【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero- 作:あとろふ
紆余曲折・・・物事が順調に運ばず、こみいった経過をたどること。
剥製・・・動物の死体から皮を剥がし、防腐処理などののち内蔵の代わりに麻などを詰めて生前の形を模した物。動物標本の一種。
『零クン、さっき私が居なかったらどうなってたか分かってる?』
呆れたような重苦しい溜息を鏑矢に始まった隊長の説教はずっとーー二人が輸送ヘリから降り、紆余曲折を経て既に夜更け、零が慣れない訓練に痛む身体を自室の寝床に横たえた時となっても未だ彼の眠りを妨げてなお余りあるほどにーーそれほどに彼の脳裏にこびり付いて離れなかった。
「あいつらに・・・喰われてたと思います」
『・・・』
恋人たちが交わすようなクイズ形式の談話が始まるのではない、当然、隊長もその答が当たりだハズレだと評すこともない。
『今後、上司である私の命令にはしっかりと従って。戦場で子供みたいに好き勝手に走り回るだけの隊員は要らないし、君を死なせるつもりもないから』
「・・・すいませんでした」
隊長に対して頭を下げることがお門違いな事くらいは零にも解っていたが、なにか言葉を返そうとしても、半ば相槌の代わりのような「すいません」以外に適する言葉を見つけることが出来なかったのだ。
『うぅん、私に謝られても困るんだけど』
予想したままの少し苛ついたような返答に、零はただ苦々しく甲斐の無い思いを募らせるばかりであった。
「・・・・・すいません」
『はぁ・・・。まぁ・・・君もよく分かってるようだから、さ。これ以上は言わないよ。次回からはアナグラのVRシステムを使わせてくれるはずだから、危ないのはこれで最後。・・・いい経験になったと思うよ。』
必要以上に零を責め立てないでおこうとする隊長の不器用な気遣いに零はとうとう返す言葉を失ってしまい、その後この自室に帰るまでずっと気まずい空気を呑まされていた。
そして現在、就寝の刻となってもまだ先の説教の記憶、深く覚えた不甲斐なさに眠りを妨げられているといった調子である。
こんな気分ではいけないと、自責の念から逃れるように部屋を出た。
どこか落ち着けるような場所はないかと月明かりと常設された心許ない照明を頼りに廊下を放浪していると、袋小路になっている突き当りに行ったことのない部屋があることに気がついた。エントランスや販売機前のように電灯は常に点いている様子だが、夜になってみるまでその存在には気づかなかったのだ。
こんな所に部屋なんてーーーイタっ!!
何の部屋なのだろうかと思って入ろうとした時、中から飛び出してきた何者かに腕を勢い良くぶつけられた。突然の出来事だったので礼節も忘れ咄嗟に「すまん」と言ったが、相手は尋常でなく焦っていた様子で、「おい」と呼びとめる彼の声を無視して顔も見せずに暗い廊下を走って逃げていった。
こんな時間になんだったんだ、と不審に思ったが、あいにく彼にそれを追いかける元気などはなかった。もっとも、関わった所でろくな事にならない。
ったく・・・・と小さく悪態をついて部屋の方へ向き直す。部屋は小さく、真ん中に赤い腕輪が祀られていた。
その手前にはなにやら男性の頭像がある。誰の頭像だろう、腕輪の持ち主とか?と思いながら近づいて、零ははっとした。
”本物”だ。 本物の人間の頭・・・・そう、”生首”だ。
息を呑みながらよく見てみる・・・・どうやら剥製のようだ。本物故の妙な生々しさに零はうすら狂気を感じ、背筋におぞおぞと這う物を感じた。
台座には何か文字が刻印されている。
有瀬 龍治
「有瀬龍治・・・・? 有瀬・・・!?」
零の中でそれはすぐに繋がった。その名は喜鴉の父親の名だ。そして同時に先日の喜鴉の様子を思い出したーーー
ーーーー永音は・・・母親・・・て事になるかな、一応。
ーーーー強いていうならあのクソ親父がってとこかな。
ーーーそれらが繋がった瞬間に零は、喜鴉や隊長、そしていま目の前にいる”龍治”なる剥製の男の間にーーーいや、この青龍分支部そのものに。深い深淵のようなーーー
・・・・?
だとしたら、さっき逃げていった人は誰だったんだろう
ーーー零はふと、何か底知れぬ恐怖を感じた。
第四回に続き連投です。
次回、もしくは次々回で第一章は最終回となると思います。