【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero- 作:あとろふ
「回収対象はこれで全部ですね。周辺の哨戒が終わり次第、帰投しましょうか」
無線の向こう側のアリサの声。───アナグラでの活動中、さなかの或る日。零は隊長を除くクレイドルのメンバーと旧工業地帯での任務に出ていた。クレイドルからの要請ではなく、零自身からの申出によるものである。
零と行動を共にする旧第一部隊長、現独立支援部隊クレイドル隊員、雨宮リンドウは、アラガミ化した右腕を持ち、その腕を擬似的な神機に変質させて戦闘を行う異色の神機使いである。彼が青龍に配属されたかつての零に不可解な態度を見せた理由が、その腕とアラガミである青龍隊長とのシンパシーにあるのではないか。零はそう踏んで彼らに任務同行の申請を出したのであった。
その時の零はと言うと、ブラッドとの共同任務にも慣れ、”血の力”の発現こそ未了なものの通常の神機使いと同程度、或いはそれ以上の戦闘技術を手にしていた。無論手練である彼らには及ばないが、彼らの足を引っ張らない程度の手腕は習得していただろう。
神機使いとして十分量の経験を積み、人類の天敵であるアラガミを排除できる。その事は十分に彼が存在する理由になる。それ故に、彼は青龍での自分の立場を改めて確認する必要に迫られていた───
「南から海岸線沿いに新たな敵反応、戦闘域に接近中!・・・多いです!大型種1、中型種2!」
何事もなく進行し、帰投の準備を進めていたコアの回収任務はオペレーター・真壁テルオミの取り乱した声で急を告げた。
「了解!種族は!?」
先まで鉛色の空に煙草を喫し寛いでいたリンドウのだれた声が強く締まる。
「現在解析中です!」
鉄壁に立てかけた神機を強く握り直す。緊張の一瞬。
「解析、終わりました!ガルム種とラーヴァナ種のようです!急行しての交戦を推奨します!」
別働隊にはアリサとソーマ、彼らのほうが位置的には近いか、ラーヴァナ種は騒音を立てて陽動すればいい───
「オーケー。また随分と暑苦しい連中だ。まずは───」
「アリサとソーマはA地点で待機、音を立ててラーヴァナをおびき寄せる。奴らがK地点かM地点に向かい次第ガルムの野郎を群れから引き剥がしてくれ!!」
リンドウの声に零が被せる。
「お前さん・・・」
リンドウの声に零の意識が興奮状態から醒めた。
「あ、いや、すまない。そういう提案はどうだろうか、なんて思ったんだ」
出過ぎた真似をしたな、零は意識下にそう反省した。しかしリンドウは
「いーや?上等だ。お前さん、随分と的確な支持が出せるじゃないか。オペレーターの経験でもあるのか?」
零を讃えた上でそれが何処の知識かを問うた。
「いや、正虎さん───ああ、うちの教官に、地理的条件もしっかり予習して行けと言われたもんでな」
零が恐縮しつつどこか誇らしげに答えると、リンドウは納得したような面持ちで、まだ長い煙草を足元に棄てながら言った。
「なるほどなぁ。あの人か。だが───」
だが───?
───。
「リンドウさん!すいません!!3体がそっちに向かいます!!」
「チッ。追うぞアリサ!」
会話を遮るアリサとソーマの慌てた声。足で煙草を揉み消しながらリンドウががなる。
「ほぅら来た。アリサァ!ソーマァ!南北に分かれて急いで合流しろ!3体まとめて相手する! 零!行くぞ!」
結局、その後は神機使い4人に対しアラガミ3体の泥沼の戦闘となった。鉄板を駆け回った脚が疲労に攣りそうになる。
「はぁ~、なんとかなりましたね」
黒煙を吐く骸からコアを回収し終えたアリサがくたびれた様子で戦闘の終了を愚痴っぽく漏らしても、もはやそれを聞き做して声を上げる余力も零には無かった。
ただ一つ、腑に落ちず意識の端に引っかかっていたことがあるとすれば───
「リンドウさん」
つい10分ほど前の吸いそびれた煙草を、零らに背を向けてようやっと飲んでいる彼。その声に応じて口元に寄せられた琥珀の右腕がちらと見える。
「さっき、アラガミがこっちに一直線に来ることを知ってたような口ぶりだったよな」
零はその背中に向かって歩きながら直截した。琥珀は再び卯の花色の上着に隠れ、広い肩が大きく膨らむ。
「ふぅ───」
彼のすぐとなりまで来た零の目に、軽く口を窄めて仄暗い空に紫煙を吹く横顔が映る。彼に珍しく、返事に暇を要しているようであった。
「ちいと厄介なことになったな───出撃前にゃレーダー上にあいつらの姿は無かった」
吐ききれない紫煙が声に合わせて薄く漏れた。
「それがどうしたんだ」
零はそんな横顔を食い入るように見据えている。リンドウは根が生えたように動かず海の向こうを眺め
「レーダー探知圏外から一直線にこっちまで来たってこった」
と答えた。
「一直線に?」
「ああ、一直線だ。作戦時間はそう長くはなかったからな。んでもって、だ。こっから海岸線沿いにずっと行くと何があると思う」
鉄塔の森と呼ばれる旧工業地帯の東側は真円状の湾になっている、その湾の向こう側、リンドウの視線の先に見えるのは───
「アナグラ・・・!?」
「ご名答だ。アナグラに一直線に向かう敵軍───お前さんにゃ見覚えがあるんじゃないか?青龍のお前さんなら。」
リンドウは依然、怪奇そうな横顔を零に見せている。
「まさか、あの時の・・・」
アナグラに一直線に向かう敵の群れ。それは青龍での初めての防衛任務と符合していた。
「だが、あの敵の行動はアナグラ東側に限定していた筈だろう」
零の言うとおりである。アナグラ本隊からはそのような敵の行動は報告されていなかった。
「そいつが厄介なこと、だ。クレイドルはその原因を突き止めようとアナグラの東側をずっとマークしてたんだがな。もしこれがそうなら、それがパァになるかも知んねえって訳だ。───ハァ~ア、ったく、やるせないねえ」
リンドウは火種が指元まで迫った煙草を放りながら溜息っぽく煙を吐いた。
「青龍の管轄地域に限定されなくなって来たとしたら、アナグラの神機使いにも影響が出てしまうな」
零はあくまで青龍の人間である。アラガミ群の不可解な行動については、青龍内部の案件だと思っていた。
「螺旋の樹のことがあってそう時間も経ってねえ。本部の情報管理局の局長殿も未だに駐留中、これが熾烈になって来るんだとしたら、看過もしてくれなさそうだ。」
情報管理局───ブラッド一隊員、リヴィのかつて所属したところだ。彼女の意味ありげな発言が思い返される。
「まっ、考えても仕方ねえな。・・・アリサァ!ソーマァ!これ以上やべえのが出てこねえうちにとっとと帰るぞ」
リンドウのその発言で、その日の任務は解散になった。