※この作品はR-18です。

【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero-   作:あとろふ

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第廿六回

数日後、永音さんの意識が戻って暫くの時間が経った頃を図ってアラガミ化の計画は実行に移されました。

計画の具体的な運びですが、事前の構想では、まず神機を介して龍治さんと永音さんの両名を接続、その後龍治さんの制御下で”修復”段階を履行。その後、神機のバッファを切断、両名を直接接続し、神機から乖離してコアを失った永音さんの体内に新たなコアを形成し、最後に体幹の侵喰段階で発生した誤差を修正して侵喰前の情報を出来るだけ再現する、といったものでした。

我々にとっても前例のない計画でしたので、どのような事が発生しても不思議は無かったのですが、事前に考えられたリスクは大きく3つ。一つは先にも言った通り、龍治さんの適合率が急上昇する事が想定されるので、最悪のケースでは完遂前に龍治さんがアラガミ化するというもの。

二つ目は、『完全にアラガミ化させることが成功したとして、その個体が永音さんの自我を持っているか分からない』というものです。見た目は再現できても、記憶や人格が大きく変化する危険性がある、という事ですね。

可能な限り本人の自我を再現あるいは維持するためには、その過程での本人の意識の強さが重要になってきます。二つ目のリスクを最小にするためには、永音さんの意識は常に明晰でなければならない。即ち、永音さんに対して麻酔の類は一切使用できない。これが三つ目のリスクでした。

僕は居合わせたわけでは無いので憶測に過ぎませんが、つい数日前まで騙していた相手にこの治療法を提案して説得するのは流石の龍治さんでも骨が折れたと思いますよ。まーた、馬鹿正直に『お前をアラガミ化させる』なんて言ったんですかね。洒落のようですが、あの人なら言いかねない。

 

あの人がどうやって彼女を説得したのか、それは今となっては分かりませんが、治療は予定通りの日程に実行に移されました。集中治療室ではなく、神機の適合試験なんかに使われる訓練室で。治療というよりは実験と謂ったもの。僕はリッカさんと組み、神機と永音さんに繋いだ計測機器から送られてくるデータを監視する役を請け負った。神機との接続前、龍治さんは仰向けになった永音さんのすぐそばに行き、彼女の耳元に屈みこんで暫く何かを言っていました。まぁ、盗み聴きの趣味は無いので、その内容が気になるのなら永音さんに訊く事を勧めますよ。きっと、ロマンチックな言葉なんでしょうね。

彼女のそばから離れて、機材に固定された神機に身体を向けた龍治さんは、何時にも増して真剣な顔をしていたーーー少し笑いながら。あの人はよくそういう顔を為るんですよ。”本気”と書いて”マジ”と読む・・・なんて冗句がありますね。あの人の”本気”はそういったもので、そんな顔をしている時の龍治さんはいつも、勝利を確信している。

龍治さんは躊躇なく神機に手を掛けた。同時に、水が急激に凍りつくような、或いは能くたわむ木材をゆっくりと折るような、そんな音を立てて永音さんの身体の末端の黒檀色が躯幹に向けて蠢き出す。

しかし音はすぐに耳を強く引っ掻くような叫声でかき消された。麻酔も打たずに身体の先端から急速に侵喰される、その痛みは想像しようとして出来るものではありません。叫声は聞き慣れた女性の声から、やがて人の姿を離れた掠れた金切声になっていく。意識が混濁し始めたのか、彼女の呼吸音は周期を縮め、それにつれて不規則に、空気が混ざったような音や、機械のような矩形波か鋸波かの音が発される。そんなものは最早人の声とは程遠い。声だけでなく、四肢を刺々しい黒檀色に包んでのたうち回る姿もおおよそ人のものとは言いがたくなる。

その声に耳が慣れた頃、複数の機材に出力されたデータに刮目していたリッカさんが急にこちらを見上げて

「やっぱり危険だよ!」

と大声を上げた。だが、僕の中に不安は無かった。

ーーー僕の中に一抹ですら不安が無い事に、その時にふと気付いた。

何故不安がないのか。

ーーー龍治さんが笑っているから。

人一倍苦労性の僕が、何故こんなにも自信に満ちているのか。

ーーー龍治さんが「成功する」と確信しているから。

これ程に根拠としての体を成さない根拠も無いでしょう。それでも僕はその根拠の上に靴底を打ち付けて立ち、揺らぐことはなかった。

「大丈夫ですよ。成功します。」

ーーー僕は、”本気”な顔をしていた。

第二フェイズ突入。神機接続ケーブル、パージ!

迷いはない。僕の身体が僕じゃないような浮遊感と、全身の毛や爪の先にまで鋭く太い神経が張り巡らされたような感覚が僕の中に並立する。心地の良い緊張感。

不安定指数、挙動の遊離を確認。独立制御に移行します。龍治さん、宜しいですか。

龍治さんは僕と同じ顔を向けて、同じタイミングで頷く。

第二制御機構の安定動作を確認、接続します・・・接続完了!

 

神機とのリンクを解除し、龍治さんの制御のみによる完全なアラガミ化の工程に入ります。コアを持たない不安定なオラクル細胞に素手で触れるのと同義なこの工程は、全ての経過の中で最も龍治さんの身体を強く蝕みます。龍治さんの顔が苦痛に歪んでいく。

だが、それでも龍治さんはやはり笑っていた。ガタガタと軋み振動する腕輪と、腕輪から漏れ出すように右腕に広がる紫色の沼は、龍治さんの適合率が危険域に達してなお上昇を続けている証左ーーー”そんなもの”に目もくれずに、丸く赤黒い肉塊となって叫声すら上げなくなった永音さんだけを突き刺すように見つめて。

僕も視線を出力されたデータの一つに移す。

コアの発生を確認。第三フェイズ移行まで残り僅かです!

隣りにいるリッカさんは、あれきりすっかり見守るだけになった。

コアの定着を確認。第三フェイズに突入します!

第三フェイズ。侵喰の過程で発生した誤差を修正し、永音さんを元の姿へと戻す工程。ここがうまく行かなければ、出来上がる物はただの自我のないアラガミ。息を詰めて二人を注視する、僕に残された仕事はそれだけだった。

龍治さんが俯く。一点を見詰めて離さなかった視線を下へ逸し、小さく何かを、何回も同じ言葉を呟いていた。

口元が動くたび、赤い肉塊はその暴れ方を次第に弱め、規則的に脈動しながら表面の凹凸が少しずつ沈んでいく。

俯いたまま深呼吸をして、永音さんを上目に見たかと思うと、唐突にパッと神機から手を離した。緊張の衝撃波が押し寄せる。

ーーー永音さんに大きな変化はない。人の形と言われればそのような気もする、しかし赤黒い肉塊のままだ。

龍治さんは背筋を伸ばして真っ直ぐに立ち、永音さんの方へと近づいた。そして真っすぐ立ったまま、頭があった場所に目を遣って、右手の平でゆっくり、それでいて躊躇なく触れる。

「もう大丈夫だ。布を掛けてやってくれ」

龍治さんはそう言って、そのまま変色した手でその肉塊を撫でていました。

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