【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero- 作:あとろふ
闊歩・・・堂々と歩くこと
跋扈・・・ほしいままに、はびこり、のさばること
膂力・・・腕の力、筋肉の力
刹那・・・瞬間
畏敬の念・・・おそれてうやまう気持ち
零の目覚めは、前日”天守閣”で迎えたような、油臭さを腹に抱えたヘリの往来が遠くから瞼の裏に浮かんでくるーーそんなかすかに騒々しく、覚束ないようなこころ騒ぎがするものとは違い、まるで神話に描かれる天上の神々の花園ーーそんな静かでやわらかな眩しさに包まれたものだった。
彼が今日からその身を鉄くずのもとに埋めることになるであろう、ここ青龍分支部は、アナグラから遠く離れた対アラガミ防壁にもたれ掛かるような位置に立地しているためか、この朝は昨日彼を引張り起こした働きバチのヘリたちも往来せず、皮肉なほどに穏やかで平和な様子であった。零はくすんだ小窓から寝起きの顔に注がれる柔らかい朝日にこの上の無い皮肉を感じ、同時にその光に耐え難いほどの
心のなかで「ええい」と唸り、零はまとわりつく皮肉を振り払うように起き上がった。そういえば今日は初回訓練なのだった。
ーーそして、零は生まれて初めてアラガミを見た。驚くほどかれらの近くで。
未だ慣れない神機を握った零が立たされたのは、予想していた訓練場っぽい訓練場ではなく、あろうことかまさに目の前をアラガミが、想像していたよりもよほどに大きなアラガミが、悠々と
そのようなもの寂しくも大人しい空間の中、般若のような紋様の甲殻を斜陽に光らせた白銀の獣がこの世は我らが庭であると言わんばかりに佇んでいる。異様な世界に零はただただ圧倒されるばかりだった。
「オウガテイル。」
後ろからの隊長の冷静な声が零を正気に引き戻す。
「アラガミの中では特に下等な存在だから、うん、訓練にはもってこい・・・ってところかな。本当はアナグラのVRシステムでーー」と隊長が続ける。
下等な存在と聞き、零はとたんに「ならば簡単だ」と根拠の無い自信を得た。彼の悪い癖のようなものだ。
零は隊長の話を置き去りに、待機していた高台から大きく跳び上がり
喰われるッーーー
零が恐怖に目を瞑ったその刹那、今まさに零を喰らおうとしていた個体らの脳天が、ほぼ同時に轟音と共に弾けた。そしてそれらはその衝撃で少し軌道をずらされ、どさっと音を立てて零の周囲に墜ちた。
一寸の静寂をはさみ、零がおそるおそる目を開けて周囲を見渡そうとした瞬間、残された個体が全て弾けた。今度は零の目にも吹き荒れるアラガミの流血の嵐が映る。
嵐が止むと、そこには既に黒煙を吐きながら徐々に溶け落ちる死体の群れのみが転がっていた。
何が起きたか理解できず、自分は死んだんだと思ったまま、立ち上がり轟音のした方を見ると、立ち上る黒煙の隙間に隊長が銃形態の神機の照準を片手で零に向けているのが遠目に確認できた。耳元からノイズの乗った隊長の声が聞こえるが、状況の飲み込めない零にはそれが何であったかを理解できなかった。
自我を取り戻した時には、あと一歩で死んでいた、という恐怖の念よりも、あの距離から零に誤射することなく一瞬で敵の群れを討ったのであろう、想像を遥かに上回る隊長の”格”に対する
帰りの輸送ヘリの中で隊長の穏やかながらもコッテリとした説教を受け、零の初回の訓練は幕を閉じた。零には隊長がより隊長相応しく偉大な存在として強烈にインプットされたのであった。
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