※この作品はR-18です。

【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero-   作:あとろふ

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第廿七回

襲撃からしばらくこれといって大きな敵襲もなかったアナグラは、直前の襲撃の慌ただしさと疲労の反動からか平時よりも落ち着いた様子で、それが苦境を脱した安心感による平穏な感覚を僕に覚えさせました。最も、殊に僕達に関しては窮地を逸脱できた訳ではなく、それらは本来気休めといったものであるべきだったんですけどね。

永音さんの術式から2日経った日でしたか、永音さんが再び覚醒したという報せを受けたのですが、その時の僕の脳裏にはどうしてもあの時の酷たらしい肉塊と化していた彼女の姿が過ぎり、あのままの姿で覚醒していたのだとするならば、と言った懸念が僕に病室へ行かせる気分を起こさせなくて。僕が彼女を再び見ることになったのは、それから更に数日の後ーーー人間としての自我を安定させるための謂わば”リハビリテーション”が開始して、それのモニタリングの任を任された時でした。

人間としての自我を安定させるーーーそう聞いていた僕は、僕自身に珍しく呑気にもそれまでの彼女の異形の姿からくる懸念を忘れ、なんとなく「彼女は見事に回復していて、ちょっとした精神鑑定でもやって終わるのだろう」と考えていました。

ですが実際はそんな悠長な話を出来るような状況ではなかった。彼女の肉体は術式直後の姿から本来の彼女の姿へと回復していたのですが、彼女の精神状態は限りなくアラガミに近かったんです。観察室のモニタリングルームに到着した僕が先に到着していた龍治さんの背中越しに見下ろした先に居たもの。

周囲のモノ、生物非生物に関わらず跳びかかり牙を立て喰らいつくーーー暴れるのをふと止めたそれと目があったーーーその眼差しにはアラガミ色の衝動ーーー純粋な捕喰と破壊の衝動ーーーそこに居たのはまさに”荒神”だった。彼女が僕に威嚇するように発した咆哮が、アラガミの様な声ではなく紛れも無い彼女の声で発されている、という事がその光景の悲惨さをより直視しがたいものにしていました。

「これはーーー」

「アラガミだろ。ーーーどう見たって。ただの。」

唖然として声を漏らした僕にそう返した龍治さんの眼はまっすぐに彼女の方を向いていた。目の前の光景に一切動じる気配を見せずに。

「なら、どうするんですか」

その問には『もうどうしようもないんじゃないか』という意図が慥かに在った。

「サカキから説明を受けたんじゃねえのか?ーーーまあいい、これからアイツに人間としての自我を取り戻させるための処置をする。要はイカれちまった性根を引っ叩き直してやろうって話だ。」

それでも龍治さんの口ぶりは当たり前のようだった。

「引っ叩き直す、って、そんな事言ったって」

「簡単な話だろ」

「ーーーそうですか」

そうは言ったものの、一体全体、どのようにして彼女の自我を修復するのか。僕には全く龍治さんの考えが読めなかった。

”自我”と呼べるものが彼女の体内の何処に存在しているかもわからない以上、処置のしようがない。そもそもアラガミに”自我”という物が存在していることすら定かではないんですから、それ自体があるかどうかも判らない。仮に当時の彼女に自我が存在していて、幸運にもそれがどこに、どのような形で存在しているかが分かったとして、それに干渉するためにはアラガミである彼女を拘束し、長時間に渡って安定的に行動不能状態を維持しなければならないーーー

 

なんて。そんな風に考えてしまう僕は根本からして龍治さんには敵わない存在だったんでしょうね。

 

ーーーここまでずっと、僕からあの人の武勇伝を聞かされた貴方ならもう龍治さんのやろうとしていた事は分かるんじゃないですか。

 

「じゃ、いつも通り、支援は任せたぜ」

そう言って龍治さんはモニタリングルームを後にしました。

いつも通り?支援・・・?

ーーー僕は一人モニタリングルームに取り残された。それが何を意味しているのかを暫く理解できないまま。

はっとしたのと同時に、真下の観察室の扉が開いて神機を手にした龍治さんが入っていった。

ーーー龍治さんは自分の神機と意識を共有するのと同じ様に、彼女と意識を共有して彼女の人格を取り戻そうとしていたようです。ーーー考えてみれば、彼女は覚醒してからの数日間、観察室ではなく病室に居たんです。ともすればずっとあんな調子で暴れまわって貰ってはその頃にはアナグラは穴あきチーズになっていたでしょうね。龍治さんと意識を共有しているうちは龍治さんの制御で沈静化出来るという事だったのでしょう。

龍治さんの足音に敏感に反応した彼女は癇癪を起こしたように小さく吼え、観察室の床を片足で抉って龍治さんに跳びかかった。

室内と言えど十数mはあったはずの間合いが、一瞬で火花と金属音に変わる。寸刻目を離した隙に彼女の腕は肥大化し巨大な爪を携え、盾を展開した龍治さんの神機に衝突していた。永音さんと龍治さんの足元の床が、まるで水面を叩いたかのように石の飛沫をあげる。

弾指、舞い上がった床の欠片が四方にぶつかる音の中で睨み合った後、龍治さんが盾の内壁を肘で打って彼女を怯ませ素早く身体を切り返し、弾かれた彼女の手首をもう片方の空いた手で掴んだ。

 

一瞬の静寂ーーー腕は再び彼女の腕に戻った。

「ーーーっと、まぁこんな様子だ。」

龍治さんは僕に向かってやれやれといった語調でそう言った。

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