※この作品はR-18です。

【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero-   作:あとろふ

34 / 65
第廿二回

龍治さんと永音さんの治療が無事開始したという報せを聞き胸のつっかえを幾分か緩めた僕は、その後アラガミの襲撃が収まるまで他の部隊の支援をしていました。気が少し晴れたとはいえ、外は未だ鬱蒼と繁ったような黒雨に霞んでいて、心中や二人の顛末を暗示されている様な気分を起こすーーー雨音が僕の胸に冷たく反響して、不安か、焦燥か、或いは後悔か、判然としないまま雨水に肺が沈められたような。

もしも永音さんが助からなかったなら、僕は彼女や龍治さんに対しての罪悪の念に耐えられないだろう、けれども、彼女が助かったならばーーー僕は彼女に再び会うのを恐れている。自らの汚点を蔑んだ眼で刺される未来、僕はそれを想像するに堪えるほど頑丈な神経を持ちあわせてはいなかった。彼女の生を祈る気持ちの動機が不純であるが故に、半端な僕はそれを素直に望めず、不純であるならば不純なままに、と彼女の死を望む気持ちが膨張する。「今は交戦中の部隊の支援に徹さねば」と自分が納得できる表向きの逃亡の理由を膨張し続ける僕の中の悪人が作り、悪人が悪人のままに自分を正当化するのにも嫌気が差した。

やがて、戦域のアラガミは無事殲滅され、オペレーターとしての任は暇を得てしまった。いっそこの襲撃が永遠に続いて、永音さんと龍治さんの容体を見に行く時が来なければ良かったのにーーーそう思いながら僕は二人の容体を確認しようと病室へと急いだ。

病室に駆け込んで直ぐ、白いベッドに大事に横たえられた龍治さんが視界の傍に映った。血色は良く、「ただ眠っているだけだ」と言われればそのようにも見える。僕は、龍治さんが安泰であると確認して一つとして安心しない僕自身に驚いた。横たえられた龍治さんの顔を見た瞬間には、僕の頭には永音さんのことしかなかった。僕は数秒と龍治さんの顔を見ず、病室を一通り見渡した後、龍治さんの横たえられたベッドの二つ三つ隣、奥に、カーテンに仕切られた所が在ることに気付いた。半透明な布の向こうに遠目ながら様々な機材が駆動しているのを確認して足が竦む。外を叩いていた黒雨のせいか屋内である病室の空気も心なしか冷たく、薬剤の匂いが強く鼻腔を突き刺す感覚がより僕の緊張を掻き立てたような気がします。

近づくほどに薬剤の匂いは強くなり、布の向こうの光景を想像してしまう。怖ず怖ずと白い布の隙を割るとーーーまず強烈な薬剤の匂い。思わず目を瞑り顔を背けてしまった。そして、目を瞑るまでの弾指の間に目に映った光景が瞬時に瞼に浮かぶーーー真白の包帯、赤黒い”何か”、複数の機材とベッドの上を中継する幾つもの管ーーー理解はすぐとは行かなかった。それを理解したくないという心理が働いていたんでしょう、そして解した時、僕は背けた顔を再び目の前のモノに向けることがこの上なく怖くなった。

ーーーそれは、もはや人間とは呼べない姿になっていた。

再び視線を戻し、焦点を据えて見たそれは、例えるならミイラのような、おおよそ生を感じることのない物体だった。身体の大部分を包帯で覆われ、唯一大きく露出した右腕はどす黒い肉に覆われて酷く肥大化していた。その右腕に幾本もの管、それらがベッド隣の機材にぶっきらぼうに繋がれ、ベッドの奥にだらりと垂れ下がっている。ーーー突如、何かに気付いたように、これを龍治さんに見せる事に強い恐怖を感じました。龍治さんがこれを見たならば、どう思うだろうか。そんな事は火を見るよりも明らかだった。あの人ならば、かつて美月の姐さんを失ったあの人ならば、これを見せてしまうときっとまた自分自身を必要以上に責め立ててしまう。それは僕が最も避けたかった事だった。それに、龍治さんは僕が彼女を唆したということを知っている風だった。龍治さんが彼女の容体を知ってしまったならーーー僕はカシラに合わせる顔が無かった。

「ーーー洲か?」

後ろから声を掛けられた。低く重厚な声、正虎の兄貴だった。

「正虎さんですか。・・・お久しぶりです」

そう言いながら僕は体ごと振り返り、後ろ手に再びカーテンを閉めた。見られては都合の悪いものを咄嗟に隠すように。正虎さんは10年前と変わらないドレッドヘアを下げて龍治さんの足元側に立っていた。僕のその仕草を見た正虎さんは、僕の本題を避けようとする社交辞令を無視して僕の背にあるものに目を鋭い視線を遣りながら重々しい声で

「ソイツが永音とやら、なんだな」

と確認をとった。

「・・・はい。」

正虎さんにはどこからコレを説明すべきなのか、僕は申し訳に困った。美月の姐さんの死によって堕落した龍治さんから逃げた彼にとって、龍治さんが永音さんに取った対応というのはその場で憤慨するに十分なものだったからです。現に、先の声は少し怒りを匿っているようにも聞こえました。

しかし正虎さんはその説明を求めなかった。僕の生返事を最後に、向かい合った僕と正虎さんはしばらく言葉を交わさなかった。僕は正虎さんから目を逸らすように永音さんの方をわざとらしく見ていたのですが、ついには気まずさに堪えなくなって

「何があったか、訊かないんですか」

とこちらから尋ねてしまった。地面に地雷が埋まっているかも知れないままでは怖いという理由で実際に歩いてみる、そんな本末が転倒した心理だった。

「大体察しがつくさ。お前が説明したがらない理由も、な。」

正虎さんはゆっくりと龍治さんの方へと目を向けてそうとだけ答えた。

「・・・すいません。」

それに僕はそう答えるほか無かった。旧友をその舎弟に任せておいたら10年後にはこの有様です、途端にそれまでの行動を正虎さんの前では悔いなければならない気分になった。

「いやいいんだ、それよりも襲撃でお前も疲れただろう、どうせお前の事だから終ってすぐに駆けて来たんだ。ちょっと休んだらどうだ、この馬鹿の面倒は俺が見ておくさ。」

正虎さんはそう言って僕を労った。いや、龍治さんの周辺に何があったのかを察したのなら、それは表向きの口実で、実際は僕がこれ以上二人を見ていることに堪えないのだと理解してくれていたんだと思います。

僕はそれに甘えて部屋を出たんですが、そのまま二人の容体から目を背ける事を許せなくて、それを尋ねる為に病室を出て昇降機とは逆の榊博士の研究室へと向かった。研究室の前まで来ると、「御用の方は支部長室まで」と張り紙がされていた。

そうか、ヨハネス支部長が殉職して博士は支部長代行のような立ち位置に居るんだった、何となしにそう思いながら昇降機へ向かい、到着を待つーーーふとそうして立ってみると、龍治さんや正虎さんの前から去って自分一人になった空間、自分の後悔と向かい合う時間となっていた事に気づいた。僕の行動は直接的ではないにせよ、龍治さんのために永音さんの命を犠牲に払ったようなものだ、僕にそんな権限が果たしてあっただろうか、純潔であった彼女を駒に、その結果龍治さんにより過酷な結果を招いてしまったーーーもし誰かに、誰でもいい、誰かに三指を突いて謝れたものならーーー

その思考に呼ばれたように昇降機の扉が僕の前で開いた。中に居たのは雨宮ツバキ三佐だった。

「ーーーツバキさん。お疲れ様です。」

明るく挨拶したつもりだったのだが、その声は自分で聞いても分かるほどに酷く沈んでいた。誰か、謝る相手が欲しい、そう思っていたのが表に漏れてしまっていた。

「あぁ、洲かーーー今日の働きは見事だったな。流石はベテランだ」

見事な働き? 

「いえ、無茶、でしたよね。やはり彼女を行かせるのは・・・。」

僕の頭が永音さんに対しての僕の行動の後悔で一杯一杯だったので、ツバキさんがそれに触れないように敢えてその後の他部隊の支援について言っていた、という図らいに僕は気付けなかった。

「なんだ、その話か。・・・あれは関心は出来ないな。だが私には責めることもできない。」

その言葉は分かりやすいほどに僕を擁護していた。

「どうしてですか」

野暮な詰問を避けて推測する気力はもうなかった。

「私も10年前を知っている身だ。その腕輪のことも、お前がオペレーターになった経緯も知っている。ヒバリの奴はそれを知らないからな、お前の行動が異常に見えたのだろう。」

「そう、でしたね。」

一寸間を置いて、重くなってしまった空気を払うようにツバキさんが

「ところで、役員階層ということは、博士に用事か?」

と尋ねた。

「ええ、永音さんの容体について少し。」

昇降機の扉が役員階層で開いた。

「なら、先に用事を済ませておくといい、私は他に仕事があるから後にしておく。」

そう言ってツバキさんは開いた扉を押さえてみせた。

「感謝します」

僕は彼女の気遣いに感謝して昇降機を降りた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。