※この作品はR-18です。

【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero-   作:あとろふ

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第廿五回

「ただ・・・」

一縷の光明を見出したにしてはあまりに暗すぎる顔を博士が見せた。

その理由が、永音さんを救えるーーー正確には、永音さんを救うことで、自分のこの身体に重くのしかかり心頭から臓腑までを麻縄で締め付けんばかりに感じる罪悪の意識をこれ以上募らせずに済む・・・そんな希望に目がくらんで息を詰めていた僕には見つけられなかった。

「適合率・・・か。」

ソーマさんが呟く。考えてみればすぐに分かる答え、永音さんと自分にしか傾注していなかった僕だけが、見えていなかった。

「ああ、その通りだ。その方法で彼女をアラガミ化させるとするなら、神機を介してそれと常に接続されることになる龍治くんには通常の戦闘を遥かに上回る負荷がかかるだろう。既に10年以上神機使いとして過酷な戦場を踏んできた彼の身体には、あまりにも重すぎる負荷である筈だ。最悪の場合ーーー」

「両者がともにアラガミ化して絶命する・・・ですか。」

最善の策に付随する最悪のリスク。まさに、二つの命を元手に博を打つ行為だ。負ければ、アナグラの壊滅さえも有り得る。僕だけじゃない、この場にいる皆がそれを博打だと認めていただろう。

「賭けに出るかどうかは、あの人次第ってわけだ。それ以外に手がねえってのは間違いねえ事だしな。」

リンドウさんのその言葉を最後に、僕たちは完全に閉口した。

「・・・じゃあ、龍治くんが目を覚ますまではこの件は保留、って言うことだね。私はそろそろ支部長室に戻らせて貰うよ。」

そして、その博士の言葉を合図に解散しました。

 

それから、龍治さんが目覚めるまでの一日と少し、僕は、総動員体制をアナグラに強いた先刻の襲撃のために忙中に投げ遣られた神機整備、それを殆ど一人で担当する、楠リッカの補助に回っていました。ほぼ一人でアナグラの全神機の管理を采配するーーーオペレーターとしての任も有ったとはいえ精々二人分の神機の管理さえしていればいい僕とは、知識量も実力も天と地の差があった。

そんな人を前にしてみると、ふと永音さんの治療法の是非について、神機の専門家という立場からの所感を問うてみたくなる。もっぱら、その是非の判断を下す責任から少しでも逃れたかっただけなんですけど。それに対するリッカさんの答えは、僕と全く同じものだった。

「理論上は可能だけれど、すごく危険だと思うよ。」

僕と違ったのは、彼女がその答えを笑顔を横顔に携えて返した所だった。そして笑顔のまま作業へと視線を戻しながら続けた。

「賛成は出来ないけどさ、どうせやるんでしょ? 少なくともあの人なら、そんな気がするよ。」

僕はその発言に違和感を覚えた。リッカさんは龍治さんとは面識が無いはずだったからです。

「龍治さんと会ったことがあるんですか?」

「そういうわけじゃないけどさ、でもそれはここのゴッドイーターの人たちでもほとんど同じだよ。ーーーあの人達の神機とは、ずっと一緒に居るけどね。」

忙中の彼女は端末のキーボードを叩きながら明るい声で返す。

「神機ですか・・・?」

僕はその後ろで突っ立って聴いていた。

「うん、神機は紛い物なんかじゃなく生のアラガミ、生き物だからね。ゴッドイーターの一番近くに居る生き物ってわけ。だから、神機を見ればその人がどんな人か、だいたい分かるんだ。」

その声には少し熱が入っているような気がした。

「龍治さんの神機は、龍治さんが永音さんを助ける気で居ると言ってますか。」

彼女の云う事に理解は出来ても共感の出来ない僕は、ついメルヘンチックな事を訊いてしまう。僕が真面目な顔でそんな事を言うものだから、彼女も破顔した。

「ハハハ、そこまでは流石に分からないよ。でも、一つだけ分かるのがねーーー」

最中の作業が一段落ついたのか、彼女は忙しそうに鍵を叩く手を止めて、端末の縁に腕をかけて油に汚れた顔をこちらに向けた。その顔は真面目だった。

「神機にだって意思はある。龍治さんの神機は、他の誰の神機よりも龍治さんの事を知ってるし、きっと今までずっと、龍治さんに力を貸してきた味方だって事。」

それはつまり、治療が成功する確立は高いという事・・・で良かったんでしょうか。先程「賛成出来ない」と言われたばかりの僕は驚いて返答に困ってしまった。

「ホラ、手伝いに来てくれたんでしょ、だったらぼさっと突っ立ってないで、山積みになってるメンテナンスとかしてよ」

そう言って彼女は僕を目の前から追い払った。「一つだけ分かる」と大口を叩いてみたのは良いものの、彼女にもその計画が成功する程の確信は無かったのでしょう。

その日の仕事は夜明け過ぎまで幕無しに続き、疲労が絶頂に達した僕は夕過ぎまで眠ってしまっていました。

 

昨日の大騒ぎが嘘のように穏やかになったアナグラで寝覚めた僕が「随分と寝てしまった」と思いながら病室に向かうと、龍治さんは既に目覚めていて、ベッドに腰を掛けていた。

「龍治さん。もう起きていたんですか、具合はどうですか」

先日の激務が祟り、永音さんの姿を見た龍治さんの胸中の事を失念して軽く接してしまった。

「あぁ・・・洲か・・・お前こそ、随分と顔色が悪いように見えるぜ?」

冗談ぽく平静を保とうとはしていましたが、声色は明らかに暗かった。僕はその声で自分の失念に気がついた。

「そうでしたね・・・僕もまぁ暇じゃないって所です、大丈夫ですよーーー永音さんじゃないですか、それよりも。」

龍治さんは重々しく首を永音さんの方に少し振り向けながら

「流石に凹むってな。ぼけっとしてると泣いちまいそうだ」

と言って見せたりする。つとめて冗談ぽく見せるのは、それだけ余裕がないという事だけではなく、かつて美月の姐さんを失った時のようになってしまってはならないという意識か、或いは永音さんの喪失がまだ確定しては居ない事に安心の余地があったのかーーーそれは分かりませんでしたが、何でしょうか、10年前の龍治さんとは慥かに何かが違うように見えました。

そんな事を思いながら龍治さんの顔をまじまじと見ていると、龍治さんが片目の隠れた顔を上げ、もう片方の目で僕を真っ直ぐ見て言った。

「俺はどうすりゃ好い?」

 

ーーーその目を見て、その声を聞いて。僕は、龍治さんの舎弟として20年を生きた僕は、全てを察しました。龍治さんの冗談に感じた違和感の理由も。

龍治さんが多分に、もう既に永音さんの治療法の提案を受けたこと、それに対しての答えをもう誰にも求めていないこと。そんな事は20年前の輝きが僅かに取り戻された、慥かに僕にそう感じさせるその目その声が十分すぎるほど語っていた。

つい数日前も似たような質問を投げかけられたような気がします。「俺はどうしてやりゃあいい」って。ーーーでも、その時とは違っていた。龍治さんが、自分が選ぶべき道を確実に見据えていて、もうとっくに走りだしているという点、たったひとつにおいて。

「どうすりゃ良いんでしたっけ?・・・前にもこんなことが在った気がしますね。その時も僕は貴方に冗談みたいな提案をしていたような気もします。永音さんのアラガミ化を完全にコントロールしちまおう、なんて。まぁ、『できるってのは冗談じゃないですけど。』・・・もう忘れちゃったかもしれません、なんせ”20年も前のこと”なんですから」

こんな冗談が吐けるくらい、僕の危惧はこんなにも、というほどあっけなく何処かへと行ってしまった。これこそが、この人の魅力なんだろう。

僕のその言葉を聞いて、龍治さんはにかっと笑った。

「ハハハッ、なにが『忘れちゃった』だ、俺がどんな奴かバッチリ覚えてんじゃねえか。あぁその通りだ、俺はな、こういう時は馬鹿正直に真っ直ぐに突っ走るだけの人間さ。そんで、必ず成功する。」

冗談に溶かし込んでいても、”永音さんを救う”という気持ちの強さは馬鹿正直に真っ直ぐ僕に伝わってきました。何より、その決断を下したということは、「自分自身を犠牲にする」という対価を龍治さんが呑んだという事です。その対価を以てしても、龍治さんには一切の迷いがないーーーそれほどに龍治さんは永音さんを愛おしく思っていたのでしょう。その上から「自分を犠牲にしても良いのか」だったり「成功する根拠はあるのか」なんて訊こうってのは野暮って物です。

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