待っていた。どうやら歓迎されているらしい。ようこそ青龍へ、刹城零くん。これからよろしくね、と支部長である永音が挨拶をすると、それに続いて皆が自己紹介を始めた。大男の名前は”飯田正虎(いいだ まさとら)”というらしい。隣に黒の背広に薄桃色の長髪をがさつに垂らした”鎌走洲(かましり しゅう)”という温厚そうであるが人相の悪い男。反対側のスタイルの良いポニーテールの女”有瀬喜鴉(ありせ きほ)”。順に自己紹介を述べた。

 

偶然にも零は喜鴉の事を知っていた。幼少期を過ごした児童保護施設に短期間の間滞在していた年上の女だ。零はその女を”喜鴉姉”と慕っていたので、彼女のことをよく覚えていた。零が驚いて喜鴉姉、喜鴉姉か、と呼びかけると、喜鴉も彼のことを思い出したようで、零ってあの零か、久しぶりじゃないかと相変わらず男のような言葉遣いで喜んでみせた。

 

あぁ、喜鴉チャンの知り合いなの、だったら案内は喜鴉チャンに任せようかな、私は登録情報を整理して資料を揃えとくから、と永音がその場を去り、洲が零に会釈しそれに続く。正虎は気が付くと居なくなっていた。やはり大男は気に食わないやつだと零は感じた。しかしそれよりも幼なじみとの再会が嬉しく、昔話に花を咲かせながら喜鴉と支部内を歩きまわりながら各施設の説明を受けた。

 

施設の説明が終わり何か気になることはあるかと問われた時、零はふと気になっていたことを思い出し、施設には関係ないが、支部長と姓が同じだが親戚なのか、と訊いた。喜鴉は想定外の困った顔をして、母親…て事になるかな、と答え目を逸(そ)らしながら「一応。」と付け足した。何か答えづらいことを訊いてしまったようだと申し訳なくなり、ごめん、と謝ると、喜鴉はいやアンタは悪くないさ、強いていうならあのクソ親父がってとこかな、と冗談めかしく返し、滞(とどこお)った空気を戻そうとつとめた。零は喜鴉の父親の話を養護施設に居た時に聞かされたのをわずかに覚えていた。名前は確か”有瀬龍治(ありせ りゅうじ)”、だったか。あの時は尊敬するお父さんだ、と言っていたのに、何かあったのだろうかと不可解に感じたが、せっかくの再会をこれ以上白けさせる事もないだろう、と敢えて詮索(せんさく)を避けた。

 

 

施設の紹介が終わりエントランスに戻ってくると、資料を脇に抱えた永音が待っていた。説明は終わった?喜鴉チャン?…そう、じゃあ零くんは私と支部長室に来てくれるかな、案内するね。と言い、零についてくるように促し、零はすっかり数年前の間柄に戻った喜鴉に手を振り、つい数日前も威勢良く通った廊下を永音の後ろに少し間を空けてついて行った。支部長室では新人課程での訓練の内容や段階、修了検定についての説明を受けた。あまりこういった形式張った説明は得意じゃないと零は感じたが、どうやら永音もそれに慣れないらしい。説明が終わると、ごめんね堅苦しくて、私も新人は君が初めてだから慣れないんだ、とはにかんだ。やはり不思議な雰囲気のする女性だ、と零は感じた。じゃあ、明日の初回訓練でね、という永音の言葉に零は一応の会釈を返し支部長室を去り、用意された自室に入った。さすがに昨日の天守閣とは違い幾分か泥臭い部屋だが、今まで暮らしてきた環境よりはずいぶんとマシだと感じたのでその事は気にはならなかった。昨晩の静寂が嘘のように、いよいよ明日から神機使いとして訓練だ、という実感が零を眠りにつかせようとはせず、しばらく永音と喜鴉と龍治、この3人の関係について考えていた。

 

 

第三回(終)




あとがき
次回からやっと主人公が神機を持ちます。展開が遅くて申し訳ありません。
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