※この作品はR-18です。

【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero-   作:あとろふ

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第廿四回

サカキ博士が病室に向かい、部屋の主が不在のまま居座るのにも憚られた僕は、なんとなく支部長室を出てそのままエントランスへと出ました。

エントランスの卓には旧第一部隊隊長リンドウさんと向い合ったこちら側には青いフードーーーヨハネス支部長の実息、ソーマ・シックザールだった。リンドウさんは何やら談笑しながら煙草を燻らせている。僕の視線は、ちらと煙を切ったリンドウさんの右腕、丁度その頃の永音さんのそれのように赤黒く変質していたそれに飛び付いたーーー青龍に居たせいで詳しいことは知らなかったが、その腕を見て刹那に永音さんの生命に一縷の光明が差したような気がしたのは間違いのない事実だった。

「リンドウさん。」

僕は話す宛も無いまま半ば無意識に声を掛けた。

「おう、どうした・・・っと・・・悪いな、お前、前に話したことあったか?」

リンドウさんはそう言って煙草の煙を遊ぶのをやめてこちらを向く。髪に隠れて片方しか見えないが、龍治さんにどこか似た、鋭いながらも何処か輝く目付きだった。

「いえ。そういうわけでは無いんですが、少し、その腕についてお伺いしたくて。」

失礼を顧みずに、単刀直入にそう訊いた。

「ん?こいつか・・・?悪いが、見ての通り知らねえ奴においそれと話せるような物じゃあないんだがなぁ・・・、お前さん、どうしてそんな事ーーーお前、もしかして、あの龍治さんの昔の舎弟とかいうーーー」

重々しそうに煙草を挟んだ右腕をくるくると捻りながら話していたリンドウさんが、何かに気がついたように僕の顔をまっすぐ見た。リンドウさんが龍治さんの事を知っていた事に僕は少し驚いた。

「龍治さんを知っているんですか。なら話が早い、龍治さんと一緒の病室で治療を受けている女性の事なんですが」

「なるほどなぁ。お前さんが。・・・んで、その女の治療の糸口を探るためにコイツの事を参考にしに来た・・・さしずめそんな所だ」

リンドウさんは右腕を軽く振りながら、僕の言の上からそう言って鳥渡得意気に笑った。そのままリンドウさんが居直って続ける。

「こっちも丁度そいつの話をしていた所だ。なぁソーマ?」

へらっと笑ってソーマさんの方を顎で軽く指す。彼の方を向いたせいで長く垂れた前髪に遮られて口ほどまでしか顔が見えなくなった。顎で遣われたソーマさんが片腕をソファの背の縁に掛けたまま、白銀の髪の隙に蒼く強い視線を覗かせて少し気怠そうに話し始める。

「・・・あぁ。本来なら神機使いがアラガミ化するくらいで騒がないサカキのおっさんが、やけに熱っぽく、考察してみてくれって云うもんだからな。」

ーーーやはり博士は龍治さんの事を気にかけているのだろうか?

「あの人が?」

気になって訊いてみる。

「あぁ、それにーーー」

「それに、あの有瀬龍治、このかた負けたことがねえなんて化物みてえなのが突然ボロボロの女引っ連れ大怪我して帰ってきたとなっちゃあ、古株の俺らとしちゃその女が何なのか、少しは気になるってもんだろ。」

リンドウさんがソーマさんの上から続ける。

リンドウさんが再びソーマさんの方を向いた。ソーマさんはやはり気怠そうに、鼻を鳴らす。

殊の外二人に対しての釈明の手間を省かれてしまい、しばらく返事を寄越さなくなった僕を見て、ソーマさんがさっきよりもしっかりとこちらを向いて口を開いた。

「アーク計画が頓挫してから、それに纏わる情報統制が内部では希薄になった。それで、今回のことに計画が関わりがあるんじゃないかと気になってな、10年前の事、有瀬龍治の異動について、少し調べてみたんだーーーお前なら今更説明の必要も無いことだろうがな。」

「既にそこまで・・・。」

僕はその周到さに驚いた。後にアナグラの技術者となる人材は、伊達じゃありませんでしたよ。

「サカキのオッサンが引っかかってるのもそこだろう。・・・今回の詳しい経緯は訊かないが、親父が残した禍根だ、俺も手を貸す。」

「すいません、何とお礼していいか・・・」

僕には彼らにそこまで力を貸してもらえる所以がないと思った。

いや、僕じゃない、龍治さんの存在の大きさだったんでしょう。

 

その後しばらくして、三人の間で談柄がちょうどいい所に落とし込まれ、リンドウさんが一際気の入った声で

「そいじゃ、本題だ。」

と言った。

「その女、藍原永音の状態は相当切迫してる。現状生を保っているのもアラガミ化の過程、生命力の引き上げによるものだってのが共通の見解ってとこだな。」

そう言ったリンドウさんに次いで僕が答える。

「はい、なので仮にアラガミ化した部位を完全に取り除いたとしても、現在のままでは回復は絶望的です。」

リンドウさんが頭を掻く。

「あーっ、と、そりゃつまりーーー」

「衰弱死かアラガミ化。その二つの均衡、アラガミ化部位と生体部位を共存させる以外に可能性は殆ど無いって事だ。」

リンドウさんにソーマさんが説明する。

「って事はーーー。こういう風にすりゃいいって事か?」

リンドウさんが右手で膝に肘を突いて掌をひらひらとさせるが、ソーマさんがそれを否定する。

「いや、アンタのように行く可能性も低い。」

リンドウさんは手を動かすのをやめて小さく”分かりません”という反応をした。

「リンドウさんの場合は自身の神機による侵喰が留保された状態。体内の偏食因子とアラガミ化した腕の偏食傾向は一致しています。しかし永音さんの腕の侵喰は、殆どが彼女自身の神機によるものではなく、龍治さんの神機による侵喰です。なので侵喰を留保させるには腕の偏食傾向を書き換えるか、体内の偏食因子を書き換えるか。いずれにしても困難を極めると・・・。」

僕が発した説明は、既にソーマさんは理解していたことだった。それを示すように、ソーマさんが俄に俯いて黙りこむ。

「ーーーそれで、八方塞がりってわけか。」

リンドウさんのさぁ参ったと言わんばかりの語調が遂に袋小路にたどり着いた僕達の答えを発した。

「元は神機とはいえ、不安定な腕の侵喰傾向を書き換えることは重大な事故に繋がりかねない・・・。永音さんの体内の偏食因子を書き換える方法を模索するしか無い、ですか。」

その僕の発言に、「全くその通りだ」という答えをソーマさんの俯いた態度が示す。

 

議論は極まり、遂に白旗を挙げるように沈黙が訪れた。

その沈黙を破ったのは、あまりに突拍子もないリンドウさんの発言だった。

「だったらいっそ、そのままアラガミ化させちまうってのは・・・」

「なんだ、お手上げか」

呆れたように最早取り合うつもりのないソーマさんが返す。

だが、リンドウさんのその発言は限りなく議論の髄を真一文字に突いたものだった。

「俺のコイツは、完璧に俺の言うことを聞いてくれるぞ?」

右腕の甲、コアの部分を見せながらリンドウさんが言う。僕とソーマさんは始めその意味がわからなかった。僕達の沈黙に更に答えるように

「だぁから、今その女の腕を侵喰してんのは龍治さんの神機なんだろ?あの人ならそれをコントロールできるんじゃねえかって寸法だ、どうだ?」

と言った。慥かにそれはこの絶望的な状況を打開するたったひとつの術に見えた。だがーーー

「・・・無理だ。リスクが大きすぎる」

ソーマさんがそう返した。

「駄目か? ・・・そうか駄目かぁ。」

リンドウさんも再び熱を下げた。やはり彼女を救うのは不可能なのか。

 

「いや。あながち不可能ではないかもしれないよ。」

突如、後ろから聞き慣れた嗄れ声がした。

サカキ博士だった。病室で永音さんの経過を確認し終えたのだろう。

「なんだ博士、聞いてたんですかぁ、人が悪い」

リンドウさんが驚きざまに茶化した。

「不可能じゃねえって、どういう事だオッサン」

ソーマさんが顔を上げる。博士は不敵な笑みを浮かべて僕達により近く歩み寄りながら

「それは君たちが一番良く知っているだろう。特にソーマくん。」

とソーマさんの方を向いて言った。

含みを持たせた内容の意図が解らず、僕たちはじっと目の前を歩く博士の顔を見ていた。

「アラガミ化した人間、と言っては分からないだろうね。ならこう言ってはどうだろう? ーーー”人の意識を持ったアラガミ”というのは。」

その言葉に僕ははっとした。つい最近知った話だった。ヨハネス支部長が画策していたアーク計画。彼が秘密裏に捜索し、最後にはノヴァとして終末捕喰を迎えるも、残留していた人の意志により、地球から離脱した”人型のアラガミ”。

「・・・シオの事か」

ソーマさんがそう答える。

「あぁ。”彼女”は紛れもない”アラガミ”であり、同時に、最後まで紛れもない”人間”だった。そうだね?」

「ですが、永音さんを彼女のような整合性の取れた形にアラガミ化させるのは不可能では・・・?」

僕の質問に博士は動じない。

「その通りだ。”通常の制御”では不可能だろう。・・・だがそれに関しては、さっきリンドウくんが打開策を出したんじゃないかい?」

リンドウさんの出した打開策。

アラガミ化を龍治さんがコントロールする・・・。しかし、そうしたとしても安定したアラガミ化を進行させるのはーーー

「無論、いくら龍治くんの適合率とは言え、完全な人体に”書き換える”のは限りなく不可能に近いだろう。・・・だが、元の身体に”修復する”事はオラクル細胞の性質上、自然な流れだ。そして彼女の身体はまさに今、”修復”を必要としているーーー違うかい?」

元の身体への修復ーーー

「熱傷・・・!」

その意味に気付いた僕は咄嗟に声を上げた。

「そうだね。有瀬龍治くんの制御のもと、彼女の身体の深部にまで進行した熱傷を”修復する”。体幹部分については外傷がないから危険であることに違いはないが、完全な人体でやるよりは格段に成功率は高くなる。」

その時、リンドウさんの腕、シオという少女の記録ーーー意識下で曖昧に絡み合っていた希望の糸が、強固な一本の光の直線となって照らした感覚を、明確なものとして感じた。

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